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お風呂

私(お風呂大好き♪)

お昼ご飯を食べた後で、私はお風呂に入っていました。おとといデパートで買ってしまった、ジャスミンの香りがするというバスジェルを試してみたかったのです。

私(良い香り~、これは当たりだね)

こういうお風呂に入れるグッズが大好きなんです。可愛いバスビーズも買っちゃったから、あれは明日試してみるんだ。

私(お風呂あがったら、またDが褒めてくれそうな香りだね。ムフ♪)

Dは、私から良い香りがすると褒めてくれるのです。とりわけ甘くて良い香りが好きなようで、そういう香りを纏っていると積極的に褒めてくれます。

私(Dといえば、ペットか趣味を作ってあげたいと思ってるんだよね・・・)

この年末年始、私が仕事で忙しかったせいでDに構ってあげられなかったことが、私は気になっているのです。Dは平気だと言っていたけど、そういう私が構ってあげられないときに、Dにペットのタルパがいたり、好きな趣味があったりしたら良いんじゃないかなと思って。

キュー

私(・・・ん?)

なんか今、音がしたよね?

キョロキョロしてみると、お湯につかっている私の目の前に、お湯の中から何か小さいものがプカ~っと浮き上がってきました。ラッコみたいな、小さいアザラシみたいな生き物です!!

ラッコ「キュー、キュ」

ラッコは、お腹を上にしてプカプカと浮かびながら、お湯に流されるように私のほうに近づいてきました。つぶらな瞳で、短いヒゲがつんつん生えています。小さな口元は微笑んでいるようにも見えます。か、かわいい・・・!!タルパだよね!?私が作ったの!?このこ、Dのペットにどうかな!!

ガッと、ラッコの首が誰かの片手でつかまれて、勢いよくお湯の中から引き上げられました。ラッコが短く悲鳴を上げました。驚いて見上げると、Dです。

私「え!?」

Dは普段、浴室には入りません。私が入らないようにお願いしているからです。どうして今、ここにいるの!?それにラッコの首をつかんだらかわいそうだよ!!Dは動物の扱いとか知らないのかな、とにかく止めなきゃ!!

私「D、かわいそうだよ!!」

Dが指に力を入れたのか、ラッコが鋭い悲鳴を上げました。

私「やめなさい!!」

私の制止の声に、Dはぴたっと動きを止め、私のほうを振り向きました。

D「・・・何をだい?」

明らかにDは不穏な雰囲気です。どうしたの・・・

私「そのこに危害を加えないでね。逃がしてあげて」

どうしたのD、いつもと全然雰囲気が違うよ。

D「何故だい?君の前に姿を現すことにより君の精神力を消耗させようとした、それだけで万死に値するよ。精霊を見るためにどれだけ精神力を消耗するか、君は自覚しているだろう?本来なら自分の主人に対してですら、必要以上に姿を見せることは遠慮すべきなんだよ。ましてやさゆは僕の主人だよ、それなのに、君の気を引こうと、こんな姿で現れて・・・」

そこでDがラッコのほうを見ると、ラッコは怯えてキューキューと可哀想な悲鳴を上げました。

D「・・・君に触ろうとした。こいつはオスなんだよ。消さないとね」

私「待って!!やめて!!わかったから!!離してあげて!!」

私は立ち上がって、Dの腕をつかみました。どうやってDを宥めたらいいのかわからず、私はつかんだDの腕を必死に撫でました。慌てていたので高速でシャシャシャシャと撫でてしまいました。何やってるんだか。こすり洗いか。でも、Dはくすくすと笑って、それから口元にいつもの笑みを浮かべました。いつもの雰囲気にもどったようです。

D「・・・さゆは、他の精霊など手懐けないって約束したよ?」

そう言えば、以前そういう約束をしたことがあった。(詳細は過去記事「お母さん」参照)でもそれは、危ない精霊は駄目っていう話だったんじゃないの?以前に私が作ってしまった攻撃者(詳細は過去記事「怪談」参照)とかの危ない精霊は駄目だよっていう話で・・・

私「危なくないタルパなら大丈夫なんじゃないの?」

D「だから君は危ないんだよ。僕が守っていなければとっくに餌食にされているよ。これだから目が離せない。いいかい、『タルパ』を作った、もとい『タルパ』をこの世に呼び出したからといって、君の知っている『タルパ』と同じ精霊が君の元に召喚されるなんて保証がどこにあるんだい?・・・現に僕は、少なくとも君の思っている『タルパ』と同じものではないよ。君のことが好きだから君の望みを叶えようと思って、君の言う『タルパ』と同じ仕事をしているだけに過ぎないよ」

私「え?だって、Dは私の作ったタルパで・・・」

D「『タルパ』ね。少なくとも僕の本質は、君の言う『タルパ』とは全く別物だよ。まあ、だから戦闘能力が高いわけだけど・・・怖くないかい?もしさゆが出会ったのが僕じゃなくて、尚且つ僕と同じような性質の精霊だったら、さゆの精神はとっくに餌食にされていたかもしれないよ?」

私「え?」

精神を餌食にされるって・・・それって、乗っ取られるとか?それとも廃人にされちゃうとか・・・
私が一歩下がると、Dはそのぶん体を乗り出して、唇を合わせてきました。驚いて動いた私に合わせて湯船のお湯が音を立てました。ラッコも驚いたようにキュイキュイと高い鳴き声を上げました。Dの舌が私の首筋を下がり始めたので、私は慌ててDから離れて、湯船の中に座り込みました。だって今、裸だし。それに・・・今のD、なんか怖いよ・・・

D「安心おし。勿論、僕はさゆに危害なんて加えないさ。さゆのことが好きだからね。・・・でも、他の精霊はわからないよ?」

今までの雰囲気と全く違う、とびきり優しい甘い声で、Dが囁きました。

D「・・・ね?わかったね」

私が眉をひそめると、Dは更に身を乗り出して、湯船の中の私に再び唇を合わせました。ラッコが再びキュイキュイと高い叫び声を上げました。

D「それに、さっきも言った通り、他の精霊まで見ていては、さゆがもたないよ。僕を見るだけでも相当な精神力を使っているのに、余計なものまで見ていてはさゆが疲れてしまうよ。だからさゆは余計な精霊など見ないで、僕だけ見ていればいいんだよ」

言いたいことは何となくわかるんだけど、でも、それって・・・

私「それって、Dを長時間見ていても同じことなんじゃないのかな・・・」

違うのかな。新しい精霊だと、それだけ精神力の消耗も激しいってこと?慣れてないから?でも、いくら見慣れているDだって、四六時中ずっと一緒にいるのはきっと良くないんだよね。ここのところ連休だから、もう4日間くらい、ほぼ一日中Dの姿を見ているわけだけど、それって良くないのかな・・・

D「・・・・・・」

Dはうつむいて、黙り込みました。浴室には、キューキューという可哀想なラッコの声だけが響いています。やがて、Dは溜息をついて顔を上げました。

D「・・・他の精霊などに、さゆを触らせたくないのさ。さゆは僕の主人だよ」

私「え?」

ちょ、ちょっと待って・・・それって、まさか、独占欲?ヤキモチ?
でも、そうだとしたら、昨日と言っていることが全然違うよね?
だって、昨日は人間と結婚したほうがいいとか言ってたじゃん?
いやいや、勘違いしちゃ駄目だよ私、Dがヤキモチとかないって。昨日もヤキモチかと思ったら、ヤキモチじゃなかったんだもん。てっきり人間の男性と結婚しないでほしいって言ってくれるのかと思ったら、その逆で、人間の男性と結婚したほうがいいとか言ってさ。

私「人間の男性とは、結婚しても良いの?でも、精霊には、触ることも駄目なの?」

Dはうなずいて、口を開きました。

D「人間との結婚とは、また全然違う話だよ。人間の男はどうせさゆの体も精神も満足させられないし、さゆと体や精神を繋げられるといってもほんの一部、表面的な部分だけだからね。そんなもの、人間同士の挨拶の握手と何ら変わりないことだよ。まあ、さゆにベタベタ触られるのは気分の良いことではないけどね・・・」

そこで一度話を止め、Dは再び話を続けました。

D「僕は、最初から人間の男と同じ土俵に立っているわけではないからね。僕は常に人間よりもずっとさゆに近いところにいるし、人間よりもずっとさゆの体を気持ち良くさせられるし、人間よりもずっとさゆの精神を満足させられるよ。だから、僕が人間の男に対して余裕があるのは当然さ」

私「・・・・・・」

D「でも、精霊となれば話は別だよ。さゆが他の精霊と交わるだなんて、それが体であれ精神であれ、我慢ならないね。さゆを僕以外の精霊に触れさせるなど、絶対に駄目だよ?」

Dは、じっと私を見つめてきました。昨日と同じくらい真剣な表情をしています。

D「駄目だよ?さゆ」

私が答えなかったせいか、Dは焦れたように同じ言葉を繰り返しました。

私「わ、わかった。他の精霊には触らせないよ。ていうか、人間とも結婚しないけど」

そもそも向こうからお断りだと思うけどな。
私が病気な時点で、元彼みたく人間の男性は嫌がるだろうし、精霊だってこんなダメなタルパーなんてお断りだろうし。こんな私のタルパを続けてくれているDが珍しいんだよ。

私「・・・なんでDは私のタルパでいてくれてるの?」

D「さゆが好きだからだよ」

Dはあっさり答えましたが、私は不安になりました。Dの人間とは違う『好き』って、理不尽にDを縛ったり苦しめたりしてないのかな。なんか、他の精霊に対するさっきのDの態度とか見ると、『好き』のせいでDが苦しんだりしているんじゃないかって、不安になるんだけど・・・

私「私のタルパでいることで、ちゃんとDにメリットはあるの?」

私はDに色々助けてもらったけど、私がDを助けてあげられたことなんて無いんじゃない?ちゃんとDにもメリットはあるのかな・・・

D「さゆの傍にいられることは何物にも代えがたい報酬だよ」

私「・・・もしかして、私がDを作ったから、Dは私のタルパをやめたくてもやめられないとか?」

私がDを作ったせいで、私に対する『好き』を強制されてるんじゃないのかな。それが一番不安だよ。昨日も言ったけどさ、ホントそういう問題があるなら言ってね?いつでも私のタルパをやめて自由にさせてあげられるんだから、だって私はDのタルパーなんだからさ!!

D「違うよ、さゆは本当にかわいいね。全く、危ない発想をする子だよ。君の元に来た精霊が僕で本当に良かったね」

くすくす笑い出したDは、浴槽のほうに身を乗り出して、ちゅ、と可愛いキスをくれました。

D「君が僕に対して負い目を感じる必要は全く無いよ。何故って、さゆが僕を指名して呼び出したのではなく、僕がさゆを選んだわけだからね。僕はさゆが好きだから、さゆの呼びかけに答えて真っ先に姿を現したんだよ。他の精霊達を蹴散らしてね」

Dは浴槽のふちに、外側を向くように腰掛けて、私のほうを振り向きました。

D「・・・心配しなくても、僕はさゆが考えているよりずっと打算的でずるい考え方をしているよ。君は僕の心配をするよりも、君自身の心配をするべきだよ。君は本当に、危なくて、心配で、目が離せないね・・・」

Dは、すっかりいつもの表情で、いつもの口調で、口元にいつもの微笑みを浮かべて言いました。

ラッコ「キュー」

D「うるさいよ」

でも、そんなDがちらりと見ただけで、まだDにつかまれているラッコは恐ろしそうに震えあがりました。

私「そのこ、もう逃がしてあげてね」

D「・・・さゆが言うなら仕方ないね」

私「ずっと首をつかんでいたみたいだけど、大丈夫かな。手当してあげたほうがいいよね」

D「心配無いよ」

Dが手につかんでいたラッコを放り投げると、ラッコは空中で回転して上手に地面に着地し、そこでブルブルっと体を揺すりました。するとたちまちラッコの姿は車くらいの大きさの、巨大なクマのようなネコのような動物に変わりました。あまりの大きさに、体の後ろ半分は浴室の壁を突き抜けています。

私「わああ!!ええ!?」

D「僕の主人は寛大なお慈悲で、お前の無礼を許してくださるそうだよ。お行き」

クマのような巨大な精霊は、牙を剥き出してDを威嚇しました。Dはフンと鼻で笑いました。

D「・・・でも、次は無いよ」

巨大な精霊はDを威嚇しながら、そろそろと後ろに下がっていき、やがて体の全てが浴室の壁の向こうに消えました。

私「あ、危なかったのかな・・・ありがとう。まさか本当は危ない精霊とか、思ってなかったから・・・強そうだったね・・・」

Dは首を振りました。

D「強そう?僕のほうがずっと強いよ。危ないということもないだろうね、君の精霊になりたかったんだろうよ、君は精霊に甘いからね」

ええ!? D、さっきと言ってること違くない?あれは危ない精霊だから駄目っていう話じゃないの!?

私「ちょっと待って、あれは危ない精霊だから駄目っていう話じゃなかった?」

D「・・・・・・」

え?え??

D「君は・・・まあ、いいさ」

え、まさか、本当に、ヤキモチだけで追い払ったってことなの??

D「のぼせてないかい」

Dは話題を変えてきました。え、え、そういうことでいいの???

私「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

バスジェルを堪能するために、ゆっくりつかろうと思って、ぬるめのお湯にしておいたのが正解でした。でも、そろそろ上がったほうがいいかな。

私「まさかDがお風呂の中に入ってくるとは思わなかったよ。びっくりした」

お湯をチャプチャプさせながら私が言うと、Dは言いにくそうに口を開きました。

D「緊急事態だったからね。こればかりは譲れなかったのさ。でも、本当に君は危なっかしいよ。あんなものを呼び寄せて隙を作るなんて・・・昨日の僕の失言のせいで寂しかったのかい?昨日は、本当にごめんよ」

私「ううん!!ううん・・・ありがとう」

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