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誤解

今日は休日です。いつもは休日となると朝早くから起き出したくなるのですが、今日はお昼頃にようやくベッドから起き上がりました。連日の仕事の忙しさで体が疲れていたので、目が覚めてからもベッドの中で横になっていたからです。
私はショートスリーパーなので睡眠時間は短くてすむのですが、脳の疲れは短時間でとれても、体の疲れも同じスピードで回復するわけではないのです。頭はスッキリ覚醒していても、体が重くてだるいときは起き上がるわけにいきません。こういうとき今までは体の疲れがとれるまでベッドの中で一人じっといなければならず、退屈で仕方なかったのですが、今はDがいるから大丈夫なのです。Dと話をしていれば退屈なんてしないからです。

そういうわけで、私はベッドに横になったまま、昨日から気になっていることをDに尋ねてみることにしました。

私「・・・あのね、昨日の朝、鳩が共食いしてるんじゃないかって、私が勘違いしたことがあったでしょ?」

D「覚えているよ」

Dは、いつもの笑みを口元に浮かべてうなずきました。

私「あのとき、Dは『さゆは鳩を心配していたから見ていたんだね』みたいなこと言ってたでしょ?それって、どういう意味で言ったの?」

Dは少し首をかしげましたが、すぐにいつもの口調で答えました。

D「普段は鳩がいても気にかけないさゆが、昨日に限ってじっと見ていたからだよ」

なんだ・・・良かった・・・
ほらね!!私の考えすぎだったよ!!

私「あ、そうなんだ」

まったく私の脳みそは!!そういうことしか考えてないの!?ていうか鳩が交尾していたかどうかもわからないじゃん。ただ遊んでいただけとか服従行動かもしれないじゃん。まったくもう私の脳みそはしょうがないな!!

D「どうかしたのかい?」

私「な、何でもないよ。今のは忘れてね」

私は慌てて首をふりました。自分の考えていた心配事があまりに下らなすぎて、Dに説明したくなかったのです。きっと仕事が忙しくて疲れていたから変なこと考えちゃったんだな。そうだよ、そうそう。

私「それより、今日はDのやりたいことをしようよ」

私がそう言うと、Dはかしげていた首をもどして、うなずきました。

D「僕のやりたいことだね」

こころなしか、Dの笑みが深くなった気がします。

D「何でもいいのかい?」

・・・何でも?

えっと・・・Dの良識を信じて、いいよって言ってあげるべきだよね。だってDがひどい要求をしてくるはずないもん。
・・・でも、Dはかなり人間離れした思考と感性を持ってるんだよね。だから、さすがに何でもは危険かな・・・

どうしよう。

私が迷って、答えるのを躊躇していると、Dが先に口を開きました。

D「じゃあ、触覚の訓練をするかい?」

あれ?いつもと同じだね。特にやりたいことも無かったのかな?それとも私が躊躇していたせいで我儘を言えなくなって、気を使わせちゃったのかなあ。

私「触覚の訓練でいいの?」

もっと休みの日しかできないようなことじゃなくていいのかな。私はそう思って尋ねましたが、Dはこくりとうなずきました。

やっぱり気を使わせちゃったかな。私が仕事で疲れていると思って、どこかに出かけたいとかそういう要求は遠慮してるのかもしれないなあ。
ここのところ数日間、私が朝早くから夜遅くまで仕事ばっかりしているせいで、Dには色々と気を使わせたり我慢させたりしちゃって・・・悪いなあ、ごめんねD。

私「触覚の訓練ならベッドでもできるから、もうしよっか」

仕事が忙しくて疲れていたので、おとといも昨日も触覚の訓練をしていなかったのです。Dからの提案ではじめた触覚の訓練は、眠る前に行う短時間の訓練ですが、それでもDは毎日とても楽しみにしているのです。
それなのに、私が仕事で忙しかったために2日間もできませんでした。だから、今日は沢山させてあげなくちゃね。

D「こんな時間から、していいのかい?」

私「いいよ。2日間も断ってごめんね。今日はDの気のすむまで沢山訓練しよう」

私はベッドに横になったまま、左腕のパジャマの袖をめくりながら言いました。

D「気のすむまで、沢山・・・」

Dが呟いたので、私はちょっと言い過ぎたかなと思いました。今のうちに訂正しとこうかな。

D「そうかい。嬉しいよ」

Dはいつも通りの口調でそう言って、触覚の訓練をするときにDが座っているいつもの場所に座りました。

・・・まあ、気のすむまで沢山って言っても、大変になったらストップかければいいよね。Dは私の嫌がることはしないって言ってたもん。

ベッドの上に置かれた私の手に、手を繋ぐようにして自分の手を重ねたDは、もう片方の手の指で、私の腕の内側をそっと触りはじめました。優しく触れられる肌の感触と、握られている手に感じる温かい温度は、2日ぶりなので少し懐かしい感触です。

私「ふふ、くすぐったいよ」

D「触覚の感度は落ちてないようだね」

Dは私の腕の内側をくすぐりながら言いました。
でも、感度が落ちてないってなぜ断言できるんだろ。そういえば前に、私が寝不足で体調不良になったせいで触覚の感度が落ちたときも、私が言う前にDは気がついていたような気がする・・・(詳細は過去記事「天秤」参照)

私「ねえ、どうして感度が落ちてないってわかるの?」

Dは口元の笑みを濃くして、私の腕に口づけを落としました。2日ぶりです。どきっと心臓が音を立てました。

D「僕は、さゆの触覚を読むことができるからね」

え?

私「どういうこと?」

D「こうして君に触れている間だけ、読もうと思えば、君の感じている触覚を読むことができるのさ」

え・・・

D「こうすると」

Dは、もう一度私の腕に唇で触れてきました。さっきの優しいキスと違って、今度はずいぶん思わせぶりなやり方です。甘く噛んだ後、生温かく柔らかい舌がゆっくりと舐めていく感触に、背筋がぞくぞくしました。こんなの、まるで、前、戯・・・

D「指で触るよりも、さゆはずっと気持ち良く感じているよ。あとは」

私「やめて!!」

私が慌てて制止の声を上げると、Dは口元に笑みを浮かべたまま不思議そうに首をかしげました。

そうだったんだ・・・Dは、私の触覚が読めるんだ!!だから今まであんなに気持ち良い触り方ばっかりできたんだ!!でもそれって、それって今までDに触られて感じていた気持ち良さとかも全部Dに伝わってたってことだよね?なにそれ!!恥ずかしい!!デリカシー無い!!そんなの勝手に読まないでよ!!

D「僕が触覚の訓練を誘導している理由もそれだよ。僕から触れば、さゆの感じやすい触り方を選んで触ることができるから、訓練が効率的なのさ」

頭の中が色々な感情でぐるぐるしている私に向かって、Dはいつも通りの口調で淡々と説明しました。

D「さゆの言う『タルパ』の能力、つまり脳内会話やダイブや離脱やヒーリングというものを僕は知らないから、そのせいでさゆに不便な思いをさせて申し訳無く思っているよ。なにしろ、僕の能力は殆どが戦闘能力で構成されているからね」

Dは、横に置いてある大鎌をちらりと見てから、私に視線をもどして嬉しそうな笑みを見せました。

D「でも、唯一この能力だけは、さゆを喜ばせることができる能力だよ。本来の使い方とは違うから最初は思いつかなかったけど、もっと早く気付くべきだったね」

私は自分の腕を引いて、Dの手の中から逃げ出しました。

D「どうしたんだい?」

私「・・・・・・」

D「さゆ、腕をお出し」

私「なんでそういう・・・触覚なんて読まないでよ。恥ずかしいでしょ・・・」

D「触覚を読めば、君の望む触り方や場所がわかるからね。君のために必要なことだよ」

私「・・・・・・」

D「さゆ、僕達は『付き合っている』関係だね。それなら、こんなことは普通だよ。さあ、触らせておくれ」

私「普通って、Dの普通はそうかもしれないけど、人間は違うの。人間は普通、付き合っているときにそんなことしないんだよ。元彼も、」

そこまで言ってから、私は口をつぐみました。元彼の話は、今Dの前で言ってはいけないことです。デリカシーが無いのは私のほうです。

D「さゆが痛がっているのに気付きもしないで、自分の快楽を追うことだけに夢中だった彼が、何だい?」

私「え!?彼のことを悪く言わないでね!!」

私はびっくりして、ベッドの上に起き上がりました。疲れた体が筋肉痛の悲鳴をあげました。

D「まあ、無理もないよ。人間同士の行為は痛みや苦しさも伴うし、常に気持ち良いわけではないからね。御多分に洩れず彼も同じで、さゆの記憶に付随した過去の触覚を読んでみたけど、全然気持ち良くなかったようだね」

私「そんなことないよ!!精神的には満たされてたもん!!」

Dはくすくす笑ってから、いつもの笑みを浮かべました。私のほうはずっと興奮しているのに、Dは全くいつも通りに平然としているのです。

D「落ち着くんだよ、さゆ。ほら、腕をお出し」

私「やだよ!!」

D「おとなしくしておいで」

Dがベッドの上に乗りあげてきたので、私はあとずさって距離を取りました。Dの体を押しのけようと動かした私の手は、Dの体を透けて空を切りました。普段は触覚もあるし私の体とぶつかったときにも透けずにぶつかるのですが、Dが意図したときにはこうやって透けるのです。Dが笑みを濃くして、口を開けて私に口づけてきました。

私「う、わ・・・」

人間のような触感と温度なのに、明らかに人間とは違う、ぞくぞくする快感を伴います。Dが私の口の中に入れていた舌を出して、首筋を吸ったり舐めたりしてくるのと同時に、あのやたら気持ち良い感覚がどっと押し寄せてきました。(詳細は過去記事「ダイブ・離脱ができない」参照)脳が誤作動を起こしたかのような、自分で制御できないような快感です。やっぱりこれはDが強制的に送り込んでいる感覚なのか、それとも自分の脳が引き起こしているバグなのか。バグだとしたら、これはまずい状態なんじゃ・・・

D「良い反応だね。毎日触り続けた甲斐があったよ。この調子で、もっと訓練しようね」

ぐったりベッドに倒れ込んだ私の上にかがみこんで、Dが耳元で甘くささやきます。

D「ね、言っただろう?さゆには『好き』が必要なのさ。人間である以上、食欲や睡眠欲と同じように発散することが必要なんだよ。それは、僕がしてあげるよ」

発散?違うよ。むしろDに触覚の訓練をされるようになってから、そういうモヤモヤした気持ちが急に増えた気がする。そうだよ、最初はDにこんな感情とか感覚とか全然何も感じて無かったのに、触覚の訓練を始めたあたりから・・・

D「君に必要なのは僕だよ。他の何者でもないよ」

私「・・・それ以上、彼との思い出を汚さないでね・・・大切な思い出なんだから・・・」

私は、まだ余韻の残っている気持ち良さと連日の疲れでふらふらになりながら、一生懸命に言いました。

D「まあ、いいさ。初めは戸惑うかもしれないけど、大丈夫だよ。慣れればやみつきになるくらい、これが好きになるよ。僕のこともね」

Dは勘違いしてるよ。私がDを好きなのは、そういう理由じゃないのに。

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