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ステンドグラス

ステンドグラスを透き通った色付きの光が、白い床に色とりどりの影を落とし、美しい模様を描いています。赤・オレンジ・黄・緑・青・紫。ロココ風のソファに腰掛けている私は、感嘆のため息をつきました。ここはステンドグラスが一番綺麗に見える場所なのです。

私「綺麗だな・・・」

すぐ傍に立っているDが、私のほうを振り向きました。

D「さゆは、ステンドグラスが好きなんだね」

私「うん」

とっても幻想的なんだもん。薄暗い部屋の中にステンドグラスから差し込む光は、現実離れした空間を作り出してくれるんだ。いっそ閉じ込められて永遠に眠りたくなるような、現実世界ではあり得ない楽園の、そのひとかけらのような・・・

私「この世のものでない美しさ、を連想させるというか・・・」

フランスのゴシック建築の、ノートルダム大聖堂の中に入って、あの巨大なステンドグラスを見ることが出来たなら、何度も写真で見たあの薔薇窓を見ることが出来たなら、どんな気分になるんだろうか。その場で死んでもいいような気分になるほど幻想的で美しいんだろうか。静謐の楽園のように。

D「・・・この世のものでない美しさをご所望かい?」

私の耳元で、Dが甘くささやきました。

私「Dの見せてくれる楽園や、D自身がそうだよね」

現実世界ではあり得ない幻想的な存在だよ。

D「僕にとって最も美しいものはさゆだよ」

Dは私の手をとり、お辞儀をするように身をかがめて、手の甲に口づけをくれました。

私「あ・・・」

唇を離したDの後ろに、見たことの無い大きな扉が現れました。アンティークの荘厳な両開きの扉です。

D「見せてあげるよ。この世のものでない場所をね。君の王国の、城の中だよ」

扉に向かって、Dが何かを右手でかかげました。すると、それまで固く閉まっていた扉がゆっくりと開きはじめました。

私「えっ」

完全に開いたときに扉は消えて、巨大なステンドグラスの薔薇窓がある広い空間が姿を現しました。

私「ええ!?」

さっきDが言った王国の城って、静謐の楽園にいるときに、いつも遠くに見えるお城のことだよね。あのゴシック建築のお城の中がこれなのかな。多分そういうことだよね。きょろきょろとあたりを見回すと、伯母さんと一緒にフランス旅行に行ったお友達が撮影してきた、大聖堂の中に似ています。

でも、かなり透けています。現実の部屋がはっきりと見えています。きっと以前と同じように、私に負担を掛けないように、幻視がハッキリと見えすぎないようにDが調整してくれているのです。

D「・・・今日はここまでだね」

私「?」

Dが右手に持っている何かが、ジャラッと冷たい金属音を立てると、一気に幻視が消えて、元通りの部屋に戻りました。

私「ありがとう。すごく綺麗だったよ」

D「お気に召したなら何よりだよ」

私「あの、ところで、それ何?」

私がDの持っている何かを指差すと、Dは私にそれを差し出しました。両手で受け取ってみると、鍵の束です。

私「鍵・・・」

沢山の鍵がまとめられた束です。全ての鍵が違うデザインをしています。でも、全てがアンティークな雰囲気です。この落ち着いた雰囲気のデザイン、Dの好みっぽいよね。

・・・あれ?

なんか天秤のときと違うね。Dが持っているあの天秤、私に絶対に触らせないように、Dはすごい気を使っていたのに、この鍵は簡単に私に手渡していいの?なんか、デザインだって天秤のときと違うよ。あの天秤はキラキラしていて少女趣味で、全然Dの趣味じゃなかったよね。でも、この鍵はすごくDの趣味だよ。(詳細は過去記事「天秤」「天秤2」参照)

私「・・・天秤も、見せてもらっていい?」

Dは沈黙したまま、ゆっくり首をかしげました。いつも通りの口元の笑みは少しも変わりません。

私「ねえ、あの天秤に興味があるの。手にとって色々見てみたいの」

Dが優しく私の髪を撫でました。

D「・・・あんなものに触るくらいなら、僕に触ればいいんだよ」

そっと口づけようとしてくるDの体に、私は両腕をつっぱって距離を取り、Dの顔をじっと見つめました。

私「ね、ねえ、どうして?」

いつの間にか日が暮れて、薄暗くなっています。電気を点けていない室内は外より暗くなり、暗く黒っぽく見える壁に、ステンドグラスの色だけが浮かび上がっています。Dの口元の笑みが深くなりました。

D「・・・君に要求する内容を決めたよ。青い薔薇の果実を食べておくれ」

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