白い百合
過去記事「ぽかぽか」の続きを書こうと思っていたのですが、元彼が来てしまったので今日の出来事を書きます。
元彼がまたアパートの前で待っていました。日曜なので仕事が休みだったようです。ここ数日、元彼からメールが何件か来ていたので、ホワイトデー近辺に元彼が来訪する可能性は考えていました。
彼はバレンタインのときと同じく、アパートの玄関先に立っていました。このアパートはセキュリティが厳しく、外の扉がオートロックで施錠されるので、鍵を持っていないとロビーにすら入れないのです。
元彼「・・・これ、ホワイトデーのプレゼント」
前回と同じく、彼は紙袋を差し出してきました。
私「受け取れないよ。もう別れたからね」
私は口元に笑みを浮かべて、首を振りました。
元彼「お前の中ではもう別れて、終わったことになっていても、俺の中では終わってない・・・」
私「バレンタインの日に、▽▽(元彼の名前)は恋愛関係が終わったことに同意して、もう会わないって約束したよ?」
元彼「それでも、どうしても会いたくなって、気持ちが抑えられなくて・・・」
しょんぼりと元気無く、元彼が呟きました。今までだったらここで可哀想になって、ごめんねごめんね、そんなに会いたかったの、そんなに悲しくて寂しい思いをさせて本当にごめんね、とか言いながら復縁してしまったはず。
落ち着いて息を吸って・・・こんなときは・・・そうだよ、Dだったら冷静に言うはずだよ、自分の感情にも相手の感情にも流されず、淡々と現状を指摘して・・・
私「じゃあ、自分の気持ちを優先して、大切な約束を破ったわけだね。自分勝手だね」
元彼「・・・お前」
驚いたような顔をして、元彼が呟きました。
元彼「・・・変わっちゃったな・・・もっと人の気持ちを大切にする優しいやつだったのに・・・」
うまくいきそう!このまま私のことを嫌いになって、二度と関わらないでくれるかも。
私「そうだよ。私はこういう人間だよ」
元彼「・・・・・・」
元彼はしばらく黙って、それから手にしていた紙袋を上下逆さまにして振りました。中からは何も落ちてきませんでした。カラだったのです。
元彼「本当は、ここに来る前から、もう駄目だろうなってわかってたんだ」
私が受け取らないとわかっていたから、カラの袋を持ってきていたのです。
元彼「俺が悪かったんだよな。俺から別れようって言ったんだし・・・」
今までとは違って、元彼は怒鳴りませんでした。怒ったりも泣いたりもせず、むしろ少し笑っています。
元彼「もう復縁しろとか言わないし、二度と会わないって誓うよ。だから最後に、一度だけ抱きしめさせて・・・」
その言葉と同時くらいに、いきなり私のすぐ目の前に、毛虫が糸にぶらさがって下りてきました。
私「ぎゃっ!!」
びっくりした私は、慌てて後ろに飛びのきました。背中に扉があたりました。私を抱きしめるためにのばされた元彼の腕は、私に届かずに終わりました。
よく見れば毛虫は透き通っていて、天井から生えている透き通った蔓から下がっています。その蔓には見覚えのある花が咲いています。幻の薔薇です。だいぶ開いた元彼と私との間に、ふわっと黒いモヤが姿を現し、それはこちらを向いたDの姿になりました。
私の過剰な反応に驚いた顔の元彼の姿が、透き通ったDの向こうに見えます。Dは、私に向かってゆっくりと首を振りました。
私「・・・私、もう付き合ってる人いるから」
元彼「は、マジで!?・・・え、俺の知ってるやつ?会社のやつ?」
私「違うよ」
元彼「どんなやつ?」
私「しっかりした性格だよ。いつも冷静で、いろんな意味で強いと思う」
元彼「あ、そうなんだ・・・」
この会話をしている辺りで、アパートの住人が帰ってきました。どこの部屋の人かわかりませんが、スーツを着た30代くらいの女性です。仕事帰りでしょうか。私達二人が気になるらしく、ポストの所からこちらをチラチラ見ています。
元彼「・・・わかった。もう会わないし、メールもしない」
しばらく新しい彼(Dのこと)について話しました。主に、私を助けてくれたことに関してです。そのうちに、元彼のほうから別れを切り出してきました。
私「うん。頼むよ。今までありがとう。じゃあ、本当にさよなら」
元彼「じゃあな。幸せになれよ」
私「ありがとう。▽▽もね」
元彼が立ち去ると、スーツの女性も去っていきました。もしかして私のこと心配してくれてたのかな?
私「ほら、今回はポストの中身を忘れずに持ってきたよ」
部屋に帰ってきた私は、ドヤ顔を決めながら、Dに向かって郵便物を見せました。
D「よく頑張ったね。上手に和解に持ち込んだよ。見事だったよ」
うなずいたDが、私の頭を撫でてくれました。
私「ありがと!」
Dに抱き付くと、ぎゅっと抱きしめてくれました。Dの服ごしに温かい体温が感じられます。あったかいな。優しい手が頭を撫でてくれます。気持ちいいなー・・・
しばらくそうしていて、やがてDは、そっと私の手をひいてベッドに座らせました。
D「彼とのことを、すっかり克服できたようだね」
口元に笑みを浮かべたDは、私の足元の床の上にひざまずく姿勢で座りました。
D「楽園に新しい花が咲いたよ」
ふわふわっと、Dの足元から広がるように、床の上に蔓が広がり、そこに薔薇の花が咲いていきます。その中で一本だけ、すらっと床の上から真っ直ぐに伸びた茎が、百合のような花をつけています。
私「百合・・・って、もしかして、あのときの宝石みたいな種?」
D「そうだよ」
以前元彼と決別した日に、宝石みたいな種になった百合です。(詳細は過去記事「克服」参照)あの種をDは楽園に埋めると言っていたけど、それが花をつけたんだ。
床を覆う蔓に咲いた沢山の薔薇に囲まれて、百合の花はすらっと立っています。氷砂糖のように真っ白で透き通っていて、水滴がついているのかキラキラ光っています。とっても綺麗です。
私「綺麗だね・・・」
D「君が咲かせたんだよ」
私の手に手を重ねて、Dが静かに囁きました。
D「ここで、君の楽園で永遠に咲き続けるよ」
そよ風が吹いて、百合の葉がさらさら揺れました。白い花びらはいっそうキラキラ光りました。
私「ところで、さっきの毛虫はすごくびっくりしたんだけど・・・」
いきなり目の前に、つーって下りてきたんだもん。
D「すまなかったね。緊急事態だったから、咄嗟に君を移動させる方法が他に思いつかなかったのさ」
なんかデジャヴュだなあ。同じようなセリフ、前にも聞いた気がするんだけど。あ、あのときだ。お風呂でラッコみたいな精霊に出会ったときだ。(詳細は過去記事「お風呂」参照)
私「・・・あの毛虫、精霊なの?」
D「いや、あれは僕が作った幻視だよ」
やっぱりそっか。Dが他の精霊の協力を仰ぐとは思えないもんね。Dは虫とかの、私が苦手なものを幻視として見せることもできるんだね。まあ当然か。
私「本当に苦手なの。嫌いなの。すごく嫌いなの」
D「嫌い・・・すごく、嫌い・・・」
Dは口元の笑みを消して、私の言葉を復唱しました。
私「もう毛虫は見せないでね。イモ虫はもっと嫌いだから絶対に見せないでね」
Dは私の記憶を読めるから、私が苦手なものは大体わかってると思うけど・・・
D「見せないよ、見せないよ、もう絶対に見せないよ」
ふるふると首を振って、Dは一生懸命に否定しました。
元彼がまたアパートの前で待っていました。日曜なので仕事が休みだったようです。ここ数日、元彼からメールが何件か来ていたので、ホワイトデー近辺に元彼が来訪する可能性は考えていました。
彼はバレンタインのときと同じく、アパートの玄関先に立っていました。このアパートはセキュリティが厳しく、外の扉がオートロックで施錠されるので、鍵を持っていないとロビーにすら入れないのです。
元彼「・・・これ、ホワイトデーのプレゼント」
前回と同じく、彼は紙袋を差し出してきました。
私「受け取れないよ。もう別れたからね」
私は口元に笑みを浮かべて、首を振りました。
元彼「お前の中ではもう別れて、終わったことになっていても、俺の中では終わってない・・・」
私「バレンタインの日に、▽▽(元彼の名前)は恋愛関係が終わったことに同意して、もう会わないって約束したよ?」
元彼「それでも、どうしても会いたくなって、気持ちが抑えられなくて・・・」
しょんぼりと元気無く、元彼が呟きました。今までだったらここで可哀想になって、ごめんねごめんね、そんなに会いたかったの、そんなに悲しくて寂しい思いをさせて本当にごめんね、とか言いながら復縁してしまったはず。
落ち着いて息を吸って・・・こんなときは・・・そうだよ、Dだったら冷静に言うはずだよ、自分の感情にも相手の感情にも流されず、淡々と現状を指摘して・・・
私「じゃあ、自分の気持ちを優先して、大切な約束を破ったわけだね。自分勝手だね」
元彼「・・・お前」
驚いたような顔をして、元彼が呟きました。
元彼「・・・変わっちゃったな・・・もっと人の気持ちを大切にする優しいやつだったのに・・・」
うまくいきそう!このまま私のことを嫌いになって、二度と関わらないでくれるかも。
私「そうだよ。私はこういう人間だよ」
元彼「・・・・・・」
元彼はしばらく黙って、それから手にしていた紙袋を上下逆さまにして振りました。中からは何も落ちてきませんでした。カラだったのです。
元彼「本当は、ここに来る前から、もう駄目だろうなってわかってたんだ」
私が受け取らないとわかっていたから、カラの袋を持ってきていたのです。
元彼「俺が悪かったんだよな。俺から別れようって言ったんだし・・・」
今までとは違って、元彼は怒鳴りませんでした。怒ったりも泣いたりもせず、むしろ少し笑っています。
元彼「もう復縁しろとか言わないし、二度と会わないって誓うよ。だから最後に、一度だけ抱きしめさせて・・・」
その言葉と同時くらいに、いきなり私のすぐ目の前に、毛虫が糸にぶらさがって下りてきました。
私「ぎゃっ!!」
びっくりした私は、慌てて後ろに飛びのきました。背中に扉があたりました。私を抱きしめるためにのばされた元彼の腕は、私に届かずに終わりました。
よく見れば毛虫は透き通っていて、天井から生えている透き通った蔓から下がっています。その蔓には見覚えのある花が咲いています。幻の薔薇です。だいぶ開いた元彼と私との間に、ふわっと黒いモヤが姿を現し、それはこちらを向いたDの姿になりました。
私の過剰な反応に驚いた顔の元彼の姿が、透き通ったDの向こうに見えます。Dは、私に向かってゆっくりと首を振りました。
私「・・・私、もう付き合ってる人いるから」
元彼「は、マジで!?・・・え、俺の知ってるやつ?会社のやつ?」
私「違うよ」
元彼「どんなやつ?」
私「しっかりした性格だよ。いつも冷静で、いろんな意味で強いと思う」
元彼「あ、そうなんだ・・・」
この会話をしている辺りで、アパートの住人が帰ってきました。どこの部屋の人かわかりませんが、スーツを着た30代くらいの女性です。仕事帰りでしょうか。私達二人が気になるらしく、ポストの所からこちらをチラチラ見ています。
元彼「・・・わかった。もう会わないし、メールもしない」
しばらく新しい彼(Dのこと)について話しました。主に、私を助けてくれたことに関してです。そのうちに、元彼のほうから別れを切り出してきました。
私「うん。頼むよ。今までありがとう。じゃあ、本当にさよなら」
元彼「じゃあな。幸せになれよ」
私「ありがとう。▽▽もね」
元彼が立ち去ると、スーツの女性も去っていきました。もしかして私のこと心配してくれてたのかな?
私「ほら、今回はポストの中身を忘れずに持ってきたよ」
部屋に帰ってきた私は、ドヤ顔を決めながら、Dに向かって郵便物を見せました。
D「よく頑張ったね。上手に和解に持ち込んだよ。見事だったよ」
うなずいたDが、私の頭を撫でてくれました。
私「ありがと!」
Dに抱き付くと、ぎゅっと抱きしめてくれました。Dの服ごしに温かい体温が感じられます。あったかいな。優しい手が頭を撫でてくれます。気持ちいいなー・・・
しばらくそうしていて、やがてDは、そっと私の手をひいてベッドに座らせました。
D「彼とのことを、すっかり克服できたようだね」
口元に笑みを浮かべたDは、私の足元の床の上にひざまずく姿勢で座りました。
D「楽園に新しい花が咲いたよ」
ふわふわっと、Dの足元から広がるように、床の上に蔓が広がり、そこに薔薇の花が咲いていきます。その中で一本だけ、すらっと床の上から真っ直ぐに伸びた茎が、百合のような花をつけています。
私「百合・・・って、もしかして、あのときの宝石みたいな種?」
D「そうだよ」
以前元彼と決別した日に、宝石みたいな種になった百合です。(詳細は過去記事「克服」参照)あの種をDは楽園に埋めると言っていたけど、それが花をつけたんだ。
床を覆う蔓に咲いた沢山の薔薇に囲まれて、百合の花はすらっと立っています。氷砂糖のように真っ白で透き通っていて、水滴がついているのかキラキラ光っています。とっても綺麗です。
私「綺麗だね・・・」
D「君が咲かせたんだよ」
私の手に手を重ねて、Dが静かに囁きました。
D「ここで、君の楽園で永遠に咲き続けるよ」
そよ風が吹いて、百合の葉がさらさら揺れました。白い花びらはいっそうキラキラ光りました。
私「ところで、さっきの毛虫はすごくびっくりしたんだけど・・・」
いきなり目の前に、つーって下りてきたんだもん。
D「すまなかったね。緊急事態だったから、咄嗟に君を移動させる方法が他に思いつかなかったのさ」
なんかデジャヴュだなあ。同じようなセリフ、前にも聞いた気がするんだけど。あ、あのときだ。お風呂でラッコみたいな精霊に出会ったときだ。(詳細は過去記事「お風呂」参照)
私「・・・あの毛虫、精霊なの?」
D「いや、あれは僕が作った幻視だよ」
やっぱりそっか。Dが他の精霊の協力を仰ぐとは思えないもんね。Dは虫とかの、私が苦手なものを幻視として見せることもできるんだね。まあ当然か。
私「本当に苦手なの。嫌いなの。すごく嫌いなの」
D「嫌い・・・すごく、嫌い・・・」
Dは口元の笑みを消して、私の言葉を復唱しました。
私「もう毛虫は見せないでね。イモ虫はもっと嫌いだから絶対に見せないでね」
Dは私の記憶を読めるから、私が苦手なものは大体わかってると思うけど・・・
D「見せないよ、見せないよ、もう絶対に見せないよ」
ふるふると首を振って、Dは一生懸命に否定しました。