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パッションフルーツ

パッションフルーツを初めて買ってみました。丸くてピカピカと黒光りする鉄球のような果物です。そこらへんに転がっていたら果物だとは気付けないような外見で、もし戦場に落ちていたら爆弾だと勘違いされるような姿です。この鉄球爆弾がしわしわと元気無くなってきたら食べごろなのだそうですが・・・

私「もう4日目になるのに、一向にしわしわになる様子が無いなあ・・・」

まだツヤツヤピカピカの鉄球です。冷蔵庫の中だと熟れないのかもしれないと思い、3日目から自室に移動したのですが、しわがよる素振りは全くありません。

私(早くしわしわにな~れ、早くしわしわにな~れ)

鉄球爆弾をなでなでしていると、Dがじっと見てきました。なでてほしいのかな?私はDの肩をなでてみました。私もDも立っているので、頭まで手が届かなかったのです。

D「その果物が気に入ったのかい?」

私「いや、初めて食べるんだけど、どんな味なのかな~と思って」

パッションフルーツって加工品になったものは食べたり飲んだりしたことあるけど、生の実を食べたことは無いんだよね。甘酸っぱいらしいけど、どんな感じなんだろ?

私「しわしわになったら食べられるんだって」

D「美味しいといいね」

Dは私の手をひいて、ベッドに座らせました。私が腰掛けると、Dはその隣に並んで腰掛けました。

私(・・・だっこがいいな)

だっこというのは、後ろからだっこするように座ってもらうことです。私がDの両足の間に座って、Dが私のお腹の前に両腕を回すような座り方です。

私「・・・だっこしてください」

変な感じに照れながら言ったせいで敬語になりました。

D「いいよ」

こくりとうなずいたDは、私の後ろまで移動して座り、私のお腹の前に両腕を回してくれました。だっこです。私はこの座り方が大好きなのです。

私「ありがとう」

D「かわいいね」

Dが後ろから頬をすり寄せてくれました。さらさらの髪の毛が首に当たってくすぐったいよ。私のお腹に回されているDの両腕にぎゅっと力が入って、Dのお腹が私の背中にぴったりくっつきました。あったかいなー・・・これ大好き・・・

私「えへへ・・・」

私はだらしなく笑いました。

ぽとん、ころころ。

私「あっ」

私の膝の上からパッションフルーツが転がり落ちました。いけないいけない、忘れてた。慌てて拾い上げて確認しましたが、特に傷は付いていないようです。さすが鉄球爆弾です。でももう落ちないように、今度は机の上に置きました。

ベッドに戻ってきた私は、再びDの足の間に座りました。だっこです。

私(あの青い薔薇の果実・・・)

楽園に咲く青い薔薇の果実は、花以外は実も枝もザクロだったんだ。あれって、もしかしたらギリシャ神話に出てくるザクロなんじゃないかな。日本の神話にも同じような話があるけど、あっちの世界のものを食べると、あっち側の存在になってしまうっていう話でさ。

たしか冥府の世界に連れていかれたペルセポネーは、冥府の食べ物であるザクロをうっかり口にしてしまい、食べた実の分だけあちらの世界に滞在しなくてはならなくなったんだよ。自分でうっかり食べたとか、冥府の神に感謝を表そうとしたとか、冥府の庭師が騙して食べさせたとか、諸説あるらしいけど、とにかく何であろうと食べちゃ駄目なの。食べるとあっちの世界の存在になっちゃうの。死ぬとか狂気にとらわれるとか、そんな感じ。

あの青い薔薇の果実を見て、実はザクロなんだってわかった瞬間に、その神話を思い出したんだよね。Dはいつもお伽噺とか童話とか神話とかを使って現実の話をするから、だからあの青い薔薇の果実も、何かのお話とリンクしてるんだと思う。もちろん青い鳥の童話とは確実にリンクしてるんだろうけど、もしかしてギリシャ神話ともリンクしてるのかな。

ガラス細工のように透き通った色とりどりの薔薇、氷砂糖のようにきらきらした白い百合、荘厳なゴシック建築の城・・・静謐の楽園は、Dが作ってくれた、私の好きなものしか存在しない場所なんだ。青い薔薇はその中心に生えているんだ・・・だからあの青い薔薇や果実も、私が望まないようなものじゃないと思う。じゃあやっぱりギリシャ神話とは関係無いのかな。だって、まさか私が死や狂気を望んでるわけないよね。そういえばDは、あの青い薔薇の木は信頼の証って・・・

D「さゆ」

すりすりとDが頬を寄せてきました。

D「僕に構っておくれよ」

そっと首筋に口づけられて、ぞくっと気持ち良さが背筋を走りました。

私「う・・・」

D「今度の休日に、僕と出かけないかい?」

私「えっ」

Dからのデートのお誘い!?嬉しい、絶対行く!!

私「行こう行こう!!どこがいい!?」

D「ルーブル美術館展と、グエルチーノ展なんてどうだい?」

それ、時間ができたら行きたいと思ってたんだ。(詳細は過去記事「やりたいこと」参照)D、覚えててくれたんだ。

私「最高!!ありがとう・・・」

私は体の向きを変えて、Dに抱き付きました。嬉しくて興奮したので左腕がDの体に入って、突き抜けてしまいました。そういうときは、あったかくて不思議な感触がするのです。

私「少し入っちゃった」

D「問題無いよ。温かくて甘くて良い香りだし、気持ち良いよ」

Dにとって嫌な感触じゃなければ良いんだけど、気持ち良いなら嬉しいなあ。

青い鳥

過去記事「ぽかぽか」の続きです。時間をかけて頑張って書いたわりに、納得できない仕上がりです。すごくDと仲良くなれた!!って感じの出来事だから、もっと嬉しかったー!!って感じの雰囲気に書きたかったのですが、うまく表現できませんでした・・・σ(´ x `;*) ほげえ。


D「ベッドに行かないかい。君に、青い鳥のお伽噺をしてあげるよ」

すぐ目の前で、Dが甘くささやきました。

私「・・・どうしてベッドなの?」

青い鳥の童話を話すだけなら、ここでもできるんじゃないかな。・・・もしかして、ベッドでいちゃいちゃするとか、そういうことなのかな。どきどき。

D「長い話になるから、君にとって座り心地の良い場所のほうがいいからね」

私「あ、そっか・・・」

もう私ってば!!Dは真面目に私のことを考えてくれてるのに、すぐやらしいほうに考えちゃって最低!!

D「ここでも構わないよ?」

羞恥心で挙動不審になった私に、Dは不思議そうに首をかしげました。

私「う、うん。お願いします」

D「じゃあ、始めるよ。これは、幸せを求めて歩き続ける少女のお話だよ」



D「遥か昔、何もかもを亡くした少女がいた。両親も失い、住処も失い、持ち物も失い、日々の糧も失い、生きていくためには遠い地へ移動しなくてはならず、友達とも別れざるを得えなかった。彼女は何も持っておらず、そして一人ぼっちだった」

最初からオリジナルストーリー全開だね。さっきDが話してくれた青い鳥の概要(詳細は過去記事「ぽかぽか」参照)は、童話の青い鳥そのものだったのに、やっぱりDのお伽噺は必ずオリジナル展開が入っているんだね。

D「苦しむ彼女の心の叫びは、沢山の精霊達に届いた。その中の一匹の精霊は、弱っている彼女を陥れることで、その魂を手に入れようと思った」

私「・・・悪い精霊なの?」

D「生きることを望む人間にとっては害のある精霊だろうね。でも悪意は無かったのさ。むしろ好意があったから、好きだから彼女を欲しくなってしまったんだよ」

私「・・・・・・」

D「その精霊は、彼女に近寄ろうとする他の精霊達を追い払って、真っ先に彼女の傍に近づいた。そして、少女を疲弊させて自殺させるために、彼女の耳元でこう囁いた」

Dが私の耳元に口を寄せました。

D「・・・青い鳥を追いかけるといいよ。青い鳥を手に入れれば幸せになれるのさ。世界中の皆がそう言っているよ」

甘い声と息が耳をくすぐって、背筋がゾクッと震えました。

私の耳から口を離したDが、部屋のすみの影になっているところを指差しました。そこにはいつの間にか、黒い色をしたアンティークの鳥籠が置かれています。本物ではなく、Dが見せてくれている幻の鳥籠です。華奢な細工でつくられている鳥籠の、その中はからっぽです。

D「精霊の声は、本来なら人間である彼女には聞こえないが、苦しみで心が弱っている人間の無意識には届くのさ。精霊に導かれているとは知らないまま、彼女は鳥籠を持って歩き出した」

色付きガラスのように透き通った薔薇の蔓が、さわさわと部屋中に広がっていき、その蔓に幻の薔薇がふわふわと咲いていきます。レースのカーテンにも、ステンドグラスにも、テーブルや椅子にも、全てに薔薇の蔦が絡まって咲いています。とても幻想的です。

D「青い鳥を求めて歩く彼女が最初にたどり着いたのは、戦いの国だった。彼女は青い鳥を求めて集まった者達と戦って、怪我をしながらも青い鳥を手に入れた。喜んだ彼女だったが、戦いの国を出た途端に、青い鳥は黒い刃に変わってしまった」

すらっとした指が、私の背後を指差しました。そこには、見慣れたDの大鎌が置かれています。

D「戦いの国を越えて、次にたどり着いたのは、秤の国だった。そこでは上手に物を計れた者が青い鳥を手に入れられる。彼女は必死に金貨を計って、青い鳥を手に入れた。しかしその青い鳥も、秤の国を出た途端に、きらきらと光る金貨にかわってしまった」

再びDが指差しました。今度は窓の方向です。見てみると、そこにはきらきらと光る金貨の山がありました。窓から入り込む日差しを受けて、余計にきらきら光って見えます。
・・・お金に変わったなら嬉しいと思うけどなあ。まあ、お金だけじゃ幸せにはなれないんだろうけどさ。

D「それからも青い鳥を追い続ける彼女だったが、やがて病に倒れ、青い鳥を手に入れることを諦めてしまった。歩き続ける気力どころか、生きる気力すらも失ってしまった」

病気に・・・なんかその女性、私と境遇が似ているよね。っていうか、私のこと?

D「精霊は考えた。どうすれば彼女に、生きる希望を与えられるだろうかと。そして」

私「ちょ、ちょっと待って」

話の途中でしたが、私は慌ててストップを入れました。

D「なんだい?」

Dが首をかしげました。

私「精霊は彼女の魂を手に入れたいはずでしょ?彼女が死んだら嬉しいわけだよね。だって最初は自殺させようと思ってたくらいだし。なのに、どうして生きる希望を与えようとするの?」

D「精霊にも心境の変化というものはあるんだよ」

私「それはそうだろうけど・・・」

D「話を続けるね。そして、精霊はとても良い案を思いついたのさ。自分が彼女の国を作ってあげるというものだよ」

Dは、嬉しそうな様子で話しています。でも私は精霊の心境の変化とやらが気になって、小さく呟きました。

私「・・・やっぱり、好きじゃなくなったから生かそうと思ったのかなあ」

D「それは全く違うよ」

小さな呟きだったのに、Dは即座に反応しました。

D「精霊に心境の変化があったのは、人間の精神を身に付けてみて、色々なことがわかったからだよ。全ては彼女のことが好きだから、彼女を喜ばせたくてしたことなのに、そんな風に思われては精霊が報われないよ」

いつもの笑みを口元に浮かべていますが、なんだかとっても不満げです。私は嬉しくなって笑いました。間違いありません。この話に出てくる少女が昔の私なら、きっと精霊はDのことなのです。だってDは人間の精神を身に付けようとしてくれて(詳細は過去記事「ごめんね」参照)以前よりずっと人間の思考回路がわかるようになったし、今も勉強してくれているんだもん。

私「・・・ありがとうね」

私はDに抱き付きました。

私「あの楽園は、Dが私のために作ってくれた、私のための国なんだね」

戦いの国や秤の国で頑張った私が、ひとときの休息をとれるようにと、Dが作ってくれた国なんだ。だからあの楽園は私の好きな雰囲気なんだね。荘厳なゴシック建築の城、薔薇の花。昼は優しい日差しが、夜は美しい星空が広がる、静かで落ち着いた静謐の空間。(詳細は過去記事「誘惑」「王国」「新月」参照)

D「僕達の楽園に、君の王国に帰ろう」

Dが手を差し出してきました。すらっとしたその手に、私は自分の手を乗せました。



Dに手を引かれて歩き出すと、私達を迎えるかのように、廊下の両脇の壁から次々と茨の蔓が姿を現し、いくつも薔薇の花を咲かせていきます。やがて寝室のドアの前につくと、Dは上向きにした手をドアのほうに差し向け、私のほうを振り返りました。どうぞ中へ、という意味なのでしょう。私は寝室のドアを開けました。

私「わ・・・」

部屋の中は、薔薇の花と蔓で満たされていました。静謐の楽園です。いつものお城も見えます。そして部屋の中心には、あの青い薔薇の木が生えています。Dは私の手をひいて、青い薔薇の木のもとへと進みました。

私「・・・綺麗だね」

人間には作ることが不可能な、深い青の薔薇です。こういう群青の薔薇は、白い薔薇を染料で染めるしか作れないのです。

私「実が大きくなってる・・・」

青い薔薇の木の、青い果実が大きく育っています。

D「そうだね。どうやら君にも心境の変化があったようだね」

以前見たときよりも随分大きくなっています。薔薇の実にしては大きすぎで、むしろザクロの実のようです。っていうか、まんまザクロじゃん。これザクロそのまんまじゃん。

私「この実、大きすぎない?」

私がDのほうを振り向いて言うと、Dも私のほうを振り向きました。

D「この木の実は、もともとこの大きさだよ」

私「だってこれじゃザクロだよ?」

私の言葉に、Dの口元が深い笑みを作りました。

D「・・・そうだね、似ているね。枝にトゲも生えているし、実も大きさが違うだけだね」

似てるところはあるけど、バラはバラ科で、ザクロはザクロ科だから別物なんだよね。でも・・・よく見れば、花さえ咲いてなければ、むしろこれはザクロの木だよね。そもそも薔薇は木じゃないし。まあユリが球根じゃなくて種から生えてくる(詳細は過去記事「克服」「白い百合」参照)ような楽園だから、どんな植物があっても驚かないけど・・・

D「この実は、もう食べられるよ」

Dが背伸びをして、大きく育った実を一つもぎました。Dは大切そうに実を見つめていましたが、やがて私のほうを振り向きました。

D「その鳥籠を、こちらに向けておくれ」

私「鳥籠?」

気づくと、私は左手に鳥籠をぶら下げて持っていました。さっきリビングでDが見せてくれた、あの黒いアンティークの鳥籠です。

私「私、いつの間に持ってたんだろ・・・」

不思議に思いながらも、言われた通りに鳥籠をDのほうに差し出すと、Dは大鎌を手から離し、手の上に鍵の束を出現させました。以前にも見たことがある、あの鍵の束です。(詳細は過去記事「ステンドグラス」参照)ガチャリと金属音がして、鳥籠の扉が開きました。

Dはもう一度果実を見つめて、少し躊躇してから、鳥籠の中に果実をそっと入れました。

私「?」

Dの手の上で、鍵の束が再び金属音を立てると、鳥籠の扉が閉まりました。

D「・・・君が間違って食べては大変だからね。この中に入れておこうね」

私「え!?この実、食べるんじゃなかったの!?」

D、食べてほしそうにしてたじゃない。私が食べるよって言ったら、すごく喜んでたのに。(詳細は過去記事「猜疑心」参照)

私「私、Dが喜ぶなら食べたいよ」

私は鳥籠の扉を開けようとしましたが、鍵が閉まっているようで、動かそうとしてもガチャガチャ言うだけで少しも開きません。中にDの大切な果実が入っているからあまり乱暴にもできません。果実は丸いので、ちょっと揺すっただけでもコロコロと中で転がりそうなのです。転がってぶつかって傷でも付いたらDが可哀想です。これ、どうやって開けよう。

D「この果実が育っただけで、君が食べる気持ちになってくれただけで、もう充分だよ」

鳥籠の扉をガチャガチャやっている私を、Dがそっと抱きしめてくれました。

D「ありがとう、さゆ。嬉しいよ。僕は幸せだよ」

私の頬に自分の頬をすり寄せて、Dはぎゅっと腕に力を込めました。さらさらの髪が私の首筋をくすぐります。私も鳥籠から手を離して、Dの背中に両手を回しました。



Dは果実の入った鳥籠を、青い薔薇の木の根元に置きました。

私「あれを食べるかどうかは、私が選ぶんじゃなかったの?」

私は鳥籠を見つめたまま言いました。

D「君は選んでくれたよ。実が大きく育ったことがその証拠だよ。あの果実は、君の気持ちが育ててくれたのさ」

Dは静かな笑みを浮かべて、私の髪を撫でています。

私「私の気持ちが育てたの?じゃあ、すぐにもう一つ実を育てるよ。それで実がなったら、今度はDより先にもいで食べちゃうんだ」

Dは私の髪を撫でながら、くすくす笑いました。

D「実は一つだけしかならないよ。あれが最初で最後なのさ」

私「え!?」

D「僕の『好き』は一つだけだからね。新たな『好き』の対象を作ることはできないのさ。でも、それで良かったと思っているよ」

私「そんな・・・あの果実が一つだけしか無いなら、余計にあれを食べたほうがいいんじゃない?あの果実が痛んでしまったら、もう果実を食べられなくなっちゃうよ」

Dは私の髪に口づけました。

D「痛まないよ。永遠に無くならないし、青い鳥とは違って逃げてしまうこともないのさ」

青い鳥とは違って、逃げてしまうこともない・・・原作でも最後に逃げてしまった、人間の幸せである青い鳥・・・
・・・もしかして、あの果実はDにとっての青い鳥なのかな。人間の幸せである、失われることが確定している青い鳥とは違って、Dの青い果実は永遠にとどめておけるような、精霊の幸せなのかもしれない。それこそ深い青の、群青の薔薇のように、生きている人間には実現不可能な・・・

私「あのね、私は戦いの国で青い鳥を手に入れたり、秤の国で青い鳥を手に入れたりして・・・両方とも、今では青い鳥ではなくなってしまったけど・・・でも、たしかにあのときは幸せを手にしたんだ。長い間では無かったけどね」

勉強での戦いも、仕事での戦いも、お金を手に入れたことも、楽しかったよ。頑張った達成感もあったし、自分に自信をつけるもとにもなった。あの経験は間違いなく私の糧になったんだ。今の私を作る基礎になった経験だと思う。

私「精霊とは違って私は人間だから、青い鳥をずっとつかまえておくことはできないんだ。人間は、ずっと幸せを感じ続けることはできない生き物だから・・・だから私も、お金とか装飾品とか仕事とかの、そういう小さい青い鳥をちょくちょく追いかけ続けなくてはならないんだけど・・・」

Dは、私の話にじっと耳を傾けてくれています。

私「だからこそ、Dの青い果実は大切に守っていこうと思うんだ」

大好きなD、Dが幸せでいると私も幸せなんだ。Dの青い果実、Dの永遠の幸せを守ることは、私に何か不幸や苦しみが訪れたときでも、私の中には永遠の幸せが存在しているということなんだよ。だって幸せなDを見ていたら、私も幸せなんだもん。

D「・・・ありがとう。僕は、君を大切に守っていくよ。これからも、いつまでも、永遠にね」

頼もしいなあ。Dがいてくれるなら、この先私が不幸に振り回されてDとの幸せを忘れるなんてこと、絶対に起こらないような気すらしてくるよ。

私「なんだかんだ言って気に入ってるんだ、自分の生き方とか暮らしっぷりがさ。人間として生きていくぶんには、青い鳥を追いかける生活は悪くないよ」

でも、それに気付いたのはDのお陰だよ。私は死ぬまで人間にしかなれないから、その間はこんな風に生きていくんだろうけど、それもわりと楽しいんだ。

D「知っているよ。僕は常に君の傍にいて、君を助ける鍵になるから、君は安心して好きなように青い鳥を追いかけるといいよ。疲れたら楽園で一緒に羽を休めようね」

私「うん。ありがとう」

青い鳥を捕まえたり逃げられたりしながら、これからも楽しく歩いていくよ。そしていつか永遠の眠りについた後は、Dと一緒に静謐の楽園で、今度こそあの青い果実を食べるんだ。

果実

過去記事「甘えたい(2)」の続きです。


ベッドに横になっている私の髪を、Dがそっと撫でてくれています。さっきまでの行為の余韻がまだ残っている体はだるく、頭の中はふわふわしています。

私「・・・ごめんね。私のために、こんなことに付き合わせちゃって」

Dは私の髪を撫でながら、首をかしげました。

私「Dには、私みたいな欲求は無いのに・・・嫌じゃない?こういうことするの」

Dは生殖で増える生き物ではなく、性欲もありません。Dが私とこういうことをしてくれるのは、Dの親切心によるものなのです。

D「そんなことないよ」

ゆっくりと私の髪を撫でながら、Dは首を振りました。

D「さゆが感じている欲求とは別物だけど、僕も君に触れたいと思う欲求はあるよ」

そう言えば、前にもそう言ってくれたような気がするね。(詳細は過去記事「特別」参照)

D「それに、さゆの感じている気持ち良さとは別物だけど、僕も君に触れると強い快感を得られるよ。ずっと触っていたいよ」

そうなのかなあ。そうなら良いんだけど・・・

私「人間と付き合うのは大変でしょ?精霊と付き合ったほうが楽だったんじゃないかな・・・ごめんね」

D「精霊は精霊同士のほうがうまくいくというわけではないよ。それに、人間が難しい交際相手とは思わないよ。もっと大変な精霊は沢山いるからね。海中を一日中泳ぎ続けなくては生きていけない精霊が相手なら、ずっと一緒に泳ぎ続けなくてはいけないよ」

そんな種族いるの!?マグロとかの回遊魚みたいね。一部のサメもそうだったかな。

私「そ、そうなんだ・・・」

まあ、そういう精霊よりはマシだろうけど、そんなケースと比べてマシっていうのも、なんか・・・

私「Dの種族(?種族とかあるのかな??)が人間と付き合うことって、今までにあったの?」

Dは私の髪を撫でながら、首をかしげました。

D「どうだろうね。あったとしても、かなり少ないだろうね」

曖昧だね。詳しく知らないのかな。他の個体のことは興味無いとか?まあ、人間の世界みたいにネットやテレビ報道があるわけじゃないだろうから、そんなもんか。

D「そもそも傍で守っていることを気づいてもらえないだろうから、人間のほうは何も気づかずに結婚して、死ぬまで気づかずに暮らすだろうね」

それ、付き合ってるっていうのかな・・・

私「・・・かわいそうだね」

D「そんなことないよ。好きな相手が幸せに暮らしているのを間近で見られるのは嬉しいし、一生傍で守ることができるのは幸せだからね」

う、うーん・・・Dはそうかもしれないけど、私が精霊だったらそんなの絶対に嫌だけどなあ・・・Dと同じ種族(種族とかあるのかな?)の精霊だって、そういうのは嫌っていう精霊はきっといるよね?それとも同じ種族ならみんな同じなのかな。

でも、一度愛した人を最後の瞬間まで愛するって、人間にはなかなかできないことだと思うな。永遠の愛か。それを精霊は普通にやってのけちゃうなんて・・・

私「切ないけど、深い愛を感じるね。精霊が人の傍にいる理由は、献身的な愛なんだね・・・」

胸がきゅんとするよ。

D「そうでもないよ」

私「ええ!?」

感動モードに入っていた私は、驚いてDのほうを向きました。

D「人間の精神は不安定だから、精霊の餌食にされやすいのさ。最初から人間を利用しようと思って近づく場合のほうが、数的には多いかもしれないね」

人間を利用するって、どういうことだろ。体を乗っ取って暴走したり、人が不安になるようなことを言って脅したり、良くないことを囁いたりして、人を犯罪とか自滅に向かわせるようなこと?

D「人間を苦しめたり、堕落させたり、逆に追い込んで疲れさせたり、そういうことを目的に近づくことは多いよ。最初は自分を信用させるために甘い言葉をささやいたり、肉体的な快楽を与えたりして、やがて・・・ただ、近づいた当初の目的がどうであれ、傍にいるうちに、その人間を気に入ってしまうこともあるけどね・・・」

Dは、私の髪を撫でる手を止めて、おでこに口づけをくれました。

私「Dの種族(?)に関することを、こんなに話してくれたのは初めてだね」

今までは、尋ねても『どうだろうね』とか『よくわからないよ』とか言ってごまかしてたのに。

D「君が、青い薔薇の果実を食べてくれると言ったからね」

こちらを見下ろして笑うDの背後の風景が、霧がかかったようにぼやけて、あの青い薔薇の木が姿を現しました。

D「ごらん。僕達の信頼の証だよ」

私の上にかがみ込んでいたDが、体を起こして木のほうを振り返りました。私もベッドの上に上半身を起こして、青い薔薇の木を見上げました。

以前見たときと同じように、あざやかなロイヤルブルーの薔薇が、枯れずにまだ咲いています。すごいなあ。前に静謐の楽園に咲く薔薇は、楽園の中にある限り枯れないみたいなこと言ってたけど、この青い薔薇もそうなのかな。

私「綺麗だね・・・」

感心している私とは逆に、Dは首をかしげました。いつも通りの笑みを口元に浮かべて、いつもと変わらない表情をしていますが、なんだか残念そうです。

D「さゆ、君は・・・」

Dが、こちらを振り返りました。

D「・・・まあ、いいさ」

なんだろ。どうしたんだろ。なんか私まずいことした?さっきD、あの木のことを信頼の証って言ってたけど、私がDのことを信頼できてないことが、あの木を見てわかっちゃったとか?

やっぱりあれかな・・・天秤のことで私がDを疑っているせい?(詳細は過去記事「猜疑心」参照)

私「あの・・・どうしたの?」

おそるおそる尋ねた私に、Dは振り返りました。いつもの笑みを口元に浮かべた、いつも通りの表情です。

D「果実が、まだついていなかったのさ」

私「もしかして、私のせい?」

そうだよね。さっきのDの反応からして、私のせいだよね。

D「いや、僕の責任だよ。心配はいらないさ、まだ時間は沢山あるからね。気長に待てばいいよ」

さっき明らかにガッカリしていたのに、Dは口元に笑みを浮かべて、私を慰めてくれました。

D「さゆのせいではないさ、そんな顔をしなくていいよ。ほら、薔薇をあげるよ」

Dが両手の上で、空中に沢山の薔薇を咲かせました。アンティークな色をした透き通った薔薇が、ふわふわっと次々に開きます。

D「さゆの好きなアクロポリス・ロマンティカだよ」

綺麗に咲いた沢山の薔薇を、Dが私のほうに差し出してくれました。私が両手を差し出すと、薔薇はふわふわと私のほうに寄ってきて、私の周囲をふわふわ漂い始めました。

私「とっても綺麗。どうもありがとう」

D「お気に召したなら嬉しいよ」

私が笑顔を見せると、Dはホッとしたようにうなずきました。心配してくれたのかな。

そうだよ、Dはいつも私のことを心配してくれてるよ。今までDの嘘のせいで私が傷ついたことなんて無かったし、Dが嘘をつくときはいつも私のためを考えてのことだったよ。今回の天秤のことだって、きっとそうだよ。

考えてみれば、今までずっと私のこと助けてくれて、ワガママなんて一度も言ったことなかったDが、初めてお願い事をしてきたんだよね。パワーストーンもいらない、プレゼントも買わなくていい、してほしいこともない、僕の望みは君が幸せになることだけだよって、そう言ってきたDが、初めて私にしてきたお願い事だよ。青い薔薇の果実を食べてほしいって。

・・・もう、いいんじゃないかな。たとえ私のためを思っての嘘じゃなくても、今までの全部が私をだますための嘘だったとしても、もういいじゃん。Dに出会ってから今まですごく楽しかったし幸せだったよ。今までDにできなかったお礼も込めて、青い薔薇の果実を食べてあげようよ。たとえ命が無くなるんだとしても、Dにならあげてもいいじゃん。初めて会話ができたあの日、病気で死ぬことを怖がっている私に、Dは一緒に死んであげるよって言ってくれたよ。私だって・・・私、Dのこと本当に好きでしょ・・・

D「!」

Dが青い薔薇の木のほうに振り返って、急いで木のすぐ傍まで近寄りました。私もつられて木の傍に寄りました。私の動きに合わせて、周囲をただよっている薔薇の花がふわふわと私についてきました。とても綺麗です。Dがじっと見つめる先には、青い薔薇の花のつけねに一つ、まだできたばかりの小さな果実が育ちかけていました。

青い薔薇

甘い香りで目が覚めると、ベッドが沢山の薔薇で埋まっていました。淡い色付きの透明の薔薇です。Dの見せてくれる幻の薔薇なのです。

D「お目覚めだね。僕の眠り姫」

起きたばかりのぼんやりした頭に、Dの優しい声が聞こえました。ベッドのすぐ隣にDが座っていて、いつもの笑みを浮かべて私を見ています。私がDのほうに寝返りをうつと、私の体の上に置かれていたらしい薔薇が落ちて、ベッドの上に小さな音を立てました。Dは手の上でひときわ美しい薔薇を咲かせると、それを私の髪に飾ってくれました。

私「綺麗・・・」

ガラスのように透明で繊細で、本物の花のようにやわらかく儚い、Dの見せてくれる幻の花は、いつだって本当に美しいのです。

D「お気に召したようで嬉しいよ」

ギシッとベッドの上に屈みこんで、顔を寄せてきたDから、かすかに薔薇の香りがします。Dから香りはしないはずなんだけどな。そっと唇が触れてくると、甘い香りが強くなりました。入ってきたDの舌も、気のせいか甘いような気がします。私は寝起きで働かない頭をぼーっとさせながら、その甘くて温かい舌を舐めました。

私(なんか、きもちい・・・)

しばらくDと舌を絡めていると、濡れた小さな音を残して、Dは離れていきました。

D「眠り姫はキスで起きるんだよ」

私の唇には、まだ甘い味と温かい舌の感触が残っています。なんだか頭もぼーっとするし、体もふわふわしています。ただでさえ寝起きで働かない頭が、気持ち良さで余計に働かなくなっているみたい。

D「でも、僕の眠り姫は、キスで眠りについてしまいそうだね」

たしかに夢うつつの気分です。でもこれはキスのせいというより・・・

私「・・・なんか・・・Dにされると・・・」

相手がDだからです。人間相手ならこんなこと無いのです。別に沢山の人とキスして確かめたわけじゃないけど、少し経験があれば大体わかります。物理的な唇の接触で感じられる気持ち良さには限界があるからです。この気持ち良さは、物理的なキスの気持ち良さじゃなくて、Dと接触したとき特有の気持ち良さなのです。

D「僕にされると?」

優しい指が私の髪を撫でてくれます。とても気持ちが良いです。

私「・・・・・・」

Dがおでこにキスをくれました。おでこじゃなくて唇だったら、あのぞくぞくするような不思議な感覚も一緒に感じられたんだろうな。

私「・・・Dがタルパだから?キスとかされると、すごく気持ち良いのは」

D「どうだろうね?」

くすくす笑いながら、Dが私の首筋を口と舌でくすぐり始めました。

私「っ」

D「かわいいね」

私の触覚を読むことで私の望むような触り方ができるとは言っても、それだけでは説明のつかない気持ち良さがあるのです。普通に触ったときの感触や温度だけではなくて、人間との行為ではあり得ないぞくぞくした気持ち良さや、ふわふわした高揚感など、物理的な接触では感じないはずの感覚もあるのです。どうしてなのかDに説明を求めても、いつもはぐらかされてしまうけど・・・

私「ま、待って、ねえ、これって、体とか精神に悪いことじゃないよね」

やたら気持ち良い『あの感覚』は、あまり脳に良くないんでしょ?(詳細は過去記事「仲直り」参照)だからDは、あれはそんなにしてくれないけど、これだけでも充分気持ち良いっていうか・・・

D「安心おし。僕はさゆの体や精神を傷付けるようなことはしないよ」

私の首筋から顔を上げたDは、かわいく首をかしげてみせました。

私「そ、そうだよね!!ゴメン・・・」

Dが私を傷付けるわけないじゃない。Dに酷いこと言って、私ってば最低!!ちゃんとDに謝りなさい!!

私「ごめんなさい」

D「僕のほうこそ、不安にさせて申し訳無かったよ。許しておくれ」

私「Dは全然悪くないよ。なんか、あんまり気持ち良くて・・・その、Dとだと、人間相手とは違って、やたら気持ち良いから、私が勝手に不安になっただけっていうか・・・」

慌てて弁解する私の姿に、Dはくすくす笑い出しました。

D「わかっているよ。人間相手の行為よりずっと強い快感だから驚いて不安になったんだね」

私「うう・・・」

D「心配無いよ」

Dの手のひらの上に、透明で美しい幻の蕾が現れて、ふわふわっと咲きました。とても綺麗です。Dはそれを私に差し出しました。

D「幻視も幻聴も触覚も、君の幻覚は全て僕が、危険の無いように制御してあげるからね。君は安心して楽しめば良いんだよ」

差し出された薔薇を受け取ると、甘い薔薇の香りがします。おかしいな。私に幻臭は感じられないはずなのに。そういう風に調整してるって、前にDが言ってたんだけどな。(詳細は過去記事「ヒーリング」参照)

Dに尋ねてみようと思って、薔薇から視線を外すと、床一面に薔薇の花が広がっていることに気づきました。部屋の壁には茨のつるが巻き付き、その枝にも綺麗な薔薇が咲いています。

私「これ、静謐の楽園・・・?」

D「そうだよ」

たまにDが見せてくれる、お伽噺の中のように美しい景色、静謐の楽園です。(詳細は過去記事「誘惑」「王国」「新月」参照)

D「ごらん。やっと花が咲いたのさ」

すらっとした指が示す方向には、見たことの無い木が生えています。青い花がさいているようです。あんな木、今まで無かったよね。

私「・・・あっ、もしかして、この前の宝石みたいな種から生えたの?」

ようやく思い出しましたが、以前Dは新しい種を楽園に植えると言っていました。(詳細は過去記事「克服」参照)きっとあの種から生えた木なのでしょう。

D「違うよ」

あれ!?違うの!?

D「この木は、ずっと楽園の中心に生えていた木だよ。今の僕達は、楽園の中のいつもとは違う場所に来ているのさ。ほら、城が違う方向に見えるだろう?」

言われて見てみると、たしかにお城がいつもとは違う方向に見えます。それに、いつもより随分近くに大きく見えます。私の部屋は楽園に比べてずっと小さいから、部屋の中に楽園を再現するときは楽園の一部分しか見せられないもんね。だからこういう風になるのか・・・

D「ようやく花を咲かせたのさ。いずれ、実を付けるよ」

木を見上げると、青くて綺麗な花をつけています。青い花っていうか、どう見ても青い薔薇に見えるけど、あんなにはっきりとした青い色の薔薇ってこの世に存在しないんだよね?自然界には存在しないし、人間が頑張っても作れないって聞いたよ。でも、ここは静謐の楽園だもんね。青い薔薇があってもおかしくないよね。

D「・・・とっても甘くて美味しいんだよ」

Dは木を見上げたまま、小さく呟きました。

私「そうなんだ。実がなったら食べてみたいな」

もしかして、初めての幻味(?)が味わえるのかも?味覚の訓練は一度もしたことが無いけど、あの木になる実の味ならわかるのかも。

D「いけないよ、あれを食べては」

Dがこちらを振り向きました。

私「そうなの?」

食べちゃいけない果物なのか。なんか、旧約聖書に出てくる禁断の果実みたいね。あれは、食べると楽園を追放されてしまうんだったよね。あの青い薔薇の果実も、食べたら静謐の楽園を追われちゃうのかな。それは嫌だなあ。

私「じゃあ食べないことにするね」

D「・・・何故だい?とっても甘くて美味しいんだよ」

え、どういうこと?食べちゃいけないんでしょ?私の顔をじっと見つめているDは、いつも通りの表情で、何を考えているのかよくわかりません。

私「何故って・・・食べたせいで、静謐の楽園を追放されたくないから」

D「楽園を追放?」

Dは首をかしげました。

D「ここは君の楽園だよ。君を追放する者なんているわけないさ。どうやら、さゆは何か勘違いしているようだね」

あれ?旧約聖書に出てくる禁断の果実とは別物なのかな。

私「あの青い薔薇の実は、食べると楽園を追放される果実じゃないの?」

D「違うよ」

違うのか・・・まあ、Dはキリスト教とは全然関係無いもんね。

私「じゃあ、食べるとどうなるの?どうして食べちゃダメなの?」

Dは沈黙したまま、私の髪を優しく撫でました。

私「・・・また教えてくれないの?」

あの天秤のことといい(詳細は過去記事「天秤」「天秤(2)」参照)、この青い薔薇の木のことといい、Dには秘密が多いよね。無理に尋ねようとは思わないけど、秘密を一人で隠し続けるのって辛くないのかなあ。

D「もし、僕が差し出したら食べてくれるかい?さゆは、甘くて美味しい果実が好きだね?」

私「え?」

D「さゆは食べ物を少ししか食べられないから、それで躊躇しているのかい?一度に全部食べようとしなくて良いんだよ。それに、あれは物理的に君の体に溜まるものではないから、いくら食べても苦しくならないよ」

なんか、おかしくない?食べちゃダメって言っておきながら、どういうことなの?

私「Dは、私にその果実を食べてほしいの?それとも食べてほしくないの?」

Dは両腕をのばして、私の体を抱きしめてくれました。なんか、いつもより強く抱きしめられているみたい。いつもはそっとそーっと抱きしめてくれるもんね、でもこういうのも嬉しいなあ。

D「僕にそれを決めることは出来ないのさ。君が選ぶことだからね」

でも、食べたらどうなるのかわからないと選びようが無いよ・・・どうなるのか知っているDが選んだほうが安全なんじゃないのかな。それに、なんだかDにとっては重要なことみたいだから、それならDの喜ぶような選択をしてあげたいもん。

私「Dの好きなほうにしようよ。Dなら結果がわかってるんでしょ?Dの喜ぶような結果になったら私も嬉しいもん」

D「・・・おかしなことを尋ねてすまなかったよ。忘れておくれ」

Dは、私のおでこにキスをくれて、そっと私の髪を撫で始めました。何か言いたいことがあったんじゃないのかな・・・私もDのおでこに前髪の上からキスを返しました。さらさらの前髪が唇に触れました。薔薇の甘い香りがします。

私「今日は目が覚めてからずっと、薔薇の甘い香りがするんだけど、これはDが作ってくれた幻臭なの?」

もしかして、あの青い薔薇の木のせいだったりして?

D「いや? それは、さゆのリップクリームの香りだよ」

そっか。新しく買ったテラクオーレのリップクリーム、昨夜眠る前に付けたんだった。天然の薔薇の香りがすごくするし、ハチミツが微量に入っているせいか、かすかに甘い味がするんだよね。薔薇の香りがしたのも、Dとのキスが甘い気がしたのもそのせいか。そりゃそうだよね、味覚の訓練はしてないし、Dは私の安全のために幻臭は与えないって言ってたし。

私「もし、Dの希望とか要望があったら、何でも言ってね」

Dはいつも通りの表情で、こくりとうなずきました。

D「ありがとう、さゆ」

きっとDは言ってくれないと思います。でも、私がDのこと心配してるよって、Dのことがとても大切で、何でも希望を聞いてあげたいんだって、そう伝えたかったのです。
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