申し訳ございません!!(4)
生きてます!!ピンピンしてます!!ちょっと忙しくて仕事を持ち帰ったので、ブログを書く時間がございません・・・!!申し訳ございません!!一応、Dとの出来事を記事にしたのですが、例のごとくえろいので、ちょっとこのままだとアップできない感じです。えろい部分を修正してからアップしたいと思います。本当に申し訳ございませんm( _ _ ;)m
かぐや姫
申し訳ございません!!なんか沢山拍手を頂いてしまって・・・本当にありがとうございます!!もしかして更新が途絶えたせいで、さゆの奴死んだ?病気でついに死んだ?みたいにご心配お掛けしてしまったのでしょうか!!元気です!!まぎらわしいマネをして申し訳ございませんでした!!本当に皆様ありがとうございます!!
梅の花が咲くこの頃、少し寒さが和らいできたこともあって、天気が良い日の昼間はぽかぽかと温かいですね。でも、日が落ちると流石に冷えるようです。今日手袋をしないで帰ってきたら、アパートに着く頃にはすっかり指先が冷え切っていました。
私「ふー、寒かった。やっぱりまだ手袋が必要だよね」
ぬるいお湯で手を洗っているのに、指先だけ熱く感じます。そこだけ冷えているからです。タオルで拭いた後、ベッドに座ってハンドクリームを塗る私の様子を、隣に腰掛けているDがじっと見ています。
D「それが終わったら、手をかしてごらん」
私「うん」
手を繋いでくれるのかな。手の甲にキスしてくれるのかも。それとも触覚の訓練を始めるのかな。私はDと接触することが大好きなのですが、Dはそのことを知っていて、私を喜ばせようとして積極的にスキンシップをしてくれているようです。
私「はい、できたよ」
早くDに触りたかったので、急いでハンドクリームを塗り終えて、右手をDに差し出しました。Dは私の手を自分の右手で受けて、そっと口づけを落としてくれました。
私(わ、わあ!)
手の甲に、ふわっとした唇の感触を感じました。
D「指先が、すっかり冷えてしまっているね」
冷えた私の指先にも、優しいキスをくれました。ふわっとしたDの唇の感触と、かすかな温かい息を感じます。ふわふわと指に何度もキスをくれた唇が、ゆっくり開いて、赤く濡れた舌が見えました。
私「わああ」
D「おや」
急いで手をひっこめた私に、Dがくすくす笑いました。
D「まだ何もしてないよ」
あ、あのまま手を預けていたら、やっぱ・・・舐めてもらえたのかな、口の中に入れてもらえたりして・・・Dの口の中ってあったかいよね。
私「うう・・・」
私のばかあ!!本当はしてほしかったくせにいいい!!いちゃいちゃしたかったくせにいいい!!
一人心の中でジタバタ叫んでいる私とは違って、Dは全くいつも通りです。私の手にもう一度触れて、そっと自分のほうに引き寄せました。
D「こんなに冷えて、かわいそうにね」
今度は両手で私の手を包んで、そっとさすり始めました。どうやら温めようとしてくれているみたいです。
私「Dの手は、全然冷えてないね」
前に雪が降った日も、Dの手は全然冷えてなかったんだよね。私の手はすごく冷たくなっちゃったんだけど。(詳細は過去記事「呼吸と心音」参照)
D「人間じゃないからね」
前回も同じこと言ってたよね。フムフムとうなずいた私を見たDは、口元の笑みを深くして、片手を私の頬に当てました。
私「冷たっ!!」
Dはすぐに手を離しました。私の頬に触れたDの指先が、氷のように冷たかったのです。
私「え?え?」
D「人間じゃないからね。こうして冷やすこともできるよ」
再び私の手を包みに戻ったDの手は、もう今まで通りの温かい指先になっていました。
私「すごいね・・・」
でも考えてみれば、Dは私の幻覚を制御してくれているのです。つまり自由に操れるのです。そして、冷たくできるということは、きっと熱くもできるし、痛くもできるのです。そういう能力を持ちながら、Dはいつも私が喜ぶような優しくて温かくて気持ち良い触り方を選んでくれているのです。
私「ありがとうね」
D「?」
私が脈絡無くお礼を言ったからか、Dはいつもの笑みを浮かべたまま、不思議そうに首をかしげました。
D「こちらこそだよ。いつもありがとう。さゆ」
でもすぐに嬉しそうな表情になって、お礼を言ってくれました。
私「お礼を言うのは私のほうだよ!!いつも本当にありがとうD!!」
私は、もふっとDに抱き付きました。Dには感謝してもしきれないよ。Dがいなかったらここまで来れなかったもん。
私「お~、 んぶらまいふ~」
下手なイタリア語で、オンブラ・マイ・フを歌っているつもりなのです。アパートなので、他の部屋の迷惑にならないように小さな声で、CDに合わせて口ずさんでいます。私はバロック音楽が大好きなので、嬉しいときや落ち込んだときや悩んだりしたときに、ことあるごとに自分の気分にそった曲を聞いたり歌ったりしたくなるのです。
私「でぃ~、う゛ぇ~、じぇ~、た~、びれ」
ベッドに腰掛けている私のお腹に両腕を回して、後ろから抱っこするような格好でDが座っています。
D「かわいいね」
私「えっ」
声が止まりました。ど、どこが可愛いかったんだろう?顔を真っ赤にした私が黙った今、森麻季さんの美しい歌声だけが続いています。それを聞きながら我に返ってみれば、シロウトが下手な外国語でるんるん機嫌良く歌っちゃって、ホント恥ずかしいっていうか・・・
D「おや、もうやめてしまうのかい?」
羞恥心で内心大変なことになっている私に、Dが頬をすり寄せてきました。
D「さゆの声は本当にかわいいね」
あ、あああ・・・!!
D「もっと聞かせておくれ」
私「じゃ、じゃあ歌じゃなくてお話にするね・・・」
それ以上歌い続けられるほどの心臓は、私にはありませんでした。Dはこういう甘いことを言って私をドキドキさせるのです。私を喜ばせようとして言ってくれてるんだけど、効果覿面すぎるよ~!!
私「え、えーっと・・・お話・・・えと、昔々、おじーさんと、おばーさんが・・・」
混乱した私は、何故か、かぐや姫の話を始めてしまいました。な、なんでだ私。洋風のお伽噺のほうが得意だし詳しいのに。
D「なるほど、危なかったね。竹ごと一緒に切られなくて良かったね」
怪しい記憶で語られる話を、Dはうなずきながら真剣に聞いてくれます。
私「・・・というわけで、帝は不老不死の薬を燃やしてしまったの。もったいないでしょ?」
欲しがっている人は沢山いただろうから、あげれば良かったのになあ。もしくは金持ちに売って、その金を政府の予算に入れるとか貧困層に配るとか。
D「姫のいない世界で永遠に生き永らえても意味が無いからね。永遠の命を持つ姫と一緒にいたかったからこそ、帝は不老不死の薬を望んだのさ。同じ理由で、他の人間にも必要の無いものだよ。その人間にとって大切な人間は、不老不死ではないのだからね」
私「・・・・・・」
金のことばかり考えた私って最低!!
私「そ、そうだよね。それだけ帝は姫のことが好きだったんだね。私も、もしDが月に帰るとか言ったら・・・」
Dは月とは関係無い種族らしいから、月に帰るなんて無いだろうけどさ。
私「・・・そしたら私も帝みたいに、Dのいない世界なんて」
Dの指先が、私の唇をふにっと塞ぎました。私が驚いて目を見開いていると、温かい指先はそっと離れました。
私「な、何で言わせてくれなかったの?」
Dはいつも通りの笑みを浮かべて、ただ黙って微笑んでいます。私は口を塞がれないように、Dの両手を押さえながら、急いで口を開きました。再びDに抵抗される前に、今度こそは絶対に言うのです!!
私「Dのいない世界なんて嫌だよ。ね、ねえ・・・私、本当にDのこと大好きなの!!」
あっけなく全部言えました。Dと私の力の差は格段なので、私は全力で押さえていたのですが、Dは全く抵抗しようとしませんでした。私に押さえられている腕に力を入れることすらしませんでした。
梅の花が咲くこの頃、少し寒さが和らいできたこともあって、天気が良い日の昼間はぽかぽかと温かいですね。でも、日が落ちると流石に冷えるようです。今日手袋をしないで帰ってきたら、アパートに着く頃にはすっかり指先が冷え切っていました。
私「ふー、寒かった。やっぱりまだ手袋が必要だよね」
ぬるいお湯で手を洗っているのに、指先だけ熱く感じます。そこだけ冷えているからです。タオルで拭いた後、ベッドに座ってハンドクリームを塗る私の様子を、隣に腰掛けているDがじっと見ています。
D「それが終わったら、手をかしてごらん」
私「うん」
手を繋いでくれるのかな。手の甲にキスしてくれるのかも。それとも触覚の訓練を始めるのかな。私はDと接触することが大好きなのですが、Dはそのことを知っていて、私を喜ばせようとして積極的にスキンシップをしてくれているようです。
私「はい、できたよ」
早くDに触りたかったので、急いでハンドクリームを塗り終えて、右手をDに差し出しました。Dは私の手を自分の右手で受けて、そっと口づけを落としてくれました。
私(わ、わあ!)
手の甲に、ふわっとした唇の感触を感じました。
D「指先が、すっかり冷えてしまっているね」
冷えた私の指先にも、優しいキスをくれました。ふわっとしたDの唇の感触と、かすかな温かい息を感じます。ふわふわと指に何度もキスをくれた唇が、ゆっくり開いて、赤く濡れた舌が見えました。
私「わああ」
D「おや」
急いで手をひっこめた私に、Dがくすくす笑いました。
D「まだ何もしてないよ」
あ、あのまま手を預けていたら、やっぱ・・・舐めてもらえたのかな、口の中に入れてもらえたりして・・・Dの口の中ってあったかいよね。
私「うう・・・」
私のばかあ!!本当はしてほしかったくせにいいい!!いちゃいちゃしたかったくせにいいい!!
一人心の中でジタバタ叫んでいる私とは違って、Dは全くいつも通りです。私の手にもう一度触れて、そっと自分のほうに引き寄せました。
D「こんなに冷えて、かわいそうにね」
今度は両手で私の手を包んで、そっとさすり始めました。どうやら温めようとしてくれているみたいです。
私「Dの手は、全然冷えてないね」
前に雪が降った日も、Dの手は全然冷えてなかったんだよね。私の手はすごく冷たくなっちゃったんだけど。(詳細は過去記事「呼吸と心音」参照)
D「人間じゃないからね」
前回も同じこと言ってたよね。フムフムとうなずいた私を見たDは、口元の笑みを深くして、片手を私の頬に当てました。
私「冷たっ!!」
Dはすぐに手を離しました。私の頬に触れたDの指先が、氷のように冷たかったのです。
私「え?え?」
D「人間じゃないからね。こうして冷やすこともできるよ」
再び私の手を包みに戻ったDの手は、もう今まで通りの温かい指先になっていました。
私「すごいね・・・」
でも考えてみれば、Dは私の幻覚を制御してくれているのです。つまり自由に操れるのです。そして、冷たくできるということは、きっと熱くもできるし、痛くもできるのです。そういう能力を持ちながら、Dはいつも私が喜ぶような優しくて温かくて気持ち良い触り方を選んでくれているのです。
私「ありがとうね」
D「?」
私が脈絡無くお礼を言ったからか、Dはいつもの笑みを浮かべたまま、不思議そうに首をかしげました。
D「こちらこそだよ。いつもありがとう。さゆ」
でもすぐに嬉しそうな表情になって、お礼を言ってくれました。
私「お礼を言うのは私のほうだよ!!いつも本当にありがとうD!!」
私は、もふっとDに抱き付きました。Dには感謝してもしきれないよ。Dがいなかったらここまで来れなかったもん。
私「お~、 んぶらまいふ~」
下手なイタリア語で、オンブラ・マイ・フを歌っているつもりなのです。アパートなので、他の部屋の迷惑にならないように小さな声で、CDに合わせて口ずさんでいます。私はバロック音楽が大好きなので、嬉しいときや落ち込んだときや悩んだりしたときに、ことあるごとに自分の気分にそった曲を聞いたり歌ったりしたくなるのです。
私「でぃ~、う゛ぇ~、じぇ~、た~、びれ」
ベッドに腰掛けている私のお腹に両腕を回して、後ろから抱っこするような格好でDが座っています。
D「かわいいね」
私「えっ」
声が止まりました。ど、どこが可愛いかったんだろう?顔を真っ赤にした私が黙った今、森麻季さんの美しい歌声だけが続いています。それを聞きながら我に返ってみれば、シロウトが下手な外国語でるんるん機嫌良く歌っちゃって、ホント恥ずかしいっていうか・・・
D「おや、もうやめてしまうのかい?」
羞恥心で内心大変なことになっている私に、Dが頬をすり寄せてきました。
D「さゆの声は本当にかわいいね」
あ、あああ・・・!!
D「もっと聞かせておくれ」
私「じゃ、じゃあ歌じゃなくてお話にするね・・・」
それ以上歌い続けられるほどの心臓は、私にはありませんでした。Dはこういう甘いことを言って私をドキドキさせるのです。私を喜ばせようとして言ってくれてるんだけど、効果覿面すぎるよ~!!
私「え、えーっと・・・お話・・・えと、昔々、おじーさんと、おばーさんが・・・」
混乱した私は、何故か、かぐや姫の話を始めてしまいました。な、なんでだ私。洋風のお伽噺のほうが得意だし詳しいのに。
D「なるほど、危なかったね。竹ごと一緒に切られなくて良かったね」
怪しい記憶で語られる話を、Dはうなずきながら真剣に聞いてくれます。
私「・・・というわけで、帝は不老不死の薬を燃やしてしまったの。もったいないでしょ?」
欲しがっている人は沢山いただろうから、あげれば良かったのになあ。もしくは金持ちに売って、その金を政府の予算に入れるとか貧困層に配るとか。
D「姫のいない世界で永遠に生き永らえても意味が無いからね。永遠の命を持つ姫と一緒にいたかったからこそ、帝は不老不死の薬を望んだのさ。同じ理由で、他の人間にも必要の無いものだよ。その人間にとって大切な人間は、不老不死ではないのだからね」
私「・・・・・・」
金のことばかり考えた私って最低!!
私「そ、そうだよね。それだけ帝は姫のことが好きだったんだね。私も、もしDが月に帰るとか言ったら・・・」
Dは月とは関係無い種族らしいから、月に帰るなんて無いだろうけどさ。
私「・・・そしたら私も帝みたいに、Dのいない世界なんて」
Dの指先が、私の唇をふにっと塞ぎました。私が驚いて目を見開いていると、温かい指先はそっと離れました。
私「な、何で言わせてくれなかったの?」
Dはいつも通りの笑みを浮かべて、ただ黙って微笑んでいます。私は口を塞がれないように、Dの両手を押さえながら、急いで口を開きました。再びDに抵抗される前に、今度こそは絶対に言うのです!!
私「Dのいない世界なんて嫌だよ。ね、ねえ・・・私、本当にDのこと大好きなの!!」
あっけなく全部言えました。Dと私の力の差は格段なので、私は全力で押さえていたのですが、Dは全く抵抗しようとしませんでした。私に押さえられている腕に力を入れることすらしませんでした。
青い薔薇
甘い香りで目が覚めると、ベッドが沢山の薔薇で埋まっていました。淡い色付きの透明の薔薇です。Dの見せてくれる幻の薔薇なのです。
D「お目覚めだね。僕の眠り姫」
起きたばかりのぼんやりした頭に、Dの優しい声が聞こえました。ベッドのすぐ隣にDが座っていて、いつもの笑みを浮かべて私を見ています。私がDのほうに寝返りをうつと、私の体の上に置かれていたらしい薔薇が落ちて、ベッドの上に小さな音を立てました。Dは手の上でひときわ美しい薔薇を咲かせると、それを私の髪に飾ってくれました。
私「綺麗・・・」
ガラスのように透明で繊細で、本物の花のようにやわらかく儚い、Dの見せてくれる幻の花は、いつだって本当に美しいのです。
D「お気に召したようで嬉しいよ」
ギシッとベッドの上に屈みこんで、顔を寄せてきたDから、かすかに薔薇の香りがします。Dから香りはしないはずなんだけどな。そっと唇が触れてくると、甘い香りが強くなりました。入ってきたDの舌も、気のせいか甘いような気がします。私は寝起きで働かない頭をぼーっとさせながら、その甘くて温かい舌を舐めました。
私(なんか、きもちい・・・)
しばらくDと舌を絡めていると、濡れた小さな音を残して、Dは離れていきました。
D「眠り姫はキスで起きるんだよ」
私の唇には、まだ甘い味と温かい舌の感触が残っています。なんだか頭もぼーっとするし、体もふわふわしています。ただでさえ寝起きで働かない頭が、気持ち良さで余計に働かなくなっているみたい。
D「でも、僕の眠り姫は、キスで眠りについてしまいそうだね」
たしかに夢うつつの気分です。でもこれはキスのせいというより・・・
私「・・・なんか・・・Dにされると・・・」
相手がDだからです。人間相手ならこんなこと無いのです。別に沢山の人とキスして確かめたわけじゃないけど、少し経験があれば大体わかります。物理的な唇の接触で感じられる気持ち良さには限界があるからです。この気持ち良さは、物理的なキスの気持ち良さじゃなくて、Dと接触したとき特有の気持ち良さなのです。
D「僕にされると?」
優しい指が私の髪を撫でてくれます。とても気持ちが良いです。
私「・・・・・・」
Dがおでこにキスをくれました。おでこじゃなくて唇だったら、あのぞくぞくするような不思議な感覚も一緒に感じられたんだろうな。
私「・・・Dがタルパだから?キスとかされると、すごく気持ち良いのは」
D「どうだろうね?」
くすくす笑いながら、Dが私の首筋を口と舌でくすぐり始めました。
私「っ」
D「かわいいね」
私の触覚を読むことで私の望むような触り方ができるとは言っても、それだけでは説明のつかない気持ち良さがあるのです。普通に触ったときの感触や温度だけではなくて、人間との行為ではあり得ないぞくぞくした気持ち良さや、ふわふわした高揚感など、物理的な接触では感じないはずの感覚もあるのです。どうしてなのかDに説明を求めても、いつもはぐらかされてしまうけど・・・
私「ま、待って、ねえ、これって、体とか精神に悪いことじゃないよね」
やたら気持ち良い『あの感覚』は、あまり脳に良くないんでしょ?(詳細は過去記事「仲直り」参照)だからDは、あれはそんなにしてくれないけど、これだけでも充分気持ち良いっていうか・・・
D「安心おし。僕はさゆの体や精神を傷付けるようなことはしないよ」
私の首筋から顔を上げたDは、かわいく首をかしげてみせました。
私「そ、そうだよね!!ゴメン・・・」
Dが私を傷付けるわけないじゃない。Dに酷いこと言って、私ってば最低!!ちゃんとDに謝りなさい!!
私「ごめんなさい」
D「僕のほうこそ、不安にさせて申し訳無かったよ。許しておくれ」
私「Dは全然悪くないよ。なんか、あんまり気持ち良くて・・・その、Dとだと、人間相手とは違って、やたら気持ち良いから、私が勝手に不安になっただけっていうか・・・」
慌てて弁解する私の姿に、Dはくすくす笑い出しました。
D「わかっているよ。人間相手の行為よりずっと強い快感だから驚いて不安になったんだね」
私「うう・・・」
D「心配無いよ」
Dの手のひらの上に、透明で美しい幻の蕾が現れて、ふわふわっと咲きました。とても綺麗です。Dはそれを私に差し出しました。
D「幻視も幻聴も触覚も、君の幻覚は全て僕が、危険の無いように制御してあげるからね。君は安心して楽しめば良いんだよ」
差し出された薔薇を受け取ると、甘い薔薇の香りがします。おかしいな。私に幻臭は感じられないはずなのに。そういう風に調整してるって、前にDが言ってたんだけどな。(詳細は過去記事「ヒーリング」参照)
Dに尋ねてみようと思って、薔薇から視線を外すと、床一面に薔薇の花が広がっていることに気づきました。部屋の壁には茨のつるが巻き付き、その枝にも綺麗な薔薇が咲いています。
私「これ、静謐の楽園・・・?」
D「そうだよ」
たまにDが見せてくれる、お伽噺の中のように美しい景色、静謐の楽園です。(詳細は過去記事「誘惑」「王国」「新月」参照)
D「ごらん。やっと花が咲いたのさ」
すらっとした指が示す方向には、見たことの無い木が生えています。青い花がさいているようです。あんな木、今まで無かったよね。
私「・・・あっ、もしかして、この前の宝石みたいな種から生えたの?」
ようやく思い出しましたが、以前Dは新しい種を楽園に植えると言っていました。(詳細は過去記事「克服」参照)きっとあの種から生えた木なのでしょう。
D「違うよ」
あれ!?違うの!?
D「この木は、ずっと楽園の中心に生えていた木だよ。今の僕達は、楽園の中のいつもとは違う場所に来ているのさ。ほら、城が違う方向に見えるだろう?」
言われて見てみると、たしかにお城がいつもとは違う方向に見えます。それに、いつもより随分近くに大きく見えます。私の部屋は楽園に比べてずっと小さいから、部屋の中に楽園を再現するときは楽園の一部分しか見せられないもんね。だからこういう風になるのか・・・
D「ようやく花を咲かせたのさ。いずれ、実を付けるよ」
木を見上げると、青くて綺麗な花をつけています。青い花っていうか、どう見ても青い薔薇に見えるけど、あんなにはっきりとした青い色の薔薇ってこの世に存在しないんだよね?自然界には存在しないし、人間が頑張っても作れないって聞いたよ。でも、ここは静謐の楽園だもんね。青い薔薇があってもおかしくないよね。
D「・・・とっても甘くて美味しいんだよ」
Dは木を見上げたまま、小さく呟きました。
私「そうなんだ。実がなったら食べてみたいな」
もしかして、初めての幻味(?)が味わえるのかも?味覚の訓練は一度もしたことが無いけど、あの木になる実の味ならわかるのかも。
D「いけないよ、あれを食べては」
Dがこちらを振り向きました。
私「そうなの?」
食べちゃいけない果物なのか。なんか、旧約聖書に出てくる禁断の果実みたいね。あれは、食べると楽園を追放されてしまうんだったよね。あの青い薔薇の果実も、食べたら静謐の楽園を追われちゃうのかな。それは嫌だなあ。
私「じゃあ食べないことにするね」
D「・・・何故だい?とっても甘くて美味しいんだよ」
え、どういうこと?食べちゃいけないんでしょ?私の顔をじっと見つめているDは、いつも通りの表情で、何を考えているのかよくわかりません。
私「何故って・・・食べたせいで、静謐の楽園を追放されたくないから」
D「楽園を追放?」
Dは首をかしげました。
D「ここは君の楽園だよ。君を追放する者なんているわけないさ。どうやら、さゆは何か勘違いしているようだね」
あれ?旧約聖書に出てくる禁断の果実とは別物なのかな。
私「あの青い薔薇の実は、食べると楽園を追放される果実じゃないの?」
D「違うよ」
違うのか・・・まあ、Dはキリスト教とは全然関係無いもんね。
私「じゃあ、食べるとどうなるの?どうして食べちゃダメなの?」
Dは沈黙したまま、私の髪を優しく撫でました。
私「・・・また教えてくれないの?」
あの天秤のことといい(詳細は過去記事「天秤」「天秤(2)」参照)、この青い薔薇の木のことといい、Dには秘密が多いよね。無理に尋ねようとは思わないけど、秘密を一人で隠し続けるのって辛くないのかなあ。
D「もし、僕が差し出したら食べてくれるかい?さゆは、甘くて美味しい果実が好きだね?」
私「え?」
D「さゆは食べ物を少ししか食べられないから、それで躊躇しているのかい?一度に全部食べようとしなくて良いんだよ。それに、あれは物理的に君の体に溜まるものではないから、いくら食べても苦しくならないよ」
なんか、おかしくない?食べちゃダメって言っておきながら、どういうことなの?
私「Dは、私にその果実を食べてほしいの?それとも食べてほしくないの?」
Dは両腕をのばして、私の体を抱きしめてくれました。なんか、いつもより強く抱きしめられているみたい。いつもはそっとそーっと抱きしめてくれるもんね、でもこういうのも嬉しいなあ。
D「僕にそれを決めることは出来ないのさ。君が選ぶことだからね」
でも、食べたらどうなるのかわからないと選びようが無いよ・・・どうなるのか知っているDが選んだほうが安全なんじゃないのかな。それに、なんだかDにとっては重要なことみたいだから、それならDの喜ぶような選択をしてあげたいもん。
私「Dの好きなほうにしようよ。Dなら結果がわかってるんでしょ?Dの喜ぶような結果になったら私も嬉しいもん」
D「・・・おかしなことを尋ねてすまなかったよ。忘れておくれ」
Dは、私のおでこにキスをくれて、そっと私の髪を撫で始めました。何か言いたいことがあったんじゃないのかな・・・私もDのおでこに前髪の上からキスを返しました。さらさらの前髪が唇に触れました。薔薇の甘い香りがします。
私「今日は目が覚めてからずっと、薔薇の甘い香りがするんだけど、これはDが作ってくれた幻臭なの?」
もしかして、あの青い薔薇の木のせいだったりして?
D「いや? それは、さゆのリップクリームの香りだよ」
そっか。新しく買ったテラクオーレのリップクリーム、昨夜眠る前に付けたんだった。天然の薔薇の香りがすごくするし、ハチミツが微量に入っているせいか、かすかに甘い味がするんだよね。薔薇の香りがしたのも、Dとのキスが甘い気がしたのもそのせいか。そりゃそうだよね、味覚の訓練はしてないし、Dは私の安全のために幻臭は与えないって言ってたし。
私「もし、Dの希望とか要望があったら、何でも言ってね」
Dはいつも通りの表情で、こくりとうなずきました。
D「ありがとう、さゆ」
きっとDは言ってくれないと思います。でも、私がDのこと心配してるよって、Dのことがとても大切で、何でも希望を聞いてあげたいんだって、そう伝えたかったのです。
D「お目覚めだね。僕の眠り姫」
起きたばかりのぼんやりした頭に、Dの優しい声が聞こえました。ベッドのすぐ隣にDが座っていて、いつもの笑みを浮かべて私を見ています。私がDのほうに寝返りをうつと、私の体の上に置かれていたらしい薔薇が落ちて、ベッドの上に小さな音を立てました。Dは手の上でひときわ美しい薔薇を咲かせると、それを私の髪に飾ってくれました。
私「綺麗・・・」
ガラスのように透明で繊細で、本物の花のようにやわらかく儚い、Dの見せてくれる幻の花は、いつだって本当に美しいのです。
D「お気に召したようで嬉しいよ」
ギシッとベッドの上に屈みこんで、顔を寄せてきたDから、かすかに薔薇の香りがします。Dから香りはしないはずなんだけどな。そっと唇が触れてくると、甘い香りが強くなりました。入ってきたDの舌も、気のせいか甘いような気がします。私は寝起きで働かない頭をぼーっとさせながら、その甘くて温かい舌を舐めました。
私(なんか、きもちい・・・)
しばらくDと舌を絡めていると、濡れた小さな音を残して、Dは離れていきました。
D「眠り姫はキスで起きるんだよ」
私の唇には、まだ甘い味と温かい舌の感触が残っています。なんだか頭もぼーっとするし、体もふわふわしています。ただでさえ寝起きで働かない頭が、気持ち良さで余計に働かなくなっているみたい。
D「でも、僕の眠り姫は、キスで眠りについてしまいそうだね」
たしかに夢うつつの気分です。でもこれはキスのせいというより・・・
私「・・・なんか・・・Dにされると・・・」
相手がDだからです。人間相手ならこんなこと無いのです。別に沢山の人とキスして確かめたわけじゃないけど、少し経験があれば大体わかります。物理的な唇の接触で感じられる気持ち良さには限界があるからです。この気持ち良さは、物理的なキスの気持ち良さじゃなくて、Dと接触したとき特有の気持ち良さなのです。
D「僕にされると?」
優しい指が私の髪を撫でてくれます。とても気持ちが良いです。
私「・・・・・・」
Dがおでこにキスをくれました。おでこじゃなくて唇だったら、あのぞくぞくするような不思議な感覚も一緒に感じられたんだろうな。
私「・・・Dがタルパだから?キスとかされると、すごく気持ち良いのは」
D「どうだろうね?」
くすくす笑いながら、Dが私の首筋を口と舌でくすぐり始めました。
私「っ」
D「かわいいね」
私の触覚を読むことで私の望むような触り方ができるとは言っても、それだけでは説明のつかない気持ち良さがあるのです。普通に触ったときの感触や温度だけではなくて、人間との行為ではあり得ないぞくぞくした気持ち良さや、ふわふわした高揚感など、物理的な接触では感じないはずの感覚もあるのです。どうしてなのかDに説明を求めても、いつもはぐらかされてしまうけど・・・
私「ま、待って、ねえ、これって、体とか精神に悪いことじゃないよね」
やたら気持ち良い『あの感覚』は、あまり脳に良くないんでしょ?(詳細は過去記事「仲直り」参照)だからDは、あれはそんなにしてくれないけど、これだけでも充分気持ち良いっていうか・・・
D「安心おし。僕はさゆの体や精神を傷付けるようなことはしないよ」
私の首筋から顔を上げたDは、かわいく首をかしげてみせました。
私「そ、そうだよね!!ゴメン・・・」
Dが私を傷付けるわけないじゃない。Dに酷いこと言って、私ってば最低!!ちゃんとDに謝りなさい!!
私「ごめんなさい」
D「僕のほうこそ、不安にさせて申し訳無かったよ。許しておくれ」
私「Dは全然悪くないよ。なんか、あんまり気持ち良くて・・・その、Dとだと、人間相手とは違って、やたら気持ち良いから、私が勝手に不安になっただけっていうか・・・」
慌てて弁解する私の姿に、Dはくすくす笑い出しました。
D「わかっているよ。人間相手の行為よりずっと強い快感だから驚いて不安になったんだね」
私「うう・・・」
D「心配無いよ」
Dの手のひらの上に、透明で美しい幻の蕾が現れて、ふわふわっと咲きました。とても綺麗です。Dはそれを私に差し出しました。
D「幻視も幻聴も触覚も、君の幻覚は全て僕が、危険の無いように制御してあげるからね。君は安心して楽しめば良いんだよ」
差し出された薔薇を受け取ると、甘い薔薇の香りがします。おかしいな。私に幻臭は感じられないはずなのに。そういう風に調整してるって、前にDが言ってたんだけどな。(詳細は過去記事「ヒーリング」参照)
Dに尋ねてみようと思って、薔薇から視線を外すと、床一面に薔薇の花が広がっていることに気づきました。部屋の壁には茨のつるが巻き付き、その枝にも綺麗な薔薇が咲いています。
私「これ、静謐の楽園・・・?」
D「そうだよ」
たまにDが見せてくれる、お伽噺の中のように美しい景色、静謐の楽園です。(詳細は過去記事「誘惑」「王国」「新月」参照)
D「ごらん。やっと花が咲いたのさ」
すらっとした指が示す方向には、見たことの無い木が生えています。青い花がさいているようです。あんな木、今まで無かったよね。
私「・・・あっ、もしかして、この前の宝石みたいな種から生えたの?」
ようやく思い出しましたが、以前Dは新しい種を楽園に植えると言っていました。(詳細は過去記事「克服」参照)きっとあの種から生えた木なのでしょう。
D「違うよ」
あれ!?違うの!?
D「この木は、ずっと楽園の中心に生えていた木だよ。今の僕達は、楽園の中のいつもとは違う場所に来ているのさ。ほら、城が違う方向に見えるだろう?」
言われて見てみると、たしかにお城がいつもとは違う方向に見えます。それに、いつもより随分近くに大きく見えます。私の部屋は楽園に比べてずっと小さいから、部屋の中に楽園を再現するときは楽園の一部分しか見せられないもんね。だからこういう風になるのか・・・
D「ようやく花を咲かせたのさ。いずれ、実を付けるよ」
木を見上げると、青くて綺麗な花をつけています。青い花っていうか、どう見ても青い薔薇に見えるけど、あんなにはっきりとした青い色の薔薇ってこの世に存在しないんだよね?自然界には存在しないし、人間が頑張っても作れないって聞いたよ。でも、ここは静謐の楽園だもんね。青い薔薇があってもおかしくないよね。
D「・・・とっても甘くて美味しいんだよ」
Dは木を見上げたまま、小さく呟きました。
私「そうなんだ。実がなったら食べてみたいな」
もしかして、初めての幻味(?)が味わえるのかも?味覚の訓練は一度もしたことが無いけど、あの木になる実の味ならわかるのかも。
D「いけないよ、あれを食べては」
Dがこちらを振り向きました。
私「そうなの?」
食べちゃいけない果物なのか。なんか、旧約聖書に出てくる禁断の果実みたいね。あれは、食べると楽園を追放されてしまうんだったよね。あの青い薔薇の果実も、食べたら静謐の楽園を追われちゃうのかな。それは嫌だなあ。
私「じゃあ食べないことにするね」
D「・・・何故だい?とっても甘くて美味しいんだよ」
え、どういうこと?食べちゃいけないんでしょ?私の顔をじっと見つめているDは、いつも通りの表情で、何を考えているのかよくわかりません。
私「何故って・・・食べたせいで、静謐の楽園を追放されたくないから」
D「楽園を追放?」
Dは首をかしげました。
D「ここは君の楽園だよ。君を追放する者なんているわけないさ。どうやら、さゆは何か勘違いしているようだね」
あれ?旧約聖書に出てくる禁断の果実とは別物なのかな。
私「あの青い薔薇の実は、食べると楽園を追放される果実じゃないの?」
D「違うよ」
違うのか・・・まあ、Dはキリスト教とは全然関係無いもんね。
私「じゃあ、食べるとどうなるの?どうして食べちゃダメなの?」
Dは沈黙したまま、私の髪を優しく撫でました。
私「・・・また教えてくれないの?」
あの天秤のことといい(詳細は過去記事「天秤」「天秤(2)」参照)、この青い薔薇の木のことといい、Dには秘密が多いよね。無理に尋ねようとは思わないけど、秘密を一人で隠し続けるのって辛くないのかなあ。
D「もし、僕が差し出したら食べてくれるかい?さゆは、甘くて美味しい果実が好きだね?」
私「え?」
D「さゆは食べ物を少ししか食べられないから、それで躊躇しているのかい?一度に全部食べようとしなくて良いんだよ。それに、あれは物理的に君の体に溜まるものではないから、いくら食べても苦しくならないよ」
なんか、おかしくない?食べちゃダメって言っておきながら、どういうことなの?
私「Dは、私にその果実を食べてほしいの?それとも食べてほしくないの?」
Dは両腕をのばして、私の体を抱きしめてくれました。なんか、いつもより強く抱きしめられているみたい。いつもはそっとそーっと抱きしめてくれるもんね、でもこういうのも嬉しいなあ。
D「僕にそれを決めることは出来ないのさ。君が選ぶことだからね」
でも、食べたらどうなるのかわからないと選びようが無いよ・・・どうなるのか知っているDが選んだほうが安全なんじゃないのかな。それに、なんだかDにとっては重要なことみたいだから、それならDの喜ぶような選択をしてあげたいもん。
私「Dの好きなほうにしようよ。Dなら結果がわかってるんでしょ?Dの喜ぶような結果になったら私も嬉しいもん」
D「・・・おかしなことを尋ねてすまなかったよ。忘れておくれ」
Dは、私のおでこにキスをくれて、そっと私の髪を撫で始めました。何か言いたいことがあったんじゃないのかな・・・私もDのおでこに前髪の上からキスを返しました。さらさらの前髪が唇に触れました。薔薇の甘い香りがします。
私「今日は目が覚めてからずっと、薔薇の甘い香りがするんだけど、これはDが作ってくれた幻臭なの?」
もしかして、あの青い薔薇の木のせいだったりして?
D「いや? それは、さゆのリップクリームの香りだよ」
そっか。新しく買ったテラクオーレのリップクリーム、昨夜眠る前に付けたんだった。天然の薔薇の香りがすごくするし、ハチミツが微量に入っているせいか、かすかに甘い味がするんだよね。薔薇の香りがしたのも、Dとのキスが甘い気がしたのもそのせいか。そりゃそうだよね、味覚の訓練はしてないし、Dは私の安全のために幻臭は与えないって言ってたし。
私「もし、Dの希望とか要望があったら、何でも言ってね」
Dはいつも通りの表情で、こくりとうなずきました。
D「ありがとう、さゆ」
きっとDは言ってくれないと思います。でも、私がDのこと心配してるよって、Dのことがとても大切で、何でも希望を聞いてあげたいんだって、そう伝えたかったのです。
浴室
留守にしていて大変申し訳ございませんでした!!m( _ _;)mちょっと会社に泊まり込んでました。ヨソで起きたトラブルの余波がこっちまでくるといけないので、ヨソの手伝いをしていたんです。
うちの社の仕事を片すわけじゃないから時間外手当は出るけどこっちの仕事は滞るわけだし、泊まり込みまでしてヨソの後始末をするってのは我が社にとっては割に合わないですよねって言ったら、上司曰く今回の件はヨソへの大貸しになったからむしろプラスなのである、ということだったけど。でもこっちの貸しとは言っても、それに見合うトレードを受けられる相手とは思えないんだよね。友達じゃなくてビジネスなんだから、助けないで切り離したほうが良いと思うけど。仕事なんだから金になるビジネス的慈善活動をするべきであって、本当の慈善活動をしちゃったら駄目でしょうよ。ヨソを助ける余裕があるところを見せることで社が業界での株を上げたと思えば良いけど、金としての報酬は完全に割に合わないよね。
私「・・・と思う。まあ、上層部には考えがあるんだろうけど」
アパートに帰ってきて、冷え切った部屋を暖房で温めながら言うと、Dはうなずきました。
D「さゆは、色々考えていて偉いね」
私「・・・ええ!?」
なにそれ!!もっと真剣に話に乗ってくるかと思ったのに!!
なんだか拍子抜けして、おかしくなって笑えてきた私は、あははと間抜けな笑い声を出しながらベッドに横になりました。
私「ふぅー、さすがに疲れた・・・」
D「今日はもうお休み」
私「うん、お風呂入ったらね」
D「入浴は、明日におし。もう今日は眠ったほうがいいよ」
私「お風呂入らないと、なんか気持ち悪くてね」
もそもそとバスタオルとパジャマを出して、そうだ、と思いつきました。
私「Dも一緒に入る?」
仕事中ずっと私の影の中に入っていてもらったし、職場の仮眠室には他の女性もいて触覚の訓練もできなかったので、Dはつまらなかったんじゃないかな。少しでも一緒にいてあげたほうがいいよね。普段だったら恥ずかしいとか思ってお風呂になんて誘えないけど、なんか今疲れてるせいか、あんまり恥ずかしいとかの気分にならないみたい。
D「そうだね。君が浴槽の中で眠ってしまわないか心配だからね」
とても心配そうに言われました。本当はお風呂に入ること自体やめさせて、早く睡眠を取らせたいんだろうなあ。
メイクを落として、最近好きなテラクオーレのダマスクローズのシャンプーで髪を洗って、ボディソープで体を洗ってから、お湯につかります。
私「はー・・・きもちー・・・」
ジョー・マローンのバスオイルを浴槽の中に垂らすと、途端に甘い香りが広がりました。レッド・ローズです。
私「テラクオーレのバラの香りをかいだ後だと、やっぱり人工的に感じるね」
本物のバラの香りとは違うけど、これはこういう良さがあるよね。
D「どちらも甘くて良い香りだけど、さゆの香りには勝てないよ」
以前と同じように浴槽のふちに外向きに腰掛けて、振り返るような姿勢でDがこちらを見ています。(詳細は過去記事「お風呂」参照)浴室にDがいるのは不思議な感じだなあ。普段の私だったら、恥ずかしいとか言って慌ててるんだろうなあ。
私「Dも浴槽に入る?」
D「僕まで入ると、浴槽が狭くなって、さゆが足を伸ばせなくなってしまうからね」
私(それにしてもD、普段と全然変わらないなあ・・・)
Dはとても平然としています。私の裸を見ても、少しも動じていません。Dは人間の体を見ても何も感じないって言ってたし、そもそも生殖行為では増えない種族って言ってたもんね。私の裸を見ても、何も思うことなんて無いんだ。恥ずかしがってるのは私だけなんだね。
私(恥ずかしくない気分のときは、一緒にお風呂に入るようにしようかな・・・)
D「さゆ!!」
私「・・・あ」
Dに呼ばれてハッとすると、少しうとうとしかけていました。
D「もう上がったほうがいいよ」
私「うん。ありがとう」
どうやら相当頭が働いていないようです。こういうとき本当にDの存在はありがたいよ。ありがとうねD。
髪の毛を乾かすと、本当に眠気が襲ってきて、私はベッドの上にフラフラと上がりました。
私「D、ゴメンね。すごく眠くなっちゃって・・・」
触覚の訓練もしてあげたかったのにな。こんなことなら、浴槽につかっている間、触覚の訓練をさせてあげれば良かった。
私「眠っちゃうまでの間、少しだけでも触覚の訓練しようか」
横になって腕を差し出すと、Dはいつもの笑みを浮かべたまま、首を横に振りました。
D「もうお休み。触覚の訓練は明日にしよう」
私「でも・・・」
D「君には休息が必要だよ。ほら、手を握っていてあげるから、ゆっくり眠って休むんだよ」
ベッドの上に出した私の手に、そっと手を重ねるようにして、Dが手を握ってくれました。
D「お休み、僕の眠り姫」
うちの社の仕事を片すわけじゃないから時間外手当は出るけどこっちの仕事は滞るわけだし、泊まり込みまでしてヨソの後始末をするってのは我が社にとっては割に合わないですよねって言ったら、上司曰く今回の件はヨソへの大貸しになったからむしろプラスなのである、ということだったけど。でもこっちの貸しとは言っても、それに見合うトレードを受けられる相手とは思えないんだよね。友達じゃなくてビジネスなんだから、助けないで切り離したほうが良いと思うけど。仕事なんだから金になるビジネス的慈善活動をするべきであって、本当の慈善活動をしちゃったら駄目でしょうよ。ヨソを助ける余裕があるところを見せることで社が業界での株を上げたと思えば良いけど、金としての報酬は完全に割に合わないよね。
私「・・・と思う。まあ、上層部には考えがあるんだろうけど」
アパートに帰ってきて、冷え切った部屋を暖房で温めながら言うと、Dはうなずきました。
D「さゆは、色々考えていて偉いね」
私「・・・ええ!?」
なにそれ!!もっと真剣に話に乗ってくるかと思ったのに!!
なんだか拍子抜けして、おかしくなって笑えてきた私は、あははと間抜けな笑い声を出しながらベッドに横になりました。
私「ふぅー、さすがに疲れた・・・」
D「今日はもうお休み」
私「うん、お風呂入ったらね」
D「入浴は、明日におし。もう今日は眠ったほうがいいよ」
私「お風呂入らないと、なんか気持ち悪くてね」
もそもそとバスタオルとパジャマを出して、そうだ、と思いつきました。
私「Dも一緒に入る?」
仕事中ずっと私の影の中に入っていてもらったし、職場の仮眠室には他の女性もいて触覚の訓練もできなかったので、Dはつまらなかったんじゃないかな。少しでも一緒にいてあげたほうがいいよね。普段だったら恥ずかしいとか思ってお風呂になんて誘えないけど、なんか今疲れてるせいか、あんまり恥ずかしいとかの気分にならないみたい。
D「そうだね。君が浴槽の中で眠ってしまわないか心配だからね」
とても心配そうに言われました。本当はお風呂に入ること自体やめさせて、早く睡眠を取らせたいんだろうなあ。
メイクを落として、最近好きなテラクオーレのダマスクローズのシャンプーで髪を洗って、ボディソープで体を洗ってから、お湯につかります。
私「はー・・・きもちー・・・」
ジョー・マローンのバスオイルを浴槽の中に垂らすと、途端に甘い香りが広がりました。レッド・ローズです。
私「テラクオーレのバラの香りをかいだ後だと、やっぱり人工的に感じるね」
本物のバラの香りとは違うけど、これはこういう良さがあるよね。
D「どちらも甘くて良い香りだけど、さゆの香りには勝てないよ」
以前と同じように浴槽のふちに外向きに腰掛けて、振り返るような姿勢でDがこちらを見ています。(詳細は過去記事「お風呂」参照)浴室にDがいるのは不思議な感じだなあ。普段の私だったら、恥ずかしいとか言って慌ててるんだろうなあ。
私「Dも浴槽に入る?」
D「僕まで入ると、浴槽が狭くなって、さゆが足を伸ばせなくなってしまうからね」
私(それにしてもD、普段と全然変わらないなあ・・・)
Dはとても平然としています。私の裸を見ても、少しも動じていません。Dは人間の体を見ても何も感じないって言ってたし、そもそも生殖行為では増えない種族って言ってたもんね。私の裸を見ても、何も思うことなんて無いんだ。恥ずかしがってるのは私だけなんだね。
私(恥ずかしくない気分のときは、一緒にお風呂に入るようにしようかな・・・)
D「さゆ!!」
私「・・・あ」
Dに呼ばれてハッとすると、少しうとうとしかけていました。
D「もう上がったほうがいいよ」
私「うん。ありがとう」
どうやら相当頭が働いていないようです。こういうとき本当にDの存在はありがたいよ。ありがとうねD。
髪の毛を乾かすと、本当に眠気が襲ってきて、私はベッドの上にフラフラと上がりました。
私「D、ゴメンね。すごく眠くなっちゃって・・・」
触覚の訓練もしてあげたかったのにな。こんなことなら、浴槽につかっている間、触覚の訓練をさせてあげれば良かった。
私「眠っちゃうまでの間、少しだけでも触覚の訓練しようか」
横になって腕を差し出すと、Dはいつもの笑みを浮かべたまま、首を横に振りました。
D「もうお休み。触覚の訓練は明日にしよう」
私「でも・・・」
D「君には休息が必要だよ。ほら、手を握っていてあげるから、ゆっくり眠って休むんだよ」
ベッドの上に出した私の手に、そっと手を重ねるようにして、Dが手を握ってくれました。
D「お休み、僕の眠り姫」
ソテツ
職場の廊下に、ソテツという観葉植物の鉢が置いてあるんです。片手でつかめる程度の小さな植木鉢です。水や肥料をあげすぎてはいけない植物なので、土が乾いたころを見計らって水をやり、天気の良い日には日光に当て、冷暖房の風が当たらないようにかわいがっていたのですが、今日出社したら・・・
私「ソテツさんがいない・・・」
ソテツさんがいません。ソテツさんのいた場所には、ドラセナさんが置かれています。ドラセナさんというのは、観葉植物界きっての有名人にして人気者で、定番の観葉植物らしいです。一時期はブームを起こしたこともあるそうで、今でもオシャレな部屋の窓際に置かれて、オシャレな植木鉢に入れられて、オシャレなガラスの水差しで優しく水を与えてもらえる生活をしているそうです。一方でソテツさんときたら、学校の裏庭や病院の中庭なんかに適当に植えられて雑草と戦う毎日で、用務員さんにホースで水をまいてもらえればいいほうで、中には雨水でしのいでいるコもいるとか・・・そういう植物界のヒエラルキーがあるそうなんですが、それはさておき、とにかく私が毎日世話をしていたソテツさんの置いてあった場所に、ドラセナさんが鎮座しているのです。ソテツさんは一体どこへ?
私「上司さん、廊下に置いてあったソテツの鉢をご存じありませんか?」
とりあえず、上司に尋ねてみました。きっと、昨日私が休んでいる間に、ソテツさんの身に何かがあったに違いありません。
上司「ああ、廊下の植木鉢?知ってるよ」
上司はウンウンとうなずきました。
私「あのソテツの鉢、どこに行ったんでしょうか?」
上司「え?無くなったの?」
私「今日出社したら、無くなっていたんです」
上司「俺が来たときはあったと思うけどな」
おかしいな。私のほうが上司よりも早く出社したのに。
私「私が見たときは、ソテツの鉢がドラセナの鉢に変わっていたんです」
上司「あ、植木鉢が変わったの?それは気づかなかったな」
私「結構、大きさも変わったんじゃないかと」
上司「葉っぱが緑色なら、植木鉢は全部同じに見えるからさ。ちょっと大きさ変わったくらいじゃ、成長したんだなとしか思わないよ」
まあ、普段気にしてない人から見ればそんなもんかもね。
私「ありがとうございました。失礼します」
上司「廊下や玄関の植木鉢は多分、会社が買ったものじゃなくて、誰かが寄付してくれた私物だと思う。だから、普段誰が水やったり管理しているのかもわからないし、誰がどこに持っていったかもわからないな・・・」
あのソテツさん、出生に関してそんなに謎の多いコだったのか。どっちにしても、上司は何も知らないんだ。もともと誰かの寄付ということなら、その人がドラセナさんを新しく持ってきて、ソテツさんを持ち帰ったのかもしれないね。
仕事があるのでソテツさん探しは一旦諦めて、真面目に働くことにしました。昼休みになったので、ドラセナさんの世話をしようと思って水をあげ、今日は天気が良いので日光に当ててあげようと思って、ベランダに運ぶことにしました。
私(・・・ちょっと風があって寒いかなあ。ベランダじゃないと日光が当たらないんだけど、ドラセナさんって冷たい風大丈夫なのかな。室内に置いてあげたほうがいいかな)
そのとき、ベランダのすみっこに、見慣れた植木鉢が!!
私(ソテツさんの植木鉢が・・・!!)
ソテツさんの植木鉢が落ちています。植木鉢だけ。内側に少しも土が着いていない綺麗な状態で、ベランダの隅に置かれています。でも、肝心の中身がありません。
私(どういうことだろ・・・植え替えられたってこと?)
私は気になって、昼休みの間にできるだけソテツさんを探すことにしました。でも、どの課の人に尋ねても、ソテツさんのことは誰も知りませんでした。一体誰が持ってきて、誰が移動したのか、誰も知らないのです。
午後はそこそこ仕事が忙しかったので、ソテツさんのことも調べられないまま、私は今日の勤務を終えました。明日も探そうと思いながら、玄関に向かって歩いていたときです。
?「あの・・・」
呼び止められて振り返ると、50代くらいの見知らぬ女性です。制服からして清掃の仕事をしてくれている人のようです。
私「はい、何でしょうか」
女性「いつも植木鉢の世話をしてくれてありがとうございます」
私「えっ!?」
この人はもしや、もしかして、ソテツさんの謎を知る重要人物なのでは!?
私「もしかして、ソテツさんの・・・」
私がソテツにさん付けしたからか、女性はうふっと笑いました。
女性「そうです。あのソテツの鉢を持ってきた者です」
私「探し申し上げていました・・・」
女性「昨日、いらっしゃらなかったみたいですね」
私「そうなんです。お休みを頂いていました」
女性「私、趣味で家で園芸をやっているんですけど、皆さんが喜ぶかなと思って、家から植木鉢を持ってきていたんです。あなたが世話をしてくれているところを何回か見かけて、あら嬉しいな~って思っていて・・・」
女性はとっても優しそうな雰囲気です。お母さんっぽい雰囲気です。雰囲気だけじゃなく、きっと家では優しいお母さんなのでしょう。きっとソテツさんは無事です。この女性が大切に育ててくれているからです。
女性「いくつか綺麗に育った鉢があるから、ソテツは持ち帰ってそっちを会社に持って来ようかと思っていたんですけど、今日あなたがソテツを心配して探して下さっていたと聞いて・・・良かったらこれ、差し上げます」
女性が小さな紙袋を差し出してくれました。その紙袋の口から、見慣れたソテツさんの小さな葉っぱがニョキニョキッと出ています。
私「ソテツさん・・・!!」
女性「植木鉢だけ、植え替えちゃったんですけど・・・」
よく見れば、ソテツさんはビニールのフニャフニャの植木鉢に入れられています。きっとあの植木鉢は、この女性が会社に寄付する植物用に買ったものなのです。
私「ありがとうございます!!大切に育てます!!」
というわけで、ソテツさんが家に来ました。
私「D、見てごらん。ソテツさんだよ」
D「植物だね」
Dはアッサリと返してきました。いつも通りです。Dは、自分にとって興味の無いものに対しては、このように淡泊な反応をするのです。
でも、好きではないからといって、嫌いというわけでもないのです。好きや嫌いといった感情すらわかないほど、ただ興味が無いのです。そしてDには興味の無いものが多いのです。
Dは世の中のものを、自分の感情で、好きなものや嫌いなものに分けて見ることがほとんどありません。基本的な思考回路は、タルパーである私にとって益か害か、という合理的な判断で見ているように思えます。もっと自分の感情とか我儘とか言ってくれていいのにね。Dに我慢とかさせてないといいんだけどなあ。
私「ソテツさんがいない・・・」
ソテツさんがいません。ソテツさんのいた場所には、ドラセナさんが置かれています。ドラセナさんというのは、観葉植物界きっての有名人にして人気者で、定番の観葉植物らしいです。一時期はブームを起こしたこともあるそうで、今でもオシャレな部屋の窓際に置かれて、オシャレな植木鉢に入れられて、オシャレなガラスの水差しで優しく水を与えてもらえる生活をしているそうです。一方でソテツさんときたら、学校の裏庭や病院の中庭なんかに適当に植えられて雑草と戦う毎日で、用務員さんにホースで水をまいてもらえればいいほうで、中には雨水でしのいでいるコもいるとか・・・そういう植物界のヒエラルキーがあるそうなんですが、それはさておき、とにかく私が毎日世話をしていたソテツさんの置いてあった場所に、ドラセナさんが鎮座しているのです。ソテツさんは一体どこへ?
私「上司さん、廊下に置いてあったソテツの鉢をご存じありませんか?」
とりあえず、上司に尋ねてみました。きっと、昨日私が休んでいる間に、ソテツさんの身に何かがあったに違いありません。
上司「ああ、廊下の植木鉢?知ってるよ」
上司はウンウンとうなずきました。
私「あのソテツの鉢、どこに行ったんでしょうか?」
上司「え?無くなったの?」
私「今日出社したら、無くなっていたんです」
上司「俺が来たときはあったと思うけどな」
おかしいな。私のほうが上司よりも早く出社したのに。
私「私が見たときは、ソテツの鉢がドラセナの鉢に変わっていたんです」
上司「あ、植木鉢が変わったの?それは気づかなかったな」
私「結構、大きさも変わったんじゃないかと」
上司「葉っぱが緑色なら、植木鉢は全部同じに見えるからさ。ちょっと大きさ変わったくらいじゃ、成長したんだなとしか思わないよ」
まあ、普段気にしてない人から見ればそんなもんかもね。
私「ありがとうございました。失礼します」
上司「廊下や玄関の植木鉢は多分、会社が買ったものじゃなくて、誰かが寄付してくれた私物だと思う。だから、普段誰が水やったり管理しているのかもわからないし、誰がどこに持っていったかもわからないな・・・」
あのソテツさん、出生に関してそんなに謎の多いコだったのか。どっちにしても、上司は何も知らないんだ。もともと誰かの寄付ということなら、その人がドラセナさんを新しく持ってきて、ソテツさんを持ち帰ったのかもしれないね。
仕事があるのでソテツさん探しは一旦諦めて、真面目に働くことにしました。昼休みになったので、ドラセナさんの世話をしようと思って水をあげ、今日は天気が良いので日光に当ててあげようと思って、ベランダに運ぶことにしました。
私(・・・ちょっと風があって寒いかなあ。ベランダじゃないと日光が当たらないんだけど、ドラセナさんって冷たい風大丈夫なのかな。室内に置いてあげたほうがいいかな)
そのとき、ベランダのすみっこに、見慣れた植木鉢が!!
私(ソテツさんの植木鉢が・・・!!)
ソテツさんの植木鉢が落ちています。植木鉢だけ。内側に少しも土が着いていない綺麗な状態で、ベランダの隅に置かれています。でも、肝心の中身がありません。
私(どういうことだろ・・・植え替えられたってこと?)
私は気になって、昼休みの間にできるだけソテツさんを探すことにしました。でも、どの課の人に尋ねても、ソテツさんのことは誰も知りませんでした。一体誰が持ってきて、誰が移動したのか、誰も知らないのです。
午後はそこそこ仕事が忙しかったので、ソテツさんのことも調べられないまま、私は今日の勤務を終えました。明日も探そうと思いながら、玄関に向かって歩いていたときです。
?「あの・・・」
呼び止められて振り返ると、50代くらいの見知らぬ女性です。制服からして清掃の仕事をしてくれている人のようです。
私「はい、何でしょうか」
女性「いつも植木鉢の世話をしてくれてありがとうございます」
私「えっ!?」
この人はもしや、もしかして、ソテツさんの謎を知る重要人物なのでは!?
私「もしかして、ソテツさんの・・・」
私がソテツにさん付けしたからか、女性はうふっと笑いました。
女性「そうです。あのソテツの鉢を持ってきた者です」
私「探し申し上げていました・・・」
女性「昨日、いらっしゃらなかったみたいですね」
私「そうなんです。お休みを頂いていました」
女性「私、趣味で家で園芸をやっているんですけど、皆さんが喜ぶかなと思って、家から植木鉢を持ってきていたんです。あなたが世話をしてくれているところを何回か見かけて、あら嬉しいな~って思っていて・・・」
女性はとっても優しそうな雰囲気です。お母さんっぽい雰囲気です。雰囲気だけじゃなく、きっと家では優しいお母さんなのでしょう。きっとソテツさんは無事です。この女性が大切に育ててくれているからです。
女性「いくつか綺麗に育った鉢があるから、ソテツは持ち帰ってそっちを会社に持って来ようかと思っていたんですけど、今日あなたがソテツを心配して探して下さっていたと聞いて・・・良かったらこれ、差し上げます」
女性が小さな紙袋を差し出してくれました。その紙袋の口から、見慣れたソテツさんの小さな葉っぱがニョキニョキッと出ています。
私「ソテツさん・・・!!」
女性「植木鉢だけ、植え替えちゃったんですけど・・・」
よく見れば、ソテツさんはビニールのフニャフニャの植木鉢に入れられています。きっとあの植木鉢は、この女性が会社に寄付する植物用に買ったものなのです。
私「ありがとうございます!!大切に育てます!!」
というわけで、ソテツさんが家に来ました。
私「D、見てごらん。ソテツさんだよ」
D「植物だね」
Dはアッサリと返してきました。いつも通りです。Dは、自分にとって興味の無いものに対しては、このように淡泊な反応をするのです。
でも、好きではないからといって、嫌いというわけでもないのです。好きや嫌いといった感情すらわかないほど、ただ興味が無いのです。そしてDには興味の無いものが多いのです。
Dは世の中のものを、自分の感情で、好きなものや嫌いなものに分けて見ることがほとんどありません。基本的な思考回路は、タルパーである私にとって益か害か、という合理的な判断で見ているように思えます。もっと自分の感情とか我儘とか言ってくれていいのにね。Dに我慢とかさせてないといいんだけどなあ。
親友のW
もう日付が回っているのですが、22日の記事として書きます。過去記事「申し訳ございません!!(3)」の続きです。
一昨日の、と言っても日付回っていたので昨日の夜中のことです。床の上で寝袋にくるまっていた私は、寒さに震えていました。ちなみにベッドか寝袋かの決定はジャンケンで行いました。相手がEだったらジャンケンなんてせずにすんなりベッドを譲ったけどね。Wだからね。ここは公平にジャンケンってことで。
私(寒い・・・寒いぞ・・・!!)
尋常じゃない寒さです。そうです、空気というものは温められたものが上に上がり、冷えたものが下に下がるからです。従って、高さのあるベッドの上では快適な温度の室内でも、床に横になったときは寒いのです。
私(ダメだ!!我慢できない!!)
私はむっくりと起き上がりました。毎晩ふかふかベッドの上でぬくぬく眠っている私には、床の上の寝袋なんかで快眠することはできないのです。早くも難民生活脱落です。きっと本当の難民になったら真っ先に音を上げるタイプです。
私(こうなったら、こっそりベッドで眠らせてもらおう。そーっと入れば気づかれないよね)
寝袋からゴソゴソと這い出た私は、ベッドに近づきました。Wの様子をうかがうと、スヤスヤ眠っている寝息が聞こえます。私のベッドはセミダブルです。広いベッドが好きだからです。女二人が眠る分には、それほど狭いわけではありません。ましてや私は子供サイズだし。問題は、Wがベッドのド真ん中で、デーンと寝ていることです。
私(よし!転がそう!!)
手始めに、そーっとWの体を90°ほど寝返りをうたせてみました。注意深くWの様子をうかがってみましたが、起きる気配はありません。しめしめ、ニブい奴め。気を大きくした私は、Wをゴロゴローンと転がして壁際に追いやり、空いたスペースに横になりました。
私(ふう・・・これでやっと眠れる・・・)
しかし、そう上手くはいかなかったのです。
私「ぐえっ!!」
気持ちよく眠っていた私は、腹部への衝撃で目が覚めました。
私「ぐはっ・・・一体、何!?」
寝ぼけた頭で状況を把握しようとすると、すぐにわかりました。Wの足が私のお腹に乗っているのです。
私「・・・ちょっ・・・W、寝相悪いな・・・!!」
そうこう言っている間にも、Wは寝返りをうつようにして、どんどんこっちに寄ってきます。
私「狭い狭い・・・落ちる落ちる!!」
限界を感じた私は、Wを起こすことにしました。
私「ねえW、起きてよ。ちょっとそっちに寄って欲しいんだけど」
Wはムニャムニャ返事をしましたが、動こうとしてはくれません。
私「W、そっち寄ってってば」
私はWの体をつかんで、ゆさゆさと揺さぶりました。
W「・・・眠いんだよ!!スケベ野郎!!」
Wの腕が飛んできました。あぶなっ!!ってか私、男と勘違いされてる!!でもW、今彼氏いないんじゃなかった!?誰と勘違いしてるの!?Wの元彼!?
私「私だよ!!起きてってば!!」
W「ん~・・・?」
ようやくWが目を開けました。っていうか!!今腕が飛んできた場所、ちょうど私の腹腔鏡手術痕の場所だったから!!避けそこなってたら、古傷モロにえぐられる所だったかんね!!
私(ようやく朝か・・・Wを起こした後も、いつWに蹴られるか心配で、あまり眠れなかった・・・)
結局まんじりともせずに朝を迎えた私は、ベッドの上に起き上がりました。室内はカーテンを透けた朝日でわずかに明るくなっています。Wのほうを見ると、のんきなアホ面をさらしてグースカ眠っています。
私(朝食、作ろう・・・)
結局、ようやくWが起きてきたのは、朝食を作り終える頃でした。
W「おはよ~」
私「おはよう。昨夜は人のベッドを取ったくせに、随分ご機嫌なお目覚めのようだね」
W「お陰様でね。元彼が恋しくなった誰かさんがベッドにもぐりこんでくれたお陰で、すっごく温かく眠れたからさ」
私「癒えたばかりの心の傷を攻撃してくるね。ベッドでは古傷も蹴ってくるしさ。アンタが男と長続きしないのは寝相の悪さのせいもあるんじゃない?」
W「そりゃまー、アタシは足が長いし?スタイル最高だし?」
私「そうだね、アンタは最高に良い女だよ。もし気も長かったらだけどね」
こんなこと言い合ってますが、私達は親友です。
W「牛乳無いの?アタシ、朝は牛乳飲むって決めてるんだけど」
私「そういうことは昨日のうちに言ってよね。アンタはいつも泥縄式だよね」
W「だって牛乳置いてない家なんて無いと思うじゃん。だからアンタは背が伸びないんだよ」
Wは冷蔵庫のドアをパカパカやりながら笑いました。ひとんちの冷蔵庫を勝手にあさって、ドアをパカパカしながら冷蔵庫の中身に文句を言うのはWくらいです。
W「元気そうで安心したよ」
私「?」
W「元彼と縁を切ったって聞いたからさ」
私「ああ・・・」
W「でも良かったじゃん。あんな男は捨てろってずっと言ってたのに、やっとかーって感じ」
私「そうだね」
W「昨日は一晩中、話に付き合うつもりだったんだけど、アンタがあんまりスッキリしてるから拍子抜けしたっていうか」
私「一晩中?私からベッド奪ってグースカ寝てたアンタが?」
W「そりゃアンタが元気そうだったからさ」
ありがとW。アンタなりに心配してくれたんだね。
W「もっと飛ばしてよ~」
高速道路にて、Wが文句を言ってきました。
私「冗談でしょ。私の車はスピード出すような車じゃないの」
Wのスポーツカーとは違って、私の車は車高のあるオフロード車です。悪路走行には自信があっても、舗装された道路では、ゆったり走るほうが性に合っている車なのです。
W「・・・アタシが蹴ったお腹、大丈夫だった?」
なにかと思えば。やけに殊勝じゃん。いつも傍若無人、天真爛漫のWがどうしたのさ?
私「平気平気。何ともないよ。何?心配してくれてるの?」
W「たまに心配になるよ、アンタは。自分の体のこと考えないで、ガーッと頑張るんだもん。突然倒れるんじゃないかとか、突然死ぬんじゃないかとか」
私「私はアンタのほうが心配だよ。事故起こさないように、荒い運転もほどほどにしなよね」
W「何度も言うけどさあ、アンタの運転が慎重すぎるんだよ!!」
こんなこと言い合ってますが、私達は大親友です。
一昨日の、と言っても日付回っていたので昨日の夜中のことです。床の上で寝袋にくるまっていた私は、寒さに震えていました。ちなみにベッドか寝袋かの決定はジャンケンで行いました。相手がEだったらジャンケンなんてせずにすんなりベッドを譲ったけどね。Wだからね。ここは公平にジャンケンってことで。
私(寒い・・・寒いぞ・・・!!)
尋常じゃない寒さです。そうです、空気というものは温められたものが上に上がり、冷えたものが下に下がるからです。従って、高さのあるベッドの上では快適な温度の室内でも、床に横になったときは寒いのです。
私(ダメだ!!我慢できない!!)
私はむっくりと起き上がりました。毎晩ふかふかベッドの上でぬくぬく眠っている私には、床の上の寝袋なんかで快眠することはできないのです。早くも難民生活脱落です。きっと本当の難民になったら真っ先に音を上げるタイプです。
私(こうなったら、こっそりベッドで眠らせてもらおう。そーっと入れば気づかれないよね)
寝袋からゴソゴソと這い出た私は、ベッドに近づきました。Wの様子をうかがうと、スヤスヤ眠っている寝息が聞こえます。私のベッドはセミダブルです。広いベッドが好きだからです。女二人が眠る分には、それほど狭いわけではありません。ましてや私は子供サイズだし。問題は、Wがベッドのド真ん中で、デーンと寝ていることです。
私(よし!転がそう!!)
手始めに、そーっとWの体を90°ほど寝返りをうたせてみました。注意深くWの様子をうかがってみましたが、起きる気配はありません。しめしめ、ニブい奴め。気を大きくした私は、Wをゴロゴローンと転がして壁際に追いやり、空いたスペースに横になりました。
私(ふう・・・これでやっと眠れる・・・)
しかし、そう上手くはいかなかったのです。
私「ぐえっ!!」
気持ちよく眠っていた私は、腹部への衝撃で目が覚めました。
私「ぐはっ・・・一体、何!?」
寝ぼけた頭で状況を把握しようとすると、すぐにわかりました。Wの足が私のお腹に乗っているのです。
私「・・・ちょっ・・・W、寝相悪いな・・・!!」
そうこう言っている間にも、Wは寝返りをうつようにして、どんどんこっちに寄ってきます。
私「狭い狭い・・・落ちる落ちる!!」
限界を感じた私は、Wを起こすことにしました。
私「ねえW、起きてよ。ちょっとそっちに寄って欲しいんだけど」
Wはムニャムニャ返事をしましたが、動こうとしてはくれません。
私「W、そっち寄ってってば」
私はWの体をつかんで、ゆさゆさと揺さぶりました。
W「・・・眠いんだよ!!スケベ野郎!!」
Wの腕が飛んできました。あぶなっ!!ってか私、男と勘違いされてる!!でもW、今彼氏いないんじゃなかった!?誰と勘違いしてるの!?Wの元彼!?
私「私だよ!!起きてってば!!」
W「ん~・・・?」
ようやくWが目を開けました。っていうか!!今腕が飛んできた場所、ちょうど私の腹腔鏡手術痕の場所だったから!!避けそこなってたら、古傷モロにえぐられる所だったかんね!!
私(ようやく朝か・・・Wを起こした後も、いつWに蹴られるか心配で、あまり眠れなかった・・・)
結局まんじりともせずに朝を迎えた私は、ベッドの上に起き上がりました。室内はカーテンを透けた朝日でわずかに明るくなっています。Wのほうを見ると、のんきなアホ面をさらしてグースカ眠っています。
私(朝食、作ろう・・・)
結局、ようやくWが起きてきたのは、朝食を作り終える頃でした。
W「おはよ~」
私「おはよう。昨夜は人のベッドを取ったくせに、随分ご機嫌なお目覚めのようだね」
W「お陰様でね。元彼が恋しくなった誰かさんがベッドにもぐりこんでくれたお陰で、すっごく温かく眠れたからさ」
私「癒えたばかりの心の傷を攻撃してくるね。ベッドでは古傷も蹴ってくるしさ。アンタが男と長続きしないのは寝相の悪さのせいもあるんじゃない?」
W「そりゃまー、アタシは足が長いし?スタイル最高だし?」
私「そうだね、アンタは最高に良い女だよ。もし気も長かったらだけどね」
こんなこと言い合ってますが、私達は親友です。
W「牛乳無いの?アタシ、朝は牛乳飲むって決めてるんだけど」
私「そういうことは昨日のうちに言ってよね。アンタはいつも泥縄式だよね」
W「だって牛乳置いてない家なんて無いと思うじゃん。だからアンタは背が伸びないんだよ」
Wは冷蔵庫のドアをパカパカやりながら笑いました。ひとんちの冷蔵庫を勝手にあさって、ドアをパカパカしながら冷蔵庫の中身に文句を言うのはWくらいです。
W「元気そうで安心したよ」
私「?」
W「元彼と縁を切ったって聞いたからさ」
私「ああ・・・」
W「でも良かったじゃん。あんな男は捨てろってずっと言ってたのに、やっとかーって感じ」
私「そうだね」
W「昨日は一晩中、話に付き合うつもりだったんだけど、アンタがあんまりスッキリしてるから拍子抜けしたっていうか」
私「一晩中?私からベッド奪ってグースカ寝てたアンタが?」
W「そりゃアンタが元気そうだったからさ」
ありがとW。アンタなりに心配してくれたんだね。
W「もっと飛ばしてよ~」
高速道路にて、Wが文句を言ってきました。
私「冗談でしょ。私の車はスピード出すような車じゃないの」
Wのスポーツカーとは違って、私の車は車高のあるオフロード車です。悪路走行には自信があっても、舗装された道路では、ゆったり走るほうが性に合っている車なのです。
W「・・・アタシが蹴ったお腹、大丈夫だった?」
なにかと思えば。やけに殊勝じゃん。いつも傍若無人、天真爛漫のWがどうしたのさ?
私「平気平気。何ともないよ。何?心配してくれてるの?」
W「たまに心配になるよ、アンタは。自分の体のこと考えないで、ガーッと頑張るんだもん。突然倒れるんじゃないかとか、突然死ぬんじゃないかとか」
私「私はアンタのほうが心配だよ。事故起こさないように、荒い運転もほどほどにしなよね」
W「何度も言うけどさあ、アンタの運転が慎重すぎるんだよ!!」
こんなこと言い合ってますが、私達は大親友です。
申し訳ございません!!(3)
日付が変わっているのですが、21日の記事としてアップします。Wが泊まりに来ています。Wは私の同僚にして友人です。(詳細は過去記事「職場」参照)
明日は(もう日付変わってるので今日ですが・・・)、私もWもお休みなので、一緒にドライブに行ってきます。前回は彼女の車で出かけたので、今回は私の車で行ってきます。自分で運転するほうが気楽なので願ったり叶ったりです。Wの奴ときたら、運転は荒いし、車は土禁だし・・・!!
Wに見つからないように、今こっそりブログを書いています。今日はタルパブログめぐりが出来そうにありません・・・!!あとベッドをWにゆずったので今夜の私の寝床は寝袋です。難民気分。自分の部屋なのに難民気分。
明日は(もう日付変わってるので今日ですが・・・)、私もWもお休みなので、一緒にドライブに行ってきます。前回は彼女の車で出かけたので、今回は私の車で行ってきます。自分で運転するほうが気楽なので願ったり叶ったりです。Wの奴ときたら、運転は荒いし、車は土禁だし・・・!!
Wに見つからないように、今こっそりブログを書いています。今日はタルパブログめぐりが出来そうにありません・・・!!あとベッドをWにゆずったので今夜の私の寝床は寝袋です。難民気分。自分の部屋なのに難民気分。
ガリガリドン
「い、嫌だあああ!!やだってばあああ!!あああああ!!助けてえええ!!」
悲痛な、小さな子供の怯える声が聞こえてくる。心の底から怯えた声が。子供は理解しているのだ、これから鋭い刃が自分の体に食い込むということを。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」
ひときわ大きく響いた悲鳴が、私の身をすくませた。嫌な汗がにじむ。見ず知らずの子供とはいえ、何もしてやれないことが悔やまれてならない。私はあの子を助けてやれないのだ。
「ああああああああああああああああーーーーーー痛いよおおおおおおお!!!!!」
ガガガガガガッ・・・ガガガリガリガリガリガリ・・・ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ・・・
子供の泣き声と共に、ぞっとするような嫌な音が聞こえてくる。頭蓋骨をきしませるような、脳に響く嫌な音だ。
やがて哀れな子供の声すらも聞こえなくなってしまった頃、とどめをさしたことを満足したかのように、嫌な音と機械音も止まり、しんとした静寂が訪れた。
私(まずい!!)
目の前の扉が開かれて、女性が姿を現した。彼女は私を見て、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
女性「××さゆさん」
見覚えのある女性だ。そうだ、前回会ったとき、私に刃を向けた女性だ!!私は彼女に鋭い刃を向けられて、そのまま突き立てられて・・・
私(回避できない!!あの子供が終わった今、次は私がやられる番だ!!)
女性「今日は左上の奥歯、親知らずの治療ですね」
私「はい」
そうです。本日私は、仕事で午後半休を取らせて頂いて、歯医者に来ているのです。
私「よろしくお願いします」
女性「右から二番目の椅子にどうぞ」
美人な歯科衛生士さんは、うふふと笑って私にエプロンを付けました。
左隣では哀れな子供が、右隣では哀れな男性が、私と同じように椅子に横たえられている。これから屠られる生贄の犠牲者のように。私達は、刃が向けられても逃げることを許されず、その鋭い切っ先が口の中に入れられた瞬間すら、おとなしく横たわり続けなくてはいけないのだ・・・そう、あたかも神の羊のように従順に・・・
・・・ああ、左側から聞こえてくる、胸を引き裂くような切ない子供の声と、一切の容赦を許さない冷たい機械音・・・歯を削るガリガリっていうあの音・・・その絶望の音色は、次は私にもたらされるのか、それとも右隣の男性か・・・
私(・・・いつも、思う・・・歯医者さんのエプロンは・・・よだれかけみたい、だということを・・・)
思考が不安に染まっているときは、全てのことをネガティブに考えがちです。今の私の思考回路も、これから始まる治療に対する不安でネガティブになっているようです。普段だったら考えないような、変なネガティブ思考に侵されているようです。
私(・・・よだれかけとか、思わないようにしよう・・・せめて・・・これはザビエルだと思えばいいんだ・・・フランシスコ・ザビエル・・・)
よだれかけと、大して変わってないぞ。
私(いや・・・ザビエルちゃう・・・これはエリザベス・カラー・・・)
先生「は~い、こんにちはァ~」
私「はっ!!こんにちは!!」
妄想している間に、先生が来ていました。50代くらいの男性で、とっても優しい院長先生です。
先生「今日はァ、左上の親知らずを削っていくよォ~?」
私「は、はい・・・」
先生がこんな間延びした喋り方なのは、この病院が小児歯科でもあるからです。子供相手に治療をすることも多いので、こんな風に優しくてゆっくりした喋り方なのです。口調だけじゃなくて、表情もにこにこしています。もう超にこにこしながら、私の口の中に、水を吸う機械と、歯を削る鋭い機械をつっこんできました。
先生「いくよォ?」
私「フォネガイヒマフ・・・」(お願いします・・・)
口の中に機械を入れられているので、変な喋り方になっている私です。
先生「は~い、痛くないよォ~」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガガッガガッガガガッンガガガガガッガガキュイイイイイイイアアアアアアガガガガガ
私(ほげええええええーーーーー!!!!!)
先生「さゆちゃんは、アゴが小さくて細いからねェ」
ガガガガガガガッガガガッガガガッガリッ、ガガガガリガリガリガリガッガガガガガガガガキュウウウウウウウシュウウウウウ
私(あわわわわわわわーーーーー!!!!!)
先生「子供並みだからねェ、親知らずが生える場所が無いんだよォ」
ガリガリガリガリガリッ、ガガガガガガッ、ガリガリガリリガリガリガリッガガガガガガガガアッズガガガガガガガガガガガガガガ
私(ほあああああああーーーーー!!!!!)
先生「だから親知らずが変な場所に生えかかっていて、そのせいで虫歯になっちゃったんだねェ」
ガガガッ、ガリガリガリガリリ、ガリガリガガガッガガガガガガガガリッガガガガガガガガガガガガッキュリキュリキュリキュコキュコキュコ
私「なあああああああーーーーー!!!!!」
先生「はァい、ちょっと休憩。うがいをして、ちょっと休んでねェ」
私「ファイ・・・」(はい・・・)
口をゆすぐと、心臓がドキドキいっているのがわかりました。トキメキではありません。緊張と恐怖によるものです。っていうか先生、ずっと笑顔で削ってますよね・・・超笑顔で、ニッコニコで優しい口調なのに、ぐいぐいドリルを向けてくるっていう、なんか新しい怖さっていうか・・・
先生「じゃァ、また頑張ろうねェ~」
私「ファイ」(はい)
ガリガリガリガリガリガリガガッガガガガガガガガガリガリガリガリッズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
先生「ちょっと痛いところ削るよォ~?」
私「ヘッ!?」(えっ!?)
先生「は~い、大丈夫、だァいじょうぶ~」
私(ほがああああああああああああああああああああ!!!!!)
先生「ちょっと痛くても口を閉じちゃダメだよォ~、間違えて舌を削っちゃうといけないからねェ~」
私(ッファーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
その満面の笑みが逆に怖いんですよせんせーーーー!!!!!っていうか痛あああああああああああああ!!!!!
そうやって削り終えた後は、私はすっかり放心状態になっていました。
私(微笑みの天使から見放された・・・この私の無表情・・・今の私は・・・よだれかけを付けた・・・おじぞうさまのようだ・・・)
おじぞうさまのアレって、よだれかけなのかな。違うのかな。ああいう服なのかな。
先生「今回の歯の治療方針なんだけどォ、大きい親知らずだから、さゆちゃんのアゴには収まりきらない歯なんだよねェ」
私「はい」
先生がレントゲン写真を見せながら、説明してくれています。それを見ながら、私はようやく落ち着いてきました。
先生「一番平和的な解決法としてはァ、ひっこぬいちゃうのが一番良いよォ」
私「ええっ!?」
ちょっと先生!!一番平和な解決法でソレなんですか!?充分物騒だと思いますけど!?っていうか、むしろ一番物騒な解決法ってどんだけ物騒なの!?
先生「それが他の歯と喧嘩しない方法だし、斜めに生えた歯が口内を傷つけたりしない方法でもあるし~」
私「あわわ」
先生「この歯はねェ、他のどの歯とも噛み合っていない、何も役に立てない歯なのォ。歯磨きもすごくしずらい場所だから、ここだけ虫歯になっちゃったわけで、このまま完全に生えたらもっと虫歯ができちゃうかもしれないんだよォ」
私「うぬぬ」
先生「な~んて脅かしちゃったけどォ、まァ抜かずに置いておいても、健康上の問題は無いから、問題が起きてから抜いても大丈夫だよォ?」
私「そ、そうですか!!良かった・・・じゃあ、問題が起きてから抜く方向でお願いします」
先生「わかったよォ~」
私の診察が終わったので、新しい患者さんが治療室に入ってきました。小さな女の子です。お母さんに抱っこされて泣いています。
少女「うええん」
私は、自分のエプロンを両手でつかみ、バッと広げました。
私「お嬢ちゃん!!泣かないで!!ほら!!エリマキトカゲ!!」
少女は何も反応しませんでした。ただ泣き続けています。
先生「4歳の子供はァ、まだエリマキトカゲを知らないと思うよォ」
先生からの冷静なツッコミが入りました。そうですね先生。まあ、多分問題はそれだけじゃなかったと思いますけど。
私(ふう、終わった~、あとは会計をして帰るだけだ・・・)
待合室に戻ってきた私は、砂漠で迷い果てた旅人のように、ヨロヨロとソファに座りました。
私(・・・あれ?)
見覚えのある子が一人で退屈そうに座っています。幼稚園くらいの男の子です。私が診察に入るときに入れ違いで出た子です。今回の記事の冒頭で、めっちゃ叫んでいた子です。なんでまだ残ってるんだろ。しかも一人で?
私「ねー、お母さんは?」
子供がこっちを見ました。
子供「家」
家!?
私「先に帰ったの?」
子供「お母さんはずっと家で、ここにはじーじと来た」
じーじ、おじいちゃん・・・ああ、私の右隣に座っていた男性か。まだ診察中だな・・・
私「そっか。ねえ、一人でつまんないでしょ。本読んであげようか」
子供「いいよ」
子供はクールに拒否してきました。しかし、そのくらいで引き下がる私ではありません。
私「いーじゃん。ねーこれは?『手ぶくろを買いに』だって」
表紙にかわいい狐の絵が描かれています。狐が手袋を買う話なのかな?
子供「それはやだ。こっちがいい」
私「どれどれ?『三匹の山羊のがらがらどん』・・・!?」
ちょっと、なんか、これすごい殺伐とした絵本じゃなかった・・・!?
私「おい、君・・・すごいのを選ぶね」
子供「うん」
私「いいの?これ怖いよ?」
トロルっていう化け物がバラバラになる描写とかあったよね。大丈夫かな。
子供「怖くないよ。知ってるもん」
私「強いねえ!!男の子だねえ!!君は将来大物になりそうだね。ハードボイルドな男になるかもね。あ、何でもないよ、ゴメン。じゃあ、読もっか」
子供「うん」
こうして『三匹の山羊のがらがらどん』を読むことになりました。
私「さあこい!!こっちにゃ二本のヤリがある。これで目玉は田楽刺し。おまけに大きな石も二つある。肉も骨も粉々に踏み砕くぞ!!」
多分もう一生言わないだろうワイルドなセリフを、私はヤクザばりにドスをきかせて巻き舌を使いながら、身ぶり手ぶりを使って熱演しました。
アパートに帰ってきたときには、変な筋肉が疲れていました。治療中に変な場所に力を入れていたんだと思います。
私「ふぅ~、歯医者は疲れるね。次はバックレちゃおうかな」
上司みたいに。(詳細は過去記事「職場」参照)
D「病院には、きちんと行かないといけないよ」
私「はーい」
D「いいこだね」
すっと身をかがめたDが、私のおでこにキスをくれました。
私「D大好き!!」
D「僕も、さゆが大好きだよ」
悲痛な、小さな子供の怯える声が聞こえてくる。心の底から怯えた声が。子供は理解しているのだ、これから鋭い刃が自分の体に食い込むということを。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」
ひときわ大きく響いた悲鳴が、私の身をすくませた。嫌な汗がにじむ。見ず知らずの子供とはいえ、何もしてやれないことが悔やまれてならない。私はあの子を助けてやれないのだ。
「ああああああああああああああああーーーーーー痛いよおおおおおおお!!!!!」
ガガガガガガッ・・・ガガガリガリガリガリガリ・・・ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ・・・
子供の泣き声と共に、ぞっとするような嫌な音が聞こえてくる。頭蓋骨をきしませるような、脳に響く嫌な音だ。
やがて哀れな子供の声すらも聞こえなくなってしまった頃、とどめをさしたことを満足したかのように、嫌な音と機械音も止まり、しんとした静寂が訪れた。
私(まずい!!)
目の前の扉が開かれて、女性が姿を現した。彼女は私を見て、満面の笑みを浮かべて口を開いた。
女性「××さゆさん」
見覚えのある女性だ。そうだ、前回会ったとき、私に刃を向けた女性だ!!私は彼女に鋭い刃を向けられて、そのまま突き立てられて・・・
私(回避できない!!あの子供が終わった今、次は私がやられる番だ!!)
女性「今日は左上の奥歯、親知らずの治療ですね」
私「はい」
そうです。本日私は、仕事で午後半休を取らせて頂いて、歯医者に来ているのです。
私「よろしくお願いします」
女性「右から二番目の椅子にどうぞ」
美人な歯科衛生士さんは、うふふと笑って私にエプロンを付けました。
左隣では哀れな子供が、右隣では哀れな男性が、私と同じように椅子に横たえられている。これから屠られる生贄の犠牲者のように。私達は、刃が向けられても逃げることを許されず、その鋭い切っ先が口の中に入れられた瞬間すら、おとなしく横たわり続けなくてはいけないのだ・・・そう、あたかも神の羊のように従順に・・・
・・・ああ、左側から聞こえてくる、胸を引き裂くような切ない子供の声と、一切の容赦を許さない冷たい機械音・・・歯を削るガリガリっていうあの音・・・その絶望の音色は、次は私にもたらされるのか、それとも右隣の男性か・・・
私(・・・いつも、思う・・・歯医者さんのエプロンは・・・よだれかけみたい、だということを・・・)
思考が不安に染まっているときは、全てのことをネガティブに考えがちです。今の私の思考回路も、これから始まる治療に対する不安でネガティブになっているようです。普段だったら考えないような、変なネガティブ思考に侵されているようです。
私(・・・よだれかけとか、思わないようにしよう・・・せめて・・・これはザビエルだと思えばいいんだ・・・フランシスコ・ザビエル・・・)
よだれかけと、大して変わってないぞ。
私(いや・・・ザビエルちゃう・・・これはエリザベス・カラー・・・)
先生「は~い、こんにちはァ~」
私「はっ!!こんにちは!!」
妄想している間に、先生が来ていました。50代くらいの男性で、とっても優しい院長先生です。
先生「今日はァ、左上の親知らずを削っていくよォ~?」
私「は、はい・・・」
先生がこんな間延びした喋り方なのは、この病院が小児歯科でもあるからです。子供相手に治療をすることも多いので、こんな風に優しくてゆっくりした喋り方なのです。口調だけじゃなくて、表情もにこにこしています。もう超にこにこしながら、私の口の中に、水を吸う機械と、歯を削る鋭い機械をつっこんできました。
先生「いくよォ?」
私「フォネガイヒマフ・・・」(お願いします・・・)
口の中に機械を入れられているので、変な喋り方になっている私です。
先生「は~い、痛くないよォ~」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガガッガガッガガガッンガガガガガッガガキュイイイイイイイアアアアアアガガガガガ
私(ほげええええええーーーーー!!!!!)
先生「さゆちゃんは、アゴが小さくて細いからねェ」
ガガガガガガガッガガガッガガガッガリッ、ガガガガリガリガリガリガッガガガガガガガガキュウウウウウウウシュウウウウウ
私(あわわわわわわわーーーーー!!!!!)
先生「子供並みだからねェ、親知らずが生える場所が無いんだよォ」
ガリガリガリガリガリッ、ガガガガガガッ、ガリガリガリリガリガリガリッガガガガガガガガアッズガガガガガガガガガガガガガガ
私(ほあああああああーーーーー!!!!!)
先生「だから親知らずが変な場所に生えかかっていて、そのせいで虫歯になっちゃったんだねェ」
ガガガッ、ガリガリガリガリリ、ガリガリガガガッガガガガガガガガリッガガガガガガガガガガガガッキュリキュリキュリキュコキュコキュコ
私「なあああああああーーーーー!!!!!」
先生「はァい、ちょっと休憩。うがいをして、ちょっと休んでねェ」
私「ファイ・・・」(はい・・・)
口をゆすぐと、心臓がドキドキいっているのがわかりました。トキメキではありません。緊張と恐怖によるものです。っていうか先生、ずっと笑顔で削ってますよね・・・超笑顔で、ニッコニコで優しい口調なのに、ぐいぐいドリルを向けてくるっていう、なんか新しい怖さっていうか・・・
先生「じゃァ、また頑張ろうねェ~」
私「ファイ」(はい)
ガリガリガリガリガリガリガガッガガガガガガガガガリガリガリガリッズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
先生「ちょっと痛いところ削るよォ~?」
私「ヘッ!?」(えっ!?)
先生「は~い、大丈夫、だァいじょうぶ~」
私(ほがああああああああああああああああああああ!!!!!)
先生「ちょっと痛くても口を閉じちゃダメだよォ~、間違えて舌を削っちゃうといけないからねェ~」
私(ッファーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
その満面の笑みが逆に怖いんですよせんせーーーー!!!!!っていうか痛あああああああああああああ!!!!!
そうやって削り終えた後は、私はすっかり放心状態になっていました。
私(微笑みの天使から見放された・・・この私の無表情・・・今の私は・・・よだれかけを付けた・・・おじぞうさまのようだ・・・)
おじぞうさまのアレって、よだれかけなのかな。違うのかな。ああいう服なのかな。
先生「今回の歯の治療方針なんだけどォ、大きい親知らずだから、さゆちゃんのアゴには収まりきらない歯なんだよねェ」
私「はい」
先生がレントゲン写真を見せながら、説明してくれています。それを見ながら、私はようやく落ち着いてきました。
先生「一番平和的な解決法としてはァ、ひっこぬいちゃうのが一番良いよォ」
私「ええっ!?」
ちょっと先生!!一番平和な解決法でソレなんですか!?充分物騒だと思いますけど!?っていうか、むしろ一番物騒な解決法ってどんだけ物騒なの!?
先生「それが他の歯と喧嘩しない方法だし、斜めに生えた歯が口内を傷つけたりしない方法でもあるし~」
私「あわわ」
先生「この歯はねェ、他のどの歯とも噛み合っていない、何も役に立てない歯なのォ。歯磨きもすごくしずらい場所だから、ここだけ虫歯になっちゃったわけで、このまま完全に生えたらもっと虫歯ができちゃうかもしれないんだよォ」
私「うぬぬ」
先生「な~んて脅かしちゃったけどォ、まァ抜かずに置いておいても、健康上の問題は無いから、問題が起きてから抜いても大丈夫だよォ?」
私「そ、そうですか!!良かった・・・じゃあ、問題が起きてから抜く方向でお願いします」
先生「わかったよォ~」
私の診察が終わったので、新しい患者さんが治療室に入ってきました。小さな女の子です。お母さんに抱っこされて泣いています。
少女「うええん」
私は、自分のエプロンを両手でつかみ、バッと広げました。
私「お嬢ちゃん!!泣かないで!!ほら!!エリマキトカゲ!!」
少女は何も反応しませんでした。ただ泣き続けています。
先生「4歳の子供はァ、まだエリマキトカゲを知らないと思うよォ」
先生からの冷静なツッコミが入りました。そうですね先生。まあ、多分問題はそれだけじゃなかったと思いますけど。
私(ふう、終わった~、あとは会計をして帰るだけだ・・・)
待合室に戻ってきた私は、砂漠で迷い果てた旅人のように、ヨロヨロとソファに座りました。
私(・・・あれ?)
見覚えのある子が一人で退屈そうに座っています。幼稚園くらいの男の子です。私が診察に入るときに入れ違いで出た子です。今回の記事の冒頭で、めっちゃ叫んでいた子です。なんでまだ残ってるんだろ。しかも一人で?
私「ねー、お母さんは?」
子供がこっちを見ました。
子供「家」
家!?
私「先に帰ったの?」
子供「お母さんはずっと家で、ここにはじーじと来た」
じーじ、おじいちゃん・・・ああ、私の右隣に座っていた男性か。まだ診察中だな・・・
私「そっか。ねえ、一人でつまんないでしょ。本読んであげようか」
子供「いいよ」
子供はクールに拒否してきました。しかし、そのくらいで引き下がる私ではありません。
私「いーじゃん。ねーこれは?『手ぶくろを買いに』だって」
表紙にかわいい狐の絵が描かれています。狐が手袋を買う話なのかな?
子供「それはやだ。こっちがいい」
私「どれどれ?『三匹の山羊のがらがらどん』・・・!?」
ちょっと、なんか、これすごい殺伐とした絵本じゃなかった・・・!?
私「おい、君・・・すごいのを選ぶね」
子供「うん」
私「いいの?これ怖いよ?」
トロルっていう化け物がバラバラになる描写とかあったよね。大丈夫かな。
子供「怖くないよ。知ってるもん」
私「強いねえ!!男の子だねえ!!君は将来大物になりそうだね。ハードボイルドな男になるかもね。あ、何でもないよ、ゴメン。じゃあ、読もっか」
子供「うん」
こうして『三匹の山羊のがらがらどん』を読むことになりました。
私「さあこい!!こっちにゃ二本のヤリがある。これで目玉は田楽刺し。おまけに大きな石も二つある。肉も骨も粉々に踏み砕くぞ!!」
多分もう一生言わないだろうワイルドなセリフを、私はヤクザばりにドスをきかせて巻き舌を使いながら、身ぶり手ぶりを使って熱演しました。
アパートに帰ってきたときには、変な筋肉が疲れていました。治療中に変な場所に力を入れていたんだと思います。
私「ふぅ~、歯医者は疲れるね。次はバックレちゃおうかな」
上司みたいに。(詳細は過去記事「職場」参照)
D「病院には、きちんと行かないといけないよ」
私「はーい」
D「いいこだね」
すっと身をかがめたDが、私のおでこにキスをくれました。
私「D大好き!!」
D「僕も、さゆが大好きだよ」
新月
夜のとばりが幕を下ろし、静けさがあたりを支配する頃、うす暗い外灯に照らされた道には、人通りもほとんど無くなっています。朝の賑やかさとは大違いだね。誰もいない信号がチカチカして、停まらされた車が一台。
そのまぶしいヘッドライトが私を照らし、私の影が長く伸びたとき、背後から優しい声で囁かれました。
D「さゆ、今夜は新月だよ」
月の無い夜です。
カツンカツンと私のハイヒールが、静かな道に孤独な音を響かせます。その背後からついてくる静かな足音は、Dの立てる足音です。黒い衣服に身を包み、大鎌を持って口元に笑みを浮かべる、いつも通りのDです。
もしDが他の人にも見えていたら、今の私は死神に後をつけられている哀れな犠牲者に見えるんだろうな・・・
D「ここは冷えるから、さゆの体に良くないよ。それに夜道は危険だから、なるべく早く帰ろうね」
・・・って、こんな風に体調や命を心配してくれる死神なんているわけないけどね!!
私(うーん、お返事してあげたいけど、人通りが少ないとはいえ少しはいるから、独り言を呟きながら歩く変な人だと思われちゃうからなあ・・・筆談をするための携帯は鞄の奥に入っちゃってるし・・・)
D「マカロン」
それ昨日のアレでしょ!?私が喜ぶと思って言ってるんだよね!?(詳細は過去記事「お菓子」参照)かわいいい!!こんなかわいいことしてくれる死神なんているわけないよおおお!!
あっ、もしかして、私が今お返事しなかったから、私に元気が無いんだと勘違いして『マカロン』って言ってくれたのかな。それなら早く部屋に帰って、Dに『大丈夫だよ、お返事できなくてごめんね』って言ってあげなくちゃ。急いで走って帰ろう!!えいっ!!
最近運動不足の怠惰な生活をしていたくせに、私は走り出しました。久しぶりに走ると気持ち良いな。といってもアパートはすぐそこです。ほんの30メートル先です。なので、すぐにエントランスホールに駆け込むことができました。
ハア、ハア、ハア、ふうー。最近運動することが無かったから、体がなまってるみたい。また社交ダンスを始めようかな。って、しまった!!Dを置いてきちゃったかも!?
くるっと後ろを振り返ると、Dは涼しげな表情で私の後ろに立っていました。
D「僕が早く帰ろうと言ったから急いだのかい?仕事で疲れているのに、無理しなくて良いんだよ」
いつも通りの笑みを浮かべて冷静に話すDは、息一つ乱れていません。そっか、Dは人間じゃないもんね。
私「心配してくれてありがとう。さっきはお返事できなくてごめんね。携帯、鞄の奥に入っちゃってて。道には通行人がいてDとお話できないから、早く話したくて急いだの」
D「そんなことを気にしてくれていたのかい。返事ができないときは、しなくて構わないんだよ。でも、さゆは優しいね。嬉しいよ。ありがとう」
そんなことを話しながら、ポストの中身を出して、エレベーターに乗りました。
・・・さっきの全力疾走、もし他の人にもDが見えていたら、私は死神に追いかけられてめっちゃ逃げてる人に見えたんだろうなあ。物騒な光景だね!!
私「ふ~、ようやくDとゆっくりお喋りできるよ。嬉しいな~」
アパートの部屋に帰ってきた私は、Dに話しかけました。
私「そう言えばさっきD、今日は新月だって言ってたよね」
Dは私と知識を共有しているので、私が月齢カレンダーを見て知っている満月と新月の日は、Dも知っているのです。
私「新月だと、どういうこと?何か起きるの?」
D「別に、何も起きないよ」
Dはいつも通りの表情で答えました。以前Dは、自分は月の満ち欠けは全く関係無い種族だと言っていたし(詳細は過去記事「嘘」参照)、今回も、話のネタ程度に新月の話題を出しただけみたい。
私「そっか、Dは月とは関係無いって言ってたもんね。新月も関係無いよね」
D「新月は、僕と君が初めて出会った夜の月だよ」
私「え!?」
D「僕達は、月の無い夜に出会ったのさ」
ちょ、ちょっと!!そうなの!?新月、私達にめっちゃ関係あるじゃん!!っていうか、そこだけは本当の話だったの!?た、たしかにそこは嘘って言われなかったけど、あの話の流れだと全部嘘だと思っちゃうでしょ!?
私「よし、何かしよう。毎月、新月の日には何かすることにしよう」
Dは儀式めいた行動が好きだから(詳細は過去記事「タルパを作ったときの話8(名前)」参照)、新月の日には誓いの儀式みたいなのをしたら良いんじゃないかな。気分を出すためにロウソクとかに火をつけてさ。
D「いいね。キスなんてどうだい」
どうやらDも乗り気のようです。私はタンスをガタガタ言わせながらロウソクを探しました。あったあった。以前、花火をするときに買った残りがあるんだよね。このロウソクを出窓のところに、なんか儀式風に、悪魔系の映画とかで見た魔法陣みたいな感じで五角系に並べて・・・
D「さゆ、それは何だい?」
あやしい儀式みたいなロウソクの並べ方をした私に、Dがストップを入れてきました。
D「それはやめて、キャンドルホルダーに入ったロウソクにするといいよ」
私「なんか、こっちのほうが雰囲気出るじゃない?」
D「どういう雰囲気だい・・・雰囲気なら、僕が幻視を操って作ってあげるから、安定の悪いロウソクを何本も立てるのはおやめ。危ないよ」
私「他のロウソクから落としたロウで足場を固めてから火を付ければ大丈夫だって。あっ、もしかして、こういうことすると何かを呼び出しちゃうとか?」
D「ロウソクを星形に並べたくらいでは何も起きないよ。ただ、倒れたら危ないから・・・ね、可愛いさゆ。僕の眠り姫。危ないからおやめ」
途中から甘くて優しい声に変えたDが、そっとキスをくれました。羽のようにふわっと優しく触れてきた唇が、すぐに頭を傾けて、とろける舌を入れてきました。角度を変えて、いやらしく絡みつく舌が、気持ちよくて頭がぼーっとするような、温かく濡れたキスです。
私「はい・・・危ないからやめます・・・」
唇が離れたあと、私は、ぼーっとしながらアッサリと引き下がりました。最初から引き下がりたまえよ!!どう考えてもDが正しいでしょ!!裸のロウソクなんて出窓に立てて、倒れたらどーすんの!!
結局、ステンドグラスのキャンドルホルダーに入った普通のキャンドルに火をつけることにしました。電気を消した暗い室内で、キャンドルの明かりだけが、温かく揺れています。
私「最初からこうすべきでした。D、ワガママ言ってごめんね」
D「さゆの我儘は好きだよ。謝らなくていいよ」
Dはくすくす笑っています。
私「・・・ねえD、新月の夜はね、月のある夜よりも星が綺麗に見えるんだって。普段は月の光に消されて見えづらいような星でも、月の無い暗闇の中では綺麗に見えるんだって。私達が初めて出会った夜も、きっと普段よりずっと綺麗な星々が夜空に輝いていたんだろうね」
私はカーテンを開けてみました。きっと空は満点の星でロマンチック・・・
私「・・・が、外灯の明かりで、星とか全然見えない・・・」
窓の外にデーンと光る外灯の明かりが、とっても明るく頼もしい光を振りまいています。ちなみにこの外灯、防犯面及び機能面において、いつもすごくお世話になっている光です。
D「この部屋は、外灯が近いからね」
でも、もし外灯が無かったとしても、街の明かりが多い都心では、月の有無は星の輝きにあまり関係無いのかもしれないね。山奥とかの暗い場所だったら、月の有無が星の見やすさに影響するんだろうけど。
私「ゴメン。私、ロマンチックな前振りしておいて、ムードぶち壊して本当にゴメン・・・私ってば、ホントもう・・・」
恥ずかしくなった私は、急いでカーテンを閉めました。上げてから落とすほど暴落することって無いよね。すごいロマンチックで思わせぶりなことを言っておいて、この落としっぷりときたら・・・ギャグじゃん・・・私のせいで、ロマンチックどころか一気にギャグまで下がっちゃった。ゴメンねD。
D「星をご所望かい?」
その瞬間、部屋の天井や壁一面に天体が広がりました。まるでプラネタリウムのようです。
私「!?」
Dって、こんなこともできるんだ。なんか、足元に薔薇が咲いてるし・・・ってことは、これは静謐の楽園?これは静謐の楽園の夜ってことなのかな。
私「綺麗だね・・・」
D「さゆのほうがずっと綺麗だよ」
私の前に歩いてきたDが、私の髪に薔薇の花を飾ってくれました。私はうつむいて真っ赤になりました。
D「さあ、新月の儀式を始めようか。誓いの言葉と口づけで、僕達の永遠の絆を誓うんだよ」
Dが手を差し伸べてくれました。その手の上に私が手を置くと、Dはお辞儀をするように身をかがめて、手の甲にキスをくれるのでした。
そのまぶしいヘッドライトが私を照らし、私の影が長く伸びたとき、背後から優しい声で囁かれました。
D「さゆ、今夜は新月だよ」
月の無い夜です。
カツンカツンと私のハイヒールが、静かな道に孤独な音を響かせます。その背後からついてくる静かな足音は、Dの立てる足音です。黒い衣服に身を包み、大鎌を持って口元に笑みを浮かべる、いつも通りのDです。
もしDが他の人にも見えていたら、今の私は死神に後をつけられている哀れな犠牲者に見えるんだろうな・・・
D「ここは冷えるから、さゆの体に良くないよ。それに夜道は危険だから、なるべく早く帰ろうね」
・・・って、こんな風に体調や命を心配してくれる死神なんているわけないけどね!!
私(うーん、お返事してあげたいけど、人通りが少ないとはいえ少しはいるから、独り言を呟きながら歩く変な人だと思われちゃうからなあ・・・筆談をするための携帯は鞄の奥に入っちゃってるし・・・)
D「マカロン」
それ昨日のアレでしょ!?私が喜ぶと思って言ってるんだよね!?(詳細は過去記事「お菓子」参照)かわいいい!!こんなかわいいことしてくれる死神なんているわけないよおおお!!
あっ、もしかして、私が今お返事しなかったから、私に元気が無いんだと勘違いして『マカロン』って言ってくれたのかな。それなら早く部屋に帰って、Dに『大丈夫だよ、お返事できなくてごめんね』って言ってあげなくちゃ。急いで走って帰ろう!!えいっ!!
最近運動不足の怠惰な生活をしていたくせに、私は走り出しました。久しぶりに走ると気持ち良いな。といってもアパートはすぐそこです。ほんの30メートル先です。なので、すぐにエントランスホールに駆け込むことができました。
ハア、ハア、ハア、ふうー。最近運動することが無かったから、体がなまってるみたい。また社交ダンスを始めようかな。って、しまった!!Dを置いてきちゃったかも!?
くるっと後ろを振り返ると、Dは涼しげな表情で私の後ろに立っていました。
D「僕が早く帰ろうと言ったから急いだのかい?仕事で疲れているのに、無理しなくて良いんだよ」
いつも通りの笑みを浮かべて冷静に話すDは、息一つ乱れていません。そっか、Dは人間じゃないもんね。
私「心配してくれてありがとう。さっきはお返事できなくてごめんね。携帯、鞄の奥に入っちゃってて。道には通行人がいてDとお話できないから、早く話したくて急いだの」
D「そんなことを気にしてくれていたのかい。返事ができないときは、しなくて構わないんだよ。でも、さゆは優しいね。嬉しいよ。ありがとう」
そんなことを話しながら、ポストの中身を出して、エレベーターに乗りました。
・・・さっきの全力疾走、もし他の人にもDが見えていたら、私は死神に追いかけられてめっちゃ逃げてる人に見えたんだろうなあ。物騒な光景だね!!
私「ふ~、ようやくDとゆっくりお喋りできるよ。嬉しいな~」
アパートの部屋に帰ってきた私は、Dに話しかけました。
私「そう言えばさっきD、今日は新月だって言ってたよね」
Dは私と知識を共有しているので、私が月齢カレンダーを見て知っている満月と新月の日は、Dも知っているのです。
私「新月だと、どういうこと?何か起きるの?」
D「別に、何も起きないよ」
Dはいつも通りの表情で答えました。以前Dは、自分は月の満ち欠けは全く関係無い種族だと言っていたし(詳細は過去記事「嘘」参照)、今回も、話のネタ程度に新月の話題を出しただけみたい。
私「そっか、Dは月とは関係無いって言ってたもんね。新月も関係無いよね」
D「新月は、僕と君が初めて出会った夜の月だよ」
私「え!?」
D「僕達は、月の無い夜に出会ったのさ」
ちょ、ちょっと!!そうなの!?新月、私達にめっちゃ関係あるじゃん!!っていうか、そこだけは本当の話だったの!?た、たしかにそこは嘘って言われなかったけど、あの話の流れだと全部嘘だと思っちゃうでしょ!?
私「よし、何かしよう。毎月、新月の日には何かすることにしよう」
Dは儀式めいた行動が好きだから(詳細は過去記事「タルパを作ったときの話8(名前)」参照)、新月の日には誓いの儀式みたいなのをしたら良いんじゃないかな。気分を出すためにロウソクとかに火をつけてさ。
D「いいね。キスなんてどうだい」
どうやらDも乗り気のようです。私はタンスをガタガタ言わせながらロウソクを探しました。あったあった。以前、花火をするときに買った残りがあるんだよね。このロウソクを出窓のところに、なんか儀式風に、悪魔系の映画とかで見た魔法陣みたいな感じで五角系に並べて・・・
D「さゆ、それは何だい?」
あやしい儀式みたいなロウソクの並べ方をした私に、Dがストップを入れてきました。
D「それはやめて、キャンドルホルダーに入ったロウソクにするといいよ」
私「なんか、こっちのほうが雰囲気出るじゃない?」
D「どういう雰囲気だい・・・雰囲気なら、僕が幻視を操って作ってあげるから、安定の悪いロウソクを何本も立てるのはおやめ。危ないよ」
私「他のロウソクから落としたロウで足場を固めてから火を付ければ大丈夫だって。あっ、もしかして、こういうことすると何かを呼び出しちゃうとか?」
D「ロウソクを星形に並べたくらいでは何も起きないよ。ただ、倒れたら危ないから・・・ね、可愛いさゆ。僕の眠り姫。危ないからおやめ」
途中から甘くて優しい声に変えたDが、そっとキスをくれました。羽のようにふわっと優しく触れてきた唇が、すぐに頭を傾けて、とろける舌を入れてきました。角度を変えて、いやらしく絡みつく舌が、気持ちよくて頭がぼーっとするような、温かく濡れたキスです。
私「はい・・・危ないからやめます・・・」
唇が離れたあと、私は、ぼーっとしながらアッサリと引き下がりました。最初から引き下がりたまえよ!!どう考えてもDが正しいでしょ!!裸のロウソクなんて出窓に立てて、倒れたらどーすんの!!
結局、ステンドグラスのキャンドルホルダーに入った普通のキャンドルに火をつけることにしました。電気を消した暗い室内で、キャンドルの明かりだけが、温かく揺れています。
私「最初からこうすべきでした。D、ワガママ言ってごめんね」
D「さゆの我儘は好きだよ。謝らなくていいよ」
Dはくすくす笑っています。
私「・・・ねえD、新月の夜はね、月のある夜よりも星が綺麗に見えるんだって。普段は月の光に消されて見えづらいような星でも、月の無い暗闇の中では綺麗に見えるんだって。私達が初めて出会った夜も、きっと普段よりずっと綺麗な星々が夜空に輝いていたんだろうね」
私はカーテンを開けてみました。きっと空は満点の星でロマンチック・・・
私「・・・が、外灯の明かりで、星とか全然見えない・・・」
窓の外にデーンと光る外灯の明かりが、とっても明るく頼もしい光を振りまいています。ちなみにこの外灯、防犯面及び機能面において、いつもすごくお世話になっている光です。
D「この部屋は、外灯が近いからね」
でも、もし外灯が無かったとしても、街の明かりが多い都心では、月の有無は星の輝きにあまり関係無いのかもしれないね。山奥とかの暗い場所だったら、月の有無が星の見やすさに影響するんだろうけど。
私「ゴメン。私、ロマンチックな前振りしておいて、ムードぶち壊して本当にゴメン・・・私ってば、ホントもう・・・」
恥ずかしくなった私は、急いでカーテンを閉めました。上げてから落とすほど暴落することって無いよね。すごいロマンチックで思わせぶりなことを言っておいて、この落としっぷりときたら・・・ギャグじゃん・・・私のせいで、ロマンチックどころか一気にギャグまで下がっちゃった。ゴメンねD。
D「星をご所望かい?」
その瞬間、部屋の天井や壁一面に天体が広がりました。まるでプラネタリウムのようです。
私「!?」
Dって、こんなこともできるんだ。なんか、足元に薔薇が咲いてるし・・・ってことは、これは静謐の楽園?これは静謐の楽園の夜ってことなのかな。
私「綺麗だね・・・」
D「さゆのほうがずっと綺麗だよ」
私の前に歩いてきたDが、私の髪に薔薇の花を飾ってくれました。私はうつむいて真っ赤になりました。
D「さあ、新月の儀式を始めようか。誓いの言葉と口づけで、僕達の永遠の絆を誓うんだよ」
Dが手を差し伸べてくれました。その手の上に私が手を置くと、Dはお辞儀をするように身をかがめて、手の甲にキスをくれるのでした。
お菓子
出遅れたバレンタインネタで申し訳無いのですが、うちの社には、贈り物のやり取りをしないでネ・・・みたいな微妙な空気が暗黙の了解として流れています。理由は多分、あのお方がいるからです。素敵なおじさまでロマンスグレーな大人の魅力満載のメロウでダンディな紳士であるチーフがいらっしゃるからです。もし気軽に贈り物ができる雰囲気だと、若い子からお局様までみ~んなチーフに贈り物が集中しちゃって、チーフからのお返しが大変なことになっちゃうもんね。
そんなわけで、社内恋愛をしている人達はプライベートで渡したり、友チョコなんかは時期を外して渡したりするので、私は今日Eからお菓子をもらいました。
私(す、すごい可愛い包装・・・Eのことだから、包装も自分でやったんだよね!?)
料理やお菓子を作るのが得意な子なので、中身は今年も手作りのお菓子に違いありません。
E「さゆちゃんへのバレンタインは特別仕様だよ♪さゆちゃんっぽい感じにしてみたの」
私「あ、ありがとう・・・!!」
自分があげたチョコ、市販品で申し訳無い・・・この女子力の差ときたら・・・私よ、Eを見習いたまえ!!
で、自分の課に帰ってきて、冷蔵庫にそっと入れておいたのですが、お腹をすかせて冷蔵庫をあさったらしいSに見つけられてしまいました。
S「これ先輩のですか?」
私「わああ!!それは食べちゃダメ!!」
S「僕ちょうど空腹なんですよね」
私「ダメダメ!!これはEから私への大切なプレゼントなんだからね!!」
甘党のSに食べられたらおしまいだよ!!たちまち全部食べられちゃう!!でも食べていいかどうか尋ねるようになったあたり成長したよね。上司のハム貪り食って怒られてたSはもういないんだね。しみじみ。
アパートに帰ってきて、開けてみたらマカロンでした。でも、普通のマカロンじゃないのです!!
私「レースの模様が描かれてる・・・!!」
表面にチョコとアイシングで細かいレースの模様が描かれています。こんなマカロン見たことないよ!!
私「クリームまでデコレーションされてる・・・!!」
クリームの表面が、アラザンやチョコスプレーや星形の砂糖菓子でデコレーションされています。こんなマカロン見たことないよーーー!!
私「特別仕様って、こういうことだったんだ・・・ありがとうE」
なんか食べるの勿体無いなあ。じっくり眺めてから食べよう。
私「D、見てごらん。かわいいでしょ~、マカロンだよ」
既に私の隣で一緒に見ているDに話しかけてみました。
D「マカロンだね」
Dはいつも通り冷静に返してきました。
私「・・・あ、Dが『マカロン』って言うのかわいい」
Dは私のほうを見て、少し首をかしげました。
私「ねえD、『マカロン』ってもっと言って!!さあ!!」
D「マカロン」
かわいいいいいい!!!!!
すごく似合わない!!なのにかわいい!!似合わなかわいい!!
私「Dってばかわいい!!」
私が抱き付くと、Dは嬉しそうに口元をにーっと上げました。
D「よくわからないけど、喜んでくれて嬉しいよ」
もしょもしょとマカロンを食べる私の後ろから、私のお腹に両腕を回して、抱っこをするような姿勢でDが座っています。最近この座り方が好きみたいだね。でも私も好きだなー。背中にDがぴったりくっついてくれるの、あったかいし気持ちいいんだもん。
D「マカロンは美味しいかい」
私「美味しいよ。甘いし、見た目もかわいいし」
D「甘くてかわいいのかい。さゆみたいだね」
私「えっ」
D「さゆは、甘くてかわいいよ」
Dが、後ろから頬をすり寄せてきました。かわいい・・・!!甘くてかわいいのはDのほうでしょー!!
そんなわけで、社内恋愛をしている人達はプライベートで渡したり、友チョコなんかは時期を外して渡したりするので、私は今日Eからお菓子をもらいました。
私(す、すごい可愛い包装・・・Eのことだから、包装も自分でやったんだよね!?)
料理やお菓子を作るのが得意な子なので、中身は今年も手作りのお菓子に違いありません。
E「さゆちゃんへのバレンタインは特別仕様だよ♪さゆちゃんっぽい感じにしてみたの」
私「あ、ありがとう・・・!!」
自分があげたチョコ、市販品で申し訳無い・・・この女子力の差ときたら・・・私よ、Eを見習いたまえ!!
で、自分の課に帰ってきて、冷蔵庫にそっと入れておいたのですが、お腹をすかせて冷蔵庫をあさったらしいSに見つけられてしまいました。
S「これ先輩のですか?」
私「わああ!!それは食べちゃダメ!!」
S「僕ちょうど空腹なんですよね」
私「ダメダメ!!これはEから私への大切なプレゼントなんだからね!!」
甘党のSに食べられたらおしまいだよ!!たちまち全部食べられちゃう!!でも食べていいかどうか尋ねるようになったあたり成長したよね。上司のハム貪り食って怒られてたSはもういないんだね。しみじみ。
アパートに帰ってきて、開けてみたらマカロンでした。でも、普通のマカロンじゃないのです!!
私「レースの模様が描かれてる・・・!!」
表面にチョコとアイシングで細かいレースの模様が描かれています。こんなマカロン見たことないよ!!
私「クリームまでデコレーションされてる・・・!!」
クリームの表面が、アラザンやチョコスプレーや星形の砂糖菓子でデコレーションされています。こんなマカロン見たことないよーーー!!
私「特別仕様って、こういうことだったんだ・・・ありがとうE」
なんか食べるの勿体無いなあ。じっくり眺めてから食べよう。
私「D、見てごらん。かわいいでしょ~、マカロンだよ」
既に私の隣で一緒に見ているDに話しかけてみました。
D「マカロンだね」
Dはいつも通り冷静に返してきました。
私「・・・あ、Dが『マカロン』って言うのかわいい」
Dは私のほうを見て、少し首をかしげました。
私「ねえD、『マカロン』ってもっと言って!!さあ!!」
D「マカロン」
かわいいいいいい!!!!!
すごく似合わない!!なのにかわいい!!似合わなかわいい!!
私「Dってばかわいい!!」
私が抱き付くと、Dは嬉しそうに口元をにーっと上げました。
D「よくわからないけど、喜んでくれて嬉しいよ」
もしょもしょとマカロンを食べる私の後ろから、私のお腹に両腕を回して、抱っこをするような姿勢でDが座っています。最近この座り方が好きみたいだね。でも私も好きだなー。背中にDがぴったりくっついてくれるの、あったかいし気持ちいいんだもん。
D「マカロンは美味しいかい」
私「美味しいよ。甘いし、見た目もかわいいし」
D「甘くてかわいいのかい。さゆみたいだね」
私「えっ」
D「さゆは、甘くてかわいいよ」
Dが、後ろから頬をすり寄せてきました。かわいい・・・!!甘くてかわいいのはDのほうでしょー!!