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いちゃいちゃ

元彼とのことが解決してから、Dは私に新たな課題を出してきました。それは『甘える』というものです。
Dは私に触れている間、私の触覚を読むことができます。そのため、私がDとベタベタしたいとかそういうことをしたい気分のときは、Dはすぐに気が付くことができます。Dから触られたときの私の触覚、つまり私が感じている気持ち良さを、Dは読むことができるからです。
そのため、今までは、私がそういう気分のとき、Dのほうからベタベタしてくれました。私が自分から恋人に甘えることが苦手だからです。それが最近、元彼のことが解決してから、Dは私に甘える訓練をさせようとしているのです。

・・・Dって、常に私に訓練させようとしてるよね。スパルタ教官かな。むしろサリバン先生?

私「D、あの・・・」

私はモジモジしながら、隣に座っているDに話しかけました。

D「なんだい?」

Dは、いつも通りの落ち着いた声で、私の言葉の続きを促してきました。でもDには多分、私が何を言おうとしているかわかっているのです。私の態度が挙動不審なので。

私「・・・今、甘えてもいい?」

こくりとうなずいたDが、両腕を広げました。

D「おいで」



ベッドに腰掛けている私の後ろから、私のお腹に両腕を回して、抱っこするような感じでDが座っています。

私(あったかいな・・・)

D「いつでも、さゆの好きなときに甘えればいいんだよ」

私「う、うん・・・」

恋人に甘えるって、やったことないからわからないよー・・・どうすればいいんだろ。子供の頃、お母さんに甘えたときみたいな感じでやればいいの?随分昔の記憶だなー・・・

恋愛関係において、今までは、自分に余裕のある付き合い方しかしてこなかったからなあ。元彼と付き合っていたときも、自分が傷つかないように元彼を本気で好きになろうとしなかった私には常に余裕があって、甘えてくるのはいつも元彼のほうで、いちゃつくときもいつも元彼のほうからだったし。だから私、自分から甘えたことないし、自分からいちゃつくことも、したこと無くて・・・

なんか、元彼はそういうことが好きな人だったから、いつでもそういうことしたがっていて、沢山そういうことしてくれたから、私のほうからいちゃつきたくなるなんて無くて・・・だから自分がベタベタしたくなったとき、どうやってアピールすればいいのかわからないよー・・・

Dに対しても、頭を撫でたりくすぐったり、そういうことはできるんだ。(詳細は過去記事「撫でたい」参照)でも、私を撫でてくださいみたいな、そういう甘えるアピールが出来ないっていうか・・・

向こうからこられる分には大丈夫なんだ。元彼のときも、Dからでも、向こうからそういうことされる分には大丈夫なんだけど・・・

・・・だから、常に恋人の言いなりで、受け身っていう・・・それが悪いってわけじゃないんだろうけど、あまりに受け身すぎるのは、自分にとっても相手にとってもどうかなとは思う。

ほんっと私、恋愛関係ダメだな!!!!!ダメダメだよ!!!!!

D「また考え込んでいるのかい?」

私「あっ」

D「何かあると考え込んで自分を追い詰めるのは、君の悪い癖だね」

なんか、同じようなことを前にも言われた気がするなあ。(詳細は過去記事「恋愛」参照)

D「難しく考えなくていいよ。僕と一緒にいたいと思うときは、ただ心の望むままに行動してごらん」

そ、それができないんだけどなあ・・・甘えてくっつきたいと思っても、なんか恥ずかしいような、Dに悪いような気がして、うまくできないし・・・

恋愛には、教科書とか参考書とか無いから、どうやって考えればいいのかわからないよー!!

D「頭で考えるより、慣れたほうがいいね。試しに僕を触ってごらん。好きなところでいいよ」

た、試しに触る!?・・・じゃ、じゃあ頭とか?
そっと手をのばしてDの髪を撫でようと思ったとき、Dが首をかしげました。

D「頭以外でね」

ど、どうしよう・・・

頭を撫でようとして宙に浮かせた右手を、少しうろうろさせてから、私はDの手に触れました。

D「おや」

くすっと笑ったDが、私に触られている自分の手を、私の指ごと口元に寄せました。いつもみたいに、手の甲にキスをくれるのかな・・・

D「まだ、僕からしてあげたほうがいいかもね」

そう言葉を発して開けた口で、れろっと私の指を舐めました。

私「っ」

生温かい舌が指を這って、気持ち良い感触と、濡れたあとを残していきます。ぞくぞく、ふわふわするような不思議な快感がじわじわと浸食してきます。

D「こういうことは、まず慣れることが大切だからね。さゆに自由に触らせてみても、頭を撫でたりくすぐったりすることしかできなくて、進展しないからね。これでは、いつまでたってもさゆが自分の甘えを男に見せられるようにはならないよ」

私「え!?ちょっと待って!!」

甘い気持ち良さにボンヤリしていた頭が、急にはっきりしました。だって今Dが言ったことって、この甘える訓練は、私が人間の男性と付き合うための訓練だって言ったも同然だよね!?

私「別に私、男性に甘えを見せられるようにならなくて良いよ。だって、Dとこういうことする以上は、特に必要の無いことでしょ?」

そうだよね、だって私、Dと二人で静かに暮らしていけたらそれでいいから、これ以上の恋愛力とか、甘える力とかも身につける必要無いと思うんだ。
Dは私に色々な知識や能力を身につけさせることで、私の視野を広げたりして、私を幸せに導こうとしてくれているんだろうけど・・・今回の訓練は、まるで、人間の男性と上手に付き合える力を私に身につけさせるために、Dが特訓しているみたいで、なんか・・・

D「誤解をさせてしまったみたいだね。すまなかったよ、さゆ」

わざとらしいくらい優しい声で、Dが言いました。

D「君を人間の男の元に行かせようなんて思ってないよ。君は僕のものだからね。君は、僕だけの眠り姫だよ」

ホントかな、すごく嘘くさいなあ。本当は、私が人間の男性と付き合えるように訓練させようと思ってるんじゃないかな。でも、だったら、私がこの『甘える』課題を達成出来ないうちは、Dは私が人間とは付き合えないと判断して、ずっと傍にいてくれるんじゃないかな。

・・・そうだよ、Dが私に嘘をついて訓練させるつもりなら、私もDに嘘をつけばいいんだ。

脳内会話ができない私達には、Dが嘘をついても私にはわからないように、私だって上手に嘘をつければ、きっとDにもわからないよね。

私「ねえD、私、まだ全然上手に甘えられそうにないよ。Dの頭を撫でたりするのは平気なんだけど、自分のこと触ってとか、そういうお願いするのは無理だもん」

これは、まだ本当のことだよ。でも、いつかこれが嘘になる日がくるに違いない。このままDと深く付き合っていけば、いつか私がDにそういうお願いができるようになる日が来るんだろう。でも、そのときは嘘をつけばいいんだ。私がDにそういうお願いができないままだって、Dに嘘をつき続ければ、Dはずっと傍にいてくれるんじゃないかな。

D「そのようだね。まだ、僕が手を貸してあげなくてはいけないね」

そっと優しく頬を撫でるDの手に、うっとりと目を細めたとき、お腹がぞわぞわしたと思ったら、急激にあの気持ち良さが、おへその下からこみ上げてきました。

私「ぐっ・・・!?」

な、なんで急に!?いつもはもっとじわじわと・・・!!

D「こうして、まだ僕が手伝ってあげるべきだったね。すまなかったよ」

少しもすまなさそうな素振りを見せず、Dはいつも通りの表情で、のんびりと言いました。

私「ちょっと!!やめなさい!!」

D「わかったよ」

ぴたっと気持ち良さが止まりました。

私「・・・え?・・・なんで?・・・もっt・・・」

D「なんだい?」

私「何でもないよ!!」

な、なに言おうとしたの私!!今、甘える言葉なんか言ったら、Dにおねだりなんかしたら、そこで終わりでしょーが!!もう人間と付き合っても大丈夫だと判断されて、Dがどこか行っちゃうかもしれないでしょ!?絶っ対言わないからね!!

D「そうかい?じゃあ、本でも読むかい?」

私「・・・うん」

こんな気分のまま本を読むとか、わざとでしょD。でも私は屈しないからね。

私「Dの好きな本でいいよ」

Dは首をかしげました。

D「・・・DVDにしようか。薔薇の名前、なんてどうだい?」

私「? いいけど」

随分シブいDVDを選んだね。薔薇の名前という映画は、中世ヨーロッパのキリスト教が、医学書や天文学書などのキリスト教の教えと一致しない科学書を「禁書」として読むことを禁じていた時代に起きた、禁書に関係する殺人事件の謎を解くというサスペンスのDVDです。あらすじだけ聞くと面白そうだけど、実際のところは、動きも少ないし美しくないし汚いし謎解きも難しくないし殺人シーンも普通だしヒューマンドラマも無く美女もイケメンもでてこないのに気持ち悪い人間だけは沢山出てくる、という娯楽要素が全く無い映画なのです。時代考証はかなり考えられているので歴史物として見る分にはとても勉強になるけど、全然私の趣味じゃない。そして、Dの趣味でも無いのに。

私(まあ、こういう歴史物のDVDを見ていれば、このモヤモヤした気分も消えるだろうし・・・)

そんな風に思って、DVDを再生してしまった私が浅はかだったのです。ちなみに、これは昨日の話です。どこまで書いていいんでしょうか・・・ど、どんどんえろい方向に進んでしまうよー!!

克服

Tの誕生日が近づいてきました。Tは中学校の同級生で、今はプライベートの友達です。それで、彼女の誕生日プレゼントを何にしようか考えているのです。

私(何にしようかな?えっと、Tが喜びそうなもの・・・)

今回もアクセや服飾類は無しだな。Tは自分で身に着けて選びたい派だからね。食べ物も無し。スタイルに気を使ってる子だし、最近はダイエットしてるって言ってたもんね。ぬいぐるみとか置物とかのインテリア雑貨も無しかな。部屋に物が増えてきたせいで散らかってるから、そろそろ何か捨てなきゃって言ってたもんね。

私(となると、消耗品で・・・ボディケアグッズでいくか・・・)

それなら喜ばれそうだよね。ダイエットに気を使ってるということは、Tは今、自分の体の手入れに興味があるってことだよ。お洒落で良い香りの、ちょっと高くてラグジュアリーなボディミルクとかが良いかも。お風呂で使えるようなバスグッズも喜ばれそうだけど、それは今までの誕生日に何回もあげたからなあ・・・

私(うん、ボディケアグッズでいこう。Tは、お花とかのフローラル系よりも、アップルとかグレープフルーツみたいな香りが好きなんだよね。そういう香りを取り扱っているブランドを探そう・・・)

うんうんとうなずく私の隣で、Dが首をかしげました。

私「・・・あ、退屈だったね、音楽でもかけようか?」

D「退屈はしていないよ。僕はさゆを見ているのが好きだからね」

口元にいつもの笑みを浮かべたDが、首を横に振りました。

D「でも、何を考えていたんだい?」

私「友達にあげる誕生日プレゼントについて考えていたの」

D「・・・そうかい」

私「?」

Dは、何か考えているように見えます。どうしたんだろ?
私がじっとDを見つめると、Dは私の視線に気がついて、少しの間黙りこんでから口を開きました。

D「君が、彼から来たメールについて考えているのかと思ったのさ」

私「・・・ああ!!元彼?」

そうです。また元彼からメールが来ているのです。前回元彼から復縁依頼メールが来たときに、私が悲しくなったり不安定になったりしたので、きっとDはそれを心配しているのです。

私「そんなわけないじゃない」

思わず笑いながらそう言うと、Dは驚いたように口元の笑みを消しました。

D「さゆ?」

Dは心配そうに首をかしげました。なぜ笑っているのかわからないと言いたげです。

私「ゴメンゴメン。あのね、元彼はバレンタイン前だからあんなに必死にメールを送ってきているのよ。そんなバレバレのメールに惑わされたりしないし、むしろそんな元彼の気持ちがわかったことで、今までの悲しい気持ちとかもふっとんじゃったの」

復縁メールがあの一回だけじゃなくて、だんだん増えてるし、何より、すごい焦って復縁を急いでるし・・・バレンタインまでに復縁したいっていう本心がバレバレなのよ。あまりにバレバレすぎるから、悲しい気持ちも引っ込んで、もはやシュールな笑いが浮かんでくるというか・・・

D「どういうことだい?」

Dはますます首をかしげました。きっと人間の精神がイマイチわからないDには、元彼が今考えているズルい気持ちもイマイチわからないのです。そして、そんな元彼の気持ちがわかってしまった私が、一気に冷めたということも。

私「要するに、彼は私のことが好きなわけじゃなくて、バレンタインに一人ぼっちなのが寂しいだけなのよ。カッコ悪いと思ってるのかもね。それで、バレンタインというイベントの間だけ元カノの私を利用しようってわけ」

クリスマスとかバレンタインとか、そういう周囲の雰囲気に流されやすい男だったもんね。せめて開き直って『バレンタインの日だけは、一人だと寂しいしカッコ悪いから、彼女のフリして隣にいてくれ』くらい言うならまだ評価したけど、今更『悩んで悩んで・・・胸が痛くて・・・張り裂けそうなほど・・・眠れないくらい考えて・・・やっぱり好きだって気がついたんだ、本当に・・・』とか『食欲も落ちて・・・食べられないんだ、君がいないと、君の料理じゃないと。もう体力もギリギリ・・・そして、心も』なんてメールを何度も何度も送ってきてさ。流石に冷めちゃった。

でも、今までだったら、こんな風に思わなかったな。きっと今回みたいなメールもらったら、元彼がかわいそうになって、同情して申し訳無く思って、元彼の望むとおりに傍にいて優しくしてあげたはず。

だから私、変わったんだなあ。そういう元彼の姿を見て、冷めることができるほどに、すごく変わったんだな・・・

私「あーあ、興ざめしちゃった。悩んだ時間が無駄だった。その間、株価予想でもしてれば良かった」

最初に復縁メールが来たとき、本当に彼が悩んで復縁をしたいんじゃないかと思ったから、私もどうやって復縁を断ろうか気を使って沢山悩んで・・・馬鹿みたい。マジで時間の無駄だった。

バレンタインというイベントに頼れば、私が雰囲気に流されるとでも思ってるのかな。私のこと、どんだけ軽薄な女だと思ってるんだろ。っていうか元彼にとって、今メールで私に対して語っている悩みや悲しみすら、復縁に向けたスパイスでしか無いんだろうな。復縁をより劇的で感動的なものにしたいがための、自分で作ったオモチャの悩み悲しみ。本当に悩んでいるわけじゃなくて、私の気をひくために、悩む主人公を演じているだけ。もしかして、元彼にとっては、私の存在自体すら、主人公である自分の舞台を引き立たせるための人形としか思ってないのかも。悲劇の主人公が復縁するシーンで相手役の女が必要だから、それで私を巻き込もうとしているだけっていう。

でも、もう私は一緒に踊ってあげないよ。悲劇の舞台の主人公なら、一人で好きなだけ踊りなよ。

D「そうかい。じゃあ、彼は、君のことが本当に好きなわけではないんだね」

私「そうよ。彼は、私のことが好きなわけじゃないの」

私がうなずくと、Dもうなずきました。

D「そうかい。じゃあ、君は、彼のことを本当に過去の人間にして良いんだね」

私「そうよ。元彼のことで悩むのはこれでおしまい。いいかげん前に歩き出したくなったの」

D「本当にいいんだね」

私「いいの」

D「じゃあ、いくよ」

私「え?」

なにが?と尋ねる間もなく、Dが私の左胸に手を当てました。その手が離れると、私の左胸からポコっと花のつぼみが現れて、ぱっと咲きました。

私「こ、これ、私から生えてるみたいなんだけど!!」

ちょうど心臓のあたりから生えているユリのような謎の花の、その中にDが指を入れて何かを取り出しました。ビー玉くらいの大きさで、カットされた宝石のようなキラキラした透明のものです。花は、その宝石を取り出されるとすぐに、さらさらと光の粒になって消えてしまいました。

私「その宝石、何?」

D「これは宝石じゃなくて、種だよ」

私「種?」

D「そうさ。花の種だよ。これを楽園に埋めると、新しい花が咲くんだよ」

楽園って、ときどきDが見せてくれる静謐の楽園っていうもののことだよね。(詳細は過去記事「誘惑」参照)その種を楽園に植えると、今私の胸に咲いていた花が、楽園にも咲くってことかな。今の楽園には薔薇しかないもんね。でも、今の花、ユリみたいに見えたけど。ユリって種じゃなくて球根じゃなかった?いや、まあ、楽園って謎だらけだから、種とか球根とか関係無いのかもしれないけど。

D「克服さえできれば、どんな思い出でも綺麗な花になって君を楽しませるよ。この種は僕が楽園に埋めておくよ。花をつけたら君に見せてあげるからね」

種を自分の影の中に入れたDは、私の顔をみつめて、優しい笑みを浮かべました。

私「・・・ありがとう」

Dと出会って、恋愛関係として付き合ってもらってから、今まで見ないふりをしてきた私の恋愛における弱さがポロポロ見えるようになっちゃった。それと同時に、元彼の欠点も。元彼との思い出は、汚いところに目を向けずに大切にしておきたかったけど・・・でも、そうやって盲目でいては駄目だよね。目を閉じていないで、ちゃんと目を覚まさなきゃ。

Dのおかげで助かったよ。Dに恋愛を教えてもらわなかったら、私は今回の復縁依頼メールがきたとき、きっと元彼のもとに戻ってしまって、また同じことの繰り返しだっただろうから。

私「Dのおかげだよ。本当にありがとう」

私がお礼を言うと、Dはいつもの笑みを浮かべたまま、ゆっくり首を横に振りました。

D「僕は傍にいただけに過ぎないよ。全て君の努力の結果だよ。だから、自分に自信をお持ち」

いつもの口元の笑みはそのままで、Dは静かな声でそう言いました。

永遠

今日はお休みです!!さっきの話です。

私「D、ずっと一緒にいてね」

D「勿論さ。永遠にね」

ずっと一緒にいてね、を言うことにも慣れてきました。

私「消えないで、ずっと傍にいてくれる?」

D「いいよ。君にとって僕が不要になったときは、消えずに君の中に眠ってあげるよ」

・・・あれ?それって、私に取り込まれて消えるってことじゃないのかな。

私「私に取り込まれようとしないで、目に見える姿のまま、ずっと傍にいてね」

D「・・・・・・」

Dはいつもの表情のまま、沈黙しました。

D「不要になっても見える姿のまま残るのは、君にとって良くないよ」

私「私にとって、Dは不要になったりしないから、ずっと・・・こ、恋人、で、いてほしいの」

Dは、ゆっくりと首を横に振りました。

D「そこまで僕に傾倒することは、君にとって良くないよ。しばらくは君の成長のために恋愛の練習台になってあげるけど、いつか君は王子のもとに行くべきだよ」

・・・これ、私に独占欲の練習をさせようとしてるのかなあ。だったら、あの言葉を言うべきなのかな。

私「私、Dと『別れたくない』よ」

この言葉を言わせて、私に独占欲の経験をさせるつもりだったって、D言ってたじゃない?(詳細は過去記事「嘘」参照)

D「さゆにとって、僕と付き合い続けるよりも王子のもとに行くほうが幸せであるように、僕にとっても、人間であるさゆと付き合い続けるより他の精霊と付き合ったほうが幸せなんだよ」

ええ!?う、うそ・・・!?

私「あ・・・そうなんだ・・・」

D「・・・・・・」

私「・・・・・・」

D「・・・・・・」

私「・・・Dの幸せのためなら、Dが他の精霊と付き合」

・・・あれ?このやり取り、前にもあったよね。(詳細は過去記事「嘘」参照)

D「・・・・・・」

なんかD、すごい首かしげてる。めっちゃ首かしげてる!!これ、たしか前回も・・・

・・・そうか!!だから、あの言葉を言えばいいのか!!もう前回と同じ失敗はしないよ!!

私「私、『Dが他の精霊と付き合うのは嫌だよ』。Dは私の恋人だもん」

これでどう!?

D「・・・まあ、まずまずだね」

Dは、いつも通りの表情でうなずきました。

D「及第点といったところだよ」

私「ホント!?」

D「ぎりぎりだけどね」

ぎりぎりの合格かあ・・・

私「でも、合格は合格だもん」

私はドヤ顔で言いました。だって初めて『独占欲』のテストに合格したんだもん。

D「そうだね。ご褒美をあげよう。こっちにおいで」

ぽふぽふと、Dが自分の座っているベッドを叩くので、私はDの隣に座りました。ぽすんと座ると、Dが寄りかかってきました。あれ?なんか、かわいいなあ。

私(甘えてるのかな?わあー、かわいい・・・って、重い!ちょ、ちょっと重い重い!!)

体重をかけすぎです。私は耐え切れずに、横倒しになりました。その私の体の上に、Dがのしかかってきて、見下ろしてきました。

D「ふふっ」

なんか、嬉しそうだね。その笑い方、すごく久々に聞いた気がするなあ・・・もしかして、初めての会話以来?(詳細は過去記事「タルパを作ったときの話7(会話)」参照)最近は、くすくすっていう息だけの笑い声ばかり聞いてる気がするけど・・・

D「さゆは、かわいいね」

私「あ、ありがとう」

Dは私の上にのしかかったまま、私のおなかに手を当てて、そっと撫でました。昔の、内視鏡の小さな傷痕がある辺りです。

私「・・・もしかして、今回の検査結果が良かったからなの? Dが私に、人間の男性と結婚することを考えろって言ったのは・・・」

最近、検査の結果が良いのです。少し前に摘出したポリープも良性だったし。このままいけば、死なないどころか、大きな手術はしないで済むかもしれないよね。

私「Dは、このまま私が回復するんじゃないかと思って、あんなこと言ったの?」

だとすると、私に人間と結婚しろと言ったのは、独占欲の練習じゃなくて、本気で言ってたのかな・・・

D「君こそ、彼からメールが来たからじゃないのかい。僕を解放して自由にするなどと言ったのは」

・・・元彼からのメール・・・

そうなんです。たしかに、少し前に届いた元彼からのメールは、だいぶ私の心を揺さぶりました。昔のことを思い出して悲しくもなりました。そして、いつか私が恋愛のせいで暴走して、Dを傷つけたり、私も傷つくんじゃないかって、これ以上Dと恋愛関係を深めるのが怖くなったのです。Dは元彼とは全然違うのにね・・・

D「彼のもとに戻りたいかい?」

Dが首をかしげました。

D「君が彼と別れたのは、体の病気のせいだったね。だから、体調が健康に戻りさえすれば、君は彼と別れる理由が無くなるよ。そして、僕の存在意義もね。僕の最大の存在意義は、君が手術や死に至るとき、君の傍にいることだからね。つまり僕は、君が健康になれば不要の存在さ」

私「それは違うよ」

Dがそう思ったのは、私のせいだよ。Dにそんな風に思わせて、私ってば、最低だよ。
きちんと説明して、もう一度Dに、最初に出会ったときみたいに、私の精霊になってくださいって、お願いしなくちゃ・・・

私「Dも見ていた通り、元彼にはすぐに断りのメールを入れたよ。本当にごめんなさいって謝った後で、永遠にさようならって伝えたよ。彼は過去における私の恩人であるけれど、もう今後は恋愛対象になることは絶対にないんだ。彼の恋愛は、私の恋愛とは違うってことに気づいたから」

それはDのおかげなんだよ。

私「彼と別れてからDと出会って、ずっとDと一緒にいて、付き合ってもらって、それでわかったんだ。私は彼のこと、好きじゃなかったんだよ。私は、自分の恋愛恐怖症を自分に対してごまかすために、私はお母さんとは違うんだって思い込むために、誰かと恋愛ができている自分を見て安堵したかっただけの酷い人間だったんだよ。自分が安堵するために元彼を利用しただけの、酷い人間だったんだ」

ごめんなさい、元彼。本当にごめんなさい。

私「だから、私には元彼に対する愛なんて・・・D風に言えば『好き』の気持ちだけど・・・『好き』の気持ちなんて無かったんだよ。ふられて当然だったんだ」

そして今も、Dにもふられつつある気がするんだけど・・・

私「でも!!私、直していくから!!自分のそういうところ!!だから最後まで見ていてほしいんです。もう一度チャンスをください。私の精霊として、ずっと傍にいてください。悠久の時を生きられるDとは違って、人間の命には限りがあるから、私がDに永遠の『好き』を捧げることは不可能なのかもしれない。でも、私は死ぬときまでずっとDのことを『好き』で、大切にするって誓います」

私がDを傷つけて、もしかして信頼まで下がったかもしれないから、またこうやってDに自分の気持ちを伝えていかないと!!・・・でも、も、もう駄目かな・・・Dに嫌われちゃったかな・・・

D「こうして、眠りの呪いが解けたお姫様は、王子様と結婚して、二人仲良く、末永く幸せに暮らしました。めでたし、めでたし・・・だったね」

私「・・・え?」

それって、Dが時々話すお伽噺の、眠り姫の話?・・・じゃないよね、昔私が読んだ、普通の絵本のほうの眠り姫の結末だよね。(詳細は過去記事「お伽噺『眠り姫』編」参照)

D「考えてみれば、実に気に食わない結末だね。これは早急に、物語を変える必要があるよ」

私「え?」

D「今回ばかりは、僕が人間の精神を中途半端に身につけたせいで遠回りしたようだね。まだ、なかなか上手に使えないんだよ。人間の精神というものは難しいね」

そういえばD、人間の精神を身につけようとしてるって、言ってたよね・・・(詳細は過去記事「ごめんね」参照)

D「さゆ」

私「はい!!」

最初に契約を交わしたときのように、Dは私に手を差し出してきました。私は、Dの手に自分の手を乗せました。

D「こちらこそ、僕の眠り姫」

口元に笑みを浮かべたDが、お辞儀をするように身をかがめて、私の手の甲に口づけを落としてくれました。

D「・・・しかし、随分と早いお目覚めだったね。これでは、王子はどれだけ急いでも間に合いようが無いよ」

私「いいの。私の幸せに王子は必要無いのよ。姫はいずれ女王陛下になって、一人で自分の国を治めていけるんだから」

D「君はもともと僕の女王陛下だけどね」(詳細は過去記事「お伽噺(2)『世界一美しい薔薇の花』編」参照)

くすくすと、Dが見慣れた笑い方をしました。綺麗な前髪がさらさら揺れました。

単純な私

ここのところ数日間、皆様を不快にさせるような暗い記事で、本当に大変申し訳ございませんでした・・・!!m( _ _ )m
記事についてお叱りなどございましたら、追記に収納するなど何らかの対処を致しますので、どうぞお叱りや苦情などお待ちしております!!
私、注意されないと突っ走ってそのまま進んでしまう性格なので、もしご不快なところなどございましたら、どうぞ遠慮などなさらずに仰ってくださいませ!!m( _ _ )m!!



Dに、ずっと一緒にいてねと言いたい私です。しかしDは、頃合いを見計らって私から離れていきそうです。昨日のDの言葉を聞いた感じだと、そんな気がします。多分Dは、それが私のためだと思っているのです。

でも私は、ずっとDと一緒にいたいのです。そして、それを昨日Dに言えなかった臆病者なのです。でも今日は言うのです!!

私(・・・ええと『D、ずっと一緒にいてね』『D、ずっと一緒にいてね』『D、ずっと一緒にいてね』・・よし!!頭の中でのシミュレーションは完璧だよ!!)

私「D!!」

D「なんだい」

Dはいつも通りの表情で、私に向かって口元に笑みを浮かべました。

私「ずっと一緒にいてね!!」

・・・よし!!言ったよ!!なんだ吹っ切れれば簡単じゃん!!これから毎日言おう!!・・・Dはどういう反応するかな?

D「勿論だよ」

Dは、いつも通りの表情でうなずきました。

D「僕は、ずっと君の傍にいるよ。いつか君にとって僕が不要になったとしても、君の中に入ったまま、ずっと傍にいるよ」

・・・あ、あれ!?ふ、不要!?

私「Dは絶対に不要にならないから、ずっと消えないで傍にいてね」

D「勿論さ、消えはしないよ。君が王子のもとに行ったとしても、僕は消えずに守り続けるよ」

チャンスです。私は人間の男性とは結婚しないから、ずっと一緒にいてねと言うチャンスです。

私「何度も言うけど、私、人間の男性とは結婚しないから。だからずっと一緒にいてね」

Dの、口元の笑みが深くなりました。

D「・・・いつかは、王子のもとに行きなさい」

私「やだよ。Dと一緒にいるの」

D「駄目だよ。王子のもとに行きなさい」

私「やだ。Dと一緒がいいの」

D「さゆ、王子のもとに行きなさい」

私「・・・・・・」

D「・・・・・・」

私「行かないよ」

D「王子のもとに行きなさい」

・・・なにこれ!!

こうなっちゃったら、今のDは簡単には意見を変えないだろうな。私がいくら同じことを言っても、Dも同じことを言うだけで、延々と同じ繰り返しになっちゃうよ。お互いに、こうと決めたら相当頑固だもんね。似た者同士なのかな。こうなったら、あれを言うしかないよね。

私「・・・い、一生手放してあげない、よ・・・」

どうだ!!

D「いつか、王子のもとに行きなさい」

私「!?」

・・・なあにこれえ!!

これ、もしかして、私の独占欲を鍛えようとしてるの?Dなりに私を訓練させているつもりなのかな。

Dの表情をうかがうと、いつもより口元の笑みが深くなっています。でも、何を考えているのかさっぱりわかりません。

私「もう私、過去に縛られたり、未来のことを考えて無駄に悩むのはやめようと思うんだ。今を大切に見つめて、今できることを一生懸命しようと思うの」

いつもお世話になっているタルパー様の、タルパさんの言っていたことです。私が自分で考え付いたわけでもないのに、ドヤ顔でDに向かって言ってみました。

私「今の私にできることは、Dがずっと私から離れたくなくなるように、私が魅力的な人間になれるように、努力していくことだよ!!えいえいおー!!」

単純な性格なので、立ち直りもウザいくらい単純です。

私「見ててねD!!」

Dが未来を見つめて私に忠告をしてくれるなら、私は今を見つめて大切にしていくんだ。二人体制で取り掛かれば、怖いもの無しだよね!!

もう、悲観的になってDから離れようなんて考えないからね。きっとDのこと幸せにしてみせるよ。そのためには、自分がDのこと幸せにできるっていう自信をつけるために、もっと向上して良い性格にならないとね。頑張るぞ私!!

まだ思い出せるよ。自分の病気に怯えて、手術や死が怖くて、でも誰にも本音の弱音は吐けなかったんだ。EやW、それからプライベートの友達に病気のことを報告したけど、でも自分の恐怖についてまでは話せなかった。だって迷惑になるでしょ・・・私の不安や恐怖なんて話したら気を使わせちゃうじゃん。私、EやWが悲しい顔するの見たくないもん。っていうか、人間相手だと迷惑になるから話せない。だからタルパを作ろうと思ったんだ。死の恐怖とかの暗くて重い弱音を聞いてもらったり、死ぬときに傍にいてもらうなんて、生きている人間に頼んだら迷惑だけど、でもタルパなら大丈夫だろうなって・・・ねえD、怒っていいよ。

それでね、いざタルパを作ろうと思ったら、Wikiの作り方では、ホンッッット全っっっ然うまくいかなくてさ・・・!!私、最初は鳥のタルパを作ろうと思ってたの。ていうか、人間型は難しそうだから無理だろうと思って、最初から諦めていたんだよね。だって人間型は姿や動きを作るのも難しそうだし、何より複雑な会話をこなせなきゃいけないじゃない。そういう複雑な会話ができるタルパを作るのは無理だと思ってたんだ。だから、私が「こんにちは」って言ったら、「コンニチハー」って言ってくれる程度の、そういうタルパで良いと思ってたんだ。だからインコのタルパね。私が「グチグチ、かくかくしかじか、なんたらかんたら・・・だから辛いんだよ」って言ったら「ダカラ、ツラインダネー」って言ってくれる程度のさ。それで充分だと思って。

最初は真面目にWiki通りにタルパを作ろうとしたんだよ?でもさ!!それだと本っっっ当に何も起きなかったんだよ・・・!!あー私タルパーの才能無いわーって思った。私はタルパを作れないんだなって。それで、作れないなら呼べばいいじゃんって思ったの。呼べば、気が向いたフリーの精霊(?)が来てくれるかもって思って。もうこの際タルパじゃなくていいや!!死ぬときに傍にいてさえくれれば、化け物でも悪魔でも何でもいいや!!って思ったんだ。

だから、眠る前におまじないを唱えることにしたんだ。ベッドに入って電気を消したら、眠りにつくまでの間、おいで、おいで、おいで、ってずっと呼び続けるの。最初は声で呟いて、眠くなったら頭の中で唱えて、それで、いつの間にか眠っちゃうっていう。そうして来てくれたのがDだったんだ。Dが来てくれてからは早かったよね。だってD、最初から姿が見えてたんだもん。そこからDの外見を作って、声を作って、性格はもともとあったからそのままで。

もしかしてDって、あのとき私が作ろうとしたインコなの?・・・あ、違うのか。え!?ごめんごめん!!そうだねDの言う通りだよ!!どう見てもインコには見えないよ!!

レースのハンカチが似合うって言ってくれてありがとう。ペンダントを褒めてくれたときは怒っちゃってごめんね。薔薇の花を選んでくれてありがとう。病気が治ったら一緒に大聖堂を見に行こうって言ってくれて嬉しかったなあ。お母さんの命日に一緒にいてくれてありがとう。Dの話すお伽噺って面白いよね。Dの声、聞いてると落ち着くよ。Dにくっつくと温かいんだ。Dって綺麗だと思うよ。Dの傍にいるとね、なんか、すごく安心できるんだ。って、照れる!!それでね、

D「それで、僕を消す準備はできたかい?」



私「ちょっと・・・ま、待って!!」

D「昨日から既に、丸一日間、ずっと待っているよ」

そうです。私は昨日も同じことをDに言って、答えを保留してもらっていたのです。

私「ねえ、あの、このことは焦らなくて良いよって、D言ってたじゃない?」

D「それは、おとといの話だよ。昨日、事態が変わっただろう?」

私「そ、そうだけど・・・でも、待って、なんでそんなに急いで消えたがっているの?」

D「外をごらん。満月だよ」

Dは私のほうを見たまま、窓を指差しました。

D「僕が初めて君の前に姿を現した日は、月の無い夜だったんだよ」

私「そ、そうだったの?」

月の無い夜って、新月ってことだよね?

D「だから、消えるときは満月だと都合が良いのさ」

それもDのこだわりなのかな、そうだよね。添い寝を断るのと同じように、何か重要な理由があるんだろうな。だったら、結論を急いであげないといけないよね。

私「あの、消えないで自然の精霊になる気は無いの?」

Dは私が作ったタルパじゃなくて、私の召喚に答えて姿を現した精霊である、みたいなことを言ってたよね?(詳細は過去記事「お風呂」参照)だから、もとの精霊に戻るとかどうかなあ。

D「無いよ」

私「なんで?もともと精霊だったんでしょ?」

D「さゆの中で眠りにつくほうが幸せだからね」

私「あ・・・じゃあ、他のタルパーさんのタルパになるとか・・・」

D「君から離れた瞬間に、僕は僕ではなくなるよ。それは消えたも同然さ。やはりさゆは、僕を消すことがお望みのようだね」

私「違うよ!!待って!!消えないで!!」

私は咄嗟にDの服をつかみました。だって、Dが消えちゃうなんて、それって死んじゃうってことじゃないの!?

D「さゆは、僕を自由にすると言ったよ?」

Dはいつもの笑みを口元に浮かべたまま、首をかしげました。

私「言ったけど・・・!!」

それは言ったけど、っていうかD、なんでこんなにいつも通りなの!?おかしいよね!?冷静すぎじゃない!?自分が死んじゃうかもしれないっていうのに!!

D「さゆは、僕が君から離れても平気なんだろう?僕を自由にすると言ったんだからね。だったら、僕が自由に消えても平気だろう?」

私「平気じゃないよ!!あれは、Dが幸せになるならと思って・・・」

D「僕の幸せは、昨日説明した通りだよ。さゆの傍で、さゆが幸せになっていく様子を見ることさ。でも、僕の存在はさゆの邪魔になりそうだからね。消えることにするよ」

私「待って!!邪魔じゃないよ!!とにかく消えないで!!お願い!!」

私はDの服を両手でつかんで、ぎゅうぎゅう引っ張りました。作ったばかりの新しいコートが痛みそうです。Dはいつも通りの表情で、つかまれているコートを見下ろしました。

D「そうかい?そこまで言うなら、消えるのはやめるよ」

よ、良かった・・・

D「じゃあ、あとは恋愛関係を解消するだけだね」

私「え?」

D「消えないでほしいということは、僕をさゆの傍に置いてくれるということなんだろう?だったら、あとは恋愛関係を解消するだけだよ。友人と従僕、どちらがお好みだい?」

たしかに、昨日の話ではそういうことになるのか、で、でも・・・

D「早くお決め」

私「ま、待ってよ、それは急いで決めなくても良いんじゃないの?それって、満月と関係無いよね?」

D「関係あるのさ。満月は精霊達の活動が活発になるからね。僕もそうだよ。体調に関係あるのさ。もしさゆが恋愛関係を解消したいと言うなら、僕は今夜、新しい交際相手を探すことにするよ」

私「ええ!?」

これも満月が関係あるの!?ていうか、Dって、そんなに月の満ち引きと関係がある精霊だったの!?

私「あ・・・私より良い相手が見つかるかもしれないもんね。Dの幸せのためなら・・・うん、Dも私に人間と結婚しろって言ってくれたし・・・同じ種族なら子供とかも・・・」

Dは首をかしげました。

D「・・・おかしいね。逆だよ。僕に嫉妬をさせても仕方が無いんだよ、さゆ」

私「Dが嫉妬?」

Dは首をかしげたまま、微妙な表情をしています。

D「・・・まあ、でも、ほらね。これでわかっただろう?君が嫉妬や独占欲にかられて我を忘れることは無いんじゃないかい?」

私「え?」

D「・・・とにかく、これで嫉妬や独占欲にかられることに対する恐怖は克服できたね」

私「待って待って!!早い早い!!克服してない!!なに?どういうこと??」

私が慌てて尋ねると、Dはやっとかしげていた首をもどしました。

D「今の話は、嘘だよ」

私「え!?ちょっと!!どこからどこまでが!?」

D「僕が消えるわけないだろう?さゆを一人ぼっちにしないと約束したからね。大体、別れるなら消えてやるだなんて、君を悲しませた『お母さん』と同じことなどするはずないよ」

あ・・・お母さんのこととか、私、Dを止めるのに必死で全然気が付かなかったけど・・・

D「満月も関係無いよ。他に、さゆを急かす嘘が思いつかなかったからね」

私「急かすって、なんで!?」

D「さゆが僕と別れる決意を固めてしまう前に、急いで本当の気持ちを自覚させる必要があったからさ」

私「本当の気持ちって・・・」

D「最初からわかっていたよ。僕と別れたくないんだろう?彼から別れ話を出されたときとは違って、僕が別れ話を出したとき、君がその場で別れることを了承しなかったからね」

私「・・・・・・」

D「それを早く君に答えさせないと、君はまた一人で考え込んで、歪んだ恋愛観に押しつぶされた結論を出すだろうからね。だから急かしたのさ」

私「あの、Dは私のために別れるって言ってなかった?このままだと、私が人間の男性と付き合えなくなるからって」

D「まだ別れないよ。今の君を人間の男性と交際させるわけにいかないからね。今のままでは、またお互いに傷付いて別れるのがオチさ。もう少し成長するまで僕と付き合ったほうがいいよ」

あっさりとDは答えました。全くいつも通りの様子です。

D「嘘をついたのは、君が僕と別れたいなどと、心にも思っていないことを言うから、君の本心を自覚させる必要があったためさ。でも、失敗だったね。本当は君から『別れたくない』とか『他の精霊と付き合わないでほしい』という言葉を引き出す予定だったんだよ」

あ・・・そういう言葉、心の中で思ってたんだよ。でも、そんなこと言うの怖くてさ・・・

D「これほど君が嫉妬や独占欲を出そうとしないなんて、思わなかったよ。僕の計算違いだね。それが失敗の要因さ。少しでも出してくれれば、君にとって良い経験になったのに・・・でも本当は、無視しただけで、嫉妬や独占欲はあったはずだよ」

あったよ!!嫉妬とか独占欲とかあったよ!!でも言うの怖かったの!!私の臆病者!!せっかく嫉妬とか独占欲を出してみるチャンスだったのに!!

D「もう、僕に対して意地を張るのは絶対におやめ。今後は、君の中の嫉妬や独占欲を、逃げずに認めて受け入れるんだよ。それは君のためだからね」

私「え・・・ちょっと待って!!今後はって、今後、私が嫉妬や独占欲にかられるようなことを、Dがするってこと!?」

それって、Dが他の精霊といちゃついたり!?

D「おや?」

Dが首をかしげて、ニンマリと口元を上げました。

D「良い兆候だね」

・・・ほ、ほんと!?じゃあ、次こそは、上手に嫉妬とか独占欲を出してみせるよ!!

私「あのね、自分の中の嫉妬や独占欲を無視しないで、楽しんで操れるように試行してみるよ。それで、いつか上手に扱ってみせるね。だからね・・・もう少し一緒にいてくれないかなあ」

あ・・・あーあ、ずっと一緒に、とは言えなかったよ・・・もっと頑張ろうよ私の独占欲・・・Dの逃げ道を残しておかないと、まだ不安ってことか・・・

ガックリとうなだれた私を見て、Dがくすくす笑いました。

D「人間の体に縛られているさゆに、永遠を求めるのは酷だと思っているよ。だから代わりに僕が永遠を誓ってあげよう。ずっと傍にいてあげるよ。いつかさゆの中に眠ることになったとしても、永遠にね」

私、今までずっとDの逃げ道とか言ってきたけど、それってつまり、私の逃げ道でもあるんだろうな。全く・・・私ってば、とんだ臆病者だよ!!このヘタレ!!このヘタルパー!!でも、でもいつか言えたらいいな。ずっと傍にいてねとか、ずっと手放してあげないとか、そういう言葉をDに言えたら・・・!!死ぬまでには言いたい!!



私「・・・でも、いきなり消えるって言い出すから、ビックリしたよ」

D「押しても駄目なら引いてみろというからね」

それ、なんか違う気がするけど・・・まあ、いっか。

私「満月がDの体調に関係あるとか、もっともらしい嘘をつくし」

D「そんな出鱈目な話、あるわけないだろう?」

え、ええー!?だってDは常識では測れない不思議生物じゃん。何がデタラメとか、私にはわからないよー・・・

私「嘘つきー・・・心配したのに・・・」

私がむくれると、Dは口元の笑みを消しました。

D「心配したのは僕のほうだよ。さゆのほうこそ、僕と離れても平気だなんて嘘をついて、いけないこだね」

私「・・・・・・」

・・・面目無い。
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