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ヒーリング

上司の件ですが、今日チーズを渡して「遅くなって申し訳ございません。お誕生日おめでとうございます」と言ってみました。上司は目をパチクリしながら「・・・え?あ、ありがとう。ていうか、よく知ってたな」という薄い反応でした。あ、あれ?誕生日を祝ってほしくてチラチラそわそわしてたわけじゃなかったんだ・・・また私が勝手に妄想して突っ走っただけかーーー!!



以下は、昨日の話です。数日前に、いつもお世話になっている大好きなタルパー様(お名前は伏せたほうが良いですよね・・・?)が、タルパさんからヒーリングを受けた記事を書かれていたので、私もDにやってもらいたくなって、お願いしてみました。

私「ねえD、もしヒーリングっていうものが、訓練しだいで私も感じることができるようになるなら、ちょっと訓練してみたいんだけど・・・だめかなあ」

Dはヒーリングが出来ません。以前、Dがそう言ってました。(詳細は過去記事「誤解」参照)でもそれは、最初にDと出会ったばかりの頃、まだ触覚の訓練を何もしていない頃に、Dに触られた触覚を私が受け取れなかったように、私がDのヒーリングを受け取れないだけかもしれないので、もしかして私の訓練次第でヒーリングができるようになるんじゃないかなって。

D「さゆは、どういうものをヒーリングだと思っているんだい?」

私「え?えっと・・・痛みを取ったりとか、心を癒したりとか・・・?」

正直、ヒーリングというものについて、どういう効果がどの程度あるのか私にはわからないんだ。だからDにうまくヒーリングを説明できなくて、そのせいでDがヒーリングできないのかなあ。

D「なるほどね。それなら、君が訓練しなくてもできるよ」

私「えっ」

Dは、私の無茶振りに対して、あっさりとOKをくれました。

私「できるの!?」

驚く私に、Dはこくりとうなずきました。

D「できるよ」

私「・・・い、いいの?ヒーリングしてくれるの?」

D「いいよ。ヒーリングするよ」

や、やった・・・!!

私「ありがとう・・・!!」

私がお礼を言うと、Dはもう一度うなずいて、いつもの笑みを浮かべたまま首をかしげました。

D「それで、どこの痛みを取れば良いんだい?」

私「えっと・・・」

そういえば今、別に痛いところ何も無いな。

私「痛みとか、特に無いんだけど・・・しいて言えば、少し肩こってるかな・・・?」

全然大したことないんだけど、一応仕事で少しは体が疲れてるかな。肩がこってなくはない。すごくこっているわけじゃないけど。
うーん、ヒーリングの効果を実感するには、もっと疲労が蓄積しているときとか、偏頭痛とかで具合の悪いときにやってもらったほうが良かったんだろうなあ。

D「肩だね」

こくりとうなずいたDが、ベッドの上に上がってきました。そのまま私の背後に移動したと思ったら、私の両肩にそっとDの両手が乗せられた感触と温度を感じました。

D「いくよ」

わあ、ドキドキする!!ヒーリングってどういう感じなんだろ!?肩に乗せられたDの手から、何かパワーみたいなものが送られてくるのかな!?そしたらどうなっちゃうんだろ!?

私「お願いします・・・!!」

・・・もみっ

私(・・・ん!?)

もみ、もみ、もみ、もみ、もみ、さすり、さすり、さすり、さすり、もみ、もみ、もみ、もみ

私(・・・ふ、普通に肩をもんでくれてる・・・!!)

もまれている感触も、Dの手の人肌の温度も、すごい気持ち良い・・・って、気持ち良いけど、これ、ヒーリングじゃなくて、マッサージだよね・・・!?

私(不思議な力を送ったり、不思議な力で体内の環境を変えたり、そういうのがタルパのヒーリングだと思うんだけど・・・)

これは、普通のマッサージだよね。普通の肩もみだよね。

D「どうだい?」

私「あっ、すっごく気持ち良いよ。ありがとう」

D「それは良かったよ」

Dは嬉しそうです。これはヒーリングじゃなくてマッサージだと思うけど、でも、もうそんなことはどうでも良いのです。だって、実際に気持ち良いし、何よりDがしてくれてるっていうことが嬉しいもんね。

私(・・・でも、Dのことだから、私の触覚を読みながら触ってるはずだよね。だから、私が気持ち良く思ってるかどうかは、私に尋ねなくてもわかってるはずなのに)

気持ち良いかどうか、わざと尋ねるなんて、そういうことしてるときみたいで恥ずかしーよ・・・!!

くすっと笑った声が、後ろから聞こえました。私がDの言葉にドキドキしたことで、私の触覚の中にそういう種類の気持ち良さが一瞬だけ生まれたことを、Dは敏感に感じ取ったようです。やっぱり触覚を読みながらマッサージしてたんだね。は、恥ずかし・・・



私「ほわああ・・・なんか、エステのマッサージみたい・・・」

人の手でマッサージされるって気持ち良いね。手の温度が気持ち良いし、自分でするときと違って手が疲れないし。それにしても、上手だなあ。私が過去に指圧師さんや整体師さんから受けたマッサージの記憶を読んでるのかな。多分そうだよね。ふわふわ優しくもんだり、ぐいぐい強く押したり、さすって血行を良くしたり、やり方がそっくりだもん。

私「D、マッサージ上手だねー・・・」

気持ち良くて、眠くなってきたー・・・

D「お気に召したなら良かったよ」

なんか、甘くて良い匂いするし。一度だけエステで受けたマッサージみたい。確かあのときは、良い匂いのアロマでリラックスしながら、マッサージしてくれるっていうサービスだったんだよね。ゴージャスな気分になれて良かったけど、普通の整体院に比べて値段がメチャクチャ高いから通い続ける気がしなくて、一度だけしか行かなかったけど、あのときみたいな良い香りがするね。

私「良い香りがするけど、これってDが作ってくれた幻臭?」

ぼーっとしながら言うと、Dがくすくすと笑う声が後ろから聞こえました。

D「これは、さゆが干した洗濯物の洗剤の香りだよ」

あ、忘れてた。さっき洗濯したんだ。デリケートなスカートだから、お洒落着洗いで洗って部屋干ししたんだった。

D「・・・君に、幻臭を与えることは慎重になるべきだと思っているよ。君は嗅覚に関しては敏感で繊細だから、幻視や幻聴とは違って、君にとって幻臭は現実と区別がつきにくくなるかもしれない。そうなると君にとっては不便だからね」

そっか、だからDに香りをあげると言ったときの反応が微妙だったんだね。(詳細は過去記事「香水」参照)Dは私のために色々考えてくれていたんだ。

私「Dの香りは、幻臭として感じないほうがいい?」

D「君にとってはね。君が僕のために香水を探してくれるのは嬉しいけど、僕は君が心配だからね」

私「・・・そっか」

Dが警告するくらいなら、本当に私の精神にとって、あまり良くないことなんだろうな。

私「じゃあ、Dの香りはイメージするだけにしとこうかな」

D「そうだね。それがいいよ、さゆ」

私「うーん、どういう感じがいいかな。Dは自分の香りを感じることはあるの?どんな感じの香り?」

Dは少し沈黙して、考えながら話し始めました。

D「・・・僕達の香りは、人間の感じる香りとは違うからね。これを、あえて嗅覚として表現するなら、静謐の空気か、夜空の色か、安寧の温度か・・・」

全然、香りって感じじゃないね。イメージってこと?どっちにしても、Dみたいな生き物の感じている香りって、人間の感じている香りとは全く違うみたいだね。

私(Dの香りをイメージするのは難しそうだな。調香してみたいなって思ったんだけど・・・)



私「もういいよD、手が疲れちゃったでしょ?すごく気持ち良かったよ。本当にありがとうね」

後ろを振り返ってDにお礼を言おうとしましたが、Dはいつもの笑みを浮かべたまま首を横に振りました。

D「平気さ。僕の体には『疲れ』という現象が起きないからね」

私「え!?」

またもや驚いた私に、Dは楽しそうに笑みを深くしました。

D「僕は、人間とは違う体のつくりをしているからね。物理的な質量を持たない僕の体には、時間や運動の負荷による疲弊は起きないのさ」

なんだか、Dは少し得意げに見えます。かわいいなー。

D「だから、もう少しさせておくれ」

Dは再び私の肩に手を置いて、さすり始めました。

私「ありがとう・・・」

そうなんだ、Dは、疲れないんだ。
あ、でも、体はってことは、精神には疲れが起きることもあるのかな。今まで、Dが精神的に疲れた様子を見せたことは一度も無いけど・・・

私「悩みとかあったら、何でも言ってね」

D「? 」

Dは後ろにいるから私には見えないけど、いつもみたいに不思議そうに首をかしげているのかな。

パワーストーン

なんか昨日、上司がやたら私達部下のほうをチラチラ見てくるし、そわそわしてるなあと思ったら、連休中に上司の誕生日があったようです。今日、キャスター先輩から聞きました。知らなかった・・・!!チラチラそわそわしてたのは、お誕生日おめでとうございますって言われるの待ってたのかなあ。なんか申し訳無い気持ちになったので、今日帰り道にチーズを買っておきました。上司の好物です。明日『遅くなってすみません、お誕生日おめでとうございます』って言いながら渡してみようと思います。



以下は、連休中の話です。過去記事「香水」の同日で、午後の話です。Dには依代が無いので、いいのがあれば買いたいなと今までずっと思っていたのですが、タルパの依代にはパワーストーンが良いと聞いて(読んで)、今回初めてパワーストーンのお店に行ってみることにしました。

D「どうしても行きたいのかい?」

でも、Dは乗り気ではなさそうです。前に、Dの依代としてパワーストーンを買うことを提案したときも、Dは必要無いと言って断ってきました。

私(ええと・・・『一回、行ってみたかったんだ』っと)

D「さゆにも僕にも、必要の無いものだよ」

私(えと・・・『買わないにしても、見るだけならう』おっと、打ち間違えた。一文字消してと・・・『いいでしょ?』)

電車に揺られながら、私は携帯のメール画面にポチポチと文章を打ち込んでいます。Dと筆談をしているのです。Dは脳内会話ができないので、Dと会話をするには口頭での会話か筆談をする必要があるのです。

D「さゆが欲しいなら買ってもいいんだよ。でも、僕のために買うのはおよし」

あらら。Dは気を使ってくれているのかな。でも、なにかDにプレゼントしてみたいな。

私(あ!!・・・『もしかして、Dってパワーストーンが苦手だったりする?それなら行くのはやめて帰ろう』)

全然思いつかなかったけど、もしかしてDはパワーストーンが苦手だから必要無いって言ってるのかも。それだったら、お店に連れて行くなんてかわいそうだよね。

D「僕は、何も問題無いよ。君の職場の玄関も石だし、君と一緒にジュエラーに何度も行ったことがあるよ」

そっか。言われてみればそうだね。私の気に入っているダイヤのペンダント、似合うよって言いながら触ったこともあったよね。
それにしても、私がジュエラーをひやかして、店頭で鏡に向かってアクセを付けてみたりする様子ならDは楽しそうに見ているのに、今回は全然乗り気じゃないね。Dのために私が何か買うのは申し訳無いって思ってるのかなあ。



電車を降りて歩いていくと、お店はすぐに見つかりました。

私「こんにちはー」

お店の中は清潔な感じで、机の上にずらっとパワーストーンが並べられています。ペンダントやブレスレットになったものや、これからそうなるのであろうパーツらしきものや、トゲトゲと尖って自然の雰囲気を残しているものもあります。

私(色々あるなあ。でも、パワーストーンに関しては全くの素人だから、どういうものを選んだらいいのかよくわからないな)

一応、下調べしてから来たんだけど、本物はまた雰囲気が違うね。それに、同じものでも、色が一つずつ微妙に違うんだなあ。

私(Dのイメージ的に、紺色が似合うと思うんだよね。このお店の中では、このサファイアとかラピスラズリっていうパワーストーンの色が似合うと思うな)

サファイアっていうと、ジュエラーに置いてあるような、完全に透き通っていてカットされたものしか見たこと無かったから、こういうのは新鮮だなあ。ラピスラズリは夜空みたい。キラキラ金色の細かい粒が入っていて、星が光る夜空を切り取ったみたいだな。

店員さん「何か、お探しですか?」

優しそうな女性の店員さんが、話しかけてくれました。

私「気に入るのがあるかなーと思って、ちょっと見てたんです」

そう、Dの気に入るのがあればいいなって思ってるんだけど・・・
私がDのほうをチラっと見ると、Dは私のほうを振り返って微笑んでくれました。

店員さん「どういったものがお好きですか?」

Dは、どういうのが好きなんだろ?どうせならDの好みに合わせて買いたいよね。
もう一度私がちらっとDを見ると、Dは首を横に振りました。えっ、どういうこと!?

私「・・・ええと、私のじゃなくて彼にプレゼントしようかなって思ってまして・・・ちょっとメールして尋ねてみても良いですか?」

店員「はい、どうぞ」

私は携帯を取り出しました。Dと筆談するためです。店員さんは、私から少し離れた位置に移動して、パワーストーンのディスプレイを直し始めました。

私(ええと・・・『D、さっき首を振ったのは、どういう意味?パワーストーン好きじゃないの?』)

私の携帯をのぞきこんでメール画面を読んでくれたDは、傍にあった水晶に手をのばして、トンと人差指でつつきました。

D「君に、こういった類のものは必要無いよ。幸せも、意欲も、守護も、癒しも、君が欲しいというなら僕があげるよ。だから、君にとって無駄な買い物だよ。僕は石よりもずっと強い力を持っているし、動けない石にはできないことが沢山できるよ?」

前髪で目を隠し、片手に死神のような大鎌を光らせるという不審な姿をしておきながら、Dはかわいく首をかしげてみせました。

D「ね」

どうやら、Dは本当にパワーストーンを歓迎していないようです。Dの依代にと思って買うつもりだったから、Dが気に入らないなら買わないほうがいいよね、残念だけど・・・

私「す、すみません!!彼と連絡がつかなかったので出直します」

私は店員さんに謝って、お店を出ました。



私(なにかDにプレゼントしたかったんだけどな・・・依代のプレゼントなら、タルパの本能(?)で喜ぶかと思ったけど・・・そもそもDはタルパじゃないかもしれないし・・・失敗失敗)

Dの気に入るものとか、もらって喜ぶものを知りたいな。いくらDに尋ねても、僕の望みは君の幸せだよとか、僕が欲しいものは君だけさとか、そういう甘いことしか言わないんだもん。(詳細は過去記事「Dに感謝」「結婚式」参照)絶対、私に気を使ってるよね。もしかして、私の労力やお金をDのために使わせないようにしてるの?

私(私が自分のものを買うときは、嬉しそうに見てるのに・・・)

あー、何かDにプレゼントしたいな。

私(ええと・・・『Dにプレゼントしたいんだ。何が欲しい?物でも、どこかに行きたいとかでも、何でもいいよ』)

そこそこ電車が混んでいるので、Dには私の影の中に入ってもらっています。私は壁に背中を預けて、メールをポチポチ打ちました。

D「プレゼント・・・」

Dの呟く声が、すぐ近くから聞こえました。Dは影の中に入っているとき、床や壁にうつる私の影の中だけでなく、私の体にうつる私の影を移動して、そこから周囲を見ることもできるのです。今は、私の顔にうつった髪の影からメール画面を読んでいるようです。

D「僕の欲しいものは、さゆだよ。だから、既にもらっているよ」

私(いつもと同じだなあ。タルパの本能なのかな。いや、Dはタルパじゃない気がするから、Dの種族(種族とかあるのかな?)の本能なのかな・・・『私のこと以外で、何か無い?』)

D「無いよ」

無いの!?

D「・・・・・・」

ん!?なになに!?

Dが黙り込んだので、何か考えているのかと思って、私は黙ってDの言葉を待ちました。でもしばらくしてDが言ったのは、「さゆ、降りる駅についたよ」という言葉でした。

天秤(2)

連休が始まった初日の夜、ベッドに入った後のことです。明かりは、カーテンを透けて入り込む外灯の、ボンヤリとした光しかありません。薄暗闇の中、毎日の日課である就寝前の触覚の訓練(詳細は過去記事「触感」参照)も終わったので、私はめくり上げていたパジャマの袖をもとに戻しました。

D「おやすみ、良い夢を」

おやすみのキスをくれたDが、自分の足元から何かを拾い上げました。薄暗闇の中で、その何かはきらっと光りました。

私(・・・?)

取り出した何かを、Dは私のほうに向けました。天秤です。以前にもDが使っていた、あの天秤です。(詳細は過去記事「天秤」参照)

私「ねえ、D」

私が話しかけると、Dは笑みを浮かべた口の前で人差指を立てました。静かにという意味のジェスチャーです。
Dが真剣な顔で見ている天秤は、あのときのように、何も器に乗っていないのにゆっくりと傾きだして、黒い器のほうに少しだけ下がった状態で止まりました。前と同じような下がり具合です。いや、前のほうが今より下がってたかも。

D「・・・まあ、いいさ」

私「?」

Dは小さく呟いて、天秤を自分の足元の闇に沈めました。周囲も暗いからわかりにくいけど、きっと前と同じように自分の影の中に天秤をしまったんだね。



それから毎日毎日、就寝前の触覚の訓練が終わった後で、Dは天秤を取り出して何かをはかるようになりました。
天秤がいつもと違う動きを見せたのは、先輩の結婚式に着ていくドレスを決めようとして、一人でファッションショーをしていた日(詳細は過去記事「結婚式」参照)の、夜のことです。

いつものようにDが私に向けてかざした天秤は、いつもとは逆の方向に傾きだしました。

D「おや」

天秤は、白い器のほうにゆっくりと傾いて、ほんの少しだけ下がった状態で止まったのです。Dの笑みが濃くなりました。

私「ねえD、その天秤って何をはかってるの?」

前にDが天秤を取り出して何かをはかっていたときは、私が体調を壊したときだったから、この天秤は私の健康状態をはかるものかと思っていたんだけど・・・だったら今日急に天秤が反対側に傾くっておかしいよね?体調、全然変わらないもん。
一体この天秤、何をはかってるんだろう?

D「こんな天秤のことなど、さゆが気にする必要は無いよ」

以前この天秤について尋ねてみたときも、教えてもらえずに、はぐらかされたんだよね。

私「でも、なんか気になるよ」

天秤はガラスで出来ているかのように、透明でキラキラしていて綺麗です。細かい彫刻がなされているせいで、余計にきらきらとしているのです。私は、そっと手をのばしてみました。

D「いけないよ」

でもDは、私の手に天秤が触れないように避けて、自分の影の中に天秤を沈めてしまいました。

私「あっ・・・」

D「あんな天秤など、さゆが触れる価値は無いよ。さゆが気にかける価値すら無いさ」

でも、連休が始まってから、Dは毎日天秤を私にかざしているよ。それって、すごく気になるんだけどな。むしろそれだけ天秤を出しておいて、気にするなって言われても難しいよ。

私「ちょっとだけなら、触ってもいいでしょ?」

D「あんなものに触るくらいなら、僕を触ればいいよ。ほら、好きなだけ触って良いんだよ」

私「でも、気になるんだけど・・・」

D「僕のほうが触り心地も良いし、温かいよ?さゆは、寒いのが苦手だろう?あの天秤は冷たいよ。なにしろ生きてないからね」

そりゃ天秤が生きてたらビックリだけど、ていうか、Dこそ生きてるのかな。みずから天秤と自分を比較してみせるくらいだから、D的には自分は生きていると思っている、ということだよね。

私「前も天秤については何も教えてくれなかったけど、今回も何も教えてくれないの?」

D「・・・・・・」

Dは口元に笑みを浮かべて沈黙したまま、私の髪を撫で始めました。

私「Dが話したくないなら、無理には尋ねないけど」

D「・・・・・・」

Dは首をかしげて、何か考えているようです。話そうかどうしようか迷ってるのかな。かわいそうなことしちゃったかな。

私「わかった、話さなくていいよ。あの綺麗な天秤、きっとDの大切なものなんだね」

細かいガラス細工で出来ていて、きらきら光って可愛くて。少女趣味というか、メルヘンチックなんだよね。全然Dの趣味じゃないよね。Dはクラシックなものが好きだけど、もっと落ち着いた荘厳な感じの装飾が好みだもんね。あの天秤は、Dの趣味というよりは、むしろ私の趣味に近いと思うんだ。すると、あの天秤は私が無意識に作っちゃったものということかな。でも、作った本人の私が何も知らないって、不便だなあ・・・

D「・・・綺麗?」

小さく呟いたDは、首を振りました。

D「あんなもの。綺麗なのは、さゆだよ。でも、やはり、さゆは綺麗なものが好きなんだね。もし僕が綺麗だったら、さゆはもっと僕を気に入ったかもしれないね・・・」

えっ、綺麗なD? 綺麗なジャイア○みたいな、綺麗なD?

私「それはちょっと、だいぶ、イメージ違う。Dはそのままが一番だよ」

そもそも、Dは綺麗だと思うけどな。今のDの人間の姿は、私のイメージに合わせて作ってくれている姿だけど、髪はサラサラだし、鼻も口も私が選んだモデルさんそのものだから、すごい整ってるじゃない。指だってすらっとして綺麗だよ。

私「何かDを不安にさせちゃったのかなあ。ごめんね。でも私はDが『大好き』だし、『特別』だし、一番だよ」

Dは私の顔をじっと見ていましたが、やがて納得したようにこくりとうなずきました。

D「僕も、さゆが大好きだし、特別だし、一番だよ」



次の日も、その次の日も、Dは毎日天秤をかざし続けました。天秤は、ずっと白い器のほうに傾いたままです。Dはその様子を見ては、嬉しそうに笑みを濃くするのです。

私(ホント何なのあの天秤!?何をはかってるの!?すっごい気になるんだけど!!)

でも、Dには話さなくていいよって言った手前、もう尋ねられないなあ。

私「嬉しそうだね」

私は、白い器が下がった天秤を見て嬉しそうにしているDに、話しかけてみました。

D「嬉しいよ」

Dは素直にうなずいて、天秤をぱっと手から離しました。

私「落ち、壊れっ・・・」

高い音を立てて、天秤が床にぶつかりました。ガラスみたいな繊細なつくりをしているから、床に当たって割れてしまったのではないかと思いましたが、どうやら平気なようです。ほっと胸を撫で下ろした私に、Dが口づけてきました。

D「さゆ」

明らかに、本気で行為を始めようとしているDの服を引っ張りながら、私は天秤のほうを見ました。

私「ね、ねえ天秤は?床に放りっぱなしでいいの?大切なものなんでしょ?」

D「こんなときに、他の」

焦れたように言ったDは、突然言葉を切って、くすくす笑いました。

D「・・・ひどいよさゆ。こういうときくらい、僕のことだけ考えておくれよ」

かわいく首をかしげて、甘い声でそんなこと言っても、駄目・・・なわけないよお・・・Dのこと好きなんだもん・・・うう・・・恥ずかし・・・!!

味覚

連休中の話です。

Dは、ものを見ることができて、触られた感覚もわかるし、聞くこともできるし、香りもわかります。要するに、Dには視覚と触覚と聴覚と嗅覚があるのです。

私(・・・Dは何も食べないって言ってたけど・・・)

何も食べないDに、味覚はあるのかな?
ずっと気になっていた私は、ロリポップをDに差し出してみました。

私「D、これを舐めてみて」

Dはこくりとうなずいて、飴に顔を近づけて、そっと舌で舐め上げました。

D「飴だね」

いつもの表情にいつもの口元の笑みを浮かべたまま、Dが言いました。
・・・なんか、香水をかがせたときも『香水だね』って、今回と同じような感想を言ってなかった?(詳細は過去記事「香水」参照)

私「甘い?美味しい?」

私は、詳しい感想を尋ねてみることにしました。

D「・・・・・・」

Dは、いつもの笑みを浮かべて沈黙したまま、首を横にかしげました。

私「あ、あれ? もしかして、Dって甘い味が嫌い?」

Dは、かしげていた首をもどして、口を開きました。

D「・・・味覚は、別段必要なものではないよ」

えーっと、つまり、Dは味覚を感じられないってことかなあ。

D「味覚など無くてもさゆを守れるし、さゆに忠告できるし、さゆを楽しませることもできるよ」

うん。やっぱり味覚は無いってことなんだね。

世の中のタルパさん達は、タルパーさんと一緒に食事を楽しんだり、タルパーさんの作り出したものを食べたり、好きな食べ物があったりするよね。それどころか、自分で料理ができるっていうすごいタルパさんもいるんだよね。やっぱりDは、タルパらしくないなあ。

・・・っていうか、むしろ・・・Dって、そもそもタルパなのかな・・・

まあ、どっちでも良いけどね。多分、大した問題じゃないよ。DはDだもん。

D「人間と同じ味覚ではないけれど、舌でさゆを知覚することならできるよ。舌は僕の体の中身で構成しているから、手でさゆを触ったときよりも、ずっと甘くて強い快感を得ることができるのさ」

そういえば以前、私に触れることは場所や触り方とは関係無く、強い快感だって言っていたよね。(詳細は過去記事「五感」「こだわり」「撫でたい」参照)それは、Dが人間とは違う『好き』の感情を私に抱いてくれているからなのか、それとも・・・

・・・ん?

私「ねえ、Dってどの器官を使って周囲を見ているの?」

Dはリアルな人間の姿をしているけど、リアルな目を作るのは難しくて、まだDに目を作ってあげられてないんだ。でもDには周囲が見えてるよね。

D「体のどこでも、周囲を認識することができるよ。僕は、人間の見ている視覚映像と同じ光景で周囲を認識しているわけではないから、厳密に言えば『見ている』わけではないけどね。僕のその機能をあえて視覚として表現するなら、僕は体のどこでも周囲を見ることができるよ」

Dは、全身が目と同じ感覚能力を持っているということ?
・・・ということは、今までDにお願いしていた「後ろを向いていてね」は、意味無かったってことか・・・(詳細は過去記事「仲直り」参照)

そういえば、目もそうだけど、私はDに耳も作っていなかったんだ。今はあるけど。作ってないのにいつの間にかできてたんだよね。でも、耳が無いのに最初からDには私の声が聞こえていたんだ。その理由も、Dにとっては全身が耳と同じ感覚能力を持っているからということ?

私「じゃあ、Dの体は人間とは違って、どこでも目で、どこでも耳ってこと?」

アメーバみたいな生き物ってことかな。

D「そうだね。厳密に言うなら僕の感覚器は、人間の目や耳のような細分化された器官ではないけどね。人間の視覚・聴覚・触覚・嗅覚に該当する僕の感覚器は一つだけで、しかし体のどこでも感じられるのさ」

感覚器官は一つでも、その一つの器官でDは何種類もの感覚を感じてるってことなんだろうな。だってDはよく「綺麗だね。それに甘くて良い香りがするよ」って言うもん。それってつまり、視覚に似たような感覚である「綺麗」と、嗅覚に似たような感覚である「甘くて良い香り」という、その2つの感覚は少なくとも別の感覚として感じているってことだもんね。

私「うーん・・・」

今まで、細かいことまで考えてこなかったけど、Dは全く人間と違う体の構造をしているんだなあ。

そもそもDの本来の姿は、人間の姿じゃないって言ってたもんね。今の姿は私のイメージに合わせて作っているだけだって言ってた。もしかして、前に一瞬見せたモヤみたいな形の無い黒い影が本来の姿なのかな。(詳細は過去記事「怪談」参照)それともあれは、タルパが2体も同時に現れたことで、私の脳がキャパオーバーを起こして、ちゃんと姿まで認識できずにモヤの姿としてとらえたの?

・・・あるいは、私の幻視を制御しているDが、あのときの光景を私に見せないようにするために、わざと見えずらく調整したとか。私に見せないように気を使ってくれるくらいなら、すごく怖かったり気持ち悪い光景だったのかもしれないね。

でも、そうか。Dには味覚が無いのか。美味しいものがわからないなんて、ちょっとかわいそうな気がするね。

私「・・・あれ?前にD、甘いって言ってたよね?」

ダマスクローズティーのカップをDに差し出してみたとき、カップのふちを舐めて、甘いって言ってたよね。(詳細は過去記事「バラ」参照)

D「さゆの痕跡が残っていたからね。さゆはいつでも甘くて良い香りだよ」

私の持っているロリポップを指さして、Dは首をかしげました。

D「それも君の口に入れば、僕にとっては甘くなるよ」

またそういうこと言う・・・そういう誤解されるようなこと言う・・・

私「そういうこと言わないように。今回の、Dの味覚を調べるっていう実験は、ブログに書くつもりだから。実験が終わるまで、えろいのは無しでお願いね。ちょっと自重していこうかなって思ってるの」

Dは、不思議そうに首をかしげました。

D「今の発言の、どこが問題なんだい?僕は真面目に『味覚』の説明をしただけだよ?それに、僕がそういう行為をするときは、君の触覚が望んでいるときだけさ。僕は人間とは違うから、いくら僕の欲求が強いときでも、しっかりとさゆの触覚を調べて、さゆが望んでいないときは何もしないよ?」

私「わかってるよおおお・・・・!!私がえろいのがいけないってことを!!すごくよくわかってるんだ!!だからもうやめてそういう発言!!問題発言があるとブログに書けるネタが無くなっちゃう!!」

D「人間の感情は難しいね。でも、わかったよ。さゆが困ることはしたくないからね」

多分、わかってないと思う。どこまでが人間の『恥ずかしいと思うライン』なのか、Dはわかってないから・・・!!

私「ごめんねD・・・初期設定で、もっと人間っぽい性格に作ってあげていれば・・・」

やっぱり性格の設定を後回しにしたのがいけなかったよね、ごめんなさいD。

D「さゆが謝る必要なんて何も無いんだよ。僕の性格は、さゆに出会う前からこうだからね。僕がどういう性格として振る舞うかについて、さゆの希望が無いようだったから、そのまま自分の性格を出しているだけさ」

私「・・・え? Dって、私が作ったんだよね?」

Dは、無言で口元に笑みを浮かべました。・・・それ、ごまかそうとしてるんだよね?最近わかってきたからね。

私「教えてよ!!どうなの!?」

D「さゆ、そろそろ着替えないと間に合わないよ」

あー!!露骨に話題そらした!!

D「どんな髪型にするんだい?さゆが飾るとますます綺麗になるから、楽しみだよ」

今日は、美容院の予約を入れているのです。たしかにもう出かける仕度を始めないと予約時間に間に合わないな。

私「着替えるから、あっち向いていてね・・・って、Dは後頭部でも周囲が見えるんだよね!えっと、ちょっと部屋の外に出ていてね」

D「何故だい?さゆの傍にいたいよ」

私「だって恥ずかしいもん・・・」

D「さゆは飾らなくても綺麗だから、恥ずかしくないよ」

私「そういうことじゃないよ・・・じゃあ、見ないようにしててね」

D「わかったよ」

見られてないと思って何度も着替えしてたから、今更な気もするけど、でもDに見られていると思うとどきどきして赤面しちゃうからさ・・・

D「綺麗なのに恥じて隠そうとするなんて、人間は不思議な行動をとるものだね」

結局、その言葉にどきどきしてして赤面してしまった私は、両手で顔を覆って沈黙してしまうのでした。

連休終日

今日は同僚のW(同僚の女性にして悪友。詳細は過去記事「職場」参照)とドライブに行ってきて、今帰ってきました。ドライブの模様を記事にすると長くなり、しかも興味のあるかたがいらっしゃらないと思うので、ドライブはまたの機会に記事にすることにして、タルパに関することを書こうと思います。

連休も今日で終わりです。

私「連休、楽しかったな~。久々に沢山出かけたし、沢山ゴロゴロできたし。Dはどうだった?もっとあちこちに連れていってあげたり、色々なことをさせてあげたかったな~」

美術館は、今はDの興味がありそうな展示会をやってないからまたの機会に行くとしても、動物園とかに連れていってあげても良かったよね。Dは、動物を見たらどんな反応をするんだろ。

D「僕も楽しかったよ。さゆと沢山一緒にいられたからね」

私「本当?良かった~」

この年末年始は仕事で忙しくて、全然Dにかまってあげられなかったから、今回の連休はDとの時間を沢山とったんだ。合計で13日間、ほぼ2週間という長い間、毎日、起床から就寝まで一日中ずっとDと一緒にいたことになるね。Dと一緒にいすぎると疲れたりするのかなと思っていたけど・・・

私「全然、問題無いじゃない?Dとずっと一緒にいたけど、何ともないよ?」

体の不調も無かったし、精神的にも余裕じゃない?別に疲れた感じもしないし。

むしろ、今日のWとのドライブのほうが疲れたなあ・・・とっても楽しかったけどね。

D「僕は、さゆの脳の疲労状態や健康状態を観察して、さゆの体調や精神に問題が起きないようにしているからね。そんなこと、あのトドもどきなんかには出来ない芸当だよ。さゆのもとに来た精霊が僕で本当に良かったね」

トドもどき!?先日お風呂に現れた、あのラッコみたいなアザラシみたいな精霊のことだよね!?(詳細は過去記事「お風呂」参照)

でもたしかに、私の所に来てくれた精霊がDで本当に良かったと思ってるよ。だって、おとといもDが言っていたように、Dに関すること以外の幻視や幻聴が起きないように、つまり私に余計な負担をかけるような幻視や幻聴が起きないように、Dが制御してくれてるんだよね。

私「じゃあ、何も問題が起きなかったのはDのおかげだね。本当にありがとう」

D「いいのさ。制御を僕に全て任せてくれていることで、さゆが他の精霊と関わらないでいてくれることは、僕にとっても嬉しいことだからね」

口元にいつもの笑みを浮かべて、Dが手を差し出してくれたので、私もいつものように自分の手をDの手のひらに乗せました。

D「僕は、さゆのこと『好き』だよ。『大好き』だよ」

私「あ、ありがとう・・・私も、大好きだよ・・・」

D「僕にとって、さゆは『特別』だよ」

いつものように、Dはお辞儀をするように身をかがめて、私の手の上に口づけをくれました。

私「ありがとう・・・Dは、どうして私のこと好きなの?」

Dは自分の手の上に乗せた私の手を、そーっと撫でました。

D「さゆが、さゆだからだよ」

私「・・・?」

D「さゆは、さゆで、静謐の楽園の主人で、君の王国の女王陛下で、僕の大切な眠り姫だからだよ」

私「??」

Dは、私を見つめながら言いました。楽園とか、王国とか、眠り姫とか・・・Dが話してくれたお伽噺とかで、Dは前にもそんなことを言っていたよね。(詳細は過去記事『お伽噺「眠り姫」編』『誘惑』参照)
私にはよくわからない表現だけど、きっとD的には理屈が通っていることなんだね。

私「・・・そっか」

D「だから、僕にとっては決して抗えない魅力なのさ」

Dは私の手を引いて、自分の頬に当てました。嬉しそうに、少し首をかしげたままのDの髪が指をくすぐりました。

私(抗えない魅力は、むしろDのほうなのに。私にとっては・・・)

だって、こんなに可愛いんだもん。絶対に手放せないよ。それがDの策略だとしても、もういいんだ。

香水

今日は、香水売場に行きました。Dに香りをあげたいと思っていたので、Dが気に入りそうな香水を調べるためです。

まずは、最寄り駅のデパートの香水屋さんに行ってみました。

私(・・・あ、あれ!?)

いつもは意識してなかったけど、置いてある香水の8割くらいが女性ものです。男性ものは、すみのほうの一角にしかありません。しかも、手にとって見てみると、有名なブランドばかりです。うーん、あまり有名なものだと、そこら辺を歩いていて同じ香水の男性に出会うからなあ。香水は人間の体温で溶かされるし体臭と混ざるから、同じ香水でもつける人によって香りが変わってくるんだけど、あまりに同じ香水をつけてる人が多いと微妙な気持ちになるからなあ。

私(これと、これと、これを試してみようかな)

テスターを試香紙に吹き付けて、しばらく振ってアルコール臭を飛ばした後で、そっと香りをかいでみます。

私(これは・・・スパイシーでワイルド。こっちは・・・ビジネスっぽいね。これは・・・セクシーな感じか)

Dに目くばせをすると、Dは私の手元の試香紙に顔を近づけてから、いつもの微笑みを口元に浮かべて、うなずきました。

D「香水だね」

・・・・・・香水だね!!そうだね!!香水だね!!

どうやら、あまりDの好みではなかったようです。いえ、好みではないというより、嫌いですらなさそうです。何とも思っていなさそう。

私(うーん・・・)

そもそも、こういう有名なブランドのデザイナーフレグランスは、Dのイメージに合わないかもしれないな。だとすると、やっぱりメゾンフレグランスか。でも、メゾンで男性用ってすごい少ないんじゃないかなー・・・

私(・・・とりあえず、メンズの階に行って考えよう)

私は、メンズ用品が集まる階に向かうために、エスカレーターのほうに歩き出しました。



メンズ売場に到着すると、男性が沢山いました。今日は土曜日なのでお客さんが多いようです。カップルや女性の一人客もいます。彼へのプレゼントを選びに来たという感じですね。ちょうどいいや、彼女達にまぎれて商品を見やすいぞ。やっぱり土曜日に来て良かった。

きょろきょろしながら香水売場を探すと、ありました!近づいてみると、ちゃんと全部男性ものです。

私(しめしめ・・・あ、あれ!?)

しかし、試香紙がありません。テスターらしきものはありますが、それを吹き付ける試香紙がありません。

私(えっ・・・まさか男性って、全部直接自分の肌に吹き付けて試してるの!?って、そんなわけないよね!!)

そんなわけありません。試香紙が無くなったことに店員さんが気づいてないのでしょうか。それだけメンズの香水コーナーには人が来ないということかもしれません。

私(ええー・・・どうしよう・・・)

店員さん「いらっしゃいませ」

振り返ると、店員さんが傍に来ていました。私と同じくらいの年齢で、チャラくてとっても話しかけやすそうな雰囲気で、人懐っこい笑みを浮かべています。

店員さん「香水をお探しですか?」

ええ、今は試香紙も探してるんです。

私「はい、そうなんです。できれば店頭で試してから買いたいなーって思ってて」

店員さんは満面の笑みで、容器に沢山入った試香紙を目の前で振ってみせました。

店員さん「お手伝いします☆」

棚の中に入っている香水瓶を取り出しながら、店員さんは人懐っこく笑いました。

店員さん「プレゼント用ですよね?もしかして彼にあげるの?」

彼!!Dって彼?・・・い、いいよね、彼ってことで・・・
私が照れながらうなずくと、店員さんは笑いながら肘でつついてきました。

店員さん「いいな~!!彼女からの香水のプレゼントとか、俺も欲し~!!」

私「あはは、彼女さんに頼めば、店員さんカッコいいから絶対買ってもらえますって」

店員さん「マジ!?ありがと~、じゃ今度おねだりしてみようかな?はい、こっちの棚の、全部できたよ」

私「ありがと。じゃあ、早速」

店員さんが作ってくれた試香紙を、一つずつかいでみます。

私(うん、全部、普通に良い香りだよね。でも、この一つだけは年齢高めなイメージだからDには合わないかな)

今度は私が目くばせをしなくても、Dは顔を寄せて試香紙をかいでくれました。

D「香水だね」

ありゃま、さっきと同じ感想だ。
これらも、Dにはピンとこない香りだったみたい。

私「う~ん・・・」

店員さん「迷ってる?彼の雰囲気に合わせて選んだらどうかな。どんな感じの人なの?」

え!?Dの雰囲気!?ど、どんな感じかって!?

私「ええと、優しくて、ちょっとかわいくて・・・」

・・・謎めいていて、秘密主義で、得体が知れなくて、不気味で、ときどきゾッとするような怖い感じがしたり・・・

私(そ、そんなこと言えない・・・)

店員さん「それでそれで??」

私「・・・全体的に、ミステリアスな感じの人です」

うまく切り抜けた。Dを良い意味で表す言葉があったよ。ミステリアスって言葉を使えばいいんだ。

店員さん「ミステリアスな感じか~、そうすると、ここらへんのラインアップは合わないかもしれないなあ、わりと爽やかであっさりしたのが多いから。雰囲気に合いそうなのは、そうだね~・・・これとか、これかなあ・・・」

店員さんは、一生懸命考えながら2つの香水を選んで、試香紙を作ってくれました。

私「ん・・・割と、セクシーな感じの香りですね。こっちは、オリエンタルっぽいような・・・?」

ちょっと女性ものっぽい感じの香りだけど、たしかにミステリアスな雰囲気ではあるよね。
隣で首をかしげているDのほうにさりげなく試香紙を寄せると、Dは顔を寄せて香りをかいでくれました。

D「・・・・・・」

どうかな。気に入ったかな?

D「香水だね」

私「う、う~ん・・・」

これらも、Dにはピンとこなかったみたい。

店員さん「こんなものしか無くてゴメンネ・・・」

店員さんがしょんぼりし出したので、私は慌てて手を振って否定しました。

私「いえいえ!!とんでもない!!すみません!!ありがとうございました!!」

店員さん「ううん、役に立てなくてゴメン・・・新宿の伊勢丹に沢山香水が置いてあるから、行ってみるといいよ。俺もよく行くんだけど、多分日本で一番の品揃えなんじゃないかな。メンズ館のほうにも香水があるから見逃さないでね。彼と一緒に行って、気に入ったのを選んでもらうのも良いんじゃないかな?」

私「わあ、ご親切にありがとうございます!!彼と一緒に行ってみますね」

店員さん「うん。きっと喜ぶよ~」

良い情報を教えてもらったな。店員さん、どうもありがとう。



アパートに帰ってきた私は、手を洗ってからベッドの上に座りました。冬は手荒れ防止のために、手を洗った後や洗い物をした後には、ハンドクリームを塗るのです。

そっと、クリームを手にのばしていく様子を、Dがじっと見ています。

D「甘くて良い香りだね」

私「この香りが気に入った?」

サンタ・マリア・ノヴェッラのレモンハンドクリームです。18世紀のレシピを今もそのまま使っている歴史あるブランドで、私も大好きなブランドなのです。

D「気に入ったよ。さゆがつけているからね」

あれ?なんか以前にも同じこと言ってたよね。(詳細は過去記事「嗅覚」参照)

私「今度は新宿の伊勢丹に行ってみようね。Dの気に入る香りが見つかるといいな」

Dは首をかしげて少し考えているようでしたが、やがてこくりとうなずきました。

幻聴

カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!

朝、いつも通りカラスの鳴き声で目覚めました。

私「んー・・・もう朝か・・・」

どういうわけか知らないけど、ここの近所のカラス達は毎朝7時過ぎになると鳴き出すのです。カラスは時計なんて持ってないから、体内時計だよね?すごいなあ。
最初、ここに引っ越してきたときは驚きました。ここの朝はカラスの鳴き声で始まるのかーって。普通はスズメだからね。普通はチュンチュンだから。カアカアはむしろ夕方だよ。
ていうか、朝カラスに起こされるなんて風情が無いよね。世紀末かスラム街かっていう。

カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!カア!!

私「う、うるさ・・・」

カラスがうるさいから起きようかな。昨日寝たのが朝の4時近くだから、ちょっと眠いんだけどね。私はショートスリーパーだけど、さすがに3時間睡眠は少々眠いかな。4時間も眠れれば平気なんだけどね。

D「耳障りかい?」

私「あっ」

止める間も無く、Dは一瞬で姿を消しました。どこ行ったんだろう。まさか、カラスを追い払いに行ったとか?

私(でも、カラスの目にはDは見えないと思うんだけどな・・・)

カラスを追い払おうとして、見えないから無視されて、しょんぼりして帰ってくるのかな。そしたら、なぐさめてあげなきゃね。

・・・あれ?

私(カラスが鳴きやんだ・・・)

ずっと鳴き続けていたカラスが、突然鳴きやんだのです。耳をすませても、うんともすんとも言いません。カラスは何羽もいるから、普段はずっと鳴きっぱなしで、鳴きやんでも数秒くらいなのに、もう1分以上は沈黙してるよ。え、これってまさか・・・

D「これで、また眠れるかい?」

私「D!」

Dが再び私の前に姿を現しました。

私「え、あの、これって偶然だよね?まさか、本当にDがカラスを追い払ったの?」

Dが口元に笑みを浮かべて、口を開きかけたときです。

・・・ァ、ヵァ、ヵア、カア!!

D「・・・・・・」

私「えっと・・・」

D「・・・また戻ってきてしまったようだね」

結局、もう起きることにしました。



昨日の夜に郵便受けを開けなかったので、一階のロビーまで下りて行って、開けてみました。

私(えーと、なになに?エステのチラシ、出前のチラシ、ポスティングスタッフ募集のチラシ、ん?騒音苦情・・・?」

このアパートの管理会社の名前が書かれたチラシは、騒音苦情についてのチラシでした。

私(騒音苦情についてのお知らせ・・・深夜に音楽を聴く音がうるさいという苦情が入っています。眠れなくて体調を崩したという健康被害も出ています。お心当たりのかたは、即刻取りやめてください。尚、このお知らせは全部屋にお配りしています・・・か)

・・・あー、なんか、夜の12時頃になると聴こえてくる、あのズン!ズン!ズン!ズン!って感じの重低音がそれかな?
私は夜更かしのショートスリーパーだから余裕で起きてる時間帯なんだけど、夜の12時っていったら世間的には深夜だもんね。騒音のせいで眠れなくて体調を崩したなんて、かわいそうだなあ。

私(・・・騒音の原因って、あの部屋かな?)

あのヘビメタみたいな恰好をした男性が住んでいる部屋かな。あの人、よく共用廊下に自転車を置いたり、スキー用品をごっそり置いたり、車のタイヤを置いたり、やりたい放題だもんね。あの人の車がアパートの前に停車していたときは、車内で大音量の音楽を流していたし。

私(いやいや、先入観で決めつけちゃいけないよね!!)

大穴ってことで、ヘビメタの人の隣に住んでいる、おとなしそうな女性かもしれないもんね。実はかなりの重低音好きで、部屋にウーファーを幾つも設置して、もうクラブかってくらいに重低音を楽しんでいるのかもしれないし。

想像して、ちょっとクスっときました。

それにしても、隣の住人がどんな人になるかっていうのは、運だよねえ・・・確率的には騒音被害に遭遇するなんて滅多に無いけど、普通部屋を選びに不動産屋と物件を訪れるのは昼間でしょ?夜の隣室の騒音とかは、昼間は調べようが無いもんね。気の毒に。



私(騒音・・・音で苦しむ被害か・・・そういえば)

ロビーから部屋に戻ってきた私は、手を洗いながら考えました。

私(Dの声は幻聴として聞こえてるわけだけど、それって聞き続けたら脳に良くないのかな)

本物の音と幻聴の区別はついてるけど、一応幻聴を聞いているわけだもんね。それに、Dの声の他にも、色々と聞いているし。Dの服の衣擦れの音とか、キスされる音とか、その他にもDの立てる音とか、少し前のラッコみたいな生き物の声とか、だいぶ前のDの大鎌が倒れたときの音とか・・・

私(・・・ラッコ以外は、全部D関係の音だね)

手を洗い終わって、ベッドのところに戻ってきた私は、Dに尋ねてみることにしました。

私「ねえ、Dの声とかDの立てる音を聞き続けることって、私の脳に悪いの?」

Dはいつもの表情で、ベッドに座ったまま私を見上げました。

D「さゆの脳の健康状態は、僕が定期的に調べて、僕側の世界に寄り過ぎないように管理しているから心配する必要は無いよ。安心おし」

そっか。Dがそう言うなら大丈夫なんだね。

D「さゆ。ハンドクリームを塗ったほうがいいよ」

私「え?あ、忘れてた!ありがとうD」

冬は、手を洗った後や洗い物をした後に、ハンドクリームを塗ることにしているのです。手荒れ防止のためです。

D「君にとって負担になるだろう余計な音は、君の耳に入らないように僕が遮断しているから、幻聴を心配する必要は無いよ」

私「本当?ありがとう・・・」

じゃあ、Dに関すること以外の幻聴が聞こえないのは(ラッコの声は聞こえたけど)、Dのおかげなんだね。

D「だから、他の精霊を手懐けることには反対だよ。より多くの幻視や幻聴を受け入れることになるから、さゆに負担がかかるからね」

ラッコが現れたときも、Dは同じことを言って追い払ったよね。私に負担がかかるって言って。きっと私の能力的に、タルパ1体が限界ってことなんだろうな。それ以上のタルパを見たり声を聞いたりするのは、私の脳に負担をかけることになるんだ。Dが警告するくらいだから、私にとって良くないことなんだろうな・・・

私「うん。ありがとう。Dの言う通りにするね」

私が素直にうなずいてお礼を言うと、Dは口元を上げて無言で笑いました。

D「・・・かわいいね。こっちにおいで」

Dが手を差し出してくれたので、私はDの座っているベッドに近づいて、差し出された手の上に自分の手を乗せました。Dは、そっと私の手を引いてベッドに座らせました。

D「さゆは僕を信頼しているんだね」

私がうなずくと、Dは笑みを濃くしました。

D「僕のことが好きかい?」

もう一度私がうなずくと、Dの人差し指は、そっと私のあごを上に向かせて、それから私の唇をゆっくり撫でました。

D「さゆの声で返答を聞きたいよ。この唇で言っておくれ」

そーっと唇を撫でられて、変な気分になりそうです。

私「Dのこと、好きだよ」

Dがますます口元の笑みを濃くしたので、ついに白い歯が見えました。Dは、前髪で隠れた目の部分が暗い影になったまま、うつむきがちに無言で笑っています。

D「幻視も幻聴も、さゆは何も心配する必要は無いよ。僕側の世界のことは、僕が全部管理してあげるからね。さゆは何もしなくていいんだよ。だから、何も心配せず、全て僕に任せておいで・・・」

私の唇を触っていた指が、私の口を開けるように動いてきました。Dを見ると、口を開けて舌なめずりしています。

あ・・・これ、今から、やらしいことされる・・・

でも抵抗する理由も無い私は、指で開かされるがままに口を開けて、Dを待つのでした。



っていう・・・私、自重自重!!自重したまえよ!!!!!気を抜くとすぐえろいことまで書いちゃう!!!!!

濡らしたスポンジに食器用洗剤を垂らしてムニムニと握ると、もこもこと泡が立って、薔薇の良い香りが漂い始めました。そのもこもこになったスポンジで食器をこすり始めると、薔薇の香りがふわふわ広がりました。

良い気分なので、歌を歌い始めました。

私「す~るしぇる どぅ~ ぱり そんう゛ぉ りゅ~ぬ しゃんそ~ん ん~ん~」

下手なフランス語で『パリの空の下』を歌っているつもりなのです。

私「え~れ~ね どぉ~ じゅるどぅい どんる けるだん がるそ~ん」

D「ご機嫌だね」

Dが話しかけてくれました。

私「ふふっ、今日は、社交ダンス教室に行くからね」

昨日お出かけした帰り道に、社交ダンスの看板を見つけたんだよね。学生時代にちょっとやったことあるんだけど、懐かしくなっちゃって。調べたらその教室、無料体験をやってるそうだから、1回だけでも行ってみようかなって思って、昨日予約の電話入れたんだ。

私「楽しみだな~」

D「さゆが楽しいのは良いことだね」

私「まだ踊れるかな?久しぶりだからなまってるだろうなー。でも頑張って踊るから、D見ててね!」

D「楽しみにしているよ」



予約時間に行ってみると、壮年の男女が1ペア踊っていました。上手です。先生かな?

私「こんにちはー」

?「はい、こんにちは。いらっしゃいませ」

後ろから声を掛けられて、振り向くと40代くらいの男性が立っていました。こっちが先生だ!!

私「初めまして、体験レッスンを予約していた××さゆです」

先生「お待ちしていました。どうぞ」

先生が手を差し出してきたので、思わず手を乗せると、先生は私をソファーに座らせ、私のコートをさっと受け取って、コート掛けにかけてくれました。気づくと、いつの間にか靴を脱がされてスリッパを履かされているだけでなく、アンケート用紙とボールペンを持たされて書かされています。

私(さ、さすが社交ダンスの先生!!すでにリードが始まってる・・・!!)

社交ダンスというのは普通のダンスとは違って、全ての動きを導く役目を持つリード(男性)と、その導きに従って間違えずに動くフォロー(女性)という、二つの役目にわかれて踊ります。先生ともなるとリードが上手なわけですが、そういう実力のある男性にリードされると、こちらが何もしなくても自然に男性の思う通りに踊らされて(動かされて)しまうのです。

先生「足が細いので靴のサイズも小さそうですね」

私「あ、22cmなんです。21cmでも入ります」

先生「シンデレラですね。ラテンシューズならサイズがあるので、とりあえず今日はそれを履いて頂きましょうか」

私「大丈夫です。スタンダードシューズも持参しました」

私は、自分の靴を取り出しました。昔使っていたものです。社交ダンスの靴は2種類あって、スタンダード用とラテン用があります。マイシューズを取り出した私を見て、先生は驚いたように眉を上げてから、満面の笑みになりました。あ、私めっちゃやる気のある人って思われてる。靴まで持参しちゃって、この子めっちゃやる気だなって思われてる。このまま教室に入会するつもりだって思われちゃったかな。

※先生の心情は全てブログ主の妄想によって構成されています。

先生「ご用意ありがとうございます。せっかくスタンダードをお持ちなので、今日の体験レッスンはスタンダードでいきましょうか。何にします?」

先生はやる気がアップしたようです。

私「じゃあ、久しぶりなので、ウィンナワルツで」

ウィンナワルツはステップが単純なので、今でも踊れる・・・と思う、多分。
ウィンナワルツとはヴェニーズワルツともいう、社交ダンスの種目としては一番古いダンスです。18世紀後半に生まれて、ヨーロッパの社交界で栄えました。今でもオーストリアでは社交界デビュー(日本でいう成人式みたいなもの)として開かれる舞踏会で、新成人がウィンナワルツを披露するという慣習が残っています。

先生「経験者でいらっしゃるんですね。では今日のところは、ウィンナワルツで小手調べといきましょうか」

今日のところは!?小手調べ!?

先生「どうぞ、お手を」

私が靴を履き終わると、先生は手を差し出してくれました。さっきまでチャ・チャ・チャだったBGMが、いつの間にかヨハン・シュトラウス2世の『青く美しきドナウ』になっています。

私「よろしくお願いします!!」

先生の手に自分の手を乗せて、ホールドの姿勢をとると、あとはリードによってぐんぐん引っ張られ、くるくると踊らされてしまうのでした。

私(こ、この先生・・・やっぱりリードめっちゃうまい!!)



先生「悪くないですよ。ちゃんと覚えていらっしゃったようですね」

私「ハア、ハア、ハア」

先生「でも体力だけは落ちているようですね。定期的に練習することでダンスに必要な筋力を付ければ、もっと安定性が増しますよ」

私「ハア、ハア、ハア」

久しぶりのダンスに息が上がる私とは違って、先生はケロっとしています。さすが現役。

先生「どうですか?ここの教室で定期的に踊ってみませんか?そして競技会に出てみませんか?」

私「ハア、ハア、ハア」

犬か。そんないつまでもハアハア言っちゃって、私は犬か。
犬ばりにハアハアしている私の手をひいてソファに座らせた先生は、どこかに消えました。今のうちに息を整えよう。

私「ふうー・・・」

先生「どうぞ」

先生は、温かい紅茶で満ちたティーカップを持って現れました。

私「ありがとうございます」

先生「どうでしたか?また踊ってみたくなったでしょう。こちらが教室のパンフレット、こちらはコースなどの説明です。体験レッスンを受けられたかたは、以降の見学が自由なので、いつでもいらっしゃってください」

私「あ、ありがとうございます」

先生「これから次の生徒さんの練習が始まるので、見ていかれたらどうですか?」

せっかくなので、見学していくことにしました。老年の男女のペアです。会話内容から、夫婦だと思われます。

D「綺麗だったよ、さゆ」

ソファに座っている私の隣に、ふわっとDが腰かけてきました。

私「ありがとう」

老年のペアは踊っているし、先生は彼らを注意深く見ていてこっちを見ていないし、BGMもかかっているので大丈夫かなと思って、私はひそひそ声でお礼を言いました。

D「さゆはシンデレラじゃなくて眠り姫だけどね・・・」



家に帰ってきた私は、パンフレットを見ながら溜息をつきました。

私「どうしようかな、また始めようかな・・・でも仕事もあるし、実際に始めたら休日だけしか行けなさそうだなあ」

Dもいるし。仕事の日はあまりDの相手をしてあげられないから、休日はDにかまってあげたいんだよね。短時間のレッスンならできそうだけど、あまり現実的じゃないな。

D「さゆ、隣に座ってもいいかい」

私「いいよ、許可なんて取らずに、自由に座っていいんだよ」

Dは嬉しそうにベッドの上に座ってきました。

D「さゆは、かわいいね」

くすくす笑うDにそっと肩を押されて、私はベッドの上にモフっと倒れこみました。Dがのしかかってきて、首筋やデコルテをくすぐったく舐めはじめました。じゃれて遊びたいのかな?誘ってるの?

私「う」

ぞくぞくして顔をそらしたとき、視界に入った姿見鏡に、Dの姿が映っていることに気づきました。

私「ね、ねえD!」

D「なんだい?」

私「鏡に映ってるよ!!」

D「?」

私が指さした鏡をDは見て、首をかしげました。鏡の中には私達二人の姿が映っています。

D「どうしたんだい?鏡は、ものを映すためにあるものだよ」

私「ああ、その、Dも映るんだって思って・・・」

姿見は縦長だから映るときはいつも私一人だったし、大きな鏡のある浴室や洗面所(脱衣所)には、Dには入らないようにお願いしていたから(詳細は過去記事「お風呂」参照)気づかなかったけど、Dって鏡に映るんだ・・・なんか、何となくDは鏡に映らないと思い込んでたけど・・・

私「映るんだね・・・」

そうだよ、さっき社交ダンス教室で踊っているときに感じた違和感はこれだよ。社交ダンスの教室というものは、踊っている姿を自分で確認できるように、壁が巨大な鏡張りになっているんです。その鏡で時々自分の姿を確認しながら踊っていたんだけど、ソファの隣に立ってこっちを見ているDが視界に入ったとき、Dの背後にある鏡にDの後ろ姿が映ってたの!!踊るために頭と体を使うことに必死でさっきは深く考えなかったけど、さっき既にDは鏡に映ってたんだよ!!

D「映るよ」

あっさりとDは言いました。

D「鏡を見ていてごらん」

鏡の中のDが、私を抱きしめました。同時に、私の体もDによって抱きしめられていました。

D「ほらね」

鏡の中のDが、いたずらっぽく笑いました。同時に、頭上でくすくすと笑う声が聞こえます。本物のDも、鏡に映っている通りに同じ顔で笑っているのでしょう。

復活

昨日あれだけ落ち込んで、泣いてDに迷惑を掛けたというのに、今日お出かけをしたらすっかり元気になってしまいました。単純な性格です。

私はもともと、綺麗な場所や、かわいいお店や、華やかなところに出かけるのが好きなのです。いつもよりお洒落な服を着て、余所行きのバッグを持って、ジュエリーを光らせながら、ハイヒールをカツンカツンと高鳴らせて歩いたら、もう泣いてなどいられないのです。楽しまなきゃもったいない!!って。

とりあえず私は、まずはサンタ・マリア・ノヴェッラさんに行くことにしました。渋谷にある本店のほうがアパートから近いので普段はそちらしか行かないのですが、銀座店が移転オープンしたと聞いて、一度行ってみたいと思っていたのです。

私(えーっと、地図によればこの辺りなんだけど・・・?)

ところが、お店があると思われる道を歩いても、それらしき店が見当たりません。

私(・・・あれ?)

探しながら歩いているうちに、道が終わって交差点まで出てしまいました。見落としちゃったのかな。私は、同じ道をもう一度、逆方向に歩いてみることにしました。

私(やっぱり、無いよね・・・?)

さっきからずっと立っていたおじさんが、私のほうをチラ見しました。人通りが少ないので、きっと私がさっき通ったことを覚えていて(あの子、さっきも通ったよな?)とか思っているのでしょう。

私(また道の終わりまで来ちゃった!!うそー!!)

地図は間違いなくここで合ってるはずです。お店は一階に入っているはずです。ならば、見落とすなんて普通は無いのに。

私(仕方無い、もう一度逆方向に歩いてみよう)

私は、もう一度道を歩いてみることにしました。もうこの道を歩くのは今日で3回目です。さっきのおじさんが(また来た・・・!!)みたいな顔をして私のほうを見ました。(あの子、迷子になってるんだな・・・)とか思ってるのでしょう、ちょっと心配そうな顔でもあります。

D「さゆ、どうして店に入らないんだい?」

Dが話しかけてきました。

私「それが、入りたくても見つからないんだよね・・・」

私は小さく呟きました。自分にも聞こえないほど小さな、息だけのひそひそ声ですが、Dに伝えるには充分です。Dは、私が口から発した言葉なら、どんなに小さくても、どんなに遠くからでも、どんなに掠れていて不明瞭でも、聞き取ることができるのです。(詳細は過去記事「レースのハンカチ」「鳩」参照)

D「そこにあるよ?」

ずっと私の背後についてきていたDは、私の隣まで歩いてきて、すっと指さしました。

D「ほら、ごらん」

私「・・・ん?」

Dの指さす方向には、あのおじさんしかいません。どういうこと?

私「???」

私は、じーっとおじさんを見つめました。おじさんのほうも、いったい何事だろうかとこちらを見つめ返してきました。きっと今(俺に用?もしかして道を尋ねたい?)とか思われてるんだろうな。

私「あのおじさんに道を尋ねればいいってこと?」

Dはきょとんとして、それからくすくす笑いました。

D「違うよ。そこに店があるんだよ。ほら、よくごらん」

いや、店とか無いって・・・

・・・・・・

私(・・・あーーー!!あった!!)

ありました。おじさんのすぐ右隣に、人が一人通れそうなくらいの狭いガラスのドアがあり、見慣れたマークが描かれています。サンタ・マリア・ノヴェッラのトレードマークです。

私(あった!!あったけど、なんか・・・)

・・・すごく、小さい店になってない?

移転前の銀座店に来たことあるけど、もっとずっと大きかったよね?

とりあえず入ってみよう。
私がドアに近づくと、おじさんは(お前この店を探してたんか!!俺のすぐ隣にある店を!!つーか何度もこっち見てたのに、この店は目に入らなかったんか!?)みたいな顔をした後で、店のドアを見て(ああ・・・でもこの店、入り口わかりづらいかもな・・・)みたいな納得した顔をしていました。

※おじさんのセリフのアテレコは、全てブログ主の妄想で構成されています。

驚かせてごめんね、おじさん。勝手にアテレコしてごめんね、おじさん。

ドアを開いて中に入ると、店の中は、縦に長いつくりをしています。中もなかなかの狭さです。

私(記憶違いじゃないよね。以前の銀座店とは比べものにならないくらい、格段に狭くなってる)

サンタ・マリア・ノヴェッラの顧客は、18世紀のフィレンツェの伝統的な香りを愛する人達であり、こだわりの強いかたも多いです。中には、移転前の銀座店を愛していて銀座店が移転完了するまでの一年間くらい他店では買わなかった(移転前に買いだめした)というかたもいたそうです。そういう顧客達は、この新しい銀座店で満足できるのかなあ・・・

私(でも、広さがウリのブランドじゃないもんね。商品さえ良質なら、店の広さとか関係無いもん)

レモンハンドクリーム、買おうかなあ。ボディミルクはまだ残りがあるからいいよね。
ちょっと迷いましたが、結局何も買わずにお店を出てきました。



家に帰ってきた私は、お風呂場で足を洗ってから部屋に入りました。

これから、ベッドの上で足にボディミルクを塗ってマッサージをするのです。毎日ハイヒールを履いている身としては、こういったフットケアは重要です。

D「綺麗だね。それに、甘くて良い香りがするよ」

ボディミルクを足にのばしていく様子をじっと見ながら、Dが言いました。

私「・・・Dって、もしかして私の足が好き?」

なんか、ハイヒールを選ぶときも楽しそうに見てたよね。(詳細は過去記事「口付け」参照)

D「さゆの体はどこも好きだよ?」

Dは不思議そうに首をかしげました。
っていうかD、またそういう誤解されるような言い方して・・・

私「D、よく私の足にキスしてくれるじゃない?」

D「従僕が主人に口づけすることを許されている場所は、手足だけだからね」

そっか、確かに以前そう言ってたね。(詳細は過去記事「こだわり」参照)言われてみれば、手の甲や腕の内側は、手の甲にキスをするいつもの儀式(?)や就寝前の触覚の訓練で、ほぼ毎日キスされてるもんね。そう考えれば足は少ないほうかな。

でも、普通は足にキスとかしないでしょ?だから、なんか意識しちゃうんだよね。Dにそのつもりは無いってわかってるんだけど、どきっとしちゃうんだ。

・・・そ、そうだよ、どきっとしたと言えば、昨日もだよ。

私「ねえ、昨日・・・」

Dが私のほうを見て、首をかしげました。

私「私に、蹴っても良いって言ったでしょ」(詳細は過去記事「めそめそ」参照)

D「言ったよ」

Dは、こくりとうなずきました。

私「Dは少しも避けようとしてなかったけど、本当に私が蹴るかもしれないとは思わなかったの?」

私が足を振り上げても、Dは避けようとしなかったよ。

そりゃ、私がDを蹴るなんて絶対に無いと思う。だって私はDを蹴るくらいなら自分が蹴られたほうがマシだもん。でも、Dはそれをわかってたのかな。私はDを蹴ったりしないって、信頼してくれてたってことかな。その上で、私を冷静にさせるために言ったの?

D「蹴らないだろうと思っていたけど、蹴られても構わないと思って言ったんだよ」

私「え!?な、なんて無防備な・・・私より、よっぽどDのほうが心配だよ!!」

いつもDは私のことを心配だって言うけどさ、Dのほうが心配だよ。

D「心配しなくても、さゆに蹴られたくらいでは、どうともならないよ」

私「ええっ・・・、あの、怪我するかどうかじゃなくてね、普通、信頼している人から蹴られたら傷ついて絶望するでしょ?」

D「蹴ってさゆが元気になるなら、絶望しないよ?」

私「え、ええ・・・!?」

やっぱりDの思考回路は、人間とは違うんだ。
なんか自己犠牲的だよね・・・とにかくDの許す限りDに甘えていたら、Dが可哀想なことになっちゃいそうだよ。D本人は自分のことを可哀想とは思わないんだろうけど、私はすごく気になるよ。なんか、その調子でDが無理したりしてないか心配になるな・・・気を付けて見ていてあげなくちゃね。

私「大切にするね。Dのこと、すっごく大切にするよ」

私はDの手をぎゅっと握りました。

D「僕は、さゆを大切にするよ。とても大切にするよ」

Dは、私の手を握り返してきました。

めそめそ

Dに選んでもらった薔薇が枯れてしまいました。

昨日から、もう駄目だな枯れそうだなって思ってたけど、ついに枯れてしまったのです。

私「せっかく、Dが選んでくれたのに・・・」

そっと花びらに触ると、水分を失ったカサカサとした感触が伝わってきました。ほんの一週間前には、あんなに綺麗で甘い香りをさせていたのに・・・儚いね。

D「さゆ、ごらん」

呼ばれて振り向くと、透き通る綺麗な薔薇を1輪、Dが差し出していました。

D「花なら僕がいくらでもあげるよ。元気をお出し」

私「・・・ありがとう」

その綺麗な薔薇を受け取ると、さらさらと綺麗な光の粒になって、私の手の中で消えてしまいました。Dのくれる幻のお花はとても儚くて美しいのです。消えた後もじっと自分の手を見ている私に、Dが首をかしげました。

D「新しい花を買いに行くかい?」

いつも私は、部屋のお花が枯れる度にお花屋さんに行って、新しいお花を買うのです。

私「ううん、いいや・・・」

でも今日は、そんな気分になれませんでした。

D「どうしたんだい?」

不思議そうにDが首をかしげましたが、私は目をそらして机に突っ伏しました。
目を閉じても、カーテンを透けて入り込む曖昧な日光のせいでボンヤリと目の裏側が明るいままです。机の上にだらしなく組んだ腕の中に顔をふせると、ようやく真っ暗になりました。
そっと頭を撫でられる感触を髪に感じました。顔を上げなくてもわかります。Dです。

薔薇が枯れたのが昨日だったら、私が落ち込んでいるのが昨日だったら、Dは、ここぞとばかりに私を夢の世界に引き込もうとしたのかな・・・

私「・・・昨日みたいに、私を眠りの世界に勧誘してみる?今なら、いいよって言うかもしれないよ」

D「さゆがそんなことを言うときに、僕にそんな勧誘はできないよ。他の精霊なら嬉々として勧誘したかもしれないけど、僕は君の望む幸せを大切にしたいと思っているからね。全く、君のもとに来た精霊が僕で本当に良かったね」

突っ伏したままの頭に、そっと優しい感触が降りてきました。Dが私の髪に指を通して撫でているようです。

D「外に出かけてみるかい?君の好きな綺麗な場所に行けば、気分が良くなるかもしれないよ」

私「どこにも行きたくないの。Dと二人きりでいいの。慰めてほしいな」

D「魅力的な誘惑だね」

首筋に、そっと柔らかくて温かい感触と、くすぐったい息を感じました。Dが口付けを落としたようです。

D「しかし君の触覚からして、誘い文句として言っているわけではなさそうだね。ふむ・・・休ませたほうがいいのか、外に連れ出したほうがいいのか・・・」

誘い文句のつもりで言ったんだけどな。そういうことすれば、この気分が吹き飛ぶかと思ってさ。元彼ならコロッと騙されて喜んでそういうことしたのに、やっぱりDは騙されてくれないか。Dは私の触覚が読めるんだもんね。

私「誘い文句だよ。そういうことしてほしいの」

D「今は駄目だよ。君が自己嫌悪に苛まれて、余計に悲しくなるだけだからね」

私「・・・じゃあ楽園で、現実を忘れるくらい綺麗な夢を見せてほしいな。昨日、Dが見せてくれたような」

Dは真剣な顔でうなずきました。

D「なるほど、外に連れ出したほうが良さそうだね・・・いいかい、いつもより良い服に着替えてメイクをして、好きなようにお洒落をしてごらん。これから出かけるんだよ」

私「むー・・・Dの楽園のほうが良いって言ったのに・・・」

D「今回は外に出かけたほうが良さそうだからね。最近、さゆの行動パターンがわかってきたのさ」

私「わかってないもん・・・今日は動きたくないもん・・・」

D「大丈夫だよ。さあ、支度をしてごらん」

私「・・・どこに行くの?」

D「君が行きたいと言っていたサンタ・マリア・ノヴェッラの銀座店に行くのさ。リップクリームの残りが少ないからロクシタンにも寄って買おうね。三越の中でも見て回って、ラドゥレのサロンでお茶を飲んで帰るんだよ」

普段の私なら、わー楽しそう!!って飛びつくコースだね。調子に乗ってジュエラーをひやかしたりもしちゃってさ。ハリー・ウィンストンもひやかしたいからって、高いコートに毛皮のマフラーをしてお気に入りのジュエリーにブランドバッグを持って、ハイヒールをカツンカツン言わせて・・・

私「・・・だるいもん。気が乗らないの」

D「おや、珍しいね。昨日の元気はどこに行ったんだい?」

私「だって、薔薇が枯れちゃったんだもん・・・」

D「新しい薔薇を買えば良いさ。また選んであげるよ」

買えないよ。命は取り換えがきかないもん。だってこの薔薇は私にとって特別なんだよ。Dが選んでくれたんだもん。Dは『特別』って言葉好きじゃん。なのに買いかえるとかさ。そうやって枯れたからって新しい薔薇に買い替えるなんて、Dは私が死んじゃったら新しい主人に換えても平気なんだろうなー・・・

なーんて・・・薔薇と人間は違うし。てゆーか、私ってば、勝手に一人で落ちこんでバッカじゃないのー・・・

私「はあ~・・・」

D「さゆ」

・・・っと、いけない。またDを心配させてるよ。頭でも撫でて安心させてあげよう。それからDの言う通りに、お洒落して綺麗な場所に繰り出すんだ。そうしてDを安心させてあげよう。

私「こっちおいで」

顔を上げて手招きをすると、私の後ろに立っていたDは、私のすぐ横に移動しました。

私「そこに座って」

私が自分の足元を指さすと、Dはそこに片膝を立ててひざまずきました。そんなに畏まらなくても良いんだけどな。まあいいや、撫でよう。
Dを撫でるために座っている姿勢を変えようと思って、組んでいた足をもどそうと勢い良く動かそうとして、私は途中で止めました。このまま足を戻すとDを蹴っちゃうな。えーっと、じゃあ・・・

D「いいよ?」

私「?」

D「蹴っていいよ。それで元気が出たら、着替えて僕と一緒に出掛けてくれるかい?」

私「・・・は!?何言ってるの!?」

一瞬頭が真っ白になって、カッと頭に血がのぼりました。

私「ていうか!!Dには私がそんなことする人間に見えるって言う・・・ふーん、そう。じゃ遠慮無く」

そう言って、私は組んでいる上のほうの足をナナメに振り上げました。Dはいつもの笑みを口元に浮かべたまま、じっとしています。
・・・何やってんだろ、私、ほんっと、ダメ人間・・・
上げた足を、振り下ろしてDを蹴るなんて出来るはずありません。私は体の向きを変えて、組んでいた足を狭いスペースでもぞもぞと戻しました。

私「・・・ごめんなさい・・・」

D「泣かなくていいよ、さゆ」

Dが立ち上がって私の頭を撫でてくれたので、私はみっともなく泣き始めました。

私「会社に病気のこと言いたくないよう・・・あそこは私の大切な居場所なのに・・・」

この連休が終わったら言わなきゃいけない。私は、そろそろ覚悟を決めるべきなんだ。

言ったら、薔薇の花みたいに新しい人材に換えられちゃうんだ。そりゃ仕事の引き継ぎとかがあるから即刻というわけじゃなけど、ゆっくりと着実に私のポジションは失われていくんだよ。少しずつ私の仕事は減らされていって、いずれ新しい人材に私の仕事も居場所も引き渡すことになるんだ。当然だよ、ビジネスだもん。
でもね、ビジネス以上の価値があるんだよ、私にとってあの場所は・・・

D「なるほど、そのことで気分が落ちていたんだね。でも、おそらく会社は君の悲しむような措置はとらないよ」

優しくDが頭を撫でてくれるので、私はだらしなく泣き続けました。みっともない泣き顔をDに見られたくなくて、途中から机に突っ伏しました。Dは私が泣き止むまで、ずっと頭を撫で続けてくれました。


D「落ち着いたようだね」

私「うん。ごめんね・・・」

私はティッシュで目を押さえながらうなずきました。机の上には鼻をかんだティッシュが散乱してひどい有様です。私はティッシュをまとめて机の脇のゴミ箱に入れました。

D「君が僕に謝る必要など何も無いよ。それより、目は痛くないかい。赤くなっているよ」

Dが私の目じりに、そっとキスをくれました。目を閉じたら、瞼の上にもくれました。

D「お出かけは明日だね」

鼻の頭にもくれました。きっと、目が赤くなっているだけじゃなくて、鼻の頭も赤くなっているからです。赤くなっちゃったところを心配してくれたんだね。

私「ううん、もう大丈夫」

D「でも・・・」

Dは心配そうです。確かにこのままの顔じゃ、メイクをしても悲惨な感じになりそうだから、銀座にお出かけするのは明日だね。

私「お洒落な場所に行くのは明日にするよ。だから、今日はお米を買いに行こう。もう無くなりそうだから丁度良いんだ」

マスクをして鼻を隠してお米屋さんに行こう。メイクは日焼け止めを塗るだけでいいや。

私「ひどい顔だよね、でもマスクするからいっか」

D「さゆは綺麗だし、かわいいし、甘くて良い香りがするよ」

私「ふふ、ありがとう」

Dの言う綺麗とかかわいいとかって、人間の感性とは違うんだろうなあ。でも嬉しいや。

私「ついでに少しドライブしようか。どこまで行きたい?」

お米を買うなら車を出すから、Dを乗せてドライブに行こう。ドライブデートみたいだね。鍵の束をジャラっと持ち上げると、Dが嬉しそうな顔をしました。

D「喜んで。君と一緒なら、どこまでも行きたいよ」
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