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誤解

今日は休日です。いつもは休日となると朝早くから起き出したくなるのですが、今日はお昼頃にようやくベッドから起き上がりました。連日の仕事の忙しさで体が疲れていたので、目が覚めてからもベッドの中で横になっていたからです。
私はショートスリーパーなので睡眠時間は短くてすむのですが、脳の疲れは短時間でとれても、体の疲れも同じスピードで回復するわけではないのです。頭はスッキリ覚醒していても、体が重くてだるいときは起き上がるわけにいきません。こういうとき今までは体の疲れがとれるまでベッドの中で一人じっといなければならず、退屈で仕方なかったのですが、今はDがいるから大丈夫なのです。Dと話をしていれば退屈なんてしないからです。

そういうわけで、私はベッドに横になったまま、昨日から気になっていることをDに尋ねてみることにしました。

私「・・・あのね、昨日の朝、鳩が共食いしてるんじゃないかって、私が勘違いしたことがあったでしょ?」

D「覚えているよ」

Dは、いつもの笑みを口元に浮かべてうなずきました。

私「あのとき、Dは『さゆは鳩を心配していたから見ていたんだね』みたいなこと言ってたでしょ?それって、どういう意味で言ったの?」

Dは少し首をかしげましたが、すぐにいつもの口調で答えました。

D「普段は鳩がいても気にかけないさゆが、昨日に限ってじっと見ていたからだよ」

なんだ・・・良かった・・・
ほらね!!私の考えすぎだったよ!!

私「あ、そうなんだ」

まったく私の脳みそは!!そういうことしか考えてないの!?ていうか鳩が交尾していたかどうかもわからないじゃん。ただ遊んでいただけとか服従行動かもしれないじゃん。まったくもう私の脳みそはしょうがないな!!

D「どうかしたのかい?」

私「な、何でもないよ。今のは忘れてね」

私は慌てて首をふりました。自分の考えていた心配事があまりに下らなすぎて、Dに説明したくなかったのです。きっと仕事が忙しくて疲れていたから変なこと考えちゃったんだな。そうだよ、そうそう。

私「それより、今日はDのやりたいことをしようよ」

私がそう言うと、Dはかしげていた首をもどして、うなずきました。

D「僕のやりたいことだね」

こころなしか、Dの笑みが深くなった気がします。

D「何でもいいのかい?」

・・・何でも?

えっと・・・Dの良識を信じて、いいよって言ってあげるべきだよね。だってDがひどい要求をしてくるはずないもん。
・・・でも、Dはかなり人間離れした思考と感性を持ってるんだよね。だから、さすがに何でもは危険かな・・・

どうしよう。

私が迷って、答えるのを躊躇していると、Dが先に口を開きました。

D「じゃあ、触覚の訓練をするかい?」

あれ?いつもと同じだね。特にやりたいことも無かったのかな?それとも私が躊躇していたせいで我儘を言えなくなって、気を使わせちゃったのかなあ。

私「触覚の訓練でいいの?」

もっと休みの日しかできないようなことじゃなくていいのかな。私はそう思って尋ねましたが、Dはこくりとうなずきました。

やっぱり気を使わせちゃったかな。私が仕事で疲れていると思って、どこかに出かけたいとかそういう要求は遠慮してるのかもしれないなあ。
ここのところ数日間、私が朝早くから夜遅くまで仕事ばっかりしているせいで、Dには色々と気を使わせたり我慢させたりしちゃって・・・悪いなあ、ごめんねD。

私「触覚の訓練ならベッドでもできるから、もうしよっか」

仕事が忙しくて疲れていたので、おとといも昨日も触覚の訓練をしていなかったのです。Dからの提案ではじめた触覚の訓練は、眠る前に行う短時間の訓練ですが、それでもDは毎日とても楽しみにしているのです。
それなのに、私が仕事で忙しかったために2日間もできませんでした。だから、今日は沢山させてあげなくちゃね。

D「こんな時間から、していいのかい?」

私「いいよ。2日間も断ってごめんね。今日はDの気のすむまで沢山訓練しよう」

私はベッドに横になったまま、左腕のパジャマの袖をめくりながら言いました。

D「気のすむまで、沢山・・・」

Dが呟いたので、私はちょっと言い過ぎたかなと思いました。今のうちに訂正しとこうかな。

D「そうかい。嬉しいよ」

Dはいつも通りの口調でそう言って、触覚の訓練をするときにDが座っているいつもの場所に座りました。

・・・まあ、気のすむまで沢山って言っても、大変になったらストップかければいいよね。Dは私の嫌がることはしないって言ってたもん。

ベッドの上に置かれた私の手に、手を繋ぐようにして自分の手を重ねたDは、もう片方の手の指で、私の腕の内側をそっと触りはじめました。優しく触れられる肌の感触と、握られている手に感じる温かい温度は、2日ぶりなので少し懐かしい感触です。

私「ふふ、くすぐったいよ」

D「触覚の感度は落ちてないようだね」

Dは私の腕の内側をくすぐりながら言いました。
でも、感度が落ちてないってなぜ断言できるんだろ。そういえば前に、私が寝不足で体調不良になったせいで触覚の感度が落ちたときも、私が言う前にDは気がついていたような気がする・・・(詳細は過去記事「天秤」参照)

私「ねえ、どうして感度が落ちてないってわかるの?」

Dは口元の笑みを濃くして、私の腕に口づけを落としました。2日ぶりです。どきっと心臓が音を立てました。

D「僕は、さゆの触覚を読むことができるからね」

え?

私「どういうこと?」

D「こうして君に触れている間だけ、読もうと思えば、君の感じている触覚を読むことができるのさ」

え・・・

D「こうすると」

Dは、もう一度私の腕に唇で触れてきました。さっきの優しいキスと違って、今度はずいぶん思わせぶりなやり方です。甘く噛んだ後、生温かく柔らかい舌がゆっくりと舐めていく感触に、背筋がぞくぞくしました。こんなの、まるで、前、戯・・・

D「指で触るよりも、さゆはずっと気持ち良く感じているよ。あとは」

私「やめて!!」

私が慌てて制止の声を上げると、Dは口元に笑みを浮かべたまま不思議そうに首をかしげました。

そうだったんだ・・・Dは、私の触覚が読めるんだ!!だから今まであんなに気持ち良い触り方ばっかりできたんだ!!でもそれって、それって今までDに触られて感じていた気持ち良さとかも全部Dに伝わってたってことだよね?なにそれ!!恥ずかしい!!デリカシー無い!!そんなの勝手に読まないでよ!!

D「僕が触覚の訓練を誘導している理由もそれだよ。僕から触れば、さゆの感じやすい触り方を選んで触ることができるから、訓練が効率的なのさ」

頭の中が色々な感情でぐるぐるしている私に向かって、Dはいつも通りの口調で淡々と説明しました。

D「さゆの言う『タルパ』の能力、つまり脳内会話やダイブや離脱やヒーリングというものを僕は知らないから、そのせいでさゆに不便な思いをさせて申し訳無く思っているよ。なにしろ、僕の能力は殆どが戦闘能力で構成されているからね」

Dは、横に置いてある大鎌をちらりと見てから、私に視線をもどして嬉しそうな笑みを見せました。

D「でも、唯一この能力だけは、さゆを喜ばせることができる能力だよ。本来の使い方とは違うから最初は思いつかなかったけど、もっと早く気付くべきだったね」

私は自分の腕を引いて、Dの手の中から逃げ出しました。

D「どうしたんだい?」

私「・・・・・・」

D「さゆ、腕をお出し」

私「なんでそういう・・・触覚なんて読まないでよ。恥ずかしいでしょ・・・」

D「触覚を読めば、君の望む触り方や場所がわかるからね。君のために必要なことだよ」

私「・・・・・・」

D「さゆ、僕達は『付き合っている』関係だね。それなら、こんなことは普通だよ。さあ、触らせておくれ」

私「普通って、Dの普通はそうかもしれないけど、人間は違うの。人間は普通、付き合っているときにそんなことしないんだよ。元彼も、」

そこまで言ってから、私は口をつぐみました。元彼の話は、今Dの前で言ってはいけないことです。デリカシーが無いのは私のほうです。

D「さゆが痛がっているのに気付きもしないで、自分の快楽を追うことだけに夢中だった彼が、何だい?」

私「え!?彼のことを悪く言わないでね!!」

私はびっくりして、ベッドの上に起き上がりました。疲れた体が筋肉痛の悲鳴をあげました。

D「まあ、無理もないよ。人間同士の行為は痛みや苦しさも伴うし、常に気持ち良いわけではないからね。御多分に洩れず彼も同じで、さゆの記憶に付随した過去の触覚を読んでみたけど、全然気持ち良くなかったようだね」

私「そんなことないよ!!精神的には満たされてたもん!!」

Dはくすくす笑ってから、いつもの笑みを浮かべました。私のほうはずっと興奮しているのに、Dは全くいつも通りに平然としているのです。

D「落ち着くんだよ、さゆ。ほら、腕をお出し」

私「やだよ!!」

D「おとなしくしておいで」

Dがベッドの上に乗りあげてきたので、私はあとずさって距離を取りました。Dの体を押しのけようと動かした私の手は、Dの体を透けて空を切りました。普段は触覚もあるし私の体とぶつかったときにも透けずにぶつかるのですが、Dが意図したときにはこうやって透けるのです。Dが笑みを濃くして、口を開けて私に口づけてきました。

私「う、わ・・・」

人間のような触感と温度なのに、明らかに人間とは違う、ぞくぞくする快感を伴います。Dが私の口の中に入れていた舌を出して、首筋を吸ったり舐めたりしてくるのと同時に、あのやたら気持ち良い感覚がどっと押し寄せてきました。(詳細は過去記事「ダイブ・離脱ができない」参照)脳が誤作動を起こしたかのような、自分で制御できないような快感です。やっぱりこれはDが強制的に送り込んでいる感覚なのか、それとも自分の脳が引き起こしているバグなのか。バグだとしたら、これはまずい状態なんじゃ・・・

D「良い反応だね。毎日触り続けた甲斐があったよ。この調子で、もっと訓練しようね」

ぐったりベッドに倒れ込んだ私の上にかがみこんで、Dが耳元で甘くささやきます。

D「ね、言っただろう?さゆには『好き』が必要なのさ。人間である以上、食欲や睡眠欲と同じように発散することが必要なんだよ。それは、僕がしてあげるよ」

発散?違うよ。むしろDに触覚の訓練をされるようになってから、そういうモヤモヤした気持ちが急に増えた気がする。そうだよ、最初はDにこんな感情とか感覚とか全然何も感じて無かったのに、触覚の訓練を始めたあたりから・・・

D「君に必要なのは僕だよ。他の何者でもないよ」

私「・・・それ以上、彼との思い出を汚さないでね・・・大切な思い出なんだから・・・」

私は、まだ余韻の残っている気持ち良さと連日の疲れでふらふらになりながら、一生懸命に言いました。

D「まあ、いいさ。初めは戸惑うかもしれないけど、大丈夫だよ。慣れればやみつきになるくらい、これが好きになるよ。僕のこともね」

Dは勘違いしてるよ。私がDを好きなのは、そういう理由じゃないのに。

今朝は、昨日のピカピカの傘を持って出勤しました。天気が良いのでからっぽになっている傘立てにさしておいたら、帰るときには無くなっていました。本当の持ち主が持ち帰ったんですね。良かった良かった。

私は電車通勤なんですが、今朝出社するために電車を待っていたら、最寄り駅のホームの壁の高いところに鳩が止まっているのが見えました。遠いのでよく見えませんが、どうやら壁の段差の隙間に大きな餌を乗せて、その餌の上に自分が座り込んで、くちばしで一生懸命に食べているようです。餌は大きくて、鳩と同じくらいの大きさです。

私(あんなに高い場所に、自分の体と同じくらい大きな餌を運んだのかあ。すごいなあ)

じっと見ていると、その餌が・・・なんと、鳩の姿に見えることに気がつきました。

私(え!?あの餌って鳩!?で、でも鳩に食べられてるよね・・・)

私は食い入るように見つめました。たしかに、餌は鳩の姿をしています。くちばしでつつかれても抵抗せず、上に乗られているのに振り払う様子も見せず、ぐったりと動きません。

私(あの餌、絶対に鳩だよね!!鳩サブレじゃないよね!!と、共食い!?)

電車がホームに入ってきました。その音に驚いたのか、鳩は羽ばたいて場所を移動しました。すると、下にいた鳩もピョコっと元気そうに立ち上がって、先に移動した鳩の隣に移動しました。

私(ピンピンしてる!!共食いじゃなかったんだ!!)

二羽は仲良さそうです。寒いこともあってか、ぴったり横にくっついて座り込みました。共食いではなかったのです。単なるノミ取り(?)みたいな服従行動だったのです。
私は安堵しながら電車に乗り込み、それから心の中で自分にツッコミを入れました。

私(こうやって勝手に妄想して突っ走る癖、どうにかならないもんかね・・・)

そのせいで人に迷惑をかけたこともあります。妄想力がたくましいのはタルパーとしては適性があるのかもしれないけど、日常生活に支障があっちゃ困るよ。

私「共食いとか、どんな発想してんの私・・・」

物騒な発想してるなあ。Dのことを物騒だなんて言えた義理じゃないな。
マスクの下で小さく呟いた独り言は、電車の走る大きな音にかき消されて、自分にすら聞こえませんでした。

D「さっきの鳩のことかい?」

しかし、Dには聞こえたようです。Dは、私が口から発した言葉なら、どんなに小さくても、周囲がうるさくても、掠れていて不明瞭でも、どれだけ遠くからでも聞き取ることができるのです。(詳細は過去記事「レースのハンカチ」参照)

私「そうだよ」

外でDと会話するときは、いつもなら携帯のメール画面を使って筆談をするのですが、ほとんど人がいない始発の電車で、マスクを付けていて口を動かしても見えず、独り言も聞こえないほどガタンゴトンとうるさい電車内だったので、私は小さく呟きました。声を出さない息だけのヒソヒソ声ですが、これでもDに伝えるなら充分なのです。

D「さゆが鳩を見ていたのは、心配していたからだったんだね」

私「うん」

このときはこの会話の意味がイマイチわからなかったのですが、朝の忙しい時間だったし、今日の仕事について色々考えることがあったので、特に深く考えることもなかったんです。

それで、さっきお風呂に入っているときに気付いたんですが、朝の鳩達、あれってまさか交尾してたとか・・?まさか私それを興味深げに見ていると思われたんじゃ・・・

だとしたらとんでもない誤解だよ!!そんなの興味深げに観察する女って生物学者かヤバイ人かのどっちかでしょ!!

で、結局のところ誤解されてたのかどうか、Dに確認するのも言いにくいので確認してないんですけどね。

まあ、多分そんなことないですよ。きっとDは、ただ「さゆは鳩を心配していたんだね。だからじっと見ていたんだね。優しいね」という意味で言ったに違いないです。そうですよ、それ以外の意味を考えちゃうなんて考えすぎってもんですよ、それこそが妄想の暴走ですよね。

後輩のS

今日も仕事が大変忙しかったです。この忙しい日々が終わるのは、今のところ1月5日の夜になりそうですね。

今日の朝は雨が降っていたので、傘をさして会社に行きました。ボロボロのビニール傘だからいいやと思って外の傘立てに突っ込んでおいたら、帰りにはピカピカのビニール傘に変わっていました。ど、どうしよう・・・!?

うちの課が最後まで残って戸締りをしたので、ピカピカの傘の持ち主が会社に残っているわけではありません。つまり、その傘の持ち主は、私のボロボロの傘と自分のピカピカの傘を間違えて持って帰ってしまったのです。かわいそう・・・!!

そのピカピカの新品しかビニール傘が残っていなかったから、結局その傘をさして帰ってきたんですけど、なんだか不条理な罪悪感を感じます。明日、そっと傘立てに帰してこよう。


ところで今日、仕事中に、Sが自分のデスクで何かを書いているのを見かけました。それだけなら仕事だなと思うのですが、どうやら上司の目を盗んで書いているようです。興味がわいた私は、資料を届けるふりをしてSのデスクに行きました。

私「何してるの?」ヒソヒソ

Sは、いたずらをするときの子供のような顔をして、自分の書いていたものを私に見せてきました。

S「年賀状です」ヒソヒソ

どうやら、年賀状の宛名をこっそりと書いていたようです。その一枚を手に取ってみせてもらったところ、裏面にはモコモコのかわいい羊が一匹、のんびり草を食べている絵のプリントでした。それが20枚くらいデスクの上に重ねてあります。

私「かわいいね」ヒソヒソ

S「さゆ先輩にも出しますからね」ヒソヒソ

私「ありがとう。でもS忙しいでしょ、大変だろうから私のぶんはいいよ。それに、どうせ元旦から仕事で会えるから、そのときに新年の挨拶ができるしね」ヒソヒソ

S「いえ、書きます。みんなからの返信も欲しいですからね」ヒソヒソ

メール世代の私より若いというのに、手紙である年賀状に精を出すとはマメだなあ。友達への新年の挨拶を全部メールだけですませている私も見習うべきだな。

私「へえ、すごいね。頑張ってね」ヒソヒソ

S「さゆ先輩も僕に出してくださいね」ヒソヒソ

私「えっ」

そういうわけで今、私の手元にはS宛ての年賀状があるのです。さっき眠い目をこすりながら一生懸命書きました。明日、出勤するときにポストに入れます。でも、明日に出して元旦に届くのかなあ?

D「さゆ、眠るなら髪を乾かしてからベッドでおやすみ。君の体に良くないよ」

年賀状を書き終わって、ちょっと机でうとうとしそうになったら、Dから声をかけられました。ありがとうD。

そして今、ベッドサイドでこの文章を書いています。もう眠くて眠くて・・・今日はもう限界なので眠ります。あああタルパブログめぐりをしたいよおおお!!でも今日はもう寝ないと明日の朝がメチャクチャ早いので、一度タルパブログを読み始めちゃうとじっくり読んじゃうから!!今日はガマンするんだ私!!!!!

私「D、今日は触覚の訓練ができなくてごめんね。明後日はお休みだから、久々に二人でゆっくりできるよ。何かDのしたいことをしよう」

D「さゆが自分のやりたいことや好きなことで忙しいのは、良いことだよ」

Dは、いつもの笑みを口元に浮かべたまま、いつも通りの口調でそう言ってくれました。

Y先輩

今、帰ってきました。今日はもう即行で食事してお風呂に入って眠ります。

今日も今日とて仕事が忙しかったです。早朝から残業まで一生懸命に働いてきました。なんか真面目な社会人になった気分です。いつもはふざけ成分50%の職場なんですけど、この年末年始の時期だけは別なんです。このまま1月5日くらいまで忙しい日が続きそうです。すみません・・・!!以下は昨日の話です。

今朝、出勤すると職場に、かいだことのない香りがただよっていました。食器用洗剤のような、消臭剤のような、事務的で機能的な香りです。

私(なんだろう、この香り?)

私はキョロキョロしてみましたが、香りの出どころはよくわかりません。

私(年末の大掃除のときに、こんな匂いがするよね。でもまだ早いし、そもそも職場で大掃除なんかしないんだよね。この季節はすごく忙しいから)

別に不快な香りでもないし、それほど強いわけでもないので、とりあえず無視することにしました。

私(ま、いっか)


お昼になったので、私はKと一緒に休憩室でお弁当をひろげました。

K「・・・なあ、今日、匂わねえ?」

私はKの言葉にピンときました。Kの言う匂いとは、きっと今朝からうちの課にただよっているあの香りのことです。

私「あ!Kも思った?」

Kはコンビニ弁当を食べながらうなずきました。

K「俺、席近いからさ」

・・・ん?

私「席が近い?」

K「近いじゃん?Y先輩と。別に嫌な匂いじゃないけどさ、朝からあの匂いかいでたら頭が痛くなってきたっつーか。でも言いにくいじゃん。どうしよっかな」

んん!?

私「それって、あの香りってY先輩からしてるってこと?」

Kは卵焼きをモグモグ頬張りました。

K「お前、気付いてなかったの?そうだよ」

ええー・・・!?
だ、だって、昨日Y先輩の香りをかいだときは無臭だったよ!?

私「あれって、メンズの香水の香り?」

K「あんな香水ねーよ。あの人掃除とか好きだから、ちょっと早めに自分の周囲だけ大掃除したとかじゃね?」

しかしその実態は、悲惨なものだったのです。


休憩を終えて部屋に帰ってきた私達は、まだ消えていない謎の香りに気付きました。消えるどころか、少し強くなっているような気すらします。私達は顔を見合わせ、Y先輩のデスクに行ってみることにしました。

Y「なんですか?」

Y先輩は普通に仕事をしていました。しかし、私は気付きました。Y先輩のデスクの上に消臭スプレーの缶が置いてあることを。

これだ。絶対これだ。

ちらりとKの顔をうかがうと、目配せしてきました。Kも気付いたようです。

K「お疲れ様です。あいかわらず机、綺麗ですね。俺とは大違いですよ」

Y「癖みたいなもんです。二人とも休憩が終わったなら、次は僕が行かせてもらってもいいですか?」

私「どうぞ。あの、もしかして今朝も掃除なさったんですか?その、デスクにスプレーを置かれているので」

Y先輩は少し言いよどんで、それから照れたように眼鏡を押さえました。

Y「いえ、これは・・・その、少し自分の匂いが気になったので」

え?自分の匂い?Y先輩は無臭だったよね?
私は首をかしげました。

Y「ほら、昨日××さん(私の苗字)が、かいできたじゃないですか。そのときに嫌そうな顔をされた気がして、ちょっと匂うのかもしれないと思いまして」

・・・え!?
う、うそ・・・私のせいじゃん!!!!!!
昨日の私の不審な行動のせいで、Y先輩気にしちゃったんだ!!!!!!

私「ごめんなさい!!違います!!嫌そうな顔してないです!!」

私は慌てて否定しました。なんと説明すればいいのでしょう!!早急に謝罪して誤解を解く必要がありますが、Dのことを言うわけにはいかないので、私がY先輩の香りをかいで眉にシワを寄せてしまった理由として上手ないいわけが出てきません。

私「違うんです!!あの、私、今、メンズの香水とか調べているんですけど、それで、周囲の男性はどんな香水付けてるんだろって思ってて、昨日はうちの課の人の香りをかいでみたくなって・・・ええと、それで、私はY先輩の香りもかいでみたかったんですが、全然香りがしなかったので残念だなって思ってあんな顔したんです!!本っ当にすみませんでした!!」

ハチャメチャな言い訳でしたが、隣にKがいたことが幸いしました。

K「そういえばお前、昨日は俺の香水もかいでたよな。前に話してた彼氏にプレゼントする香水を探してるとか?」

Kは私が元彼と別れたことを知りません。ここで別れたなんて言うと話がややこしくなると思った私は、こくこくとうなずきました。
Y先輩は、ぽかんとして驚いていましたが(そりゃ驚きますよね。本当にごめんなさい!!)やがてほっとしたように笑いました。

Y「びっくりしました」

私「すみませんでした・・・」

Y先輩は笑って許してくれましたが、私は大いに反省しました。

私(ああ、悪いことしちゃったな・・・Y先輩ごめんなさい・・・)


帰り道、職員用出入り口から出ようとしたらY先輩に呼び止められました。

Y「××さん。先程は、すみませんでした」

私「いえ!!完全に私が悪かったんです!!本当にすみませんでした!!」

Y「いいんですよ。これを差し上げます。どうぞ」

手渡されたものは、先輩愛用ののど飴、ヴィッ○スでした。食べかけで開いている箱の中に数本入っている棒状の袋を一つくれました。

Y「のどが痛いと言ってたでしょう。風邪ひかないようにしてください。あなたがいないと職場の皆が困ります。お大事にしてください」


帰り道、マスクの下でヴィック○を舐めながら帰ってきました。機能的で冷たくてピリッと辛くてちょっと甘い、Y先輩のイメージにピッタリの味です。

私(私がいないと、なんて嬉しいな。でも、職場にそろそろ病気のことを伝えないといけないな)

まだ大丈夫だからって今まで伝えないできたけど、元気で動けるうちに伝えておかないと、もし病気のせいで仕事を退職や休職することになったら仕事の引き継ぎがあるから、それなら早いうちに伝えて後継を育てたほうが・・・

でも本音を言うと、この職場を離れたくないのです。だからせめて、もし離れることになっても悔いが無いように、今年の年末年始はいつも以上に気合を入れて頑張ろうと思います。

職場のみんなには本当に感謝しているんです。というか、今まで私に関わってくれた全ての人に感謝してます。
こんなブログを読んでくださっている、あなた様にも本当に感謝しております。ありがとうございます。
もし死後の世界があるのだとしたら、彼岸の向こうから皆様の幸せを祈っています。
あの世で修行して、みんなの安全とか幸せを守るくらいの力を身につけられたらいいんだけどなあ。できるのかなそういうの。それって時間がかかるのかな。みんなの寿命が終わってから力が身についても意味ないもんなあ・・・

って、まだすっごい元気ですけどね!!治すつもりですし!!単なる仮定の話です!!ハッタリかましちゃってホントすみません!!私は元気でピンピンしてます!!

嗅覚

さっき帰ってきました。今日はもう、即行で食事してお風呂に入って眠ります。

仕事がますます忙しくなってきました。でも、この忙しい雰囲気は嫌いじゃないんです。
仕事中は各自バラバラに自分の仕事に専念するんですけど、それも大好きです。一人で集中して行う仕事はすごく自分に向いていると思います。でも、そうやって皆が一人で頑張った仕事を持ち寄って、最終的にまとめて一つにすると、大きな一つの仕事として完成するんです。

いつもはふざけ成分タップリの職場ですが、この年末年始は怒涛の忙しさなので、みんな超真剣に仕事をしています。あんまり忙しくなると、みんな色々と面白いことをやりだします。キャスター付きの椅子に座ったままクルクルクルクル回転してみたり、変な歌を作り出したり、変な話をしたり。みんな変なテンションになります。

話は変わりますが、昨日、午前中の仕事を上がって昼食を食べているときに、そういえばDから香りを感じたことないなと思いました。以下に書いた話は、昨日のできごとです。


きっかけは、一緒に食事していたKの香りです。おしゃれが好きなKは、いつも身なりに気を使っているため、整髪料やら香水やらのお洒落好きな人特有の香りがするのです。

私「ねえ、このKの香りって何なの?シャンプー?ワックス?香水?」

K「え?どうだろ?それ全部つけてるけど」

Kは腕を曲げて顔に近づけた後、水浴び後の犬のように首を振りました。自分の服や髪の香りを感じようとしたんだと思います。

K「自分だとわかんねー」

私「ちょっと失礼」

くんくん。私はKに近づいて香りをかいでみました。

私「多分、シャンプーとワックスと香水の香りかな」

K「さっきと同じじゃん。それが混ざった感じの匂いってこと?」

人間とは、香りがするものです。でもタルパは色々なようです。あちこちの先輩タルパーさんのタルパブログを読んだところ、最初から香りを持っていたタルパさんもいれば、タルパーさんの選んだ香りをまとっているタルパさんもいて、香りを持たない(もしくはタルパーさんに香りが伝わっていない)タルパさんもいるようです。

Dにも香りをあげようかな。欲しがるかな。

ていうか、そもそも人間の男性ってどういう香りをさせているんだろ?元彼は香水つけてたけど、男性みんながそうなわけじゃないよね。
興味がわいた私は、職場の人間を研究材料にさせてもらうことにしました。


とりあえず、うちの課の人をターゲットにすることにしました。他の課にわざわざ出向いて、何の用ですかって尋ねられたところで『いえ、ちょっと香りをかぎに』だなんて言えないですからね。
私は、一番頼みやすいSにお願いしてみることにしました。

私「S、香りかいでもいい?」

S「どうぞ」

予想通り、天然で穏やかなSはにこやかにOKを出してくれました。

私「ありがとう」

くんくん。

S「どうですか?」

私「ふんわりと良い香りがするね。洗濯洗剤の香りだと思う」

S「洗濯しましたからね」

Sは、天然独特の純粋で爽やかな笑みを見せました。


お願いしても了承してくれないだろうY先輩に対しては、勝手に香りをかがせてもらうことにしました。

作業をしているY先輩に背後から近づき、肩のあたりをくんくんしてみました。

Y「うわ!・・・何ですか?」

私「うーん・・・」

ハッキリ言って、匂いがわかりません。
Kのような香水のお洒落な匂いもしないし、Sのような洗剤系の自然な匂いもしません。無臭です。これじゃ参考にならないな。

私が眉間にシワを寄せると、Y先輩はちょっと怪訝な顔をしました。わけを知りたそうな表情をしています。でもここで説明すると面倒なことになると思い、私は早々にY先輩のデスクから離れることにしました。


私(あとは上司か・・・上司の匂いはなあ・・・)

上司の趣味はアウトドアです。見た目や言動からして、上司からはかなり強いアウトドアの匂いがしそうです。アウトドアにも2種類あって、お洒落スポーツなアウトドアと、本格的に泥や汗にまみれるアウトドアがあります。上司は間違いなく後者です。

私(かぐ前からわかるから、かがなくていいかな)

かがなくていいことにしました。


家に帰ってきた私は、さっそくDに尋ねてみることにしました。

私「ねえD、香りってほしい?」

Dは少し首をかしげて、それから口を開きました。

D「さゆの好きな香りなら、あったほうがいいね」

私の好きな香りかあ・・・香水は沢山持ってるし、好きな香りも沢山あるけど、全部女性用なんだよね。香水って、メンズとレディースがあるでしょ?

メンズの香水は元彼の使っていたものなら幾つか覚えてるけど、Dから元彼と同じ香りがするってどうなんだろ・・・

うーん。

私は自分の持っている香水を出して並べてみました。爽やか系から濃厚系、かわいい系からセクシー系まで一通りそろっています。お風呂上りに付けてみて、良い香りをかいでリラックスするのが好きだからです。でも、全部女性物です。

唯一、男性がつけても大丈夫なものは、サンタ・マリア・ノヴェッラです。これはシトラス系で、男性も使えるユニセックスな香りです。コロンなので香りもきつくありません。私は好きだけど、Dはどうかな。気に入るかな。

私「D、これをかいでみて」

私は自分の手首につけてDに差し出しました。Dは私の腕を手にとって、私の手首に顔を近づけました。

D「甘くて良い香りだね」

私「気に入った?」

D「もちろん。さゆの香りは僕にとって特別だからね。特別に甘くて良い香りだよ」

そういえば、前にも私から特別な香りを感じるって言ってたね。タルパがタルパーに対して感じる香りっていうのが、やっぱりあるのかな。そういうわけではないのかな。

私「私の香りじゃなくてね、この香水の香りはどうかな。気に入った?」

D「気に入ったよ。さゆが付けているからね」

うーん・・・Dは、私の香り以外の香りも感じているはずなんだけどなあ。前にそんなこと言ってたもんね。
この香水はあまりピンとこなかったのかな。今は仕事が忙しいから、年明けの、そうだなあ・・・6日過ぎとかに、香水店に行ってメンズの香水を選んでみようかな。テスターを使ってみて、Dにもかいでもらえばいいよね。そうすればDの気に入る香りがあるかもしれないなあ。

D「今日は、嗅覚の訓練をしたいのかい?」

Dはさっき私の腕を手に取ったまま、首をかしげました。

私「う、うーん、明日も仕事で忙しいから、嗅覚の訓練をするなら年明けの6日過ぎにしてもいいかなあ・・・」

朝早くから残業まで、一日ずっと忙しかったので、私はグッタリ疲れているのです。この時期に、仕事に気を抜くわけにはいきません。明日も朝が早いので、今日は早くベッドに入って休まないとまずいのです

私「明日も朝早いから、今日はもうベッドに入って休むね」

D「そうかい。ベッドに入るなら、触覚の訓練をしよう」

私「う、うーん・・・」

正直、今日は早く眠りたいのです。

私「もう今日は眠ろうかなって思うんだけど・・・」

D「触覚の訓練は、ベッドの中で休みながらでもできるよ」

たしかにそうです。触覚の訓練は私から触るのではなく、Dに触ってもらって行うため、私はベッドに横になるほかに何もする必要が無いのです。

しかし、触覚の訓練は休んでいる気にはなれません。何故なら、腕の内側の敏感な場所をDに優しく(やらしく?)触られ続けるので、心臓がどきどきとして目がさえてしまうからです。最初の頃の普通の触り方なら、そのまま触られながら眠ってしまうことができましたが、今の思わせぶりな触り方では駄目なのです。

しかし、Dは触覚の訓練を毎日楽しみにしているのです。その楽しみを奪うのもかわいそうです。

私「・・・ええと、じゃあ。5分間だけしようか」

D「・・・・・・」

Dは少し首をかしげました。その口元にはいつもと変わらない笑みが浮かんでいるのですが、なんとなく寂しそうにも見えます。

D「さゆに負担がかかるのは良くないね。そうだね、今日は5分だけにしよう」

Dはいつもの口調で言って、口元に笑みを浮かべました。全くいつも通りです。

私「ごめんね。年明けの6日には忙しいのが終わるから、それまで待っててね」

Dは口元に笑みを浮かべたまま、うなずきました。

D「さゆが僕に謝る必要なんてないんだよ。でも、待っているよ。楽しみにしているよ」

私が忙しいとDに構ってあげられないのが申し訳無いな・・・
私には仕事も趣味もあるし、職場の人も友達もDもいるけど、Dには趣味が無いし私しかいないからなあ。だから必然的に、タルパとしてタルパーを助ける的な仕事だけの生活になっちゃうんだろうね。何か趣味を覚えさせてあげようかな。そうすれば私が忙しいときにも寂しくないんじゃないかな。あるいは、ペットを作ってみるとか。タルパをもう一体作って動かすというのは私の能力的に難しそうだけど、小さな魚みたいなペットならできるかも。近いうちに、Dに相談してみようっと。

クリスマス

仕事が本格的に忙しくなってきました。これから1月5日まで残業地獄です。クリスマスが終わる頃から正月明けまで忙しいって、職種がバレそうですね・・・
もしピンとこられた方がいらっしゃったら、この哀れなわたしくめのために、どうか仕事の健闘を祈ってやってくださいまし。

職場は東京にあるんですが、今年の東京は珍しくホワイトクリスマスでした。雪が降ったんです。ただ、雪っていうか、なんか上空で一度溶けてもう一度凍りました!みたいな、形が丸っぽく崩れている微妙な感じのやつだったんですけどね。雹のめっちゃ小さいバージョンみたいな。

これから正月明けまで仕事の最盛期だから皆で頑張ろうね!!ってことで、昨日25日のクリスマスには、うちの課のみんなでパーティしたんです。クリスマスパーティです。去年もやりました。Y先輩がセレクトした、夜景が綺麗でジャズが流れているお洒落なお店で。

そして、今年は上司がセレクトしたお店で、私達のクリスマスパーティが幕を開けました。

上司「好きなの頼んでいいよ」

K「まずは、とりあえずキーマカレーとタンドリーチキンいきます。ガーリックライスで!」

私「バターチキンカレーで、ナンを一枚お願いします」

Y「グリーンカレーとナンを一枚、それとトマトのサラダをお願いします」

S「豆カレーと、ナンを一枚と、ラッシーにします」

そう、インド料理店で!!


上司「いや~、皆おつかれおつかれ。これからどんどん忙しくなっていくけど、正月明けまで何とか皆で乗り切ろうね。大丈夫、去年もできたから!!気合でなんとかなる!!」

そういう愚にもつかない精神論で全てを片付けようとするのが私達の上司です。

S「ここって、本当にインド人がやってるインド料理店なんでしょうかね?日本のインド料理店って、インド人のふりをしたコロンビア人がやっている店が多いそうですけど」

え、それって本当!?
ていうか、この店を選んだ上司の前で、今そんなこと言えるのはSしかいないよね。

私達は、ちらっと店員さんのほうを見ました。

K「でも、おでこに赤い印がありますよ。やっぱりインド人じゃないですか?」

ファッションなのか宗教的な意味があるのか、店員さんのおでこには赤いものが付けられています。あれは染料なのかな?

Y「そうやって簡単に信じては駄目ですよ。本気でインド人を装うためならそのくらいするでしょう。生粋のインド人かどうかなど、我々日本人が見ても外見では区別がつかないんですからね」

Y先輩が眼鏡を指で押さえながら言いました。この人、普段は上司に気を使う常識人なので、本来なら上司の選んだ店をけなすなんてことはありません。しかし、Y先輩は気を使う常識人である前に、根っからの懐疑主義者なのです。人が安易に何かを信じようとすると『お待ちなさい!だまされてはいけません!』と忠告をするのが習性なのです。親切心で。

K「でも、他にどこを見ればインド人だってわかるんですか?」

Y先輩はもう一度眼鏡を押さえて、光を反射させました。

Y「インド語で話しかければ良いのではないでしょうか?」

K「でも、インド語、知ってます?」

Y「僕は知りません。インドには特に興味がありませんから」

K「じゃあ、今その方法で確認するのは無理なんじゃないですか?」

Y「・・・・・・」

インド語かあ。普通に暮らしていたら耳にする機会はほとんど無いよね。
ていうか、おいしければコロンビア人でもいいと思うんだけどな。

私「えっと、じゃあ『ナマステ』とかどうですか?こんにちはって意味らしいですけど」

私は、黙ってしまったY先輩に助け舟を出すつもりで言ってみました。

Y「駄目ですよ!そんな知名度の高いインド語、インド人に成りすまそうとする人間なら誰だって知っているはずです!インドに興味の無い僕だって知ってるんですから!」

私「すみません!」

怒られました。Y先輩はこうでなくっちゃね。


S「せっかくクリスマスなんですから、ケーキも頼みましょうよ」

一瞬、微妙な沈黙が流れました。きっと皆、あのシュトレンを片付けるのに苦労したのでしょう。あの不審なケーキ(詳細は過去記事「シュトレン(?)」参照)を独り暮らしの男性が一人で平らげるのは大変なはずです。かくいう私の冷蔵庫にも石になったシュトレンがまだ残っているのです。

上司「俺は、ケーキはもう・・・いいよ」

S「そうですか?え、皆さんも?じゃあ、僕だけ頼みます」

私「Sって甘党だよね」

K「ラッシーも頼んでるしな」

Sは真顔で首をかしげました。

S「え、僕はしょっぱい物のほうが好きですよ?甘いものは得意じゃないんです」

んん!?・・・S、今日も会社にコアラのマー○とパイの○持ってきてたよね?昼食がわりに食べてたじゃん。昼食に甘いお菓子だけっていうのは、甘いものが苦手な人間のすることじゃないと思うんだけどね。そういうとこ、ホントSらしいよね。

店員さん「ユキ、フッテ、サムイデスヨ・・・」

にぎやかに話していた私達のところに、インド人(?)の店員さんがやってきて話しかけてくれました。彼は、まさか私達から国籍に疑惑を抱かれていたなどとは夢にも思ってないでしょう。ごめんなさい!!

店員さん「キョウヨリ、サムカッタコトハ、ナイデスネ」

インドって暖かそうだもんね。日本に来て初めて雪を見たら、びっくりするよね。

私「日本に来て、初めて雪を見て驚かれたでしょう。いつ日本に来たんですか?」

店員さん「ロクネンマエデス」

って、6年も日本にいるのか!!去年、東京めっちゃ雪積もって寒かった気がしますけど!?

店員さん「インドモサムイデスヨ。ユキガフリマス」

そうなの!?


なんやかんや職場ネタで盛り上がりながら、楽しくカレーを食べました。美味しかったです。
お会計のためにレジに行くと、さっき話しかけてくれた店員さんがレジに来てくれました。

店員さん「お会計は、○○円でございます」

急に流暢な日本語になりました。

ええ!?・・・あ、ああ、そっか、お会計は毎回同じように話すもんね。だからこの日本語だけ慣れているんだろうなあ。

美味しかったので皆でまた来ようとか話しつつ、店を出ました。私は出がけに店員さんに向かってお礼を言いました。

私「美味しかったです。ありがとうございました」

店員さん「ありがとうございました!!」

他の店員さんたち「ありがとうございました!!」

やはり流暢な日本語で返事が返ってきました。言い慣れてるんだね。


家に帰ってきて、私はベッドにごろんと横になりました。

私(楽しかったなあ・・・でも、今日はDにあまり構ってあげられなかったな)

Dは、ベッドの上の、私の足元に腰掛けています。

私「ねえD、クリスマスなのに、いつもより構ってあげられなくてごめんね。退屈だったでしょ?」

いつもならアパートでDと話したり一緒に音楽を聞いたりしている時間を、今日は職場の人達とのパーティで使ってしまいました。Dは退屈だったんじゃないかな。

D「さゆを見ていたから退屈じゃなかったよ。僕はさゆを見ているのが好きだからね」

Dはこちらを向いて、口元に笑みを浮かべました。

D「僕は、さゆが喜ぶことは良いことだと思っているよ。さゆが楽しいと思うことや好きなことなら、僕に遠慮などせずに積極的にすればいいんだよ。さゆが幸せなら僕も嬉しいからね」

私「・・・ありがとう」

私は急にDの頭を撫でたくなりました。

Dの髪に手をのばすと、Dは少し首をかしげるようにして私の手を待ち受けました。そっと撫でてみると、さらさらの髪がはかない感触を残して指の間を滑り落ちます。なでていた手を髪から頬にすべらせて、そっと頬に手を添えてみると、Dはその続きを待っているように、じっと私をみつめました。
私が躊躇しながらDに顔を近づけるまでの長い間、Dは嬉しそうな顔をしたまま、ずっとおとなしく待っていました。

お母さん

昨日の話です。昨日、書き始めたら長くなってしまい、昨日中に書き終わりませんでした・・・すみません!!
過去記事「命日」の続きです。お母さんの命日だったのでお線香とお花を供えに行ったのですが、それについて書いています。クリスマスに辛気臭い話で申し訳ありません・・・!!皆様のクリスマスが幸せでありますように!!


私「こんにちは」

インターフォンに対応して出てきてくれた人は、見覚えの無い丸顔の女性でした。
実家にこんな人いたかな・・・と、私は昔の記憶をたどって、濃いめにアイシャドウをひいた女性を思い出しました。従兄弟のお母さんです。年齢から考えて、この人が多分そうです。私の母の兄(この実家の主)の奥さんで、私の伯母です。

伯母「まあ、寒い中をどうも。どうぞ上がってください」

記憶の中のアイシャドウを引いた女性は、もっと細くてあごも尖っていた気がします。今、私を見てにこにこ笑ってくれている顔には、記憶の中の女性には無い目じりのシワが刻まれています。

私「お久しぶりです。××さゆです。本日は、夜分遅く申し訳ありません」

私は頭を下げました。

伯母「とんでもない、わざわざ来て頂いてすみません」

女性は人のいい笑みを浮かべました。記憶の中の彼女とまるで印象が違います。

伯母「どうぞ上がってください」

私「失礼致します」

靴を脱いで揃えて、私は廊下に足を踏み出しました。古い木の匂いのような日本家屋の匂いがします。踏みしめる廊下が、時折ギシッと音を立てます。

伯母「今日も冷えますねえ」

私「ええ、本当に。一段と寒くなりました」

伯母「この年になると、寒さで膝が痛むようになって。あ、ここです」

障子が開かれて、私は仏間に通されました。

私「失礼致します」

仏間には、20代くらいの男性が座っていました。年齢から考えて、この男性が私の従兄弟です。先日私に電話をかけてきた本人です。
私は畳に手をついて、頭を下げました。

私「お久しぶりです。夜分遅くに申し訳ありません」

従兄弟も同じように畳に手をついて、頭を下げました。

従兄弟「いえ、お忙しいところ、わざわざお越し頂いてすみません」

頭を上げた私は、体の横に置いていた紙袋を差し出しました。

私「こちらは手土産です。つまらないものですがどうぞ」

中身は菓子折りです。この人達が何を好むかも知らないほど疎遠にしていたので、中身は老若男女を問わないと思われる御煎餅やあられ等の無難なものにしておきました。

従兄弟「恐れ入ります」

伯母「お気遣いくださって、ありがとうございます」

従兄弟と伯母は、そろって手を付いて頭を下げました。

伯母は頭を上げて菓子折りを手に取り、立ち上がって、仏壇に供えました。見れば仏壇にはお母さんの写真が飾られています。きっと命日だからです。仏壇の両脇の提灯の明かりが、その写真をボンヤリと照らしています。

私「では、お線香を上げさせてください」

従兄弟「どうぞ、お願いします」

伯母「この座布団を使ってください」

伯母が、座布団を仏壇の前に敷いてくれました。厚くてふかふかしています。

私「恐れ入ります。この花も供えて構わないでしょうか」

私は持ってきていた花を差し出しました。仏花が良いだろうと思い、小菊の花束です。

従兄弟「ありがとうございます、あ、じゃあそこに差し込んで頂いて・・・」

従兄弟はそう言って、花入れを指差しました。花入れは仏壇の左右に置かれています。
・・・ん?この花入れの片方に突っ込んじゃっていいってことかな?
私は自分の持ってきた花束を見ました。花束と言えば聞こえがいいですが、これは一見、ただの新聞紙をクルクルと筒状に巻いたやつです。いつもは行かない実家近くの花屋で買ったら、小菊が痛まないように、花を全て覆い隠すように長く新聞紙を巻いてくれたので、外から見れば本当にただの新聞紙の筒です。
一方で花入れは細くて華奢で、中に活けられている花達は短く切られています。この花入れに長い新聞紙の束を突っ込んだら間違いなく倒れるでしょう。なにせ、新聞紙の身長のほうが花入れの身長の2倍くらいあるのです。
・・・新聞紙をバリバリ破いて入れればいいのかな?でも、長すぎる小菊が飛び出しちゃうのは同じことだよね。

伯母「いや、それは変でしょ」

従兄弟「あ、そうか」

伯母が従兄弟にツッコミました。
で、ですよね。いかにも仏壇って感じの厳格な花入れに、新聞紙をクルクル巻いた謎の物体がニョキーッ!!って突き出ていたら、一気にギャグっぽくなるもんね。雰囲気ブチ壊しだよ。
その様子が頭に浮かんで、私は少しクスっときました。

私(・・・あれ?こんな想像するとか、私、案外余裕あるのかな)

伯母「××さん、お花は後で私が備えさせて頂きますので、それまであちらでお水に付けさせてください」

私「お願いします」

マッチをすると、小さな火が燃え上がりました。それを蝋燭にうつします。提灯と蝋燭の両方で照らされた仏壇は明るくなりました。光に照らされた写真の中のお母さんは、10年以上前と全くかわらない、くったくのない笑顔を振りまいています。

私(お母さん・・・)

あれほど怖いと思っていたのに、いざ仏壇を前にすると、全く怖くありませんでした。お母さんの写真を見ても、懐かしいと思うことはあっても、怖い気持ちは全然わいてきませんでした。

私(こんなに簡単なことだったなら、もっと早く来れば良かったな・・・お母さん、ごめんね)



お茶を出されたので、私はお礼を言って湯呑を持ち上げました。緑茶の良い香りです。

私(高そうなお茶だなあ、あ、おいし・・・ぬるめだから玉露かな。だったら高級品だな。ごちです。ゆっくり味わっていこう)

どうでもいいことを考える余裕も出てきました。

従兄弟「父はまだ仕事でして。折角いらっしゃって頂いたのに申し訳ありません」

従兄弟が謝ってきたので、私は慌てて首を振りました。

私「とんでもないです。そのようにお気使い頂いて恐縮です」

記憶の中の従兄弟は、私より数才上とはいえまだ子供で、こんな風に機微を読み取れるような子じゃなかったのに。もうすっかり大人になった彼は、挨拶から社交辞令から気遣いまで一通りこなせる社会人になったんだ。年齢的には私より上だもんね。私の記憶の中の従兄弟はずっと子供のままだったけど。
従兄弟も伯母も、あの頃とは変わっている。きっと日々少しずつ変わっているんだ。でも、それは当然のことなんだろう。だって、私もあの頃とは変わったんだもんね。そうやって皆が少しずつ変わっていくから、あのときと今とでは私達の関係も違う形になったんだ。誰でも生きていればこうやって日々変わっていって、何かを学んだり、誤解したり、誤解が解けたり、色々あるんだね。だから、長い時間の中の、ほんの短い一瞬に感じた他人に対するわだかまりを、ずっと心の中で抱えて苦しむ必要なんて無かったのかも・・・

従兄弟「これをどうぞ」

従兄弟が何かを差し出してきました。

従兄弟「○○さん(私の母)の遺品です。こういった貴重品の類はこれしかありませんでした。祖母(私の母の母)が亡くなるまでずっと預かっていたものです」

見ると、ジュエリーの類を入れる紺色のビロードの箱です。

従兄弟「○○さんがあなたに残したものです。お会い出来たらお渡ししようと思っていたんです」

開けると、中には一粒の真珠のペンダントが入っていました。たしかに見覚えがあります。

私「でも、私は・・・」

私は辞退しようとしましたが、従兄弟は首を振りました。

従兄弟「遺書に、あなたに渡してほしいと書いてあったんです」

私「え?」

従兄弟「でも、まだ子供のあなたに渡したら□□さん(私の父)の手に渡ってしまうと言って祖母(私の母の母)が嫌がって、ずっと手放さなかったんです」

伯母「本当は義理母さん(私の母の母)のお葬式のときにお渡ししたかったんです。でも、お葬式の場ではうまく渡せなくて・・・それで今までずるずると。すみませんでした」

私(お母さんがこれを私に?遺言に書いてあったって?でもお母さんって、手帳に私への恨み言を書いたんじゃないの?)

私が箱を受け取ると、二人はほっとしたように笑みを浮かべました。

私「・・・あの、その遺書って、日記というか手帳ですよね。内容をご存じなのですか?」

従兄弟「はい、大まかには。僕は当時子供だったので読んでいませんが母は読んでいます。僕は母から内容を聞きました」

私「内容を教えて頂けませんでしょうか。父から一部分を聞いただけなので、詳細を知らないんです」

従兄弟と伯母は顔を見合わせました。

伯母「詳しい内容までは覚えていないんですけど、手帳には、□□さん(私の父)の浮気に対する恨み言と、あなたへの謝罪が書かれていました」

・・・え、どういうこと?父から聞いている話と、違うじゃん。

私「・・・手帳には、私への恨み言が書かれていたって、父から聞いたんですが」

伯母「ええ!?」

驚いた顔をした伯母は、首をひねりながら口を開きました。

伯母「□□さん(私の父)は、手帳を読んでないのでは・・・少なくとも、□□さんは手帳を手にとって読んではないですよ。浮気への恨み言とかが書いてあるあたりのページを、義理母さん(私の母の母)が□□さんに怒りながらチラッと見せたくらいです。××さん(私)への恨み言とかは・・・まあ、育児の悩みとかなら多少書いてあったかもしれないですね。でも普通の母親が書くような普通の内容ですよ。もしきつい内容なら覚えていると思いますから。だから、恨み言という感じのものではないと思いますけど・・・手帳を棺桶に入れずに残しておくべきでしたね・・・」


帰り道、暗い夜道を歩きながら、私はお母さんのことを思い出しました。

私が幼稚園のころまでは毎日楽しそうにしていたお母さんは、よく私に本を買ってくれたんだ。童話やお伽噺の薄い本を何冊もね。それで、寝る前に読んでくれたんだよ。だから私、童話やお伽噺には詳しいんだ。人魚姫もヘンゼルとグレーテルもラプンツェルも童話なら大抵知ってるよ。

私は昔からあまり眠らない子で、夜になってもなかなかベッドに入らなかったんだ。今にして思えば、それは私がショートスリーパーだからなんだけど、お母さんはきっと心配したんだろうね。私がベッドに入る時間になると、本を持って枕元に立って、こう私を呼んだの。

おいで、眠る前に、お話を聞かせてあげる!だからベッドに入ろうね!

私はすぐにベッドに入ったよ。お母さんの語るお話が大好きだったんだ。お母さんに読んでもらうと、同じ本を何度聞かせてもらってもワクワクした。そう、たしか私にはすごく好きな本があって・・・何の本だったんだろう、あんなに好きだったのに忘れちゃった。他の本なら覚えてるのにね。とにかくその好きな本を何度も何度も毎日のようにリクエストして読んでもらっていたら、お母さんはその本を暗記しちゃったんだ。本はボロくなった。さゆちゃんはこの話が好きなんだね、って言って笑ってたなあ・・・

私とお母さんはすごく仲が良いと思ってた。私がお母さんのことを好きなように、お母さんも私のことを好きに違いないと思ってた。だから、お母さんが離婚して私を置いて出ていってしまったとき、どうしてお父さんの元に私を置いていったのか、全然理解できなかった。きっと金銭的な理由だよね。でも当時はわからなくて、とっても寂しかった。お母さんは私を嫌いになったのかとも思った。

それで・・・本を読んでくれたあの優しいお母さんは、本当は私のことを嫌いだったんじゃないかって。本当は私のことが大嫌いなのに、一生懸命演技していたんじゃないかって・・・そう思って、怖くなったんだ。

暗い夜道を踏みしめながら歩いていると、毎日眠る前にお母さんと交わした会話がポロポロとこぼれるように思い出されてきました。本当はずっと覚えていたんだ。お母さんとの思い出は少ないから、忘れられなかったんだよ。

魔女はどうしてお菓子で家を作ったの?
子供達をつかまえるためのワナだったんじゃない?こわいね~!!

ランプツェルはどうして髪が長いの?
ランプ・・・ラプンツェルね。うん覚えなくていいよ!

私「たしか・・・『人魚の涙は真珠になるの?真珠って何?』・・・だったかなあ」

私は呟いてみました。私がそう尋ねたら、たしかお母さんはこんなことを言ったと思う。

『お母さんのネックレスについてる白い玉だよ。あれは偽物なんだけどね!でもかわいいから一番気に入ってるの!』

私は、さっきもらったペンダントの箱を開けてみました。偽物のくせにかわいい真珠がコロンと出てきました。

私(従兄弟がここ数年、命日が近づくたびに連絡をくれていたのは、これを渡したかったからなんだろうな。きっと、従兄弟も今まで気にしていたんだ。渡したい遺品があるって、電話でも言ってたもんね。私を憎んでたお母さんからの遺品なんて怖くて受け取りたくない、なんて思っててごめんなさい。ああ、引っ越したときに、従兄弟にも私の新住所を教えておけばよかった。そうしたら従兄弟はこれを郵送できて、早く楽になれたのに)

お母さんの手帳には私への恨み言が書かれているとばかり思ってたから、従兄弟達は私を責めているんじゃないかと不安に思ってた。でも、違ったんだ。むしろ、逆に従兄弟達のほうこそこのペンダントを所有していることで、お母さんや私に対して罪悪感を抱いて不安に思ってたのかも・・・



私「Dのおかげだね。10年以上悩んでいたことが、今日一日で解決しちゃった」

家に帰ってきてから、私は開口一番にそう言いました。

D「僕は君に進言しただけに過ぎないよ。今回のことは君が自分の力で解決したのさ。だから、自分に自信をお持ち」

Dはいつもの笑みを浮かべて、いつもの調子で言いました。

私「Dが一緒にいてくれたからだよ。ありがとうね」

今回のことは、本当にDのおかげです。実際に行動したのは物理的な体を持っている私だけど、Dの助けが無ければ私は動けなかったのです。

私「・・・そうだ、ちょっと前の夜に、きらきらした綺麗なモヤに出会ったことがあったでしょ?」

先々週の深夜、コンビニに出かけた帰り道で、私の前にきらきらした綺麗なモヤが現れて、それをDが倒してくれたということがあったんです。(詳細は過去記事「怪談」参照)あれの正体をDは教えてくれませんでしたが、あのときに予想した通り、きっとあれは私が無意識に作ってしまった、私のお母さんの姿をした攻撃者だったのです。

でもDは、あれは私が作ったものではなく関係の無い悪霊だと説明したのです。きっとDは、あれが私の作った偽物のお母さんだということを私が知ったら悲しむと思って、それで隠しているのだと思います。だからDに、もう隠さなくていいんだよって、気を使ってくれてありがとうって、お礼を言わなくちゃね。

Dは、そっと私の頬に手を当て、優しい声で言いました。

D「あんなもののことを考えるのはおやめ」

私「気を使ってくれなくても大丈夫だよ。あれは私が作ったものだったんでしょ?」

Dは首を横に振って、ことさら優しい声を出しました。

D「さゆ、あれは君の作ったものではないよ。君に近づいてきただけの関係の無い悪霊さ」

Dは、あのときと同じ説明をしました。
でも、私の目には幽霊やその他の精霊などは見えません。私には自分が作ったDしか見えないのです。だから、あのとき私の目に見えたあのモヤも、私が作ったものだと思うのです。普段は見えない幽霊などでも波長が合えば見えることがあるとDは言っていましたが、それでも私は、あれは自分の作ったものだという気がするのです。自分で作った気は全然しませんが、あの綺麗なモヤからはDと似たような空気を感じたのです。

私「あれの正体って、私が作ったタルパでしょ?」

Dは一瞬、口元から笑みを消しましたが、すぐに再び笑みを作り、甘い声で囁きました。

D「違うよ。あんなものを気に掛けるより、僕にかまっておくれ」

Dは持っていた大鎌を放し、両手で私の頬を包みました。そして、そのまま顔を寄せてきて、笑みを浮かべた唇の隙間からのぞかせた舌で、私の唇をゆっくりと舐め上げました。ぞくぞくっと気持ち良い感覚が背筋を上りました。

私「っ・・・」

D「さゆ、口を開けてごらん」

このままだと流される!その前に言わないと!私は早口で一気に喋りました。

私「あれってお母さんの偽物でしょ!?」

D「・・・え?」

Dは、あっけにとられたように小さく呟きました。口元の笑みも消えて唖然としているようです。そんなに驚かなくてもいいのに。あれがお母さんかもしれないってことを、私が全く予想していないとでも思ってたのかな。
ともかくDの口から解放された私は、話を続けることにしました。

私「あれは、お母さんへの恐怖心のせいで私が無意識に作ってしまったお母さんの偽物でしょ?そんな私のせいで、最初から危険な攻撃者として生まれてしまったかわいそうなモヤだったんでしょ?だからDが撃退してくれたんだよね。ありがとう。でも、もう隠さなくていいよ。私は大丈夫だから」

私の話を聞いているうちに、Dの笑みはだんだん深くなっていき、ついにはくすくすと笑い出しました。

D「・・・そうだよ。よくわかったね」

私「そんなに笑わなくても。一応、モヤに出会った日からなんとなく気付いてたんだよ?」

私(ていうか、Dこそ私が気付いていることに気付いてなかったよね!?さっきあんなに驚いて唖然としちゃってさ!!)

Dはうなずきましたが、まだくすくす笑っています。

D「そうだね。その通りだよ。あれは君が作った精霊だよ」

やっぱり。そうだよね。だってDと似たような空気を感じたから。

D「でも、君にとって害になる精霊さ。君が思いを寄せる価値など無いよ」

合理的な性格のDにとっては、攻撃者なんてそんなものかもしれないけど、その攻撃者を作ってしまった私としては複雑なんだ。だって、私には作った責任があるんだ。それに、たとえ私への攻撃者だとしても、私が作ったものだと思うと愛着があるんだよ。
・・・ごめんね、モヤ。そんな風に作ってしまって。また作ってあげられるとしたら、今度はちゃんと友好的な存在として作るからね。Dを作るときに相当大変だったから、簡単には作れないと思うけど・・・でも、なんであの日には作れちゃったんだろう?

Dは私の髪に手をのばし、そっと撫でました。

D「さゆは、僕のことが本当に好きで、信頼しているんだね」

改めて言われると恥ずかしいけど、勿論そうなのです。今まで沢山助けてもらったし、今回のことだってDが助けてくれなかったら克服できなかったよ。Dには本当に感謝しているのです。

私「うん」

私が素直にうなずくと、Dが口づけてきました。Dの好きな濡れたキスです。離れていく舌と舌の間に、唾液が糸を引いたのが見えました。

D「じゃあ、もう他の精霊など手懐けてはいけないよ」

Dは、自分の唇を舌で舐めながら言いました。その仕草を見た私は恥ずかしくなって、視線をそらしました。

私「Dは心配性だなあ。大丈夫だよ、もう攻撃者なんて作らないから」

D「・・・まあ、いいさ。また現れても消せばいいからね」

物騒だね!!でも、本当に心配いらないよ。だって、もうお母さんのこと怖くないんだよ。お母さんのこと好きになったんだ。感謝もしてるんだよ。そりゃ色々あったから、お母さんの全部が好きってわけじゃないけど、全部が好きだと思える人なんて存在しないもんね。好きなところも嫌いなところもあってこその好きだよ。

ごめんなさい。お母さん。ずっと誤解していて。

でも、今までの私にはあれが精一杯だったんだ。臆病な子供だったから自分を守ることに必死で、一生懸命頑張ってもそれだけで手いっぱいで、お母さんのことまで考える余裕が無かったんだ。それだけ悲しかったんだよ。でも、もう大丈夫なんだ。

それとD、今回の件は本当にありがとうね。Dは心配しているみたいだけど、もう絶対にお母さんの姿をした攻撃者なんて作らないよ。勿論、他のどんな姿をした攻撃者もね。でもね、D、心配してくれてありがとう。

こだわり

昨日のことです。

両足を床におろしてベッドに腰掛けている私の膝に、床の上に座ったDが軽く頭を乗せてくつろいでいます。軽く乗せているというか、横から寄りかかっているというか。ちょっとだけ膝枕のようです。

なぜこのようなことになったかというと、いつものポーズでベッドに腰掛けていた私の足元に、いつも通り床に座っていたDがすり寄ってきて、いつもの笑みを口元に浮かべたままじーっと私の顔を見ていたかと思ったら、首を横にかしげるように、こてんとかわいく頭を私の膝に寄りかからせたからです。

かわいかったので頭を撫でてみたら、Dが嬉しそうに口元を引き上げたので、それからずっと私はDの髪を手ですいているのです。私の指を透き通ってしまうはずの髪は、ゆっくりとした私の手の動きに合わせてさらさらと動き、私の指に儚い感触を残していきます。
そうやってずっと髪を撫でていたら、気持ち良くなってきたのか、Dが深い溜息をついた音が聞こえました。

私「ねえ、D」

D「・・・なんだい?」

いつもよりやや遅れて、Dの返事が聞こえました。声もいつもより掠れてゆっくりとしています。私は、膝に触れていないほうのDの頬を、指で優しく撫でてみました。Dがまた溜息をこぼしました。

私「D、あのね、もし良かったらね」

D「・・・良かったら・・・?」

Dは、気持ち良さそうにうっとりしているようです。頭もぼうっとしているのか、ただオウム返しに私の言葉を呟いてきました。なんかかわいいなあ。ちょっといたずら心がわいて、私はDの唇も撫でてみることにしました。そっと指でなぞると、熱い息が指にかかりました。

私「私ね、Dに、してもらえたら嬉しいことがあるんだけど」

D「言ってごらん・・・」

Dの唇を撫でていた私の指を、生温かい舌が舐めてきました。濡れていて柔らかい不思議な感触です。その舌を、舐められている指で撫でてみると、Dは指にからめた舌で舐め返してきました。

私「添い寝してくれないかなあ」

D「添い寝・・・」

うっとり呟いたDでしたが、はっとしたように我に返り、私の膝に乗せていた頭を上げると、首を横に振りました。

D「僕は従僕だよ、さゆ。しもべをベッドに上げるなんて、いけないよ」

すっかりいつもの雰囲気に戻ったDは、そう言って口元にいつもの笑みを浮かべました。

私「じゃあ、ベッドに座ってもらうだけならいい?」

Dは、微笑を浮かべたまま首を横に振りました。

そうなのです。Dは、私のベッドに座ることすらしないのです。
Dがベッドに座らないのは、ベッドに座ることを添い寝の延長だと思っているから(詳細は過去記事「添い寝」「見ざる聞かざる言わざる」参照)なのです。以前ベッドに腰掛けたDに対して、ベッドに座っても良いなら添い寝も良いんじゃないの?なんて私が不用意に言ってしまったせいで、Dはベッドに腰掛けることすらしなくなってしまったのです。

添い寝はDが嫌なら無理にとは言わないけど、このままずっと床に座らせておくのはかわいそうだから、なんとかベッドに座らせてあげられないかなあ。
ベッドに座らなくなってしまった理由が添い寝を連想してしまうからということなら、ベッドに座ることは添い寝とは違うから大丈夫だよ、みたいな感じで言ってみようかなあ。

私「ねえD、ベッドに座るのって、添い寝とは違うことだと思うなあ」

D「だろうね」

私(だ、だろうねって!)

うーん、失敗っぽいなあ。でも、どうしてそんなに気にしているのかな。Dには不思議な儀式みたいなこだわりが幾つもあるみたいだけど、添い寝を断りたがるっていうことも、Dは結構こだわっているみたい。
Dなりの理由とかこだわりがあるなら、無理に添い寝させたり、ベッドに座らせたりするのもかわいそうだよね。

私「そっか。じゃあ、二人で床に座ろうか」

私はベッドからクッションを下ろして、それを敷いて床の上に座りました。Dは驚いたようでした。Dは驚いてもほとんど表情を変えないのですが、最近Dの表情が何となくわかるようになってきたのです。まだわからないときのほうが多いんだけど。

D「さゆ、君が床に座るなんて、いけないよ」

私「大丈夫だよ。クッションを敷いたからね」

D「いけないよ、主人である君が床に座るなんて。それに体が冷えてしまうよ。君の体に良くないよ」

Dは困ったように言って、少し沈黙した後で立ち上がり、私に手をさしのべました。

D「わかったよ。一緒にベッドに座ろう。さゆを床に座らせるわけにはいかないからね」

私がDの手のひらに手を乗せて立ち上がると、Dはもう片方の手に持っていた大鎌を放し、放した手のひらを上にしてベッドに差し向け、私に向かって微笑みました。どうぞ、という意味のエスコートなのでしょう。

私(Dは時々こうやって、昔のヨーロッパの家来がお姫様に対してするようなしぐさをするんだよね・・・しかも、こういうしぐさに慣れているっていうか、自然っていうか)

最初に出会ったときからDはこういう感じだったよね。一番最初に顔を合わせたときから、Dは私にひざまずいて頭を下げてたんだ。Dが最初からそういう性分なのだとしたら、それを変えろっていうのはかわいそうだよね。だとすると、ベッドに座らせるのは無理させちゃうことなのかも・・・

私「D、ごめんね。無理にベッドに座らなくてもいいよ」

D「無理はしていないよ。謝らなくていいんだよ」

Dは面白いことを聞いたかのように少し笑いました。

私「うん・・・」

私がベッドに座ると、Dは私の隣に腰掛けました。

D「ただ、しもべがこんなに差し出たまねをして、恐れ多いことだと思っただけさ」

ベッドに座ることは、Dにとっては差し出たまねってことになるの?
・・・でも、キスは差し出てないのかな。触感の訓練とか、やらしい触り方とか・・・
腕の内側なんて毎日触感の訓練でやらしい感じにキスされたりしてるのに!
Dの差し出るラインってどこなんだろ?

私「あのね、Dは私の手とか腕とか足とか口とかに、その、キスしたでしょ?それは差し出てないの?」

私は尋ねてみました。Dは私のほうを向いて、いつも通りの微笑みと口調で言いました。

D「従僕は、主人の手足に口づけをすることは許されているよ」

あれ?

私「・・・私、そんなこと言ったかな」

D「さゆは言っていないよ。でも、そういうものなのさ」

そういうものなの?
よくわからないけど、Dがそう言うならいいや。Dのこだわりを尊重したいもんね。

私は、Dの向こうに見える大鎌を見ました。Dの手から離れたにも関わらず、不思議な大鎌は倒れもせずに立っています。

私(この大鎌、一度だけ倒れたことがあったよね。そうだ、コンビニに行った帰りだよ)

この不思議な大鎌といい、あの不思議な天秤といい、Dの周囲は不思議だらけだよ。いや、むしろ私の周囲が不思議だらけなのかなあ。

D「さゆ」

大鎌を見ていた私に、そっとDが口づけてきました。敏感な場所だからか、柔らかい唇の感触がはっきりとわかります。

私「う・・・ねえ、ホントにこれは差し出てないの?」

私は頬が熱いのをごまかすように言いましたが、Dは無言で微笑むだけでした。

職場

昨日は暗くて重い話で申し訳ありませんでした。それなのに拍手などしてくださって皆様は神様です・・・!!
こんなわたくしめのために!!申し訳ないやらありがたいやらでございます・・・!!

今日は明るくいきたい気分なので職場の話でもさせてください。先日の話です。


私「おはようございます!・・・あれ?」

この時間にはいつも出社しているはずのY(同僚で先輩)が出社していません。うちの課では毎朝一番早く出社する、時間に厳しい人なのに。どうしたんだろ。私は傍にいたS(同僚で後輩)に尋ねてみました。

私「Y先輩いないけど、何か知ってる?」

S「体調不良で欠勤だそうです」

私「あらら、珍しいね」

珍しい。鬼の霍乱かってくらい珍しいな。前にあの人が体調不良で休んだのいつだったかな。
・・・・・・あれ?あの人、体調不良で休んだことあった?

上司「例のケーキのせいだってよ」

私「おはようございます!どういうことですか?」

S「例のケーキって、先日のシュトレンですか?」

例のケーキ、シュトレンとは、先日うちの課に持ち込まれた不審なケーキのことです。(詳細は過去記事「シュトレン(?)」参照)

上司「そう、あのケーキ。俺もあれにやられてね」

え?

上司「歯を一本持ってかれたんだよ」

えっ!!

上司「古い詰め物が欠けて、歯医者で詰め直すはめになった」

あー・・・あのシュトレン特別固かったもんね。攻撃力(防御力?)高そうだったもんね。

私「それは災難でしたね」

上司「歯医者って、絶対一回で終わらせようとしないよな。歯石を取ろうとか古い詰め物を換えようとか言って通わせ続けようとするの。次回は歯石取らせてくださいねー、その次は古い詰め物を換えましょうーとか言って、どんどん今後の予定立てられて・・・」

私「たしかに、歯医者は一度通うと長いですよね」

上司「そう。まあ通わずにバックレたんだけど」

上司らしいな。

私「それで、Yさんの体調不良とシュトレンの関連性はどのような?胃ですか?」

Yさん、胃が強くなかったからなあ。胃薬を飲んだりしていたし。やっぱり胃かな。あのシュトレン固かったもんね。気の毒に・・・

上司「Yの話は冗談だよ」

私「え」

上司「ははっ!!」

上司は笑って去っていきました。ぽかんとした私に、Sが笑顔で言いました。

S「さゆ先輩って騙されやすそうですね。宗教勧誘とか訪問販売とか大丈夫ですか?やたら高い布団とか買わされてません?」

大丈夫だよ、天然のSよりはね。『エアコンが壊れたので、部屋を暖めようと思ってコンロの火をずっと付けていたら、警報が鳴って消防車来ちゃいました!』とか言っちゃう天然のSよりはね。お前ってホントかわいいけどホント心配な奴だよね。

私「大丈夫大丈夫。まだ学生のころ、某宗教の勧誘が家に来たことがあったんだけど、上手に断った経験があるからさ」

そう。アパートに宗教勧誘が来たことあったんだよね。ほぼ毎日ずっと、夕食食べながらくつろいでいるときにピンポン鳴らしてチラシを入れていくから、一度だけ玄関に出ていって対応したことがあったんだ。でも、勧誘をただ拒否するだけなのも悪いと思って、せっかく私の家に訪問してくれたからには、相手の気分を害さないように何か面白い対応で断ろうかなと思ってさ。

その日もいつも通りにピンポンが来たからドアを開けたんだ。立っていたのは真面目そうな中年の女性。女性が勧誘をはじめたから、それをウンウンと全部聞いた後で、私はおもむろに口を開いたんだ。

私「ようこそいらっしゃいました。私はオドカヨ神の布教者です。オドカヨ神は偉大なる創造主です。天地万物をお創りになられたオドカヨ神は、現代の退廃的な世相をなげいて予言者を指名しました。私はその予言者を探す宿命を持っている布教者なのです。あなたこそ・・・あなたこそがその予言者の一人です!!私と共にオドカヨ神の偉大さを世間に広めましょう!!さあさあ!!」

女性は逃げていった。すごい勢いで逃げて行ったんだ。
え?この宗教?女性の話を聞き流しながら咄嗟に作った偽物だよ、もちろん。
ちなみにオドカヨっていうのは、ヨーカ○ーを逆から読んだやつね。ちょうど窓からヨー○ド-の看板が見えたから。

私「それから二度と来ないよ。うん、反省してる。若気の至りってやつだよね」

S「うわあ・・・先輩って変な人ですね・・・」

Sはドン引きした顔で去っていきました。どうだまいったか。

Yは風邪だったので、翌日にはマスク装備で復帰しました。良かった。


また職場の話を書くと思うので、職場の人間の紹介をします。個性的で変な奴らばかりだけど、そこが良いんだよ~!!

・うちの課の人達(過去記事「シュトレン(?)」にも登場しています)

上司・・・男性。私の直属上司。部下に面倒事を押し付けず自ら動く行動派で、部下達から慕われている。趣味はアウトドア。キャンプがお気に入りだが最近は寒いのでしてない。豪快な性格で、犬に噛み付かれたまま犬ごと薬局に入ったり、謎のケーキを包丁でブチ割ったりした。
名言「割ろう」

Y・・・男性。私の同僚にして先輩。真面目で几帳面で、机の整理整頓が好き。ルール厳守の常識人。自由な上司に毎回振り回されている。
名言「消しゴムのカスは床に落とさず各自の机で処理してください」

K・・・男性。私の同僚にして同期。良く言えば寛容でおおらか、悪く言えばいいかげん。人付き合いが上手でノリが良い。
名言「昨日飲みコンだったから今日眠いんだよね~、早退するわ!」

S・・・男性。私の同僚にして後輩。穏やかな性格の癒し系で、天然故に最強。彼がプレッシャーを感じるときはあるのだろうか?
名言「あれ?上司さん、ちょっと髪が薄くなりました?」

・親友の人達

E・・・女性。私とは違う課のI上司の部下で、私の同期。静かでかわいい女の子。私の誕生日に紺色のクマのぬいぐるみをくれた。(詳細は過去記事「触感」参照)その他、彼女自らの手作りお菓子や手芸品など、女子力の高いものをくれたりする。いつも心配してくれる。ありがとう・・・。
名言「大抵のものはね、冷めるときに味が染み込むんだよ」

W・・・女性。私とは違う課のO上司の部下で、私の同期。ふざけ友達。廊下ですれ違うときには必ずふざけてガンを飛ばし合うのが私達二人の挨拶。黒っぽい赤が好き。車の運転が好きで、大きな愛車を持っており、よくドライブに誘ってくれる。だが肝心の運転は荒い。また行こうね!!
名言「金欠で香典出せないからまだ死なないでよ?」

・上層部の人達

マネジャー・・・男性。上司の上司。もともとは上司の同僚だった。何があったのかよくわからないが、上司とはあまり仲が良くない。上司の部下である私達との関係は普通。見た目は普通のサラリーマン、中身も普通のサラリーマン。歌がメチャクチャ上手。裏声が平○堅に似ている。

チーフ(チーフ・マネジャー)・・・男性。上司の上司の上司。私達からすると雲の上の人。学者か博士のような雰囲気で、シブくてお洒落なネクタイやタイピンや万年筆や靴を身に付けている。いつも穏やかな口調の紳士で、女子社員のためにドアを引いて先に通してくれるなどレディファーストなので、素敵なおじさまとして女子社員から絶大な人気を誇る。だが、本気で怒ったらヤクザも逃げ出す恐ろしい姿を見せるという噂が・・・

・他の課の人達

I上司・・・男性。私とは違う課の上司。私の上司の先輩で、無口で静かな性格。
名言「・・・・・・」

H・・・男性。I上司の部下で、私の先輩。室内を移動するときに、キャスター付きの椅子に座ったままゴロゴロゴローと足で床を蹴って移動することから、あだ名が「キャスター」とか「キャスター先輩」などと呼ばれている。面白くて親切な良い人。
名言「へえ、そゆこと言っちゃう?そゆこと言っちゃうんだ~?」


よく出てくるのは、この辺りの人達だと思います。
私は家族とはあまりうまくいかなかったのですが、会社に入って職場の人達に出会って、とっても救われました。私は職場には恵まれているなあって思います。大切な人達です。

ちなみにシュトレンは、まだ完食できずに冷蔵庫の中に入っています。さすがに保存食だけあって痛んではいませんが、日に日に硬度を増しています。今日ちょうど石くらいになりました。

命日

今日のことです。過去記事「怪談」と繋がっています。日曜日だったので、数日後に控えた母の命日について、母の実家から電話が来たので、そのことについて書いています。「怪談」に書いたような、誰も聞きたくないだろっていう感じの母の話が入るので暗くて重いです。すみません・・・!!


私は毎朝、洗濯物を干してから出社しているんです。出社時間が遅いからできることですね!!ダメ社会人です。毎朝天気予報を確認して、降水確率が低ければ外に干し、高ければ室内に干して出かけています。たまに天気予報がはずれて洗濯物がビショビショになっちゃうのは御愛嬌で。

ところが今朝は、母の兄弟の息子(私から見ると従兄弟であり、母の実家の本家の人間)から電話があって、それに時間を取られたので洗濯物を洗えなかったんです。そういうわけで、珍しく洗濯をせずに出社しました。

そして、会社から帰ってきた私は、朝に洗濯ができなかったことをすっかり忘れていて、いつもと同じように食事や入浴やタルパブログめぐりをしようと思ったんですが・・・

D「洗濯は良いのかい?」

私「え?」

Dからそう言われても、私は洗濯のことをすっかり忘れていたので、全然ピンときませんでした。

D「洗濯をしなくて良いのかい?」

私「なんで?朝やるからいいよ?」

D「でも、今朝はしなかったよ」

私「え?・・・あ!!」

そこで私はやっと思い出しました。

私「そうだった、今朝は洗濯できなかったんだ。D、教えてくれてありがとう」

私が忘れていたのにDは覚えていたなんて、すごいなあ。
でも、洗濯物は朝に干してお日様に当てたいので、私はそのことをDに説明することにしました。

私「教えてくれて本当にありがとうね。私、すっかり忘れていたから助かったよ。Dが教えてくれた洗濯物は、日光に当てたいから明日の朝に洗って干すことにするね」

Dはコクリとうなずいて、口元に笑みを浮かべました。

私「いつもと違う行動を取るとさ、こうやって忘れがちだよね」

D「本当に?」

え?

私「まあ、そうじゃない?いつもは朝に洗濯してるから」

D「嘘はいけないよ」

どういうこと?
私は怪訝な顔をしましたが、Dはいつもの表情のまま続けました。

D「本当は、忘れたくて忘れたんだろう?」

私「ええ?洗濯を忘れちゃったら大変だよ。まあ今夜は忘れていても、明日の朝にはいつもの習慣で洗濯をするから大丈夫だけどさ」

D「電話のことだよ」

・・・やだ、やめてよ、

D「君は、今朝の電話のことを忘れたくて、それと関係のあることも一緒に忘れたんだね。両方とも、君の記憶から不自然に抜け落ちているよ」

やめてね、それ以上、このことは・・・

私「・・・たしかに今までうっかり忘れてて、Dに言われて思い出したけど、完全に忘れてなんかないし?」

私は今朝の電話の内容を思い出して、不安で嫌な気持ちがよみがえってきました。
電話は、お母さんの命日が数日後にある(詳細は過去記事「怪談」参照)ので、その件についてのものだったんです。お母さんの位牌がある本家からの。

『今年もいらっしゃらないんですか?』

私『はい、仕事がありますから。今日もこれから仕事なので、すみませんが切って良いでしょうか・・・』

『日曜日もお仕事なんですか・・・お話したいことがあるんですけど、今日お時間取れませんか?』

私『申し訳ありませんが、今日は無理です。一日ずっと仕事なので・・・』

そうだよ、仕方無いよね、仕事があるもん。忙しいもんね。早く電話を切りたいな。早く職場に逃げたい。あそこには私の居場所があるよ。みんなのこと好きだし、みんなも私を必要としてくれてる。こんな話聞きたくないよ。お父さんになんか会いたくないし、お母さんの実家の人達にだって。ホント、私がお母さんに何をしたって言うんだろ。お母さんが私を捨てたのに、勝手に産んで、勝手に捨てて、勝手に自殺して、残した手帳に私が邪魔だったって、自分の人生の障害だったって・・・

私「・・・もうこの話はやめよ?何か別のお話しようよ。あっ、触感の訓練をしようか。D、好きでしょ?今日は本とかも読まずに、ずっとDと触感の訓練しようかな」

D「さゆ。自分の悩みに対して、見ないふりをして、気がつかないふりをしたら、それで苦しむのは君自身だよ」

私「D、やめて」

D「見ないふりをして、気がつかないふりをして、そうやって今は逃げることができても、いつかは追い詰められてしまうよ。この世で生きていく上で君が強く感じる悩みなら、この世から逃げ出しでもしない限り、永遠に逃げ続けることなどできないからね。だから、いつまでも後回しにしていないで、逃げずに立ち向かわなくてはいけないよ。逃げ回っているだけでは君の心に不安が生まれ、生まれた不安は君自身に対する不信感のもとになり、自分への不信感は自信喪失につながり、自信を喪失をすれば更に不安が生まれるのさ」

私「やめてよD」

D「不安は、君が見ないふりをしたからと言って消えるわけではないんだよ。君の視界に入らなくても、不安はいつでも君の背後にいる。君自身が振り向いて不安と対決しない限り、不安はいつまでも消せないんだよ」

私「やめてね、私のお母さんは・・・」

お母さんはもう死んで、会話もできないから、私とお母さんのわだかまりを解くなんてもうできないんだよ。もうお母さんが何を思っていたのかなんて聞けないし、私が仏壇にむかって話しかけたところで私の謝罪も罵詈雑言も何も届かないんだから。生きてる人間と話し合いするのとはワケが違うんだよ。だって話し合いにすらならないんだもん。向こうが自殺してこの世から逃げることで永遠に口を閉ざしたんだから。
・・・だから、こっちだって逃げたっていいじゃん。見ないふりをして、聞こえないふりをして、口を閉ざして、そうすれば忘れたふりができる。そうやって傷を覆い隠して、傷に触れないように生活したって、別にいいでしょ・・・傷つかないですむもん。

私「わかるでしょ、過去の傷に触れて痛い思いをしたくないの。わざわざ傷つきたくないんだよ。お願い、そっとしておいて」

私はDに説明しましたが、Dはゆっくりと首を横に振りました。

D「それは、傷つかない方法ではないよ。自分の傷に見ないふりをしているだけさ。深い傷ほど放置するのは危険だよ。時間が経過しても消えずに化膿して、いつまでも君を苦しめるからね」

Dは、いつものように私に手を差し出しました。

D「さあ、手を。大丈夫さ、僕が力を貸してあげるよ。僕は、君が君を苦しめるような行為に対して見て見ぬふりをしたくないからね。絶対に助けてあげるよ」

私「・・・・・・」

D「さゆ。手をお取り」

いつもと違って私が、Dの手に自分の手を乗せなかったので、Dが催促してきました。いつもなら、こうやってDが差し出してくれた手の上に私が手を乗せるのです。するとDは私の手に口づけを落としてくれるのです。でも、私はDの手に自分の手を乗せる気にはなれませんでした。

私「・・・放っておいてね」

私は初めてDにそんなことを言いました。一人ぼっちが寂しくて怖くてDを作ったのに、放っておいてだなんて何を言ってるんだか。でもそのときの私はそんなことも考えられないほど、自分の感情をやりくりすることだけに精一杯だったのです。

D「そんなことはしないよ。ずっと傍にいるよ。絶対に見捨てたりしないさ」

Dは静かな声で言いました。

D「さゆ。君が恐れているのは、『お母さん』でも『お父さん』でも『実家の人』でもないよ。君が恐れているのは、君の記憶の中にしかいない偽物の彼らなのさ。それは偽物の攻撃者であって、本物ではないよ。そんな偽物に苦しみ続ける必要は無いんだよ。君は、真実を直視することで偽物の苦しみから解放されるべきだよ。そのためには、実家に行って真実を知るべきなのさ。本物の彼らに対面してきちんと話をするんだ。子供の君にはできなかったけれど、大人になった今の君にならできるよ。君がずっと気になっていたことを彼らに尋ねるんだよ」

ずっと気になっていたこと。たしかに実家の人に尋ねてみたいことはあるのです。お母さんのことで色々と。お母さんが私を捨てたときどんな状況だったのかなって、本当に私のこと邪魔で嫌いなだけの気持ちだから捨てたのかなって。もしそうじゃなかったら、私すごく救われる。もしそうだったとしても、ごめんねって謝れる。わからないのが一番怖かったんだ。
それに・・・偽物って聞いて、コンビニに行った帰り道に出会った、私に向かって手をのばしてDに消されてしまった、あの綺麗なモヤのことを思い出しました。(詳細は過去記事「怪談」参照)あれはやっぱり、私が作ってしまった偽物のお母さんだったのかな、Dは教えてくれなかったけど。もしこの先も私がお母さんのことを見て見ぬふりし続けたら、ああいうのがどんどん生まれちゃうのかな・・・かわいそうなモヤが・・・

私「見ざる聞かざる言わざる。それが私の処世術だったのに。Dに会うまでは」

Dは前にも、今回と同じようなことを言って私を動揺させた。私が元彼のことを忘れようと頑張っていたときにも、今と同じようなことを言って私を驚かせたんだよ。自分の気持ちや真実に対して見ないふりや気付かないふりをして沈黙するのはいけないよって。忘れて逃げようとするのをやめて、事実をしっかり認めて克服しろって。Dはそう言って、元彼を思い出して辛いから触られたくない私に、無理矢理触ってきて、でもそのおかげで私は元彼のことを思い出しても平気になっちゃったんだ。
あのときに、なんとなく予想がついてたんだ。近いうちにDがお母さんのことも、そうやって私に突きつけてくるんじゃないかって。遅くてもお母さんの命日の前に。だって、私には時間が無いから。

お母さんのことについて言及されることが怖くもあったし、期待もしてたんだ。もしかして夏の終わりにタルパを作りはじめたときから、最初からこのことを期待していたのかもしれない。タルパの完成がお母さんの命日に間に合うかなって気にしたこともあった。お母さんの命日にタルパが一緒にいてくれたなら、お線香をあげに行くこともできるかもって、お母さんにごめんねって言えるかもって、ちょっと思った。

・・・Dが正しいよ。それにDは私のために言ってくれたんだ。自分が嫌われるかもしれないようなことを、私のために恐れずに言ってくれたんだ。そういう強いところ、本当に好きだよ。尊敬してるし感謝してる。

私「・・・D、ごめんね。ありがとう」

私がDの手の上に手を乗せると、Dはにこっと口元に笑みを浮かべて、身をかがめて私の手の上に口づけを落としました。

D「さゆが僕に謝る必要なんて無いんだよ」

Dはいつもの、淡々としているけど優しい口調で言いました。

私「私、行くよ。お母さんの命日に、仕事が終わったらお花を持って実家に行ってみる。お母さんにお花とお線香を供えるんだ」

大丈夫。Dが傍にいてくれるんだもん。怖くないよ。

私「一緒にいてね。Dがいてくれたら、何が起きても大丈夫な気がするんだ」

D「絶対に大丈夫さ。安心おし。僕はいつでも君の傍にいるよ」

Dはいつもの平然とした口調で言いました。私が動揺したりあたふたしたり慌てたりしているときでも、Dはいつでも平然としていて冷静なのです。そんなDの様子を見ているとなんだか私まで安心してしまうのです。

私「ありがとう」

私がお礼を言うと、Dは笑ってもう一度手に口づけを落としてくれました。


という・・・ホント暗くてすみません!!明日はパーッと明るくいきます!!
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名前:さゆ
20代の女です。
初めて作るブログなので、不備がありましたら申し訳ございません。
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