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天秤(2)

連休が始まった初日の夜、ベッドに入った後のことです。明かりは、カーテンを透けて入り込む外灯の、ボンヤリとした光しかありません。薄暗闇の中、毎日の日課である就寝前の触覚の訓練(詳細は過去記事「触感」参照)も終わったので、私はめくり上げていたパジャマの袖をもとに戻しました。

D「おやすみ、良い夢を」

おやすみのキスをくれたDが、自分の足元から何かを拾い上げました。薄暗闇の中で、その何かはきらっと光りました。

私(・・・?)

取り出した何かを、Dは私のほうに向けました。天秤です。以前にもDが使っていた、あの天秤です。(詳細は過去記事「天秤」参照)

私「ねえ、D」

私が話しかけると、Dは笑みを浮かべた口の前で人差指を立てました。静かにという意味のジェスチャーです。
Dが真剣な顔で見ている天秤は、あのときのように、何も器に乗っていないのにゆっくりと傾きだして、黒い器のほうに少しだけ下がった状態で止まりました。前と同じような下がり具合です。いや、前のほうが今より下がってたかも。

D「・・・まあ、いいさ」

私「?」

Dは小さく呟いて、天秤を自分の足元の闇に沈めました。周囲も暗いからわかりにくいけど、きっと前と同じように自分の影の中に天秤をしまったんだね。



それから毎日毎日、就寝前の触覚の訓練が終わった後で、Dは天秤を取り出して何かをはかるようになりました。
天秤がいつもと違う動きを見せたのは、先輩の結婚式に着ていくドレスを決めようとして、一人でファッションショーをしていた日(詳細は過去記事「結婚式」参照)の、夜のことです。

いつものようにDが私に向けてかざした天秤は、いつもとは逆の方向に傾きだしました。

D「おや」

天秤は、白い器のほうにゆっくりと傾いて、ほんの少しだけ下がった状態で止まったのです。Dの笑みが濃くなりました。

私「ねえD、その天秤って何をはかってるの?」

前にDが天秤を取り出して何かをはかっていたときは、私が体調を壊したときだったから、この天秤は私の健康状態をはかるものかと思っていたんだけど・・・だったら今日急に天秤が反対側に傾くっておかしいよね?体調、全然変わらないもん。
一体この天秤、何をはかってるんだろう?

D「こんな天秤のことなど、さゆが気にする必要は無いよ」

以前この天秤について尋ねてみたときも、教えてもらえずに、はぐらかされたんだよね。

私「でも、なんか気になるよ」

天秤はガラスで出来ているかのように、透明でキラキラしていて綺麗です。細かい彫刻がなされているせいで、余計にきらきらとしているのです。私は、そっと手をのばしてみました。

D「いけないよ」

でもDは、私の手に天秤が触れないように避けて、自分の影の中に天秤を沈めてしまいました。

私「あっ・・・」

D「あんな天秤など、さゆが触れる価値は無いよ。さゆが気にかける価値すら無いさ」

でも、連休が始まってから、Dは毎日天秤を私にかざしているよ。それって、すごく気になるんだけどな。むしろそれだけ天秤を出しておいて、気にするなって言われても難しいよ。

私「ちょっとだけなら、触ってもいいでしょ?」

D「あんなものに触るくらいなら、僕を触ればいいよ。ほら、好きなだけ触って良いんだよ」

私「でも、気になるんだけど・・・」

D「僕のほうが触り心地も良いし、温かいよ?さゆは、寒いのが苦手だろう?あの天秤は冷たいよ。なにしろ生きてないからね」

そりゃ天秤が生きてたらビックリだけど、ていうか、Dこそ生きてるのかな。みずから天秤と自分を比較してみせるくらいだから、D的には自分は生きていると思っている、ということだよね。

私「前も天秤については何も教えてくれなかったけど、今回も何も教えてくれないの?」

D「・・・・・・」

Dは口元に笑みを浮かべて沈黙したまま、私の髪を撫で始めました。

私「Dが話したくないなら、無理には尋ねないけど」

D「・・・・・・」

Dは首をかしげて、何か考えているようです。話そうかどうしようか迷ってるのかな。かわいそうなことしちゃったかな。

私「わかった、話さなくていいよ。あの綺麗な天秤、きっとDの大切なものなんだね」

細かいガラス細工で出来ていて、きらきら光って可愛くて。少女趣味というか、メルヘンチックなんだよね。全然Dの趣味じゃないよね。Dはクラシックなものが好きだけど、もっと落ち着いた荘厳な感じの装飾が好みだもんね。あの天秤は、Dの趣味というよりは、むしろ私の趣味に近いと思うんだ。すると、あの天秤は私が無意識に作っちゃったものということかな。でも、作った本人の私が何も知らないって、不便だなあ・・・

D「・・・綺麗?」

小さく呟いたDは、首を振りました。

D「あんなもの。綺麗なのは、さゆだよ。でも、やはり、さゆは綺麗なものが好きなんだね。もし僕が綺麗だったら、さゆはもっと僕を気に入ったかもしれないね・・・」

えっ、綺麗なD? 綺麗なジャイア○みたいな、綺麗なD?

私「それはちょっと、だいぶ、イメージ違う。Dはそのままが一番だよ」

そもそも、Dは綺麗だと思うけどな。今のDの人間の姿は、私のイメージに合わせて作ってくれている姿だけど、髪はサラサラだし、鼻も口も私が選んだモデルさんそのものだから、すごい整ってるじゃない。指だってすらっとして綺麗だよ。

私「何かDを不安にさせちゃったのかなあ。ごめんね。でも私はDが『大好き』だし、『特別』だし、一番だよ」

Dは私の顔をじっと見ていましたが、やがて納得したようにこくりとうなずきました。

D「僕も、さゆが大好きだし、特別だし、一番だよ」



次の日も、その次の日も、Dは毎日天秤をかざし続けました。天秤は、ずっと白い器のほうに傾いたままです。Dはその様子を見ては、嬉しそうに笑みを濃くするのです。

私(ホント何なのあの天秤!?何をはかってるの!?すっごい気になるんだけど!!)

でも、Dには話さなくていいよって言った手前、もう尋ねられないなあ。

私「嬉しそうだね」

私は、白い器が下がった天秤を見て嬉しそうにしているDに、話しかけてみました。

D「嬉しいよ」

Dは素直にうなずいて、天秤をぱっと手から離しました。

私「落ち、壊れっ・・・」

高い音を立てて、天秤が床にぶつかりました。ガラスみたいな繊細なつくりをしているから、床に当たって割れてしまったのではないかと思いましたが、どうやら平気なようです。ほっと胸を撫で下ろした私に、Dが口づけてきました。

D「さゆ」

明らかに、本気で行為を始めようとしているDの服を引っ張りながら、私は天秤のほうを見ました。

私「ね、ねえ天秤は?床に放りっぱなしでいいの?大切なものなんでしょ?」

D「こんなときに、他の」

焦れたように言ったDは、突然言葉を切って、くすくす笑いました。

D「・・・ひどいよさゆ。こういうときくらい、僕のことだけ考えておくれよ」

かわいく首をかしげて、甘い声でそんなこと言っても、駄目・・・なわけないよお・・・Dのこと好きなんだもん・・・うう・・・恥ずかし・・・!!

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