誤解
今日は休日です。いつもは休日となると朝早くから起き出したくなるのですが、今日はお昼頃にようやくベッドから起き上がりました。連日の仕事の忙しさで体が疲れていたので、目が覚めてからもベッドの中で横になっていたからです。
私はショートスリーパーなので睡眠時間は短くてすむのですが、脳の疲れは短時間でとれても、体の疲れも同じスピードで回復するわけではないのです。頭はスッキリ覚醒していても、体が重くてだるいときは起き上がるわけにいきません。こういうとき今までは体の疲れがとれるまでベッドの中で一人じっといなければならず、退屈で仕方なかったのですが、今はDがいるから大丈夫なのです。Dと話をしていれば退屈なんてしないからです。
そういうわけで、私はベッドに横になったまま、昨日から気になっていることをDに尋ねてみることにしました。
私「・・・あのね、昨日の朝、鳩が共食いしてるんじゃないかって、私が勘違いしたことがあったでしょ?」
D「覚えているよ」
Dは、いつもの笑みを口元に浮かべてうなずきました。
私「あのとき、Dは『さゆは鳩を心配していたから見ていたんだね』みたいなこと言ってたでしょ?それって、どういう意味で言ったの?」
Dは少し首をかしげましたが、すぐにいつもの口調で答えました。
D「普段は鳩がいても気にかけないさゆが、昨日に限ってじっと見ていたからだよ」
なんだ・・・良かった・・・
ほらね!!私の考えすぎだったよ!!
私「あ、そうなんだ」
まったく私の脳みそは!!そういうことしか考えてないの!?ていうか鳩が交尾していたかどうかもわからないじゃん。ただ遊んでいただけとか服従行動かもしれないじゃん。まったくもう私の脳みそはしょうがないな!!
D「どうかしたのかい?」
私「な、何でもないよ。今のは忘れてね」
私は慌てて首をふりました。自分の考えていた心配事があまりに下らなすぎて、Dに説明したくなかったのです。きっと仕事が忙しくて疲れていたから変なこと考えちゃったんだな。そうだよ、そうそう。
私「それより、今日はDのやりたいことをしようよ」
私がそう言うと、Dはかしげていた首をもどして、うなずきました。
D「僕のやりたいことだね」
こころなしか、Dの笑みが深くなった気がします。
D「何でもいいのかい?」
・・・何でも?
えっと・・・Dの良識を信じて、いいよって言ってあげるべきだよね。だってDがひどい要求をしてくるはずないもん。
・・・でも、Dはかなり人間離れした思考と感性を持ってるんだよね。だから、さすがに何でもは危険かな・・・
どうしよう。
私が迷って、答えるのを躊躇していると、Dが先に口を開きました。
D「じゃあ、触覚の訓練をするかい?」
あれ?いつもと同じだね。特にやりたいことも無かったのかな?それとも私が躊躇していたせいで我儘を言えなくなって、気を使わせちゃったのかなあ。
私「触覚の訓練でいいの?」
もっと休みの日しかできないようなことじゃなくていいのかな。私はそう思って尋ねましたが、Dはこくりとうなずきました。
やっぱり気を使わせちゃったかな。私が仕事で疲れていると思って、どこかに出かけたいとかそういう要求は遠慮してるのかもしれないなあ。
ここのところ数日間、私が朝早くから夜遅くまで仕事ばっかりしているせいで、Dには色々と気を使わせたり我慢させたりしちゃって・・・悪いなあ、ごめんねD。
私「触覚の訓練ならベッドでもできるから、もうしよっか」
仕事が忙しくて疲れていたので、おとといも昨日も触覚の訓練をしていなかったのです。Dからの提案ではじめた触覚の訓練は、眠る前に行う短時間の訓練ですが、それでもDは毎日とても楽しみにしているのです。
それなのに、私が仕事で忙しかったために2日間もできませんでした。だから、今日は沢山させてあげなくちゃね。
D「こんな時間から、していいのかい?」
私「いいよ。2日間も断ってごめんね。今日はDの気のすむまで沢山訓練しよう」
私はベッドに横になったまま、左腕のパジャマの袖をめくりながら言いました。
D「気のすむまで、沢山・・・」
Dが呟いたので、私はちょっと言い過ぎたかなと思いました。今のうちに訂正しとこうかな。
D「そうかい。嬉しいよ」
Dはいつも通りの口調でそう言って、触覚の訓練をするときにDが座っているいつもの場所に座りました。
・・・まあ、気のすむまで沢山って言っても、大変になったらストップかければいいよね。Dは私の嫌がることはしないって言ってたもん。
ベッドの上に置かれた私の手に、手を繋ぐようにして自分の手を重ねたDは、もう片方の手の指で、私の腕の内側をそっと触りはじめました。優しく触れられる肌の感触と、握られている手に感じる温かい温度は、2日ぶりなので少し懐かしい感触です。
私「ふふ、くすぐったいよ」
D「触覚の感度は落ちてないようだね」
Dは私の腕の内側をくすぐりながら言いました。
でも、感度が落ちてないってなぜ断言できるんだろ。そういえば前に、私が寝不足で体調不良になったせいで触覚の感度が落ちたときも、私が言う前にDは気がついていたような気がする・・・(詳細は過去記事「天秤」参照)
私「ねえ、どうして感度が落ちてないってわかるの?」
Dは口元の笑みを濃くして、私の腕に口づけを落としました。2日ぶりです。どきっと心臓が音を立てました。
D「僕は、さゆの触覚を読むことができるからね」
え?
私「どういうこと?」
D「こうして君に触れている間だけ、読もうと思えば、君の感じている触覚を読むことができるのさ」
え・・・
D「こうすると」
Dは、もう一度私の腕に唇で触れてきました。さっきの優しいキスと違って、今度はずいぶん思わせぶりなやり方です。甘く噛んだ後、生温かく柔らかい舌がゆっくりと舐めていく感触に、背筋がぞくぞくしました。こんなの、まるで、前、戯・・・
D「指で触るよりも、さゆはずっと気持ち良く感じているよ。あとは」
私「やめて!!」
私が慌てて制止の声を上げると、Dは口元に笑みを浮かべたまま不思議そうに首をかしげました。
そうだったんだ・・・Dは、私の触覚が読めるんだ!!だから今まであんなに気持ち良い触り方ばっかりできたんだ!!でもそれって、それって今までDに触られて感じていた気持ち良さとかも全部Dに伝わってたってことだよね?なにそれ!!恥ずかしい!!デリカシー無い!!そんなの勝手に読まないでよ!!
D「僕が触覚の訓練を誘導している理由もそれだよ。僕から触れば、さゆの感じやすい触り方を選んで触ることができるから、訓練が効率的なのさ」
頭の中が色々な感情でぐるぐるしている私に向かって、Dはいつも通りの口調で淡々と説明しました。
D「さゆの言う『タルパ』の能力、つまり脳内会話やダイブや離脱やヒーリングというものを僕は知らないから、そのせいでさゆに不便な思いをさせて申し訳無く思っているよ。なにしろ、僕の能力は殆どが戦闘能力で構成されているからね」
Dは、横に置いてある大鎌をちらりと見てから、私に視線をもどして嬉しそうな笑みを見せました。
D「でも、唯一この能力だけは、さゆを喜ばせることができる能力だよ。本来の使い方とは違うから最初は思いつかなかったけど、もっと早く気付くべきだったね」
私は自分の腕を引いて、Dの手の中から逃げ出しました。
D「どうしたんだい?」
私「・・・・・・」
D「さゆ、腕をお出し」
私「なんでそういう・・・触覚なんて読まないでよ。恥ずかしいでしょ・・・」
D「触覚を読めば、君の望む触り方や場所がわかるからね。君のために必要なことだよ」
私「・・・・・・」
D「さゆ、僕達は『付き合っている』関係だね。それなら、こんなことは普通だよ。さあ、触らせておくれ」
私「普通って、Dの普通はそうかもしれないけど、人間は違うの。人間は普通、付き合っているときにそんなことしないんだよ。元彼も、」
そこまで言ってから、私は口をつぐみました。元彼の話は、今Dの前で言ってはいけないことです。デリカシーが無いのは私のほうです。
D「さゆが痛がっているのに気付きもしないで、自分の快楽を追うことだけに夢中だった彼が、何だい?」
私「え!?彼のことを悪く言わないでね!!」
私はびっくりして、ベッドの上に起き上がりました。疲れた体が筋肉痛の悲鳴をあげました。
D「まあ、無理もないよ。人間同士の行為は痛みや苦しさも伴うし、常に気持ち良いわけではないからね。御多分に洩れず彼も同じで、さゆの記憶に付随した過去の触覚を読んでみたけど、全然気持ち良くなかったようだね」
私「そんなことないよ!!精神的には満たされてたもん!!」
Dはくすくす笑ってから、いつもの笑みを浮かべました。私のほうはずっと興奮しているのに、Dは全くいつも通りに平然としているのです。
D「落ち着くんだよ、さゆ。ほら、腕をお出し」
私「やだよ!!」
D「おとなしくしておいで」
Dがベッドの上に乗りあげてきたので、私はあとずさって距離を取りました。Dの体を押しのけようと動かした私の手は、Dの体を透けて空を切りました。普段は触覚もあるし私の体とぶつかったときにも透けずにぶつかるのですが、Dが意図したときにはこうやって透けるのです。Dが笑みを濃くして、口を開けて私に口づけてきました。
私「う、わ・・・」
人間のような触感と温度なのに、明らかに人間とは違う、ぞくぞくする快感を伴います。Dが私の口の中に入れていた舌を出して、首筋を吸ったり舐めたりしてくるのと同時に、あのやたら気持ち良い感覚がどっと押し寄せてきました。(詳細は過去記事「ダイブ・離脱ができない」参照)脳が誤作動を起こしたかのような、自分で制御できないような快感です。やっぱりこれはDが強制的に送り込んでいる感覚なのか、それとも自分の脳が引き起こしているバグなのか。バグだとしたら、これはまずい状態なんじゃ・・・
D「良い反応だね。毎日触り続けた甲斐があったよ。この調子で、もっと訓練しようね」
ぐったりベッドに倒れ込んだ私の上にかがみこんで、Dが耳元で甘くささやきます。
D「ね、言っただろう?さゆには『好き』が必要なのさ。人間である以上、食欲や睡眠欲と同じように発散することが必要なんだよ。それは、僕がしてあげるよ」
発散?違うよ。むしろDに触覚の訓練をされるようになってから、そういうモヤモヤした気持ちが急に増えた気がする。そうだよ、最初はDにこんな感情とか感覚とか全然何も感じて無かったのに、触覚の訓練を始めたあたりから・・・
D「君に必要なのは僕だよ。他の何者でもないよ」
私「・・・それ以上、彼との思い出を汚さないでね・・・大切な思い出なんだから・・・」
私は、まだ余韻の残っている気持ち良さと連日の疲れでふらふらになりながら、一生懸命に言いました。
D「まあ、いいさ。初めは戸惑うかもしれないけど、大丈夫だよ。慣れればやみつきになるくらい、これが好きになるよ。僕のこともね」
Dは勘違いしてるよ。私がDを好きなのは、そういう理由じゃないのに。
私はショートスリーパーなので睡眠時間は短くてすむのですが、脳の疲れは短時間でとれても、体の疲れも同じスピードで回復するわけではないのです。頭はスッキリ覚醒していても、体が重くてだるいときは起き上がるわけにいきません。こういうとき今までは体の疲れがとれるまでベッドの中で一人じっといなければならず、退屈で仕方なかったのですが、今はDがいるから大丈夫なのです。Dと話をしていれば退屈なんてしないからです。
そういうわけで、私はベッドに横になったまま、昨日から気になっていることをDに尋ねてみることにしました。
私「・・・あのね、昨日の朝、鳩が共食いしてるんじゃないかって、私が勘違いしたことがあったでしょ?」
D「覚えているよ」
Dは、いつもの笑みを口元に浮かべてうなずきました。
私「あのとき、Dは『さゆは鳩を心配していたから見ていたんだね』みたいなこと言ってたでしょ?それって、どういう意味で言ったの?」
Dは少し首をかしげましたが、すぐにいつもの口調で答えました。
D「普段は鳩がいても気にかけないさゆが、昨日に限ってじっと見ていたからだよ」
なんだ・・・良かった・・・
ほらね!!私の考えすぎだったよ!!
私「あ、そうなんだ」
まったく私の脳みそは!!そういうことしか考えてないの!?ていうか鳩が交尾していたかどうかもわからないじゃん。ただ遊んでいただけとか服従行動かもしれないじゃん。まったくもう私の脳みそはしょうがないな!!
D「どうかしたのかい?」
私「な、何でもないよ。今のは忘れてね」
私は慌てて首をふりました。自分の考えていた心配事があまりに下らなすぎて、Dに説明したくなかったのです。きっと仕事が忙しくて疲れていたから変なこと考えちゃったんだな。そうだよ、そうそう。
私「それより、今日はDのやりたいことをしようよ」
私がそう言うと、Dはかしげていた首をもどして、うなずきました。
D「僕のやりたいことだね」
こころなしか、Dの笑みが深くなった気がします。
D「何でもいいのかい?」
・・・何でも?
えっと・・・Dの良識を信じて、いいよって言ってあげるべきだよね。だってDがひどい要求をしてくるはずないもん。
・・・でも、Dはかなり人間離れした思考と感性を持ってるんだよね。だから、さすがに何でもは危険かな・・・
どうしよう。
私が迷って、答えるのを躊躇していると、Dが先に口を開きました。
D「じゃあ、触覚の訓練をするかい?」
あれ?いつもと同じだね。特にやりたいことも無かったのかな?それとも私が躊躇していたせいで我儘を言えなくなって、気を使わせちゃったのかなあ。
私「触覚の訓練でいいの?」
もっと休みの日しかできないようなことじゃなくていいのかな。私はそう思って尋ねましたが、Dはこくりとうなずきました。
やっぱり気を使わせちゃったかな。私が仕事で疲れていると思って、どこかに出かけたいとかそういう要求は遠慮してるのかもしれないなあ。
ここのところ数日間、私が朝早くから夜遅くまで仕事ばっかりしているせいで、Dには色々と気を使わせたり我慢させたりしちゃって・・・悪いなあ、ごめんねD。
私「触覚の訓練ならベッドでもできるから、もうしよっか」
仕事が忙しくて疲れていたので、おとといも昨日も触覚の訓練をしていなかったのです。Dからの提案ではじめた触覚の訓練は、眠る前に行う短時間の訓練ですが、それでもDは毎日とても楽しみにしているのです。
それなのに、私が仕事で忙しかったために2日間もできませんでした。だから、今日は沢山させてあげなくちゃね。
D「こんな時間から、していいのかい?」
私「いいよ。2日間も断ってごめんね。今日はDの気のすむまで沢山訓練しよう」
私はベッドに横になったまま、左腕のパジャマの袖をめくりながら言いました。
D「気のすむまで、沢山・・・」
Dが呟いたので、私はちょっと言い過ぎたかなと思いました。今のうちに訂正しとこうかな。
D「そうかい。嬉しいよ」
Dはいつも通りの口調でそう言って、触覚の訓練をするときにDが座っているいつもの場所に座りました。
・・・まあ、気のすむまで沢山って言っても、大変になったらストップかければいいよね。Dは私の嫌がることはしないって言ってたもん。
ベッドの上に置かれた私の手に、手を繋ぐようにして自分の手を重ねたDは、もう片方の手の指で、私の腕の内側をそっと触りはじめました。優しく触れられる肌の感触と、握られている手に感じる温かい温度は、2日ぶりなので少し懐かしい感触です。
私「ふふ、くすぐったいよ」
D「触覚の感度は落ちてないようだね」
Dは私の腕の内側をくすぐりながら言いました。
でも、感度が落ちてないってなぜ断言できるんだろ。そういえば前に、私が寝不足で体調不良になったせいで触覚の感度が落ちたときも、私が言う前にDは気がついていたような気がする・・・(詳細は過去記事「天秤」参照)
私「ねえ、どうして感度が落ちてないってわかるの?」
Dは口元の笑みを濃くして、私の腕に口づけを落としました。2日ぶりです。どきっと心臓が音を立てました。
D「僕は、さゆの触覚を読むことができるからね」
え?
私「どういうこと?」
D「こうして君に触れている間だけ、読もうと思えば、君の感じている触覚を読むことができるのさ」
え・・・
D「こうすると」
Dは、もう一度私の腕に唇で触れてきました。さっきの優しいキスと違って、今度はずいぶん思わせぶりなやり方です。甘く噛んだ後、生温かく柔らかい舌がゆっくりと舐めていく感触に、背筋がぞくぞくしました。こんなの、まるで、前、戯・・・
D「指で触るよりも、さゆはずっと気持ち良く感じているよ。あとは」
私「やめて!!」
私が慌てて制止の声を上げると、Dは口元に笑みを浮かべたまま不思議そうに首をかしげました。
そうだったんだ・・・Dは、私の触覚が読めるんだ!!だから今まであんなに気持ち良い触り方ばっかりできたんだ!!でもそれって、それって今までDに触られて感じていた気持ち良さとかも全部Dに伝わってたってことだよね?なにそれ!!恥ずかしい!!デリカシー無い!!そんなの勝手に読まないでよ!!
D「僕が触覚の訓練を誘導している理由もそれだよ。僕から触れば、さゆの感じやすい触り方を選んで触ることができるから、訓練が効率的なのさ」
頭の中が色々な感情でぐるぐるしている私に向かって、Dはいつも通りの口調で淡々と説明しました。
D「さゆの言う『タルパ』の能力、つまり脳内会話やダイブや離脱やヒーリングというものを僕は知らないから、そのせいでさゆに不便な思いをさせて申し訳無く思っているよ。なにしろ、僕の能力は殆どが戦闘能力で構成されているからね」
Dは、横に置いてある大鎌をちらりと見てから、私に視線をもどして嬉しそうな笑みを見せました。
D「でも、唯一この能力だけは、さゆを喜ばせることができる能力だよ。本来の使い方とは違うから最初は思いつかなかったけど、もっと早く気付くべきだったね」
私は自分の腕を引いて、Dの手の中から逃げ出しました。
D「どうしたんだい?」
私「・・・・・・」
D「さゆ、腕をお出し」
私「なんでそういう・・・触覚なんて読まないでよ。恥ずかしいでしょ・・・」
D「触覚を読めば、君の望む触り方や場所がわかるからね。君のために必要なことだよ」
私「・・・・・・」
D「さゆ、僕達は『付き合っている』関係だね。それなら、こんなことは普通だよ。さあ、触らせておくれ」
私「普通って、Dの普通はそうかもしれないけど、人間は違うの。人間は普通、付き合っているときにそんなことしないんだよ。元彼も、」
そこまで言ってから、私は口をつぐみました。元彼の話は、今Dの前で言ってはいけないことです。デリカシーが無いのは私のほうです。
D「さゆが痛がっているのに気付きもしないで、自分の快楽を追うことだけに夢中だった彼が、何だい?」
私「え!?彼のことを悪く言わないでね!!」
私はびっくりして、ベッドの上に起き上がりました。疲れた体が筋肉痛の悲鳴をあげました。
D「まあ、無理もないよ。人間同士の行為は痛みや苦しさも伴うし、常に気持ち良いわけではないからね。御多分に洩れず彼も同じで、さゆの記憶に付随した過去の触覚を読んでみたけど、全然気持ち良くなかったようだね」
私「そんなことないよ!!精神的には満たされてたもん!!」
Dはくすくす笑ってから、いつもの笑みを浮かべました。私のほうはずっと興奮しているのに、Dは全くいつも通りに平然としているのです。
D「落ち着くんだよ、さゆ。ほら、腕をお出し」
私「やだよ!!」
D「おとなしくしておいで」
Dがベッドの上に乗りあげてきたので、私はあとずさって距離を取りました。Dの体を押しのけようと動かした私の手は、Dの体を透けて空を切りました。普段は触覚もあるし私の体とぶつかったときにも透けずにぶつかるのですが、Dが意図したときにはこうやって透けるのです。Dが笑みを濃くして、口を開けて私に口づけてきました。
私「う、わ・・・」
人間のような触感と温度なのに、明らかに人間とは違う、ぞくぞくする快感を伴います。Dが私の口の中に入れていた舌を出して、首筋を吸ったり舐めたりしてくるのと同時に、あのやたら気持ち良い感覚がどっと押し寄せてきました。(詳細は過去記事「ダイブ・離脱ができない」参照)脳が誤作動を起こしたかのような、自分で制御できないような快感です。やっぱりこれはDが強制的に送り込んでいる感覚なのか、それとも自分の脳が引き起こしているバグなのか。バグだとしたら、これはまずい状態なんじゃ・・・
D「良い反応だね。毎日触り続けた甲斐があったよ。この調子で、もっと訓練しようね」
ぐったりベッドに倒れ込んだ私の上にかがみこんで、Dが耳元で甘くささやきます。
D「ね、言っただろう?さゆには『好き』が必要なのさ。人間である以上、食欲や睡眠欲と同じように発散することが必要なんだよ。それは、僕がしてあげるよ」
発散?違うよ。むしろDに触覚の訓練をされるようになってから、そういうモヤモヤした気持ちが急に増えた気がする。そうだよ、最初はDにこんな感情とか感覚とか全然何も感じて無かったのに、触覚の訓練を始めたあたりから・・・
D「君に必要なのは僕だよ。他の何者でもないよ」
私「・・・それ以上、彼との思い出を汚さないでね・・・大切な思い出なんだから・・・」
私は、まだ余韻の残っている気持ち良さと連日の疲れでふらふらになりながら、一生懸命に言いました。
D「まあ、いいさ。初めは戸惑うかもしれないけど、大丈夫だよ。慣れればやみつきになるくらい、これが好きになるよ。僕のこともね」
Dは勘違いしてるよ。私がDを好きなのは、そういう理由じゃないのに。
特別
さきおとといの話です。過去記事「ごめんね」と同じ日の出来事で、その続きです。
D「それで、どうして僕を避けていたんだい。説明しておくれ」
私「それがね・・・」
ここまできたら、もうちゃんと話すべきだよね。恥ずかしいとか言ってる場合じゃないよ。話さなかったらDが悩んだりするかもしれないもん。悩んだDが、私を理解するために、人間の精神を身につけようとして何か無茶をしたら困るもんね。これ以上Dに心労をかけたくないよ。
よし、話そう。そうと決まったら、恋愛感情という感情すら持っていなさそうなDにもわかるように、ハッキリと説明しなくちゃね。
私は咳払いを一つして、覚悟を決めました。
私「・・・正直に全部話すね。えーと・・・私はDのことが好きになっちゃったんだ。Dに恋愛感情を持ってしまったの。でも、Dは恋愛感情がわからないでしょ?それで私は、恋愛感情を持っていないDを、私の恋愛感情に付き合わせるのが嫌だったんだよ。Dは私のことを大切にしてくれるから、私がDのことを好きだと言ったら、Dは自分の意志とは関係無く、私に対して恋人みたいなことをしてくれるでしょ?でも、それは本物の恋愛じゃなくて恋愛ごっこだと思うんだ。私の恋愛にDを付き合わせているっていう恋愛ごっこね。それは、私としては悲しいっていうか。だから私は、Dからそういう恋人みたいな触り方をされたくなくなって、触られないように拒否してしまったわけなの」
ちょっと長かったな・・・ちょっとどころじゃないな、だいぶ長いな。一度にこんなに沢山説明しちゃって、D、理解できたかな。
私は不安になりましたが、Dは納得したようにうなずきました。
D「わかったよ。さゆは僕が好きなんだね。それは良かったよ。僕もさゆが好きだからね」
私「ちょ、ちょっと待って、私の言う「好き」っていうのはね、人間の恋愛感情っていう意味の「好き」なんだ。Dは、人間の恋愛感情がわからないでしょ?だってDは・・・せ、生殖行為とかそういうの関係無い生き物だから、恋愛も関係無いんだもんね。だから、私とDの「好き」は同じ意味の「好き」じゃないのよ。両想いじゃないの」
Dは口元に笑みを浮かべたまま、首をかしげました。
D「さゆの「好き」と全く同じ「好き」ではなくても、僕もさゆのことが好きだよ。それでは駄目かい?」
私「駄目じゃない!!全然駄目じゃないよ!!」
D「じゃあ、僕達は両想いだね」
私「いや、それは違うんだけど・・・」
D「でも、人間の「好き」と全く同じではなくても、僕にもちゃんと「好き」はあるよ。生殖のためではないけれど、人間に負けないくらい強い「好き」だよ。人間と違って損得勘定で「好き」をやめないし、一度「好き」を感じたら、もう永遠に無くなったり変わったりしない特別な「好き」だよ」
Dは平然と言葉を続けました。全くいつも通りの雰囲気、いつも通りの口調です。
D「それに、僕の「好き」には人間の「好き」と同じようなところもあるんだよ。さゆの姿を見ていたかったり、声を聴きたかったり、触りたかったりするのさ。我慢できないほど強い気持ちなんだよ。ほら、人間の「好き」と同じだね」
Dは、そっと両手で私の頬を包みました。Dの右手から手放されたにも関わらず、不思議な大鎌は倒れませんでした。Dが私に顔を寄せて、目の前で微笑みました。
D「さゆは僕が好きなんだよね?」
甘い声でDがささやきます。私はうなずきました。
D「じゃあ、何も困ることは無いよ。さゆは安心して僕のことを好きでいればいいんだよ。僕も勿論さゆのことが好きだからね」
私「でも・・・私、やっぱり」
Dは私の耳に唇が触れるほど近づいて、甘ったるい声でささやきました。
D「・・・人間の男は自分のためにさゆを裏切るよ?大切なのは心だと言っておきながら、本当に欲しいのはさゆの心ではなく体なのさ。だからさゆの体が病気になった途端に、さゆのことを重荷だと言って捨てたんだね。さゆは彼が病気になろうと無一文になろうと絶対に捨てずに助けるつもりだったのにね」
くすくすっと笑う息が耳をくすぐり、ぞわっと鳥肌が立ちました。
私「に、人間の男の人を全部まとめて悪く言わないでね!!人間だって色々なんだから、性別なんかで人間をまとめて語れるわけないよ!!それに彼だって悪い人だったわけじゃないもん!!良いところも沢山あったよ!!」
Dと距離を取りながら、私は必死で言いました。色々な気持ちで頬が熱くなるのを感じました。Dは平然とした表情を全く変えず、口元にいつもの笑みを浮かべたまま、私をなだめるように鷹揚にうなずきました。
D「そうだね、彼を悪く言うつもりは無いよ。人間には人間の肉体があるからね。彼が人間の男として体の要求に従って君を犠牲にしたのも、生きて子孫を残すという本能を持つ人間としては当然のことだね。むしろ生物としては優秀な男なんじゃないかい?」
なぜか私は少し胸が痛みました。本当のことを言われただけなのに。
うつむく私の視界に、Dがこちらに歩いてくるのが見えました。
D「でもそんな事情、彼とは体のつくりも精神のつくりも違う僕には理解できないけどね。なにしろ、僕は人間じゃないからね」
私との距離を完全につめたDが、もう一度両手で私の頬を包みました。
D「ねえ・・・さゆ。今の君に必要なのは、人間の男ではなくて僕だよ」
耳に息をかけるように、わざとらしく甘ったるい声でささやく唇と舌が、私の耳を甘く噛んで濡れた音を立てました。左手を私の頬に当てたまま、右手は頬から下へゆっくりと下がり、まだハッキリと出来上がっていない私の触感が、Dの手の感触を、頬から首・・・肩・・・脇腹・・・と順番に伝えてきました。ゾクゾク鳥肌が立ちました。
D「さゆには「好き」が必要なんだよ。僕にしなよ。人間にはできない方法で君を満足させてあげる」
思わずぎゅっと目をつぶると、頬にふわっとした感触を残してDが少し離れたのを感じました。おそるおそる目を開けると、さっきより一歩後ろに下がったところでDがいつも通りの笑みを浮かべていました。
D「ね。とりあえず僕と付き合ってみたらどうだい。人間だって付き合ったり別れたりするだろう?僕と付き合ってみて、やっぱり僕じゃ嫌だと思ったらやめればいいんだよ」
にこにこ笑顔を口元にたたえてDが言いました。私が返事を躊躇していると、Dは首をかしげて口を開きました。
D「さゆは、僕の「好き」を疑っているのかい?人間じゃない僕からの「好き」なんか信じられないかい?」
しょんぼりした口調だったので、私は慌てて否定しました。
私「そんなことないよ!!信じるよ!!」
Dは、にーっと口元に笑みを浮かべました。
D「じゃあ、僕とさゆは両想いで、恋愛関係だね」
ね?さゆ。と尋ねられて、私はついにうなずきました。
D「良かった。嬉しいよ」
色々な感情でいっぱいいっぱいの私でしたが、Dは平然と言葉を続けました。
D「キスをしてもいいかい?」
私「え!?」
一瞬驚きましたが、すぐにいつもの儀式(?)を思い出した私は右手を差し出しました。私の右手に口づけをするのはDのお気に入りの儀式(?)で、何かある度にしているので、もう慣れっこなのです。
Dは私の右手を自分の右手で受けて、身をかがめてそっと口づけを落としました。
D「これも好きだけどね。今は、さゆの唇にさせておくれ」
身を起こしたDがそう言ったので、今度こそ私は驚きました。
私「さ、触るのは、どこでも同じだって言ってなかった?」
私のどこにどう触ろうとDは同じだって、昨日もさっきも言ってたよね?
D「たしかに僕は、さゆのどこにどう触っても関係無く強い快感を得られるけど、さゆはそうじゃないからね。さゆの体には特別な場所があって、そこは特別に許可された者しか触ることが許されないんだろう?それを許されることが僕にとって重要なことで、この上無く嬉しいことなのさ」
Dは人差し指で、私の唇をふわっと触りました。
D「ここは、さゆにとって特別な者しか唇で触ることを許されない、特別な場所だね。だから、ここにしたいのさ。さゆの特別を僕におくれ」
Dは嬉しそうに言いました。
私(もう甘えちゃおうかな・・・Dが嫌じゃないなら、このことは全部Dに任せて・・・恋愛ごっこだのなんだの自分で言ったくせに、本当に私はずるいな。でも、死ぬまでの短い間、Dと幸せな甘い夢を見られたら、それで幸せじゃんか・・・)
最初にDに望んでいたことは、手術のときや最後のときに傍にいて手を握っていてもらう、それだけの要求だったのに。それが今では、随分色々なことを要求してしまって、当初の目的とは全然違う方向に進んでしまってる。
まるで、物語の舞台装置が勝手に進行していくみたい。だからこそ私は、Dに対する最初の私的解釈や立ち位置を忘れないように、最後まで気を付けないといけないんだろうな。それは私にとっても、現実世界の周囲の人々にとっても、Dにとっても重要なことだろうから。だって私は、私のことも、現実世界の周囲の人々のことも、Dのことも大切で、全部を失いたくない欲張りなんだから。
D「それで、どうして僕を避けていたんだい。説明しておくれ」
私「それがね・・・」
ここまできたら、もうちゃんと話すべきだよね。恥ずかしいとか言ってる場合じゃないよ。話さなかったらDが悩んだりするかもしれないもん。悩んだDが、私を理解するために、人間の精神を身につけようとして何か無茶をしたら困るもんね。これ以上Dに心労をかけたくないよ。
よし、話そう。そうと決まったら、恋愛感情という感情すら持っていなさそうなDにもわかるように、ハッキリと説明しなくちゃね。
私は咳払いを一つして、覚悟を決めました。
私「・・・正直に全部話すね。えーと・・・私はDのことが好きになっちゃったんだ。Dに恋愛感情を持ってしまったの。でも、Dは恋愛感情がわからないでしょ?それで私は、恋愛感情を持っていないDを、私の恋愛感情に付き合わせるのが嫌だったんだよ。Dは私のことを大切にしてくれるから、私がDのことを好きだと言ったら、Dは自分の意志とは関係無く、私に対して恋人みたいなことをしてくれるでしょ?でも、それは本物の恋愛じゃなくて恋愛ごっこだと思うんだ。私の恋愛にDを付き合わせているっていう恋愛ごっこね。それは、私としては悲しいっていうか。だから私は、Dからそういう恋人みたいな触り方をされたくなくなって、触られないように拒否してしまったわけなの」
ちょっと長かったな・・・ちょっとどころじゃないな、だいぶ長いな。一度にこんなに沢山説明しちゃって、D、理解できたかな。
私は不安になりましたが、Dは納得したようにうなずきました。
D「わかったよ。さゆは僕が好きなんだね。それは良かったよ。僕もさゆが好きだからね」
私「ちょ、ちょっと待って、私の言う「好き」っていうのはね、人間の恋愛感情っていう意味の「好き」なんだ。Dは、人間の恋愛感情がわからないでしょ?だってDは・・・せ、生殖行為とかそういうの関係無い生き物だから、恋愛も関係無いんだもんね。だから、私とDの「好き」は同じ意味の「好き」じゃないのよ。両想いじゃないの」
Dは口元に笑みを浮かべたまま、首をかしげました。
D「さゆの「好き」と全く同じ「好き」ではなくても、僕もさゆのことが好きだよ。それでは駄目かい?」
私「駄目じゃない!!全然駄目じゃないよ!!」
D「じゃあ、僕達は両想いだね」
私「いや、それは違うんだけど・・・」
D「でも、人間の「好き」と全く同じではなくても、僕にもちゃんと「好き」はあるよ。生殖のためではないけれど、人間に負けないくらい強い「好き」だよ。人間と違って損得勘定で「好き」をやめないし、一度「好き」を感じたら、もう永遠に無くなったり変わったりしない特別な「好き」だよ」
Dは平然と言葉を続けました。全くいつも通りの雰囲気、いつも通りの口調です。
D「それに、僕の「好き」には人間の「好き」と同じようなところもあるんだよ。さゆの姿を見ていたかったり、声を聴きたかったり、触りたかったりするのさ。我慢できないほど強い気持ちなんだよ。ほら、人間の「好き」と同じだね」
Dは、そっと両手で私の頬を包みました。Dの右手から手放されたにも関わらず、不思議な大鎌は倒れませんでした。Dが私に顔を寄せて、目の前で微笑みました。
D「さゆは僕が好きなんだよね?」
甘い声でDがささやきます。私はうなずきました。
D「じゃあ、何も困ることは無いよ。さゆは安心して僕のことを好きでいればいいんだよ。僕も勿論さゆのことが好きだからね」
私「でも・・・私、やっぱり」
Dは私の耳に唇が触れるほど近づいて、甘ったるい声でささやきました。
D「・・・人間の男は自分のためにさゆを裏切るよ?大切なのは心だと言っておきながら、本当に欲しいのはさゆの心ではなく体なのさ。だからさゆの体が病気になった途端に、さゆのことを重荷だと言って捨てたんだね。さゆは彼が病気になろうと無一文になろうと絶対に捨てずに助けるつもりだったのにね」
くすくすっと笑う息が耳をくすぐり、ぞわっと鳥肌が立ちました。
私「に、人間の男の人を全部まとめて悪く言わないでね!!人間だって色々なんだから、性別なんかで人間をまとめて語れるわけないよ!!それに彼だって悪い人だったわけじゃないもん!!良いところも沢山あったよ!!」
Dと距離を取りながら、私は必死で言いました。色々な気持ちで頬が熱くなるのを感じました。Dは平然とした表情を全く変えず、口元にいつもの笑みを浮かべたまま、私をなだめるように鷹揚にうなずきました。
D「そうだね、彼を悪く言うつもりは無いよ。人間には人間の肉体があるからね。彼が人間の男として体の要求に従って君を犠牲にしたのも、生きて子孫を残すという本能を持つ人間としては当然のことだね。むしろ生物としては優秀な男なんじゃないかい?」
なぜか私は少し胸が痛みました。本当のことを言われただけなのに。
うつむく私の視界に、Dがこちらに歩いてくるのが見えました。
D「でもそんな事情、彼とは体のつくりも精神のつくりも違う僕には理解できないけどね。なにしろ、僕は人間じゃないからね」
私との距離を完全につめたDが、もう一度両手で私の頬を包みました。
D「ねえ・・・さゆ。今の君に必要なのは、人間の男ではなくて僕だよ」
耳に息をかけるように、わざとらしく甘ったるい声でささやく唇と舌が、私の耳を甘く噛んで濡れた音を立てました。左手を私の頬に当てたまま、右手は頬から下へゆっくりと下がり、まだハッキリと出来上がっていない私の触感が、Dの手の感触を、頬から首・・・肩・・・脇腹・・・と順番に伝えてきました。ゾクゾク鳥肌が立ちました。
D「さゆには「好き」が必要なんだよ。僕にしなよ。人間にはできない方法で君を満足させてあげる」
思わずぎゅっと目をつぶると、頬にふわっとした感触を残してDが少し離れたのを感じました。おそるおそる目を開けると、さっきより一歩後ろに下がったところでDがいつも通りの笑みを浮かべていました。
D「ね。とりあえず僕と付き合ってみたらどうだい。人間だって付き合ったり別れたりするだろう?僕と付き合ってみて、やっぱり僕じゃ嫌だと思ったらやめればいいんだよ」
にこにこ笑顔を口元にたたえてDが言いました。私が返事を躊躇していると、Dは首をかしげて口を開きました。
D「さゆは、僕の「好き」を疑っているのかい?人間じゃない僕からの「好き」なんか信じられないかい?」
しょんぼりした口調だったので、私は慌てて否定しました。
私「そんなことないよ!!信じるよ!!」
Dは、にーっと口元に笑みを浮かべました。
D「じゃあ、僕とさゆは両想いで、恋愛関係だね」
ね?さゆ。と尋ねられて、私はついにうなずきました。
D「良かった。嬉しいよ」
色々な感情でいっぱいいっぱいの私でしたが、Dは平然と言葉を続けました。
D「キスをしてもいいかい?」
私「え!?」
一瞬驚きましたが、すぐにいつもの儀式(?)を思い出した私は右手を差し出しました。私の右手に口づけをするのはDのお気に入りの儀式(?)で、何かある度にしているので、もう慣れっこなのです。
Dは私の右手を自分の右手で受けて、身をかがめてそっと口づけを落としました。
D「これも好きだけどね。今は、さゆの唇にさせておくれ」
身を起こしたDがそう言ったので、今度こそ私は驚きました。
私「さ、触るのは、どこでも同じだって言ってなかった?」
私のどこにどう触ろうとDは同じだって、昨日もさっきも言ってたよね?
D「たしかに僕は、さゆのどこにどう触っても関係無く強い快感を得られるけど、さゆはそうじゃないからね。さゆの体には特別な場所があって、そこは特別に許可された者しか触ることが許されないんだろう?それを許されることが僕にとって重要なことで、この上無く嬉しいことなのさ」
Dは人差し指で、私の唇をふわっと触りました。
D「ここは、さゆにとって特別な者しか唇で触ることを許されない、特別な場所だね。だから、ここにしたいのさ。さゆの特別を僕におくれ」
Dは嬉しそうに言いました。
私(もう甘えちゃおうかな・・・Dが嫌じゃないなら、このことは全部Dに任せて・・・恋愛ごっこだのなんだの自分で言ったくせに、本当に私はずるいな。でも、死ぬまでの短い間、Dと幸せな甘い夢を見られたら、それで幸せじゃんか・・・)
最初にDに望んでいたことは、手術のときや最後のときに傍にいて手を握っていてもらう、それだけの要求だったのに。それが今では、随分色々なことを要求してしまって、当初の目的とは全然違う方向に進んでしまってる。
まるで、物語の舞台装置が勝手に進行していくみたい。だからこそ私は、Dに対する最初の私的解釈や立ち位置を忘れないように、最後まで気を付けないといけないんだろうな。それは私にとっても、現実世界の周囲の人々にとっても、Dにとっても重要なことだろうから。だって私は、私のことも、現実世界の周囲の人々のことも、Dのことも大切で、全部を失いたくない欲張りなんだから。
ごめんね
一昨日の話です。「五感」と「勘違い」の次の日のことです。
とても早く仕事を上がれたので、お夕飯の材料を買って家に帰り、タルパブログめぐりをしたり、下ごしらえからきちんと自炊したり、普段は読まないような本を読んだりしました。
D「ねえ、さゆ。僕と遊ばないかい」
その間ずっとDが構ってほしそうに話しかけてきたのですが、前日に私がとんでもない勘違いをしてしまったせいで(詳細は過去記事「勘違い」参照)、私はDと二人きりで向き合うのが気恥ずかしく、Dから話しかけられる度に適当な返事でごまかしていました。
私「え!? あ、ああ、これが終わったらね」
私は微妙に目をそらしつつ、微妙な返事をしました。Dは首をかしげて私の顔をじっと見ました。
今そんなに見つめないでほしいな・・・恥ずかしいよ・・・
D「触感の訓練をするかい?」
私「ええ!?それはちょっと!!いや・・・ゴメン・・・」
私(今、触感のトレーニングなんかされたら恥ずかしくて死んじゃう。昨日の今日という短時間で、どうやってこの気恥ずかしさを消したらいいんだろう・・・これが人間相手だったら、忙しいからとか言って少し距離と時間をおいて自分の気持ちを落ち着けられるのに、Dは常に一緒だからなあ・・・自分の恥ずかしさを処理する時間が無いよ~・・・)
私「私、今ちょっと忙しいっていうか・・・この本を読みたいし、あの、色々やりたいことがあるからさ、Dは私に構わずゆっくりしてなよ」
D「本当かい? それにしては本を読み進むのが遅いし、集中できずに落ち着かない様子に見えるよ。さゆ、嘘はいけないよ」
私(す、鋭いな。よく見てるんだなあ。いや私がわかりやす過ぎるのかな)
D「本当は忙しくないし、やりたいことがあるわけでもないんだろう?だったら、僕と遊べばいいんだよ」
Dはいつものように、そっと私の頬に手を当てました。指が思わせぶりに頬を撫でたあと、人差し指がゆっくりと唇をなぞりました。
私「っ、じゃあ、ちょっとお話でもしようか」
私は、顔をそむけてDの指から逃げました。とっても恥ずかしかったのです。
D「・・・・・・」
私「えっと、じゃあ・・・次の休日の予定でも立てようか」
D「いいね。さゆは何をしたいんだい?」
私「う~ん、友達へのクリスマスプレゼントでも探しに行こうかな。そろそろ探しはじめないとまずいよね。あとは、部屋に飾るお花を買いにいって、あ、そうだ、コンディショナーが無くなりそうだから買いにいかなきゃ。そうそう、ドラッグストアに行くなら、ついでにバスマジッ○リンも買っておかないとね」
私は本をベッド脇のサイドテーブルに置いて、ベッドに腰掛けました。片足は床につけたまま、もう片方の足を体育座りのようにベッドの上に乗せて、体に引き寄せました。お行儀が悪いと言われても、なんだか落ち着く体勢なのです。
私「Dは何がしたい?」
D「そうだね・・・」
Dはベッドの横の床の上に、私に向かい合うように座りました。
D「僕はさゆと二人きりの時間がほしいね」
床の上から私を見上げて、Dが言いました。
D「もっとさゆと話したり、触ったり、匂いをかいだり、舐めたりしたいよ。一日中ずっとね」
また!!そういうことを言う!!
・・・違う違う、昨日の件で勘違いだってわかったじゃん。冷静に考えよう。Dの言っていることを要約すると「会話及び聴覚の訓練・触感の訓練・嗅覚の訓練・味覚の訓練を行いたい。長時間」という意味に違いない。要するに五感の訓練をする時間を長めに設けてほしいということだよね。
それにしても、Dは私が喜ぶと思ってこういう思わせぶりな話し方をしているんだよね。直してあげないとなあ。あ~あ、かわいそうなことしちゃったな・・・
私「わかった。五感の訓練もしよう。時間が沢山あるからね」
D「今は? 今も時間が沢山あるよ」
Dは床に座ったまま、床に足をおろしているほうの私のひざに、そっと口づけました。
私「わっ」
ちょっと!!ひざとか微妙な位置に何してるの!!ただでさえ昨日Dと色々あって複雑な気分なのに!!人がこんなに恥ずかしさとか色々な気持ちでいっぱいいっぱいのときに何してくれちゃってんの!!
私(い、いけない・・・!!)
・・・落ち着こう、冷静になろう・・・Dを人間だと思うから意識しちゃうんだよ。
Dは人間じゃないし、Dにそういうつもりは全く無いんだから、こういうことされる度に全部意識してたら大変だよ。
これはペットの動物が主人にじゃれついているのと同じ。そう思えばいいんだ。
そうだよ、そう思えば平気なはずだよ。自分に暗示をかけるんだ。Dは人間じゃない・・・Dはペット・・・
D「さゆ、気持ち良い?」
私の足に口づけを何度も落としながら、Dが尋ねてきました。
私(無反応!!無反応でいこう!!Dは今までの私の反応を見て、ただ純粋に私が喜ぶことだと思ってこういうことをしているんだからさ!!ああ、最初にこういうことがあったときに私が喜んじゃったのが悪かったんだよね・・・それでDは、私にこういうことをすると喜ぶと思っちゃったんだ・・・ごめんねD・・・かわいそうなことしちゃって・・・)
D「さゆ」
私(私のせいでDがこんな風になっちゃって・・・)
D「さゆ?」
私(怒ったらかわいそうだし、無反応でいればDもやめるよね)
D「・・・・・・」
私「っ、D!!」
Dが身を乗り出して、私の内腿に口づけたので、私は思わず叫んでしまいました。
D「なんだい?」
Dは口元に笑みを浮かべたまま、首をかしげました。少し嬉しそうです。
私「そういう触り方、もうやめてね」
私は優しく言いました。だってDに怒ったらかわいそうだし。私のせいでDはこういうことしてるんだもん。
Dは首をかしげたまま、口元の笑みを濃くしました。
そして、再び私の内腿に口づけをしようと身をかがめました。
私「駄目!!とにかくやめてね。もう私、こういうことしても喜ばないから!!」
私は慌てて自分の足を完全にベッドの上に上げ、後ずさりました。どういうわけかDはベッドの上には上がらないのです。(詳細は過去記事「添い寝」参照)
D「・・・・・・」
Dが私のほうに手をのばして、ベッドの上の私の足に触れました。
私「やだってば!!」
私はベッドの一番後ろまで後ずさり、壁に背中を付けました。
D「さゆ・・・」
Dは手を下ろして、少しうつむきました。
D「僕は、何かさゆに嫌われるようなことをしてしまったかい?」
私「え? あ、ゴメン!!そうじゃないよ」
D「昨日から様子がおかしいよ。何があったんだい?説明しておくれ」
これ、肝心なところを説明するのはまずいよね。説明したらDは純粋な親切心で私にそういうことをするんだろうからさ。それはDがかわいそうっていうか、私もかわいそうっていうか・・・D本人はそんなこと思わないんだろうけど。だから、もう私にこういうことをしないでねって、ただそれを言うだけで納得してくれないかなあ。
私「こういうのは、もうされたくないっていうか・・・普通に触る分には良いんだけど、こういう触り方はもうやめてくれないかな」
Dは少し黙って、再び私に手をのばそうとしました。
私「や、やだってば!!Dに触られたくないの!!」
Dは、はっと息をのんで、私の顔をみつめました。
D「・・・僕は君の知識や記憶を共有することはできても、その記憶に付随した君の感情や、君の頭の中で考えられている感情や意志や言葉を読み取ることができないのさ。だから今、君がどうして僕を拒絶するのかわからない・・・僕が何故、君の不興を買ってしまったのかということも・・・」
Dはうつむいて、溜息をつきました。
D「僕が、君の感情や思考を読み取ることができたなら、君にそんな顔をさせなかっただろうのにね。君の思考を読み取って、君の望むことをしてあげられただろうに」
Dは、他のタルパさん達と違って脳内会話ができないことを気にしてるのかな・・・
ていうか私なにやってんの!!Dにこんなこと言わせちゃってさ!!
私「D、ゴメン、本当に私ってば何やってんだろ・・・違う違う、Dは全然悪くないよ!!そうじゃなくて、私が勝手に一人で混乱してただけでね!!勝手に突っ走って・・・話せば長くなるんだけど、昨日ね・・・あの・・・」
D「さゆが僕に謝る必要なんて無いんだよ。これは全て、僕の力不足によるものさ」
Dは、私を安心させるように口元に微笑みを作りました。
D「でも、君と関わっていく中で、僕の中に人間に近い感情や思考回路が育っているのさ。まだ不完全だけど、いずれ上手に使いこなせるようになれば、人間のように君の気持ちを汲み取って行動することができるようになるはずだよ。だから待っていておくれ。なるべく急ぐからね」
私「D・・・」
Dは自分の胸に手を当てました。
D「この、人間の精神というものはコントロールが難しいね。感情は勝手に動き出すし、その勝手な感情を理性で抑えようとすると、さらに新たな感情が生まれて理性を妨害しようとするのさ。さゆはいつもこんな厄介なものを上手に操っているんだね。すごいことだよ」
ううん、私、全然上手に操れてないよ。そのせいでまたDに迷惑かけたし。
ああ~ホント何やってるんだろ・・・Dのことを考えて行動しているつもりで、逆にDに迷惑かけてるだけじゃん・・・
D「これを上手にコントロールすることは難しそうだね。とにかく感情が勝手に先走って、体や行動を操ろうとするからね。かといって無理やりに感情を抑えつければ、そのせいで苦痛を伴うからね」
ん・・・?ちょっと待って、それって大丈夫なの!?苦痛って・・・
人間じゃないDに、人間の精神って負担にならないのかな・・・
負担になるよね!!もともと持っていた精神+人間の精神ってことでしょ!?
私「ねえD、人間の精神なんて無理に身につけなくていいよ。Dはそのままでいいし、人間の精神を持つことがDの負担になったら心配だよ」
Dは口元に笑みを浮かべたまま、首をふりました。
D「僕はさゆを理解したいからね。人間の精神を手に入れたいのさ」
私「それは嬉しいけど、Dに負担がかかったら嫌だよ」
Dは、にこっと微笑みました。なんだか嬉しそうに見えます。
D「これは、僕がしたいことなんだ。僕のためでもあるんだよ」
こうして、私はまたDを困らせてしまったのです。ごめんねD・・・。
それにDの感情が人間らしくないのは、多分私のせいなんです。私がDを作るときに性格を後回しにしてしまったせいじゃないかと思うんです。性格は早い段階で作るべきだったのに、先に存在感とか視覚化が進んでしまったから、こういうことになってしまったんじゃないかなあ。
本当にごめんねD・・・。
とても早く仕事を上がれたので、お夕飯の材料を買って家に帰り、タルパブログめぐりをしたり、下ごしらえからきちんと自炊したり、普段は読まないような本を読んだりしました。
D「ねえ、さゆ。僕と遊ばないかい」
その間ずっとDが構ってほしそうに話しかけてきたのですが、前日に私がとんでもない勘違いをしてしまったせいで(詳細は過去記事「勘違い」参照)、私はDと二人きりで向き合うのが気恥ずかしく、Dから話しかけられる度に適当な返事でごまかしていました。
私「え!? あ、ああ、これが終わったらね」
私は微妙に目をそらしつつ、微妙な返事をしました。Dは首をかしげて私の顔をじっと見ました。
今そんなに見つめないでほしいな・・・恥ずかしいよ・・・
D「触感の訓練をするかい?」
私「ええ!?それはちょっと!!いや・・・ゴメン・・・」
私(今、触感のトレーニングなんかされたら恥ずかしくて死んじゃう。昨日の今日という短時間で、どうやってこの気恥ずかしさを消したらいいんだろう・・・これが人間相手だったら、忙しいからとか言って少し距離と時間をおいて自分の気持ちを落ち着けられるのに、Dは常に一緒だからなあ・・・自分の恥ずかしさを処理する時間が無いよ~・・・)
私「私、今ちょっと忙しいっていうか・・・この本を読みたいし、あの、色々やりたいことがあるからさ、Dは私に構わずゆっくりしてなよ」
D「本当かい? それにしては本を読み進むのが遅いし、集中できずに落ち着かない様子に見えるよ。さゆ、嘘はいけないよ」
私(す、鋭いな。よく見てるんだなあ。いや私がわかりやす過ぎるのかな)
D「本当は忙しくないし、やりたいことがあるわけでもないんだろう?だったら、僕と遊べばいいんだよ」
Dはいつものように、そっと私の頬に手を当てました。指が思わせぶりに頬を撫でたあと、人差し指がゆっくりと唇をなぞりました。
私「っ、じゃあ、ちょっとお話でもしようか」
私は、顔をそむけてDの指から逃げました。とっても恥ずかしかったのです。
D「・・・・・・」
私「えっと、じゃあ・・・次の休日の予定でも立てようか」
D「いいね。さゆは何をしたいんだい?」
私「う~ん、友達へのクリスマスプレゼントでも探しに行こうかな。そろそろ探しはじめないとまずいよね。あとは、部屋に飾るお花を買いにいって、あ、そうだ、コンディショナーが無くなりそうだから買いにいかなきゃ。そうそう、ドラッグストアに行くなら、ついでにバスマジッ○リンも買っておかないとね」
私は本をベッド脇のサイドテーブルに置いて、ベッドに腰掛けました。片足は床につけたまま、もう片方の足を体育座りのようにベッドの上に乗せて、体に引き寄せました。お行儀が悪いと言われても、なんだか落ち着く体勢なのです。
私「Dは何がしたい?」
D「そうだね・・・」
Dはベッドの横の床の上に、私に向かい合うように座りました。
D「僕はさゆと二人きりの時間がほしいね」
床の上から私を見上げて、Dが言いました。
D「もっとさゆと話したり、触ったり、匂いをかいだり、舐めたりしたいよ。一日中ずっとね」
また!!そういうことを言う!!
・・・違う違う、昨日の件で勘違いだってわかったじゃん。冷静に考えよう。Dの言っていることを要約すると「会話及び聴覚の訓練・触感の訓練・嗅覚の訓練・味覚の訓練を行いたい。長時間」という意味に違いない。要するに五感の訓練をする時間を長めに設けてほしいということだよね。
それにしても、Dは私が喜ぶと思ってこういう思わせぶりな話し方をしているんだよね。直してあげないとなあ。あ~あ、かわいそうなことしちゃったな・・・
私「わかった。五感の訓練もしよう。時間が沢山あるからね」
D「今は? 今も時間が沢山あるよ」
Dは床に座ったまま、床に足をおろしているほうの私のひざに、そっと口づけました。
私「わっ」
ちょっと!!ひざとか微妙な位置に何してるの!!ただでさえ昨日Dと色々あって複雑な気分なのに!!人がこんなに恥ずかしさとか色々な気持ちでいっぱいいっぱいのときに何してくれちゃってんの!!
私(い、いけない・・・!!)
・・・落ち着こう、冷静になろう・・・Dを人間だと思うから意識しちゃうんだよ。
Dは人間じゃないし、Dにそういうつもりは全く無いんだから、こういうことされる度に全部意識してたら大変だよ。
これはペットの動物が主人にじゃれついているのと同じ。そう思えばいいんだ。
そうだよ、そう思えば平気なはずだよ。自分に暗示をかけるんだ。Dは人間じゃない・・・Dはペット・・・
D「さゆ、気持ち良い?」
私の足に口づけを何度も落としながら、Dが尋ねてきました。
私(無反応!!無反応でいこう!!Dは今までの私の反応を見て、ただ純粋に私が喜ぶことだと思ってこういうことをしているんだからさ!!ああ、最初にこういうことがあったときに私が喜んじゃったのが悪かったんだよね・・・それでDは、私にこういうことをすると喜ぶと思っちゃったんだ・・・ごめんねD・・・かわいそうなことしちゃって・・・)
D「さゆ」
私(私のせいでDがこんな風になっちゃって・・・)
D「さゆ?」
私(怒ったらかわいそうだし、無反応でいればDもやめるよね)
D「・・・・・・」
私「っ、D!!」
Dが身を乗り出して、私の内腿に口づけたので、私は思わず叫んでしまいました。
D「なんだい?」
Dは口元に笑みを浮かべたまま、首をかしげました。少し嬉しそうです。
私「そういう触り方、もうやめてね」
私は優しく言いました。だってDに怒ったらかわいそうだし。私のせいでDはこういうことしてるんだもん。
Dは首をかしげたまま、口元の笑みを濃くしました。
そして、再び私の内腿に口づけをしようと身をかがめました。
私「駄目!!とにかくやめてね。もう私、こういうことしても喜ばないから!!」
私は慌てて自分の足を完全にベッドの上に上げ、後ずさりました。どういうわけかDはベッドの上には上がらないのです。(詳細は過去記事「添い寝」参照)
D「・・・・・・」
Dが私のほうに手をのばして、ベッドの上の私の足に触れました。
私「やだってば!!」
私はベッドの一番後ろまで後ずさり、壁に背中を付けました。
D「さゆ・・・」
Dは手を下ろして、少しうつむきました。
D「僕は、何かさゆに嫌われるようなことをしてしまったかい?」
私「え? あ、ゴメン!!そうじゃないよ」
D「昨日から様子がおかしいよ。何があったんだい?説明しておくれ」
これ、肝心なところを説明するのはまずいよね。説明したらDは純粋な親切心で私にそういうことをするんだろうからさ。それはDがかわいそうっていうか、私もかわいそうっていうか・・・D本人はそんなこと思わないんだろうけど。だから、もう私にこういうことをしないでねって、ただそれを言うだけで納得してくれないかなあ。
私「こういうのは、もうされたくないっていうか・・・普通に触る分には良いんだけど、こういう触り方はもうやめてくれないかな」
Dは少し黙って、再び私に手をのばそうとしました。
私「や、やだってば!!Dに触られたくないの!!」
Dは、はっと息をのんで、私の顔をみつめました。
D「・・・僕は君の知識や記憶を共有することはできても、その記憶に付随した君の感情や、君の頭の中で考えられている感情や意志や言葉を読み取ることができないのさ。だから今、君がどうして僕を拒絶するのかわからない・・・僕が何故、君の不興を買ってしまったのかということも・・・」
Dはうつむいて、溜息をつきました。
D「僕が、君の感情や思考を読み取ることができたなら、君にそんな顔をさせなかっただろうのにね。君の思考を読み取って、君の望むことをしてあげられただろうに」
Dは、他のタルパさん達と違って脳内会話ができないことを気にしてるのかな・・・
ていうか私なにやってんの!!Dにこんなこと言わせちゃってさ!!
私「D、ゴメン、本当に私ってば何やってんだろ・・・違う違う、Dは全然悪くないよ!!そうじゃなくて、私が勝手に一人で混乱してただけでね!!勝手に突っ走って・・・話せば長くなるんだけど、昨日ね・・・あの・・・」
D「さゆが僕に謝る必要なんて無いんだよ。これは全て、僕の力不足によるものさ」
Dは、私を安心させるように口元に微笑みを作りました。
D「でも、君と関わっていく中で、僕の中に人間に近い感情や思考回路が育っているのさ。まだ不完全だけど、いずれ上手に使いこなせるようになれば、人間のように君の気持ちを汲み取って行動することができるようになるはずだよ。だから待っていておくれ。なるべく急ぐからね」
私「D・・・」
Dは自分の胸に手を当てました。
D「この、人間の精神というものはコントロールが難しいね。感情は勝手に動き出すし、その勝手な感情を理性で抑えようとすると、さらに新たな感情が生まれて理性を妨害しようとするのさ。さゆはいつもこんな厄介なものを上手に操っているんだね。すごいことだよ」
ううん、私、全然上手に操れてないよ。そのせいでまたDに迷惑かけたし。
ああ~ホント何やってるんだろ・・・Dのことを考えて行動しているつもりで、逆にDに迷惑かけてるだけじゃん・・・
D「これを上手にコントロールすることは難しそうだね。とにかく感情が勝手に先走って、体や行動を操ろうとするからね。かといって無理やりに感情を抑えつければ、そのせいで苦痛を伴うからね」
ん・・・?ちょっと待って、それって大丈夫なの!?苦痛って・・・
人間じゃないDに、人間の精神って負担にならないのかな・・・
負担になるよね!!もともと持っていた精神+人間の精神ってことでしょ!?
私「ねえD、人間の精神なんて無理に身につけなくていいよ。Dはそのままでいいし、人間の精神を持つことがDの負担になったら心配だよ」
Dは口元に笑みを浮かべたまま、首をふりました。
D「僕はさゆを理解したいからね。人間の精神を手に入れたいのさ」
私「それは嬉しいけど、Dに負担がかかったら嫌だよ」
Dは、にこっと微笑みました。なんだか嬉しそうに見えます。
D「これは、僕がしたいことなんだ。僕のためでもあるんだよ」
こうして、私はまたDを困らせてしまったのです。ごめんねD・・・。
それにDの感情が人間らしくないのは、多分私のせいなんです。私がDを作るときに性格を後回しにしてしまったせいじゃないかと思うんです。性格は早い段階で作るべきだったのに、先に存在感とか視覚化が進んでしまったから、こういうことになってしまったんじゃないかなあ。
本当にごめんねD・・・。