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quid pro quo

走り続けなくては生きてこれなかったの。生活費も学費も無い学生はね、働いて生活費を稼ぎながら、水準以上の学力を維持して奨学金を稼がなくちゃ、義務教育以上の学校に通うこととか出来なかったわけよ。私が学校に居続けるためには、私を捕えようと常に後ろから追いかけてくる金欠と学力低下から逃げ切るために、常に全力を出して前進していなくてはいけなかったんだ。
でもねD、そうやって我武者羅に進んでいくほど、一歩ずつ足を前に踏み出すごとに、何か少しずつ忘れていく気がしたんだ。お金や力以外の何かをさ。大切なものだったのかもしれない。誰かを幸せにする上で必要なものだったのかもしれないし、私が幸せを得るために必要なものだったのかも。でも、何かを忘れなくては、捨てなくては、新しい荷物を持っていくことができなかったんだ。
笑ってやってよ、そこまで努力して手に入れた大切なものを、私は何一つ持っていくことができないんだから。ちょっと病気になっただけで、全てが砂になり掌から零れ落ちちゃう。これは、前だけを見て進んできたことで、気づかず足元で踏み潰したのかもしれない命に対する報いなのか。
お金も、安定した生活も、働き甲斐のある職場も、綺麗な服も、お洒落な小物も、あの頃に切望していたものは全て、自分に必要なもの全てを手にしたと思ったのに。



明日には、ここしばらく忙しかったプロジェクトが一区切りつきそうです。私は明日がお休みなので、できるだけ今日のうちに仕事を片付けて、明日の担当者が簡単に引き継げるようにしておきたいと思いました。ですから今日もタップリ残業してきたのです。

私(最終日に休日って、完成したところを見れないんだよね~、なんか残念・・・まあいいや、そのぶん今日やれるところまでやっておこう。残業代、もうかるし・・・)

このご時世に残業代を出してくれる会社なんて本当にありがたいです。一生ついていきまーーーす!!この業界、定年なんて無いも同然だしね。

そういうわけで、今日も帰りが遅くなってしまったのです。



私「昨日も今日も、長時間ずっと影の中に入れていてごめんね」

いつもならもっと早く帰宅して、アパートでDとお喋りしたり音楽を聞いたり本を読んだりするのですが、昨日も今日も遅くまで仕事をしていたせいで、Dはほとんど影の中で過ごすことになったのです。私が会社にいるときはずっと、Dには影の中に入ってもらっているからです。(詳細は過去記事「タルパー」参照)それだけではなく、ここしばらくはDとの時間があまり取れませんでした。Eと食事に行ったり(詳細は過去記事「性別」参照)、うちの課の皆で食事に行ったり(詳細は過去記事「暴走(私の)」参照)、私が仕事で暴走したり(詳細は過去記事「暴走(私の)参照」)していたので。

私「退屈だったでしょ・・・」

D「退屈じゃないよ。さゆを見ていたからね。僕はさゆを見るのが好きだからね」

前にも同じことを言っていたよね。(詳細は過去記事「誘惑」「クリスマス」「お伽噺『眠り姫』編」参照)

私「でも、影の中にずっと入っているなんて・・・そんな暗くて狭そうなところにずっと閉じこもっていなくちゃいけないなんて、窮屈でしょ?」

D「窮屈ではないよ。温かくて、甘くて良い香りがするよ。とても居心地が良いのさ。さゆの影だからね」

そうなのかな・・・それなら良いんだけど・・・

D「どうしたんだい?」

Dの指が、そっと私の髪を撫でました。Dはいつもの笑みを口元に浮かべて、少し首をかしげてこちらを見ています。

私「Dは、私の傍にいることで、何かメリットがあるの?」

ずっと気になっていたのです。私の傍にいることで、Dに何かメリットがあるのか・・・何でもいいのです、私のエネルギーを吸い取れるとかでも、生きている人間と繋がっていると強さが増す(詳細は過去記事「タルパを作ったときの話10(大鎌)」参照)とかでも、何でもいいんだ。とにかくDにとって、私の傍にいることに何らかのメリットが無いと、傍にいてもらうことが申し訳無いのです。

そして、たとえDにとってメリットがあろうと、Dに逃げ道を残しておいてあげないと怖いのです。私のもとにいることが嫌になったとき、私から離れるための逃げ道を作っておいてあげないと。

D「さゆは、僕を傍に置くことで、何かメリットがあるのかい」

私の髪を撫でる手を止めずに、いつも通りの笑みを口元に浮かべたまま、Dは尋ね返してきました。

私「あるよ。メリットだらけだよ。Dと話すのは楽しいし、Dにアドバイスしてもらえるのは助かるし、Dに相談できるのも助かるし、Dに触ると温かくて気持ちいいし、Dの声を聞くと安心するし、Dと一緒にいると落ち着くし・・・挙げればキリがないよ」

本当に感謝してるよ。Dがいてくれたおかげで、病気を知ったときのショックから立ち直れることができたし、元彼のことを思い出しても平気になったし、お母さんの命日にお線香もあげられたし。でも、Dに感謝しているのはそういう大きなことだけじゃないんだ。

私「っていうか・・・本当は、Dが傍にいてくれるだけでいいんだ。Dがお話できなくても、触った感触や温度が無くても、声が無くても、目に見えなくても、傍にいてくれるだけで安心するんだ。私はDのこと大好きだからね」

私の髪をゆっくり撫で続けながら、Dが嬉しそうに笑みを浮かべました。

D「僕も同じだよ。さゆのことが『大好き』だからね。さゆと話すのは楽しいし、さゆの姿を見ると気分が良くなるし、さゆの声を聞くと更に聞きたくなるし、さゆに触ると満たされるし、さゆの傍にいると落ち着くのさ。さゆと関わることが幸せなんだよ。ほら、メリットだらけだね」

思わず甘えたくなるような、甘い言葉です。今までDのこういう言葉にずっと甘えてきたけど、でもそれでいいのかな。

私「でも、私とDとでは立場が違うでしょ?私は自分の好きなことばかりしてるけど、Dはいつも私の傍に控えていて、好きなところにも行けず、好きなこともできず、嫌なことでも私のために我慢して、私の役に立つことを考えて・・・そんなの可哀想で、見てられないよ」

これがビジネスだったら、仕事だったら、契約関係だったら、私にとって大きなメリットがあるように、Dにとっても同じだけ大きなメリットがあったら、そうだったら良かったのに。
最初にDが私と名前の契約を結んだとき、つまり主従の契約を結んだときは、私にもDにも同じくらいのメリットがあった。私にとって、死ぬときにDが傍にいてくれることで寂しくないというメリットがあったように、Dにとっては、私と契約を結ぶことで戦闘能力が向上するというメリットがあった。(詳細は過去記事「大鎌」参照)そうやって、あのときは、お互いに同じくらいのメリットがあったから、安心して傍にいることをお願いできたんだけど・・・

でも今は、明らかにメリットの大きさが違う。きっと私がDに恋愛感情を抱いたときから変わってしまったんだ。私はDが傍にいてくれることで、本当に色々なメリットが増えたけど、それと同時にDの負担が増えた。当初のDの仕事は、私が死ぬときに傍にいて手を握っているということだけだったのに、今のDの仕事は、私に忠告をしたり、私の恋愛感情を満たしたり、私の幻覚を制御したりと、本当に色々な負担が増えてしまった。このままDに甘え続けることが怖いんだ。私の幸せがDの負担と我慢の上に成り立っているのではないかと思うと、とても可哀想だから。

私「もう解放してあげる。私のタルパをやめて、好きなように生きていいよ。自然の精霊になってもいいし、もっと良いタルパーさんのタルパになってもいいし、Dの好きなように生きてほしいの」

Dはいつもの笑みを口元に浮かべたまま、こくりとうなずきました。私の髪から手を離さないまま、そっと撫で続けています。全くいつも通りです。

私「え!?驚かないの?」

驚いて、もっと喜ぶかと思ったのに。
・・・或いは、驚いて否定するとかさ。どっちにしろ、もっと驚くかと思ったのに。

D「驚かないよ。いつか言い出すだろうと思っていたからね」

私「そう・・・」

D「じゃあ、お言葉に甘えて、僕の好きなようにさせてもらうよ」

私「うん」

D「ベッドにお上がり。ヒーリングをするよ」

私「・・・え?」

D「僕の好きなようにして良いんだろう?」

Dはいつも通りの笑みを浮かべたまま、首をかしげました。

私「うん・・・」

私がもそもそとベッドの上に座ると、Dもベッドの上に上がってきました。そのまま、そっと私の肩を押してベッドに横たえようとしてきたので、私はおとなしく横になりました。その私の隣に、向かい合うように、Dが横になりました。

私(添い寝!?いつもあれだけ添い寝を拒否しているDが!?)

D「こうすることは僕にとって、特別な我慢が必要なことなんだよ。でも、さゆのためなら我慢できるよ。さゆは僕の特別だからね」

特別という言葉は、Dにとって重要なんだよね?(詳細は過去記事「特別」「シュトレン(?)」参照)でも、我慢って何のことだろう。性的な意味じゃないよね。だって、そういうことなら、普通にいつもしてるし・・・

私「無理しないで」

D「少しの間なら平気さ。じゃあ、ヒーリングするよ」

私「あ、うん・・・お願いします」

Dが横になったまま腕をのばして、私の体を抱きしめてくれました。私の体の下に回されたほうのDの腕は、ベッドを突き抜けて私の背側に回っているので、ベッドに接地しているほうの私の体には、Dの腕とベッドの感触が両方感じられるという、なんだか不思議な感触です。でもこれ、Dの腕が温かくて、すごく気持ちいいなー・・・

D「君は、相手側にメリットがあることを確認できないと、不安で甘えられないんだよ」

私「え?」

D「しかも、相手側のメリットが、金や、君の労働や、その他実際に確認できるものでないと、相手にとってのメリットとして認識することができず、そのせいで不安になるようだね」

私「あの・・・」

D「だから、君が相手に与えた「嬉しい」という相手の感情を信じられないし、君が相手にメリットを与えたということを信じられないんだよ。殊更、自分に向けられた好意に関しては、目で見ることができない他人の感情を信じられないのさ。だから当然、相手からの「好き」など到底信じられない」

私「・・・・・・」

D「君自身は、相手に起因して君の中に発生した「好き」や「嬉しい」といった感情を、君のメリットとして勘定しているのにね」

私「・・・ヒーリングするんじゃなかったの?」

D「今、しているよ。さゆは、ヒーリングには心を癒すことも含まれると言っていたからね」(詳細は過去記事「ヒーリング」参照)

私「・・・・・・」

D「要するに君は、僕と一緒にいることで君の中に発生する喜びの気持ちを、君にとってのメリットだと勘定することはできるのに、君と一緒にいることで僕の中に発生する喜びの気持ちを、僕にとってのメリットだと勘定することができないのさ」

Dは、私の背に回している手で、私の頭をゆっくり撫でました。

D「君は、他人が君に抱く好きという気持ちを信用できないんだよ。だからビジネスライクな関係でないと怖くなるのさ。相手にとってのメリットが無いと判断した瞬間、君は相手から離れることを考えてしまう」

私「そんなことないと思うけど・・・」

D「僕が君と一緒にいるメリットを作って、新しい契約関係を結ぶこともできるよ。例えば、僕の言うことに絶対に従わなくてはならないとか、現実の生活を全て捨てて僕と二人だけの生活をするとかね。そうやって僕にとっての大きなメリットを作れば、君は安心できるだろうね。安心して僕に甘えてくれるんだろうね・・・」

Dは私を抱きしめたまま、私の頭に頬をすり寄せました。

D「でも、それではいけないよ。それでは、君は一生他人から抱かれる好きという感情を信じられず、ギブアンドテイクの人間関係しか安心できず、人間の男と対等な関係で付き合うことができないまま終わってしまう」

また人間の男性と付き合う話か・・・結局それが言いたかったのかな。私はD以外の男性とは付き合わないって言ってるのに・・・

私「他の男性とは付き合わないもん。Dがいてくれればいいもん」

私の頭の上で、くすくすというDの笑い声が聞こえました。

D「じゃあ、僕とは一緒にいたいんだね」

私は、さっき自分がDを自由にしてあげると言ったことを思い出しました。

私「いや、その、Dは自由になったほうがいいと思うよ。Dの自由にしてね」

Dはもう一度くすくす笑って、ぎゅっと私を抱きしめてくれました。

D「そうだね、僕はお言葉に甘えて自由にすることにしたよ。だから、君が僕の『好き』を本当の意味で信じられるようになるまで、僕は自分の『好き』を君に表現し続けることにするよ」

私「え!?」

D「それによって君が僕に対して、罪悪感を抱こうが、心が痛もうが、やめないよ。僕が君のことを本当に『好き』だということを、君にわかってほしいし、そのこと自体が君にとって役に立つことだろうと思うからね。きっと君が僕の『好き』を本当の意味で理解したとき、他人が君に対して抱く好きという感情も、疑わずに信じることができるようになるだろうからね」

私「・・・・・・」

D「いいかい、これは長丁場だよ。君にとって非常に根が深い問題のようだからね。だから、まずは僕の『好き』を信じ」

いきなり、Dは私の体から腕を離して、勢い良く起き上がりました。そして、そのまま私に背を向けて、体を丸めてうつむきました。

私「ど、どうしたの!?」

私も起き上がって、急いでDに近寄りました。Dは背を丸めたまま、自分の胸を手で強く押さえて沈黙しています。

私「具合が悪いの!?痛いとか!?」

D「大丈夫だよ、さゆ」

顔を上げたDは、いつもの表情に戻っていました。

D「具合は悪くないし、どこも痛くないよ。これは僕の本能のようなものさ。心配させてすまなかったね」

私「え?そんな、謝ることじゃないよ。本当に大丈夫なの?」

D「大丈夫さ。ただ、もう添い寝はできないよ」

私「うん・・・」

添い寝のせいで苦しくなったのかな。どうしよう。大丈夫かな。これだから私の傍にDを置いておくのは駄目なんじゃないかなと思うんだけど。Dが私のために、どんどん自己犠牲的になっていくような気がして、可哀想になるんだよ。

私「私がDに手当とか、ヒーリングとか、何かできる?」

D「できるよ。ただ、これは具合が悪くなったわけではないから、手当の必要は無いよ。でも、そうだね。キスをおくれ。我慢して耐えたご褒美が欲しいよ」

私「・・・そんなことで良いの?もっと、我儘言ってくれていいのに。本当にしてほしいこととか、本心とか、遠慮しないで何でも言ってくれていいんだよ」

私はDのことが好きだから、何でもしてあげたいのに。何でも言ってくれたらいいのに。私に遠慮なんてしないで、もっと甘えてくれていいのに。

D「間違いなく、僕が今、本当にしてほしいことで、本心さ。それに、本当の望みや本心を言えないのは、遠慮せずに何でも言うことができないのは、僕ではなく、さゆのほうなんだよ」

小さな音を立てて、Dがキスをくれました。

D「良いんだよ、僕からキスしてあげよう。眠り姫はキスを待っているものだからね。本当のお相手は王子だけど、姫は茨で自分を守ることに必死で、王子も近寄れないようだからね。君が茨で傷だらけになる前に、僕が目を覚まさせてあげるよ」

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