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着替えは持ったし、薬も持ったし、お気に入りのシャンプーやコンディショナーその他バスオイルに化粧水に乳液に香水にコスメにエトセトラ、パソコン、仕事道具、日焼け止めも忘れずに、あと・・・

車に詰め込んだ沢山の荷物を指差しながら、忘れ物が無いかチェックしているのです。車での旅で楽だと思うことは、荷物を沢山持ち運べるっていうことだよね。これが新幹線や飛行機だと巨大なスーツケースをゴロゴロ転がしながらふぅふぅ言わなきゃいけないもん。

私「よーし、出発進行―!!」

シートベルトをした私は、ハイテンションに右腕でグーを作り、オー!!って感じのポーズをとりました。

D「出発だね」

助手席に座っているDは、いつも通りの笑みを浮かべたまま、冷静にうなずきました。

私「いっくよー!!」

D「気を付けて運転するんだよ」

ハイテンションな私とは逆に、Dはとっても冷静に返してきました。



せっかくの長距離ドライブだというのに、今日の天気は生憎の雨です。

私「高速道路、日曜日なのにすいてるね。やっぱり雨だからかな」

いつもなら大和トンネルのあたりから渋滞が始まるはずなのに、今日は割と車が通っています。雨なので全体的に70~90km程度の低速ですが、滞ることなく走れています。

私「この調子なら5~6時間くらいで到着できそうだね」

どうやら予想よりも早く到着できそうです。

私「それにしても、視界が良くないよね」

ワイパーを最速にしていても、フロントガラスに叩きつけてくる雨と、前走車の巻き上げた水しぶきで視界が良くありません。私の車は車高があるからまだマシだけど、低いスポーツカーなんかだと走りにくいだろうなあ。そういう車には、親切にしたり譲ったりしてあげなきゃね。

D「デフロスターを付けたほうがいいよ」

私「うん」

今日は外が寒いから、あまり高い温度に設定しないほうがいいだろうなあ。逆に窓が曇っちゃうもんね。



私「わ~、寒いなあ」

昼食を摂るために、足柄SAで休むことにしました。カレーパンで有名なSAです。でも今日はカレーパンではなくレストランに入るのです。下りの足柄SAにはちょっとお洒落なレストランがあるので、一度入ってみたかったのです。

入口には大きな暖炉や古びた本などのディスプレイ、照明は鹿の角のシャンデリア、料理は木製のキッチンワゴンで運ばれてくるのです。

D「おいしいかい?」

私(うーむ・・・)

食事を終えて店を出ると、息が白くなっていました。なんだか雨脚も強まってきたように感じます。待機しても小降りになりそうな様子はありません。そうとなれば、もう早目に出たほうがいいよね。私は車に戻って先を急ぐことにしました。

私「霧が出てきた・・・」

周囲の車が次々にライトを付け始めました。白くボンヤリとした霧の中で、明るいライトと赤いテールランプが無数に浮かび上がります。

D「気をお付け」

私「うん。ありがとう」

車間距離をとって、なるべく大きな車の後ろに付かないようにします。見通しをよくするためと、雨の巻き上げを被らないためです。

私「さっき足柄SAで、道路に融雪剤を撒いてあるので注意してくださいって放送されていたの」

昔、融雪剤が撒かれた雪道の高速道路を走ったとき、フロントガラスが白く汚れて、すごく見えにくくなって焦ったことがあるから、融雪剤って聞くとビクッとしちゃうよ。さすがに今日は雨が降っているせいで白くはならないけど、車のサビの原因にもなるし・・・

私「ちなみに去年の話ね。御殿場から箱根あたりに掛けて、融雪剤で大変なことになったんだ。あの辺りは雪が降るからね。その日の足柄SAは、道のはしに積まれた雪が人の背より高かったんだよ。Dはまだいなかった頃の話だから、その様子を見てないよね。その日の私の記憶を読んでみると面白いよ」

D「まだ、さゆに僕が見えていなかった頃の話だね。でも、僕はずっと君の傍にいたよ」

私「ええっ!?」

D「さゆ、運転に集中したほうがいいよ」

私「ちょっとその話、あとで詳しく聞かせてね!!」

富士に差し掛かる辺りでは、霧も消えて見晴らしが良くなっていました。

私「ようやく霧が消えてきたけど、同時に夕方になって暗くなりはじめてきたね」

どうやらライトはこのままつけっ放しになりそうです。やがて日が落ちて夜が来ました。霧も無い、普通の雨の夜の高速道路です。車の数も減って随分走りやすくなりました。あとはもう淡々と走り続ければ良いのです。



伯母の家に着く頃には、すっかり暗くなっていました。駐車場に車を止め、傘をさしてトコトコ歩いていくと、懐かしい洋風の門が私を出迎えてくれました。インターフォンを押します。

私「こんばんは、さゆです」

伯母「あ~ら、いらっしゃい」

聞きなれた伯母の声がして、やがて玄関から伯母が姿を現しました。伯母は門のところまで来てくれて、内側から門を開けてくれました。

伯母「待ってたのよ。長旅で疲れたでしょう。さあ、上がって」

私「ありがとうございます」

伯母にうながされるままに、私は玄関に向かって庭のレンガ道を歩き出しました。春には美しい花を咲かせてくれる綺麗な庭も、この季節には沈黙しています。ツタの絡まるガーデンアーチの下をくぐったとき、私の後ろのほうで、門が静かにしめられる音がしました。

伯母「ここ数日間は暖かかったんだけど、今日は雨が降って冷えるわねえ」

私「はい」

通された部屋は、以前私が下宿していたときに使わせて頂いていた部屋でした。ステンドグラスの出窓、猫足のデスク、アンティークのチェスト、ガラス細工のルームランプ、ロココ風のブックシェルフ、花瓶の飾られたコモコンソール・・・そして、布団。

・・・ふとん。布団です。この部屋の家具の取り合わせの中で、布団だけがひどく浮いています。一見ギャグかと思う光景ですが、これは心温まるエピソードの賜物です。この部屋にベッドが無いのは、ここに置かれていたベッドは私が東京に働きに出たときに伯母が下さったからなのです。今、私のアパートに置かれているベッドがそれなのです。

伯母「この部屋を自室として使ってね。慣れている部屋のほうがいいでしょ?」

私「ありがとうございます」

伯母「どうぞ休んでて。お茶、入れてくるわね」

ドアの向こうに伯母が消えると、私はDに話しかけました。

私「どう?綺麗なお家でしょ?」

D「そうだね」

Dはいつも通りの表情でうなずきました。



お風呂を上がって、貸してもらっている部屋で髪を乾かして、さあブログを書こうかなと思ったときに、Dが話しかけてきました。

D「さゆは、この家が好きなんだね」

私「うん、好きだよ」

D「この家が欲しいかい?」

私「え?」

たしかに綺麗な家で、いつかこういうお家を建ててみたいと思ったこともあるけど・・・

D「『伯母さん』が亡くなれば、さゆのものになるかもしれないね」

私「D!!」

私は顔色を変えました。Dはいつも通りの表情で平然としています。

D「『伯母さん』はいつ亡くなるんだろうね。その前に、沢山親切にしておくんだよ」

私「やめなさい!!」

D「どうしたんだい?さゆ」

Dはいつも通りの表情で、少し首をかしげました。

私「縁起でも無いこと言わないで。どうしちゃったの?いつもそんな酷いこと言わないでしょ?」

かぐや姫を失った帝の気持ち、私よりDのほうがわかってたじゃない。帝は不老不死の薬を飲まなかったし、売ってお金に換えることもしなかったけど、それは帝にとって姫は自分の命よりお金より大切な人だったからなんでしょ?大切な人の命はお金なんかに換えられないんだって、Dが言ってたのに。(詳細は過去記事「かぐや姫」参照)

D「僕は、さゆさえ幸せなら良いからね。さゆの幸せを一番に考えた結果だよ」

私「だったら尚更、伯母さんが亡くなっちゃったら私は幸せじゃないよ」

D「本当かい?『伯母さん』の遺産が手に入るよ」

私「本当に決まってるでしょ!!遺産なんていらないよ!!」

なんでDはこんなこと言うんだろう・・・Dのことだから何か考えがあるの?

私「だいたい、姪である私は相続人としては代襲相続人に当たるの。伯母さんは配偶者も子もいないけど、自分の両親と、弟である私の父は生きてるでしょ?だから私は相続を受ける権利が無いのよ。伯母さんが書いた遺言書でも無い限りね」

D「何故、そんなことを知っているんだい?」

Dは、私にふわっと近づくと、甘い声で囁きました。

D「気になって、調べたからだろう?」

そうだけど・・・でも、違う!!どんな風になるんだろうと思って調べてみただけで、遺産を狙っているわけじゃないし、ましてや伯母さんの死を願っているわけじゃないよ!!

D「さゆ、『伯母さん』に優しくするんだよ。彼女だって、嫌い合っている弟に遺産を渡すくらいなら君に渡したいさ。君は彼女からの遺産を受け取れるし、彼女は君から優しく尽くしてもらえる。どちらも幸せだろう?これは正しいギブアンドテイクのビジネスさ」

違う、違うよ!今日ずっと雨の中で車をとばして伯母さんに会いにきたのは、そんなことのためじゃないよ。この連休をもらうために、仕事を何度も家に持ち帰ったのも、休み返上で働いたのも、そんなことのためじゃないよ!!私はただ、伯母さんが心配だったし、久々に会いたくて・・・

D「どうしたんだい?震えているね」

甘い甘い声で、Dが私の耳に口を寄せました。耳元に熱い吐息がかかりました。

D「寒いのかい。僕が」

その言葉を聞き終える前に、私は部屋を飛び出しました。



私「伯母さん!!」

急いで駆け込んだ部屋は、応接室です。彼女がこの部屋を好んでいて、ここにいることが多いからです。
中は無人でした。暗闇の中で、壁に取り付けられたハンティングトロフィーの鹿がこちらをじっと見つめています。
私は応接室を出て、彼女の自室に向かいました。今度は冷静にノックをしました。

伯母「はい、どうぞ」

ほわんとした優しい声が帰ってきました。

私「失礼します!!伯母さん、お願いがあるんです!!」

伯母「なあに?」

このほわんとした人にどう言えばいいんだろう。

私「私に、絶対に遺産を渡さないと約束してください。変に思われるかもしれませんが、理由があるのです。私は、自分が遺産目当てであなたに親切にしているのではないかと思うと怖いのです。どうか私を助けると思って約束してください」

伯母は、ぽかんとしました。だいぶ長い間、ぽかんとしていました。

伯母「どう考えても、遺産目当ての人はそんなこと言わないわよ」

・・・でも私、もし伯母さんから遺産をもらえたら楽だなあって思ったことあるし。

伯母「どうしたの?何か会社で不安になることでもあったの?」

私「いえ、仕事には何も問題ありません。会社も不動産も非常に順調です」

伯母「ここに座って、落ち着いて聞いてね」

私がソファに座ると、伯母は向かいに座りました。

伯母「結論から言うと、あなたに遺産を渡すつもりなの。親と弟には遺留分だけでね」

私「駄目です!!お願いです、私には渡さないでください」

伯母「遺産目当てでも良いのよ、私はさゆちゃんがかわいいんだから。でも、あなたが遺産目当てじゃないってことは、あなたより私のほうがよくわかってるみたいね」

伯母が頭を撫でてくれました。懐かしい、久々の優しい感触です。うつむいたとき、誰かが後ろから私の肩を抱きました。Dです。温かい腕が私の肩を包み、甘い吐息が耳にかかり、唇が耳に触れて、甘い甘い声が囁きました。

D「・・・ほら、うまくいったよ」

ゾッと血の気が失せました。

コメント

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No title

こんばんわ=ω=ノシ

融雪剤がピンと来ない私であります_(:3」∠)_
記事を読む限り粉か何かかな?
こちらは基本的道路の雪溶けないので、滑り止めの砂をまいたり、一部がロードヒーティングになってます。

遺産関係は難しいですね……
まだ私には理解し難い世界なので、大きなことは言えませんが、厄介事も起きず丸くおさまることを願います。

それでは失礼しました(´∀`*)ノシ

ありがとうございます!!

わああああああ!!白狐さーーーん!!コメントありがとうございます!!☆.。.:*ヽ(*´▽`*)ノ.。.:*☆

今回は東名高速道路を走行したのですが、東名はときどき融雪剤なるものを撒くのです。これが嫌で嫌で・・・!!
昔は粉だったようですが、今は顆粒や液状のものを散布するそうです。ちなみに、融雪剤単体では一度も見たことがないです。
塩化カルシウムなど色々なものがあるのですが、それらを撒くことで融点を低下させ、プラス溶解熱も発生させることで雪を融かすんです。
しかしこの処置によっての融点は十数度程度までしか低下しないらしく、寒冷地のように極度に寒い場所では効果が無いようです。

北海道の雪道はすごいでしょうねえ・・・ちょっと一度行ってみたいんですけど、運転は絶対にしないようにします!!
豪雪の中を運転できる気が全っ然しませーーーん!!以前ニュースで、ちょっと固まった雪の上を走る車が、モコンッモコンッて感じに上下しながら走っていてかわいかったのですが、見る分には可愛いけど運転は怖くて出来そうにありません・・・!!
積雪地帯に住む人達ってすごいなあ・・・私、全然雪への耐性が無いので、本当に尊敬します!!

遺産は、もともと私のもらえるものではないので、揉めたらもらわない方向でいこうと思います。
ご心配してくださり本当にありがとうございます!!

コメントありがとうございましたあああ!!!☆:・゚.*(´ε`*人)*.゚・:☆
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初めて作るブログなので、不備がありましたら申し訳ございません。
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